魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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結構さやかを追い詰めているかもしれないです。
この質問をするのは裕一が一番だと思いますし。


本当の願いとは

「どうして、ここが分かったの……?」

 

「中沢がお前の姿を見ていたんだよ。あいつもお前のことを探すのを手伝おうとしてくれてたけど、断っといた。……巻き込むわけにはいかないもんな」

 

「そっか、悪いね、手間かけさせちゃって……」

 

「全くだぜ。手間というより、あんまり心配かけさせんじゃねーよ」

 

 中沢が示した先は以前杏子と闘った時の路地を指していた。だからこの路地にさやかがいるかもしれないと思ったが、それは大正解だったようだ。

 昨日と違ってさやかは少ししおらしくなっていた。今俺達の周りに魔女の結界はない。きっとマミさんの言葉を聞いて、無闇に闘うことは控えてくれたのだろう。それだけでもマミさんは十分さやかの助けになってくれていた。今ならもしかしたら……

 

「あのさ、裕一。マミさんに聞いたけどさ……」

 

「ん? どうした?」

 

 どうやって会話を切り出そうかと考えていたときにさやかの方から話しかけてきた。しかしマミさんが言っていた俺に関係することとは何なのだろうか?

 

「マミさんがソウルジェムの秘密から立ち直れたのはあんたと杏子のおかげだって言ってたよ。そしてその杏子を支えてあげられたのはあんただってことも……」

 

 ……どういうことだろうか? さやかは自分がゾンビではないということを第三者に言ってもらいたいということなのだろうか? だけど、たとえそうだとしても、ソウルジェムに他にどんな秘密があろうとも、もとから俺の考えは決まっているのだ。

 

「最初はまどかからソウルジェムのことは聞いたよ。あのときのまどかは魔法少女じゃない自分にできることは何もないのかって落ち込んでいたけどさ、俺はたとえそうでも自分の考えを変えることにはならないし、できることは何もないっていうのは違うって思ったんだ」

 

「…………」

 

「さやか、俺はお前の姿を見てきたよ。恭介を通じて、お前やまどか達と会って、一緒に学校生活を過ごしてきた。よく俺とお前で場を盛り上げていたけど、ついついやり過ぎて恭介達に怒られていたよな?そんなやり取りがさ、俺達の『日常』だった」

 

「日常……」

 

「確かに魔法少女になって、魔女退治に励んでさ、普通に暮らすのは難しくなったけどさ、それでも学校には通っていたし、今までと変わらない日常を送っていたよな? だからこそ俺は言えるんだ。お前が魔法少女になって、その魂がソウルジェムになっても、俺はお前が生きていると断言できるんだよ」

 

 俺はさやかの姿を長く見てきたけど、それは魔法少女としてのさやかではない。だけど俺はそれでも今この場にいるさやかは生きていると胸を張って言えた。だって俺は魔法少女になった後の姿も見ているのだから。マミさんも杏子も立ち直るその姿を見てきたのだから。

 分かってほしかった。さやかには心配してくれる友達がたくさんいることに。魔女退治がなくなったら、自分には何もなくなってしまうということは言ってほしくなかった。

 

「だから戻ろうぜ、さやか。皆が待っているから」

 

 そう言って俺はさやかに手を差し出した。後はさやかがこの手を取るだけだった。

 

 だけどそれは叶わなかった。

 

「……やっぱり裕一には分からないよ。裕一は魔法少女じゃないでしょ? あたし達の苦しみなんて、理解できるわけがないよ……」

 

 さやかは俺の手を取ってくれなかった。やっぱり魔法少女じゃない人の言葉だとさやかには届かないということなのか? だけど諦めるわけにはいかない。魔法少女じゃなくても何もできないなんてことはないんだ。

 

 

 

 

 だから俺は別のことをさやかに尋ねることにした。

 

 

 

 

「なあ、さやか。お前は恭介の手を治すために魔法少女になった。そしてお前はこれからは自分のためではなく、他人のために魔法を使うと言っていた」

 

「……それが、どうしたの?」

 

「前に俺は言ったよな? 人間の行動には少なからず自分のためが含まれるものだって。他人のためだけにできる人間なんてのは普通はいやしない。いたとしたら、そいつはもうどこか壊れていると言ってもいいくらいだな。そしてさやか、お前はそんな壊れてなんかいない普通の人間だよ。だからこそ、お前のその行動だって間違いなく自分のためが含まれているはずなんだ」

