魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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休日という設定なので朝から行動です。


同じ仲間

「う~ん……」

 

 目が覚めた。しかし昨日考えたことが気になってしまって中々寝付けなかったのだった。根拠がない考えだが、それを否定する根拠もないこともまた事実だった。

 

(まったく、こんなところで体力を無駄にするわけにはいかないのにな……)

 

 今日は一番体力を使う、そんな気がしていた。昨日の考えも気になるが、それよりもまず優先するべきことがあるのだ。

 

「さやか……」

 

 必ずさやかの問題をなんとかしてみせる。それが、俺や杏子達の全員の想いなのだ。

 全ては俺達の日常のために。アイツからこの見滝原を守るために。

 

 俺はその誓いを胸に抱いて家を出た。

 

 

 

 

 

 集合時間には俺達はほぼ同時に着いた。俺やマミさんは一人暮らし、杏子はホテル住まいだが、まどかも急いで食事を終わらせて駆けつけていた。さやかのことを助けたい、その想いは魔法少女であろうとなかろうと関係ないんだ。一番の親友であるまどかや、憧れの対象であるマミさん、同じ願いから始まり、誰よりもさやかのことを分かってあげられる杏子の言葉もあれば、きっとさやかにも届く。

 

 この時の俺はそう信じていた。いや、信じたかったんだ……

 

 

 

 

「えっ!? さやかはもう家を出てしまったんですか!?」

 

 いざさやかの家にお邪魔しようとしたときに親から聞いた答えがこれだった。さやかは朝を軽く食べた後、そのまますぐに家を出てしまっていたらしい。まだ朝は早いはずなのに、もう行動に出ていたなんて……!

 

「は、早くさやかちゃんを探さないと!」

 

 まどかもすっかり慌てた様子だった。気持ちはよく分かるが、こんなときこそ冷静にならないとまずいのだ。

 今のさやかならどこへ行くと考えられる? あいつは魔法少女の仕事である魔女退治だけが自分に残ったものだと思い込んでいる。だとするなら、今もあいつは魔女を探しているはずだ。

 

「……マミさん、杏子、お願いです。さやかより先に魔女や使い魔の結界に行って、倒してきて欲しいんです。多分さやかはそいつらを倒すために動いているはずですから、そこにさやかがいるはずです」

 

「確かにそうね……分かったわ。魔女や使い魔の方は私達に任せて。洲道君と鹿目さんは他に美樹さんが行きそうな所を探してね。結界を見つけたら私の携帯に連絡して。佐倉さんへの連絡は私がするから」

 

 妥当な役割だと言えた。一応俺も闘うことができるが、俺の場合は時間制限があり、そばに誰かがいないと力の補充が行えないのだ。今はバラバラに別れてさやかを探すのが一番なのだ。それなら俺もまどかと同じ役割を担うのは当然だ。幸い、マミさんと杏子は二人ともベテランだ。一人一人で闘っても問題はないだろう。

 

「分かりました、それでお願いします。それから杏子、できるなら今回は使い魔の方も……」

 

「分かってるよ、いくらなんでもそこまで空気の読めないやつじゃないってーの。今はあいつに魔力を使わせるわけにはいかないからな」

 

 ソウルジェムは宝石の状態にしないと穢れを吸うことができないのだ。それができるのがさやか本人である以上、あいつが自発的にグリーフシードを使うようにしないといけない。さやかを見つけて説得する。それが俺達の目標だ。

 

 こうして俺達はさやかを助けるためにそれぞれ別れることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 美樹さやかは朝早くから魔女を探していた。大体は夕方以降に現れるが、たまにこの時間帯に現れることもある。それらを倒すことが正義の魔法少女である自分の役割であるとさやかは信じて疑わなかった。彼女は心なしか自分の身体がいつもより重く感じられた。昨日の魔女から得られたグリーフシードは杏子に渡してしまったので、まだ自分の浄化を行っていなかったのだった。原因がそこにあるにもかかわらず、さやかはそのことが間違っているとは思わなかった。

 

(あたしは……自分のためには魔法は使わないんだ。杏子とは違う、魔法少女になるんだ。今のあたしにはそれしかないんだから……)

 

 そのとき自分のソウルジェムが反応を示していた。そのことにさやかは歓喜した。これから自分の役目を果たすことができるのだから、それで喜ばないはずがなかった。さやかは重たい身体を必死に引きずってソウルジェムの反応先へ向かって行った。

 

 

 

 

「見つけた……」

 

 そこにあるのは紛れもなく結界だった。これを放置しては誰かが犠牲になってしまう。ならば自分がこれを破壊しなければならない。そう思って魔女の結界に身を投じようとしたときに、いきなり魔女の結界は消えてしまった。そこから現れたのは自分がよく知る人物だった。

 

「マ、マミさん……?」

 

「美樹さん、やっぱり魔女を追っていたのね。先回りできてよかった……」

 

 そう言うマミは心から安堵したように胸をなで下ろしていた。しかしさやかにとっては彼女のしたことは腹立たしいことにしかならなかった。

 

「な、なんで邪魔するんですか!? あれはあたしが倒すつもりだったのに!!」

 

