俺達は今、橋の下で修行を始めようとしていた。誰かに見られるんじゃないかと思ったが、どうやら結界を張っているため見えないらしい。ここで魔法少女の姿マミさんとさやかといっしょにいると、コスプレかなにかに見られていたかもしれなかったので、それは正直ありがたかった。
「それじゃあ、洲道君。私の手を取って」
「はい」
魔法少女の姿であるマミさんの手を取る。いつものように心臓がはねて、彼女の力が俺の中に流れ込んできた。
「私の魔法は何回か見てきたと思うけど、基本はこのリボンを使って闘うのよ」
「あれ? 銃がメインで、リボンはサポートじゃないんですか?」
「いいえ、私の銃はもともとこのリボンを変化させて作ったものなのよ」
「「そうだったんですか!?」」
意外な事実に俺とさやかが驚く。話を聞くと今までの魔女の闘いで、リボンだけだと攻撃力に欠けることに気付いた彼女はリボンを物質化し、銃を作り出すことで攻撃力と間合いを上げることを狙ったそうだ。実際その狙いは成功し、今では銃による面制圧、リボンによる拘束術やそれに基づいた体術などを身に付けたバランスのいい魔法少女になったそうだ。ちなみにリボンで他の武器を作ることも可能ではあるが、近代兵器などの複雑な構造の武器は製造が困難であるとのこと。
「じゃあ、とにかくリボンを自在に使いこなすことが重要ってことですね」
「そうよ。じゃあ、私の動きに合わせてリボンを動かしてみて。はあっ!!」
その後俺はマミさんの動きに合わせてリボンを動かす練習を始めた。
そして、それはすぐに難航した。マミさんのリボンは綺麗な弧を描いて動いているが、俺の出すリボンは動きがなんだか歪だった。
「マ、マミさん、けっこう難しいです!!」
「慌てないで! 単純にリボンの端だけに集中しちゃだめよ!! もっとリボン全体を操作しないと上手くいかないわ!!」
「いやリボン全体って……あ、おい、どこ行くんだよ!?」
直後、コントロールが不安定になったせいか、リボンが変な方向に向かい出した。
「うわぁ、こっちくんなぁ!?」
その先にはさやかがいた。リボンは俺の意思に反してさやかの体にまとわりつき、からめとってしまった。
「ゆ、裕一! 早く助けてよぉ!」
「悪い、さやか! 今ほどく……うわぁ……」
今は自分でほどく方が早いと判断した俺は、さやかを助けようとしてその姿を見たが、それはなんとも…
「な、なんつうかエロいな、その姿……」
「って、何見てんのよ!? エッチ、馬鹿、スケベ、変態! こっち見んなぁ!?」
リボンはさやかの体のいたる所にまきついていた。腕は後ろの方で縛られているため動けず、胸の所は上と下のところが縛られて圧迫されてしまいその胸がさらに強調されてしまっている。さらにかなり短いスカートの所がめくれないように股のところも縛られており、顔の方も目隠しがされていた。こ、これはある意味完成した姿なのでは……!?
俺は思わずマミさんの方を向いてこう言った。
「どうですか、マミさん! これでリボンの制御も完璧ですね!?」
「いいわけないでしょう!?」
「あべしっ!!」
拳骨くらいました。魔法少女って魔力で身体機能もアップするらしく、結構痛かったです……
結局マミさんがほどくことでさやかは解放されたが、それで終わりではなかった。
「裕一ーーーーーっっ!!」
「わ、わざとじゃないって言ってんじゃんかよぉ!?」
さやかが剣を持って襲いかかってきたので、必死に逃げることになった。その形相たるや、般若すらをもしのぐと思われた。
「誰が般若よ!!」
「なんで俺の考えが分かるんだよ!?」
結局俺達はその直後マミさんのリボンに縛られてその状態で説教を受けてしまった。……縛り方は普通ですからね?