 

「……!」

 

 今のさやかが言っているのは間違いなくあのときのまどかと同じことだ。まどかはそれからは魔法少女にはなっていないけど、さやかはもうなってしまった。

 だからと言って諦めることなど絶対にしない。

 

「魔女退治については自己の証明だよな? 魔法少女として生きているという何よりの証を欲していた。だから同じように魔女や使い魔を倒すマミさんに憧れ、それとは違う生き方をしていた杏子と対立した」

 

「そ、そんなことは……!」

 

「俺は別に否定はしないさ。まどかにも言ったけど、それはお前にとってなにより大事なことなのかもしれないしな。だけど、昨日のような闘いにはさすがに同意できない。あれはただの八つ当たりにしかならないからな。しかもあんな闘い方じゃあ、すぐに命を落としてしまう。今のお前なら、きっとそれは分かるだろ?」

 

「…………」

 

 さやかは否定しなかった。一日たって、さらにマミさんに会った後だから、さすがにあの闘い方はまずかったということはもう自覚しているのだろう。

 

 だけどさやかに関してはそれだけじゃないんだ。もう一つ、大事なことがさやかにはある。

 

「……恭介の手についてもそうだ。あの願いは恭介のためのものだけど、そこにもきっとお前自身のためが含まれているはずなんだ」

 

「や、やめてよ! 魔法少女じゃないあんたに何が……!」

 

「言っておくけど、このことは魔法少女じゃない云々で逃げることは許さないからな。お前はあの時後悔しないと言っていたんだからな。俺の言葉を聞いた上でだ。そして今、お前は迷っているからこそこうしているんだ。だったら、お前も自分の原点を見つめ直さないといけない」

 

 俺はずっと疑問に思っていた。さやかの願いというのは、本当に命がけの闘いに身を投じられるほどのものなのかどうかを。マミさんについてはしょうがないと言える。あの時契約しなければ彼女は命を落としていたのだから。それは紛れもなく自分のためだ。だけどさやかはそうじゃない。

 

「さやか、お前は迷っている」

 

「っ!?」

 

「自分のこれから先の人生と、恭介の手を治したことが本当に釣り合っているのかが分からなくなっているんだ。今まで考えないようにしていたけど、ソウルジェムの秘密を知ったショックでそれが表に出てしまったんだ」

 

「あたしは……迷ってなんか……」

 

「そしてお前はその迷いが消えなかったから魔法少女としての使命だけに目を向けるようになったんだ。だからお前は俺達の手を取ろうとしなかったんだ」

 

 一度心に芽生えた迷いは簡単には消えない。そして答えを決めるのは自分にしかできないんだ。周りの人間ができるのは、その人に問うか、導くくらいしかできない。

 

「なあ、結局お前は何がしたかったんだ? お前は後悔しないって言っていたのに。お前はあいつの手を治して、その後何か望みがあったんじゃないのか?」

 

「あたしは……あたしの望みは……」

 

 さやかは答えようとはしなかった。それは自分の本当の願いが今も見えていないか、あったけど今はそれを見失っているのか、それとも分かっているけど、それを認めるのが怖いのか、俺にはどれかは判断がつかなかった。だけど今のさやかは迷っているんだ。自分の願いについて、魔法少女の使命について、自分の原点について。

 さやかにはここで答えを出してほしかった。そうすれば俺達の手を取らないなんてことはないはずなのだから。

 

「答えてくれ、さやか。俺は多分だけど、お前の本当の気持ちは分かる。いや、きっとまどか達だって分かっているはずなんだよ。お前はどうなんだ、さやか? お前は自分の本当の気持ちに……」

 

「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁいっっっっ!!!!!!」

 

 その時、さやかの感情が爆発した。突如空中に数多の剣が出現し、それらが全て俺達のいる位置に降り注いできた。俺はとっさに下がってよけたが、それらは狭い路地を完全にふさいでしまい、さやかはそこから逃げだしてしまった。

 

「待てよ、さやか!!さやかぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 声を出して呼び止めようとしたが、さやかはそのまま走り去ってしまった。

 

 この手は、届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすればいいんだ……」

 

 俺はさやかが去って行った方を見て途方に暮れていた。結局俺の言葉ではさやかを説得することはできなかった。俺は魔法少女ではないからその苦しみを理解することはできない。だからこそ、あいつの願いをもう一度見つめ直させることが俺にできることなんじゃないかと考えていた。そうすることで、さやかはこの先どうすればいいのかをもう一度考えるきっかけを作れるかもしれなかった。