「それであなたは昨日と同じように闘うつもりなのかしら? それで強くなれるわけじゃないことは洲道君に身を持って教えてもらったでしょう?」

 

 あまりにも身勝手なことを言うさやかに対してマミは冷ややかに言い放った。昨日のような捨て身の闘いをしていては、さやかはすぐに命を落とすことは間違いない。他人のために自分を簡単に犠牲にしてしまうようなことは勇敢でも立派でもなんでもないのだ。だがそれだけでさやかは簡単に納得はできなかった。

 

「だけど……ああでもしないと駄目なんですよ! あたしにはマミさん達みたいに才能はないやつはこうでもしないと役に立たないんですよ! マミさん達に……力のないあたしの気持ちが分かるわけない!!」

 

「力のないあなたの気持ちが分からない、ですって……?」

 

 その言葉は明らかにマミの逆鱗に触れていた。いくら追い詰めれているとはいえ、その言葉は見過ごすことは到底できなかった。

 

 マミはつかつかとさやかの方まで近づいた瞬間、さやかの頬をはたいた。

 

「いい加減にしなさい!!!」

 

「っ!! マミ、さん……」

 

 いきなりはたかれたさやかは痛みより先にはたかれたという事実に目を白黒させていた。今のマミが明らかに怒っていることは誰にでも分かることだった。さやかはこんな彼女の表情を知らなかった。裕一のおふざけに対して怒って説教をするときもあったが、ここまでの怒りを見せることは今までなかった。

 

「確かに魔法少女の元々の才能というのもあることは認めるわ。でもね、美樹さん。少なくとも私は元々才能なんてなかった。そのせいで私は……」

 

 そのことにさやかは混乱していた。あんなに強いマミが才能がなかった?今まで彼女の強さを見てきたさやかはその言葉がすぐには信じられなかった。しかし次のマミの言葉がさらにさやかを打ちのめした。

 

「魔女に襲われている子供を見殺しにして逃げてしまったのよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女になり立ての時のマミはリボンしか使うことができなかった。最初の相手は使い魔で、それでなんとか倒すことができたが、あるとき子供が自分の目の前で魔女に取り込まれた時、マミはもちろんその子を助けようとしたが、リボンだけでは明らかに攻撃力不足だった。そして逆にマミの方が窮地に立たされてしまったのだ。その結果、マミは撤退することを決意した。目の前の子どもを見殺しにして。無事に逃げおおせた後、彼女は激しく後悔した。自分にもっと力があれば、あの子供を救えた。その厳然たる事実の前に彼女はただあの子供に対して謝り続けることしかできなかったのだった。

 それからのマミはたった一人で強くなる術を身につけようとした。低い攻撃力を補うためにリボンを銃に変える訓練をし、さらに相手を拘束するために自在にリボンを操る訓練もした。やり方を教えてくれる人もおらず、全て自分だけで考えなければならなかったのだ。

 

「今でも時々あの時のことを夢に見るのよ。最初から私に力があれば、あの子を助けることができたかもしれないってね……」

 

「す、すいません、マミさん……あたし、勝手なこと言っちゃって……」

 

「美樹さん、最初から強い力を持った人なんてそんなにいないのよ。私だって弱かった。洲道君も幼い頃から鍛えられてきたからあれだけ強くなっているのよ。あなたはまだ魔法少女になり立てで、十分に修行できていないじゃない。簡単に強くなれるなんて思っちゃ駄目よ」

 

「それなら……あたしはどうすれば……」

 

「今までと変わらないわ。これからも私達と一緒に修行しましょう? 強さはなにも個人によるものだけではないわ。集団での連携によって生まれる強さだってあるのよ。あなたにはまだまだ習得できる技術はたくさんあるし、それに仲間の足りない所を補うのは当然のことでしょ?」

 

「なか、ま……?」

 

 その言葉にさやかはわずかに顔を上げた。自分の憧れの対象であった彼女は自分のことを仲間だと認めてくれていたのだろうか?疑問を浮かべていたさやかに対してマミは優しくほほ笑んだ。

 

「そうよ、私達は同じ魔法少女。同じ苦しみを分かち合えるはずよ」

 

「どうして……そんなに強くいられるんですか? あたし達のこの身体ってただの抜け殻でゾンビなんですよ? それでも生きているって言えるんですか?」

 

「それは違うのよ、美樹さん。確かにソウルジェムは私達の本体かもしれない。だからと言ってゾンビだなんて言い過ぎだわ。私も最初は沈んでいたけど、佐倉さんと洲道君が自分は間違いなく生きているってことを教えてくれたのよ」

 

 マミはあのときのことを今でも鮮明に思い出すことができた。あのとき感じた杏子の体温や心臓の鼓動、そして今まで味わってきた人間としての感覚は紛れもなく本物であったことを自覚できたあの時のことを。

 だからこそマミは自分達はゾンビなんかではなく、確かに生きている存在なのだと胸を張って言えた。

 

「そしてそんな佐倉さんを支えてあげられていたのは洲道君だったわ。魔法少女ではない彼によってね」

 

「裕一が……」

 