「なんで、あたしまで……」
「喧嘩両成敗よ!!」
「まったく、さやかが暴走しなければよかったんじゃないか。反省しなよ?」
「あなたが一番反省しなさい!!」
「ぎゃん!?」
また拳骨をくらってしまった。口は災いのもとですね、ほんと……
次に俺はマミさんの銃を使っての射撃訓練を行った。今目の前にはマミさんのリボンで作った的が浮かんでおり、それらを銃を次々に出していき、打ち抜いていくという訓練だ。俺はあの男から重火器の訓練は受けていなかったが、それなりの精度をもって打ち抜くことはできた。しかし……
「お、十個中八個。けっこういけるんじゃない、裕一?」
「……駄目だな」
「その通りよ」
俺は難色を示し、マミさんもそれに同意する。このままでは実戦で使うのは難しいだろう。
「え、どうして? 八個も打ち抜いたじゃん。まだ満足しないの?」
「今外したやつが魔女や使い魔だったらどうするんだ? 外した瞬間をねらわれてお陀仏ってこともあるだろ?」
「あ、た、確かに……」
さやかも分かったようだ。俺は早いうちにリボンの制御と銃の命中精度を上げないといけない。そうじゃないと、マミさんの魔法を持った状態だと使い物にならないだろう。実際、あの病院の結界で生き残れたのは奇跡に等しいと言ってもいい。
「でも洲道君。初めてにしては筋は良かったわよ? ……まあ、リボンの制御は全然駄目だったけど、銃を使うときの集中力は中々のものよ。その集中力ならリボンはまだ難しいけど、銃はすぐに使えるようになると思うわ。頑張ってね」
「はい!!」
俺はマミさんの激励に元気よく答えた。そうだ、俺は早くこの力をマスターしなければならないのだ。生き抜くために、守りぬくために。
「次はあたしかな。じゃあ裕一、はい」
「ああ」
マミさんの力を使いきった俺は今度はさやかの魔法をその身に宿した。こころなしか、さきほどの拳骨の痛みがひいていっている気がした。
「美樹さんの魔法はどんなものなの?」
「キュゥべえが言うには、あたしは癒しの願いをもとに魔法少女になったから、怪我の治癒が得意なんだそうです」
「そっか、だから頭の痛みもひいたのか……」
そう納得した俺は次に昨日の魔女と闘ったときに使った剣を取りだした。
「さやかは基本的に近接戦闘がメインになりそうだな。武器もそうだし、怪我の治癒をしながら闘うっていうのが基本スタイルなんだろ。後は剣は複数出せるみたいだから、遠くから剣を数本投げることもできるかもしれないな」
「そう、なるかな……?」
「そうね、美樹さんは基本的にそれでいくべきだわ。あとはどれだけ戦闘技術を向上させるかだけど……」
「あ、それなんですけど、マミさん」
「なにかしら?」
マミさんがさやかの修行メニューについて考えているときに俺はマミさんにある提案をする。
「ちょっとさやかの魔法を使ってみますので、少し相手してくれませんか?」
「え、裕一、本気!?」
さやかも俺の提案に驚いている。だが、マミさんは冷静だった。
「……何か考えがあるのね?」
「はい、実戦の練習と実験の意味もこめてお願いできますか?」
「分かったわ」
瞬間マミさんの周囲に何丁もの銃が出現した。本気ではないとはいえ、その殺気は常人のそれを軽く凌駕していた。しかし俺はそれ以上の殺気を浴びたことが何度もあったため、それにたじろぐことはなかった。
俺はさやかの剣を二本持ち、少し腰を下ろして構える。
次の瞬間俺はマミさんに向かって突進していった。しかしマミさんは慌てることもなく、その銃弾を俺をめがけて撃ってくる。俺はマミさんの銃口の位置を確認することで銃弾が飛んでくる位置を予測し、剣を振って銃弾をはじいた。
「っ!?」
マミさんはその行動に驚いていたが、すぐに冷静になり、次の銃弾を続けざまに発射していった。マミさんは今現在のスピードが俺のトップスピードだと思っているらしく、今現在いる位置だけでなく、次に移動する位置にも銃弾を発射してきた。しかも俺がさばききれない数の弾を発射してきた。このままではあたってしまう。俺はそこから、
自分のトップスピードを超えるスピードで加速した。
「速い!?」
その結果、彼女が撃った弾は全て外れ、俺は彼女の目の前まで肉薄した。彼女は二つの銃を持って迎え撃とうとした。そこから彼女との近接戦闘が始まった。彼女は銃で俺に殴りかかろうとするが、彼女は遠隔攻撃が専門なのか、少しやりづらそうに見えた。実際彼女の闘いを思い出したら、まず相手を離すことで銃弾をたたきこむという戦法を取っていた。なら、距離を取られるわけにはいかない。突如彼女の蹴りが俺を襲ってきた。上段の動きに気を取られているすきに蹴りを入れることで距離を取るつもりだったのだろうか? だが、それこそ俺が待っていた行動だった。俺はマミさんの蹴りを右側に体を倒すことでかわし、さらに一歩踏み込み、そこから剣を喉元に突きつける。