 だけどその結果、さやかは逆上して逃げて行ってしまった。俺はその話をするべきではなかったのだろうか……

 

「後は残っているのは……まどかと杏子……」

 

 後の二人がさやかを説得できればいいのだが、今の俺には不安しかなかった。

 まどかはさやかの親友だから心を開きやすいかもしれないが、彼女は魔法少女じゃない。だから俺と同じように拒絶される可能性が高い気がする。

 杏子はさやかと同じ願いによって魔法少女になったけど、結局さやかは杏子の話を聞いた後でも暴走してしまった。しかも杏子の魔法少女の生き方に対しても強く反発している。もう一度杏子の言葉を聞いてくれるかどうかはかなり怪しい。

 

(もしかして……俺達全員の言葉は届かない……?)

 

 マミさんの言葉を拒絶した時点でその考えは次第に現実味を帯びてきていた。もしそうだとするなら、さやかはソウルジェムの穢れはずっとそのままということになってしまう。その先にあるのは、暁美の言っていた『取り返しのつかないこと』である。

 

(もしも……暁美の言う『取り返しのつかないこと』が俺の考え通りだとしたら……!)

 

 それは思いつく限りで最悪の答えだった。そしてそれが正解だとしたら、俺達は最悪のタイミングでそれを見せつけられる可能性がある。そうしたら俺達はきっと二度と立ち上がれなくなってしまうだろう。

 さやかを止める方法を考えないといけない。おそらくこれが最後のチャンスだ。失敗したら全てが終わるだろう。

 

(知久さんと詢子さんの言葉を思いだすんだ。答えが見つからない時は原点に帰る。今までもそれで答えを見つけてきたんだ。今回だって、きっと……)

 

 原点といっても色々ある。それぞれの原点から伸びた道がいくつも絡み合い、そこからできた道に今俺たちがいるんだ。様々な原点について考えてみる。俺の原点、魔法少女の原点、魔女の原点、キュゥべえの原点……

 そしてさやかの原点について考えた時、頭に一つの考えが浮かんだ。それは一瞬俺達が説得するよりずっと冴えた作戦のような気がした。

 

(だけど、この方法も上手くいく保証はどこにもないし、なによりあいつを危険にさらすことになる。それは今まで俺達がずっと避けていたことじゃないのか?)

 

 俺という例外も一応いるが、普通は魔法少女にならないと魔女には対抗できない。知ったところで危険になるだけで、メリットはほとんどないことなんだ。

 もし話すとしても、それはアイツとの闘いを終えた後にするつもりだった。

 

 だけど今のさやかを助けてやれるのは……もしかしたら俺達ではないのかもしれない。

 

 なによりあいつ自身もさやかを助けてあげたいと言っていた。このまま何もせずにさやかの身に何かあったら、俺はあいつになんて言えばいいか分からない。

 

 ならば俺は覚悟を決めよう。俺の決断がもしも失敗に終わってしまったら、その結果生じた全ての不利益、不都合は俺が被ろう。俺の命が尽きてしまう、その時まで。それが今の俺にできることだった。俺一人ができることなんてたかが知れているが、それでもできることはするつもりだった。

 

 そう決意した俺は、路地から出てあいつに連絡を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さやか……どこにいるんだよ……」

 

 佐倉杏子は見つけた魔女や使い魔を片っ端から片づけていた。本来ならそれは、使い魔を見逃して魔女に成長させる彼女の流儀に反することだったが、今の彼女にそんなことは関係なかった。今の彼女の心にあるのはさやかを助けることだけだった。魔女や使い魔の結界にさやかがいるかもしれないということであったから、さやかの命を守るためにもこれは必要なことだった。

 

(それにしても……このあたしが使い魔を倒すなんてな……まさか昔のあたしと同じことをする時が来るなんて夢にも思わなかったな……)

 

 杏子は以前の自分のことを思い出していた。以前の自分は自分の父親のために魔法少女となり、そして自分は父親の影で魔女や使い魔を倒し、父親と一緒にこの世界を守るのだと誓った。そんな自分をあのときの杏子は誇りに思っていた。巴マミと出会ったのはそんな時だった。魔女と闘っていた時に逆に自分がピンチになってしまい、そんな自分をマミは救ってくれた。そして自分と同じように魔女や使い魔を倒し、一人で相当な実力をつけたマミに杏子は憧れ、弟子入りを希望した。魔法少女として家族に言えないことを話せる唯一の存在が彼女だったのだ。家族と共に暮らし、同じ悩みを共有できる魔法少女の仲間がそばにいて、この時の杏子は間違いなく幸せだった。