「そうよ。魔法少女じゃない力を持った洲道君、魔法少女としての力を持たない鹿目さん、そして佐倉さんだって皆あなたの仲間なのよ。きっと、これ以上の絆はないって思うわよ?」

 

 そう言ってマミは手を差し伸べた。自分達はさやかの居場所を奪う敵ではなく、居場所そのものである味方であることをさやかに分かってもらいたかった。

 

「だから、皆の所に戻りましょう? 皆あなたのことを待っているわ」

 

 マミは自分達がいつもそばにいることをさやかに分かってもらいたかった。同じ魔法少女の言葉なら、きっとさやかにも届くだろう、とマミはこの時思っていた。

 しかし、それは間違いだった。

 

「マミさんは綺麗すぎるよ……あたしがどんなに馬鹿で醜い存在なのかを嫌でも思いしっちゃう……」

 

「美樹……さん?」

 

「すいません、マミさん。あたし、頭を冷やしてきます……お願いだから、今は一人にさせて下さい!!」

 

「ま、待って、美樹さん!!」

 

 マミの制止の言葉を振り切って、さやかはそのまま走り去ってしまった。一瞬リボンで拘束しようかと思ったが、それはできなかった。一瞬動きを封じた所で、おそらくさやかは心を開くことはないだろう、とマミは考えてしまったからだ。それが判断ミスであるかどうかは彼女には判断がつかなかった。

 

「私の言葉じゃ、駄目だったってことなのかな……私じゃ、美樹さんの苦しみを全て理解することはできないのかな……」

 

 マミはそう独り言をつぶやいたが、それに答える人は今は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……さやかはマミさんの言葉を振り切ってしまったのか……」

 

 マミさんからのメールに俺は思わず落胆してしまった。同じ魔法少女であり、憧れであるマミさんの言葉ならもしかしたら、と思ったが、それでも駄目だったということか……

 

(杏子の言葉でもさやかは結局暴走してしまった。後話していないのは俺とまどかしかいないけど、魔法少女ではない自分達の言葉にどれだけの重みがあるんだろうか?)

 

 俺達に何も言えないというのは違うが、この場合はさやかがどう感じるかが問題になってくるのだ。同じ魔法少女としてというのなら暁美もそうだが、あいつにはさやかは絶対に心を開かないだろう。同じ魔法少女で憧れであるマミさん、親友であるまどか、そして同じ願いを持った杏子。ならば俺はさやかにどんな言葉をかけてやればいいのだろうか?

 

 そんなことを考えているときだった。

 

「あれ、洲道じゃないか。こんな所でなにやってるんだ?」

 

 声のする方に振り返ってみると、そこには数人の友人と一緒にいる中沢がいた。休日ということで遊びに行っているということか。そうだ、もしかしたら……

 

「中沢、さやかを見なかったか!?」

 

「えっ? 美樹ならさっき向こうへ行くのを見たけど……」

 

「本当かっ!?」

 

 よし、まだ運はこっちにある。そうと分かったらさっそく行かなければ……

 

「ちょっと待ってくれ、洲道。もしかして美樹になにかあったのか? 俺も一緒に探そうか?」

 

「……いや、大丈夫だ。これからもさやかを見かけたら俺に連絡してほしいんだ。俺達を信じてくれ」

 

 俺は中沢の目をしっかりと見据えてそう言った。今の言葉は俺の決意だ。必ずやり遂げてみせると俺達はそう決めたんだから。

 中沢は納得していないようだったが、やがて根負けしたような顔になった。

 

「分かった。それじゃあまたな、洲道。また、学校でな?……頑張れよ」

 

「ああ、分かってるさ。任せとけ」

 

 そう言って俺達は互いに拳を合わせた。守るべき日常を再確認した俺は中沢の示す方向へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたし、なにやってんだろ……」

 

 さやかは以前杏子と闘った路地のところにいた。あれから魔女の結界を探すことはしなかった。探そうとするとさっきのマミとの会話を嫌でも思いだしてしまうからだった。

 マミも以前は今のさやかのように自分の力不足を嘆いていた。その力不足のせいで一人の犠牲を出してしまって、彼女はずっとそれを悔いていた。それでも彼女は絶望に落ちることはなかった。それどころか、その後悔から再び立ち上がり、強くなろうとした。誰からも学ばず、たった一人で。

 どれだけの心の強さを持っていればそんな風でいられるのか、さやかには想像もつかなかった。自分が憧れた人はこれほどの存在だったのか、とさやかは彼女への尊敬の念を高めると同時に、自分は彼女に対してなんて酷いことを言ってしまったのか、とひどく申し訳ない気持ちで一杯だった。

 だからこそさやかはマミから逃げてしまった。彼女といると、自分がどれだけ愚かな存在なのかを嫌でも再認識してしまうからだった。

 

だけどいつまでも逃げるわけにもいかなかった。なぜならさやかを探しているのはマミ一人じゃなかったからだ。

 

「やっと見つけたぜ、さやか……」

 

「裕一……」

 

 あのときの杏子との闘いの時に自分を助けに来てくれたように、洲道裕一は息を切らして自分を見つめていた……

 

 




トップバッターマミさん、説得失敗です。
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