「……やられたわね」
マミさんは負けたことを認め、手に持っていた全ての銃を消した。
「とりあえず使ってみましたけど、十分に使えますね、これなら」
「けど、洲道君。あなたのその動きは……? まるで何年も訓練してきたものに見えるわ……」
驚きをこめてマミさんは俺に尋ねてきた。どうやらマミさんは俺がここまでの戦闘技術を持っていることが完全に予想外だったみたいだった。あの病院での闘いのときは俺はほぼ動かずにいたから、今の動きを見せるのはこれが初めてだった。
「これは親父の趣味の一環ですよ」
「趣味……?」
「俺の親父は軍隊出身なんです。それで息子の俺も幼いころから鍛えられていたんです」
杏子にした説明をマミさんにもすることにした。正解ではないが。
「だから、剣とか刃物なんかの道具を使っての近接戦闘はけっこう得意なんですよ。銃なんかは扱えないんですけどね」
「そうなの……」
マミさんもとりあえず納得してくれたようだ。しかし、あの男は一体何者で、なぜ俺にこんな訓練をさせたのかは未だにわからないままだ。だが、あの男にたたき込まれた技術でこの闘いを生き抜くことができるのなら、とりあえずそのことに感謝してもいいかもしれない。
「あ、あのさ、裕一。ちょっといいかな?」
「ん? どうした?」
「さっきの動きから裕一はさらに加速していたよね? あれってなにをやったの? あたしの魔法を使ったんだよね?」
「ああ、あれは体のリミッターを外したんだよ」
「リミッター?」
「人間の体は普通全力が出せないものなんだ。100%の力を出そうものなら、体を壊してしまう。だからその分のダメージをお前の魔法で治したんだよ」
これも一つの技術として俺が身につけていたものだ。あの男との訓練で、どうしても本当の全力を出さなければならないときがたくさんあったため、いつのまにか習得してしまっていた。もっとも、その度に筋肉痛に悩まされたが。しかし、さやかの魔法のおかげでその欠点を克服したと言える。これで俺の力は2,30%アップしたといえるのだ。
「そんなわけでマミさん。さやかの戦闘技術は俺に任せてほしいんです。とりあえず最低限の技術くらいはすぐに教えられるはずです」
「そう、ね……分かったわ。美樹さんもそれでいいかしら?」
「あ、はい。分かりました。……裕一? へんなことはしないでよ?」
「しないっての」
さっきのリボンは本当にわざとじゃないんだって。……エロいと思ったのは本当だけど。
その後も訓練を続けたが、俺はとりあえずさやかの魔法が一番相性がいいことがはっきりした。これなら俺もすぐに戦力になるはずだ。
「でも、洲道君。あなたは力を使い続けることは大丈夫なの? なにか体調に変化はない?」
「とりあえず、疲れることと、たまに心臓が苦しくなる以外はないんですけど……」
俺の力も魔法少女に準じたものなら、グリーフシードに反応するかと思ったが、特に変化はなかった。グリーフシードもいらずに魔法を使えるとするなら、これはかなり有利な条件となるが……
(本当にリスクはないのか?)
考えてみるが、結局分からないままだった。
「……とにかく多用は控えることにしましょう。いくら魔法が好きに使えるからといって、そこで慢心してしまったら元も子もないわ」
その提案は正直ありがたかった。俺も最小限の力で相手を倒すよう心がけなければならない。
ちなみに、力がない状態では、とりあえず接触しさえすればそれだけで力は手に入るが、手に入れた力は一度使い切らないと次の力を入れることはできないようだ。そして同じ力を持った魔法少女に触れたら、自分が使っていた分を補充することができる。
俺は工場での反省を生かして、さやかの魔法を常に入れておくことにした。さやかの魔法をつかった状態では、おそらく3,4分は持つはずだ。
今の所分かったことはこんなところだ。次に今後の方針はまず放課後は魔女探しを行い、その後修行を行う、ということに決めた。
こうして初めての修行は終わりを告げた。
次は数日飛ばして修行にあてます。理由はほむらが転校してきたのが月曜だとすると、今日は金曜日になってしまうのです。土日をまたいでから、また本編を始めることにします。