 

 しかし、そんな日々もある日突然終わりを告げたのだ。

 

 ある日、また魔女の結界ができてしまった。その場所は杏子達が住む教会で、操られた人は杏子の家族だった。幸い、大事に至る前に杏子は魔女を倒すことができた。しかし、その時に目を覚ました杏子の父親はいつもと違う杏子の姿に驚愕し、今まで何をしていたのかと問い詰めた。杏子は迷ったが、父さんなら分かってくれると思い、全てを話すことにした。魔女の存在、それに対抗する魔法少女に自分がなったこと、そしてそのために叶えてもらった自分の願いを。自分は正しいことをしていれば、神様はそんな自分達を見てくれて祝福をもたらしてくれる。それが父親の教えだった。だから、きっと大丈夫だと杏子は考えていた。

 

 しかし、それは大きな間違いだった。

 

 自分の話を信者が聞いてくれていたのは信仰によるものではなく、別の力による強制力だった。そしてその原因がよりにもよって自分の娘によるものだったと知った父親はついに壊れてしまった。目の前にいる彼女は自分の娘ではなく、人を狂わす魔女だと思い込むようになってしまった。お前は魔女だと糾弾する父親に対して杏子は茫然としてしまい、そんな彼女の態度が気に入らなかったのか、父親は杏子を外へ連れ出し、周りにいる人達に向かって……

 

「…………っ!!」

 

 そこまで思い出した時、その時も恐怖を思い出してしまい、杏子は思わず自分の身体を抱いてしまった。

 

 

 

 それからは父親は壊れたままだった。信者に説くこともせず、毎日酒に入り浸りになってしまい、家族にも暴力をふるうようになってしまった。そんな有り様を作ってしまったのが自分だと気付いた時にようやく分かった。他人のために願ってしまった自分は間違っていたのだと。他人のために祈ったところで、結局は自分も他人も不幸にするだけなのだと。そんなことも分かっていないから自分には罰が下されてしまったのだと杏子は思ってしまった。

 

 そして、罰はそれだけではなかった。

 

 ある日、教会に帰って来た時にそこは今までと違うにおいが漂っていた。それは大量の血だった。見ると、自分の母親と妹が刃物で何度も切りつけられた跡が残っていた。さらにその先には返り血を大量に浴びていた父親が首をつって自殺していた。

 

 彼女は今まで自分のそばにいた存在を一瞬にして失ってしまったのだった。

 

 

 

 それから数日後、ろくに魔女退治もしていなかったが、ある日マミと共に魔女退治を終えた後、マミは杏子にどうして幻影の魔法を使わなくなってしまったのかと尋ねた。あれはもうやめた、と杏子は言ったが、正確には使えなくなってしまったのだった。父親に拒絶された、その時から。

 その話を無理矢理終えた杏子はこれからの方針として、魔女だけに狙いをしぼろうとマミに提案した。使い魔を倒してもグリーフシードは落とさないのだから、魔力の無駄だと。やはりマミは反対したため、そんな彼女とはもう一緒に闘えないと言って、杏子はマミと決別した。

 

 

 

 

 それからは杏子はずっと一人で生きてきた。風見野へ移り、使い魔を見逃し魔女へと成長させ、食べ物や金は魔法で盗むようになっていった。自分の力は自分のために使い切るのだと、彼女は決意して生きていき、それから数年がたった。

 

 

 そして杏子は裕一やさやかと出会い、マミとも再会した。さらに今は彼らと共にワルプルギスの夜と闘うための準備をしている。

 

(……なにを感傷に浸ってんだ、あたしは。今は昔を思い出している場合じゃねえ。とにかくさやかを助けないと……)

 

 杏子自身気付いていなかったが、現在の彼女は『昔の彼女』とも『裕一達と出会う前の彼女』とも違う自分に変わりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても本当にこの町には魔女が多いよな……また目の前にあるし」

 

 新たに見つけた結界に杏子はため息をついた。以前の自分ならそのことを喜んでいたが、今は正直迷惑だと思っていた。しかしここにさやかがいるかもしれない以上、杏子も放っておくわけにはいかない。そう思って結界に飛び込もうとした所で、結界が消失してしまった。そこから現れてきたのは……

 

「暁美、ほむら……」

 

「佐倉杏子。美樹さやかのことはもう諦めなさい」

 

「なに……!?」

 

 魔女を倒した暁美ほむらはいきなりそんなことを言ってきた。しかし今の彼女にそれを受け入れることはできなかった。

 

「そんなことができるか!!」

 

「彼女はあなた達の言葉を振り切ってしまったのでしょう? ああなってしまったらもう手の打ちようがないのよ」

 

 確かに昨日はさやかは自分達を振り切って去って行ってしまった。だけど今も自分達はさやかを助けようと必死に抗っているのだ。

 さらに反論しようと思ったが、それより気になる発言をしたことについて聞くことにした。

 

「……まるでその先の結末を知っているかのような物言いだな。それもお前の能力で知ったことなのかよ?」

 

「……その通りよ。私はその先には絶望しかないことを知っているのよ。だから、もう……」

 

 そう言うほむらの顔は諦めの感情で満ちていた。きっと彼女の言う通り、彼女が見えたその未来は絶望しかないものなのだろう。だけど杏子はそれで納得できるわけがない。だからこそ、ほむらに問うことにした。

 

「それなら答えろ、暁美ほむら。お前が見てきた未来の中に……」

 

 昨日は全ての結末はほむらの見た未来で決まっているのかと思ってしまった。いくら自分達が頑張ったところで未来は変わらないのかと、絶望しかけたこともあった。だけどそんな時にその予知に風穴を開けたのは、自分が好敵手と認めた彼だった。

 

「裕は、いたのかよ?」

 

「それは……」

 

「いなかったんだよな? だからこそお前は初めてあいつに会った時に何者なのかを聞いたんだろ? そしてお前があいつに対して言った予言は外れだったんだ」

 

 予知が絶対のものであるのなら、当然ほむらは彼のことを知っていなければおかしいのである。そして現実にほむらは彼のことは知らなかったし、予言が外れるということまで起きているのである。

 だからこそ杏子は信じられた。自分達の未来が全て決められたものではないということを。あがき続ければきっと望んだ未来を掴むことができるということを。

 

「あたしはね、諦めたくない。お前の予言が絶対のものでないのなら、その先の未来は未定なんだ。あいつがいる限り、未来はあたし達の手でいくらでも変えられるって信じられるんだよ」

 

「…………」

 

「お前が絶望の未来に屈してそこにいるのならそれでもいい。ただ、あたし達の邪魔はしないでくれ」

 

「私は……」

 

「じゃあな。さやかを探しに行かないといけないからな」

 

 そう言って杏子はほむらの前から立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐倉杏子が去った後を暁美ほむらはずっと見つめていた。止めようと思えばできたが、そうする気にはなれなかった。

 

「私は……私だって諦めるつもりはない」

 

 ほむら自身だって諦めるつもりはなかった。そうでなければここにいるはずがないのだから。しかしほむらはずっと見てきた。さやかが魔法少女になり、そして絶望に堕ちていく姿を何度も、何度も……

 そんな姿を見ていく内にいつしかほむらはさやかだけではなく、まどか以外の全ての人のことを諦めるようになっていった。他の何を犠牲にしてもまどかだけは守ると、そう決意して。

 だけどこの世界での杏子は諦めないと言った。それだけなら今までと同じだったが、未来は自分の達の手で変えられるとも言った。今までの彼女はそんなことは言わなかった。そして彼女がそう言った原因はほむらにも分かっていた。

 

「洲道裕一……」

 

 ほむらが歩いてきた道に今まで存在していなかったイレギュラー。彼は今までほぼ決まっていた未来をいくつか変えてしまった。そして今、彼もまた杏子達と同じようにさやかの運命に抗おうとしている。

 

「私には見えなかった未来を、あなたが作ると言うのなら……」

 

 自分もまた、その運命にあがくことにしよう。自分にできることをしていこう。そう考えたほむらはさやかのことは彼らに任せることにして、自分はまどかを探しに行くことにした。以前のまどかはさやかの身体を元に戻すために魔法少女になったことがあった。もしもそんなことになったら全てが終わってしまう。だからこそ、その結末を知る自分がそれを止めなくてはならないのだ。

 

「私も、自分が望む未来を手に入れてみせるわ……」

 

 決意を新たにして、暁美ほむらはそこから一歩を踏み出して行った。

 

 




裕一説得失敗です。安定へのカウントダウンは止まりません。
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