自分の小説の書き方の拙さ以外は反省も後悔もしていません。
このまま突っ走っていきます。
「暁美……」
暁美ほむらは変わらず俺を見つめていた。今までと変わらないと思ったが、その眼差しには別の感情があるような気がした。しかしその反面、今の俺は焦っていた。
(まずいな……この状況は……)
今の俺と暁美には距離がそれなりにある。今の彼女は魔法少女の姿ではないが、おそらく俺が動いて暁美の所にたどり着く前に暁美は変身を終えてしまうだろう。そして時間を止められてしまい、俺がやられてしまうことは間違いない。そして俺の中にはさやかと杏子の魔法が入っている。この二つでは暁美を即座に拘束する方法がない。マミさんの魔法ならそれができたのだが……
「あなたは……」
「……?」
この場をどう切り抜けるか考えていたところで暁美は口を開いてきた。今この瞬間に襲いかからずに話をするということは、俺を襲う意志はないということなのだろうか? 今の暁美は魔法少女の姿じゃないことがさらにその考えに信憑性を持たせていた。
「その手で変えたのね、美樹さやかの運命を……」
「さやかの運命だって……?」
「美樹さやかは上条恭介を失うことで、魔法少女としての在り方を見失い、絶望に堕ちてしまう運命だったのよ」
「っ!? ……それがお前が見ていた予知ってことか」
どうやら暁美の予知ではさやかの想いは叶わず、俺達の言葉は届かないまま終わってしまうものだったようだ。そんなことにならずに本当によかったと思う。ただし、手放しで喜ぶことはできなかった。そのために俺が杏子を傷つけてしまったことは事実なのだから。
だけどその前に、暁美の言葉によってある疑問が俺の中で浮かんでいた。
「なんでお前は俺がさやかの運命を変えたって思うんだ?」
「あなたが上条恭介に全てを話すことで美樹さやかを救ったからよ」
「……なぜお前がそれを知っているんだ」
「まどかが巴マミの連絡を受けていた時にその話が聞こえたのよ。キュゥべえはまどかに契約をせまろうとしていたから、間に合って助かったわ」
「キュゥべえ……」
どうやらまどかはさやかに拒絶された後でキュゥべえに目をつけられていたようだ。おそらくさやかと同じ立場になるために魔法少女にならないか、等と言ってきたのだろう。だとするなら危ない所だった。もしもまどかが魔法少女になった後でさやかが救われたことを聞いてしまったら、何のために魔法少女になったのかが分からなくなってしまうだろう。それでもまどかなら絶望せずに喜ぶと思うが。
そして暁美は今回もまどかの方をマークしていたようだな。こいつのまどかへの想いはもはや執着と言ってもいいくらいの相当なものだ。そこまで執着するほどの理由とは一体何だと言うのだろうか?
「まどかはいつも言っていたわ。あなたのことは信用できると」
「…………」
暁美は予知にいなかった俺を異分子として危険視していた。一方俺は暁美はどういう存在として見ればいいのか迷っていた。なぜならそれでも暁美を信じ続ける人がいたからだ。
「私は……まどかの言葉と、そして巴マミの運命と美樹さやかの運命を変えたあなたを信じるわ」
「どういう……意味だ?」
「あなたには全てを話すわ。あなたが知りたいことを、私が知り得る限りで答えると約束する」
「……!」
まさか暁美の方から話をもちかけてくるとはな……
確かに暁美の話は是非とも聞きたいと思っていた。もともとさやかの問題が解決した時には暁美と話すつもりだったのだ。ワルプルギスの夜の詳しい情報はあいつにしか分からないのだから。そして暁美ならおそらくまだ知らない秘密も知っているはずなんだ。なぜなら俺は暁美がくれたヒントのおかげで魔女の原点について考えることができたのだ。その考えが正解かは分からないが、きっと暁美ならその答えがわかるはずだ。
しかし……
「それを……俺に信用しろって言うのか?」
「確かに今ここであなたに信用してもらうための根拠を示すことはできないわ……だから私にはあなたにお願いするしかないの」
そう言って暁美は俺に頭を下げてきた。それは今までの彼女の行動とはとても思えなかった。暁美は敵と見ていたはずの俺に対してまでこうしているのだ。それなら俺はその誠意に対して答えを出さねばならないだろう。
「一つ、聞かせてくれ」
そのために確認させてもらう。少なくとも、これだけは。
「お前は、お前が見てきた予知の通りに進めたいのか? それとも変えたいのか?」
暁美は見えていた予知の通りに事を進めたかったために、それを変えてしまう俺を危険視していた。
もしくは、予知の内容を覆すために動いていたが、俺というイレギュラーによって当初の予定通りに事を進められなかったから俺を危険視していた。
暁美の行動は、そのどちらとも判断が取れるのだ。
そして予知とはおそらくマミさんはすでに殺されていて、さやかは絶望に堕ちていたものだったはずだ。もしも暁美の目的が前者であるのなら彼女は明確な敵であるが、後者であるのなら少なくとも敵とは断言できなくなってしまう。かと言って味方と断言することもできないが。
「後者よ」
果たして暁美の答えは何とか俺が期待した通りのものだった。
「まどかが苦しむこの運命を変える――――それこそが私が今ここにいる理由よ」
一片の迷いもなく暁美はそう断言した。そこには嘘はなかったと思う。
それを聞いた俺は、答えを出すことにした。
「……分かった。まどかはお前にも言ったように、俺達にもお前は信用できると言っていた。だから俺も……まどかの言葉と、俺を信じると言ったおまえを信じる」
「ありがとう……」
俺は暁美についていくことにした。それは愚かなことかもしれないが、今の俺達は決定的に情報が足りないんだ。そして、それを得る機会はこの時しかない。
まずは信じることから始めよう。
今は情報を得るんだ。ワルプルギスの夜のことを、魔女のことを。
そして、暁美ほむらという人間を理解するために。
暁美が俺を連れていった先は暁美の家だった。予想していたが、暁美の家には家族が誰もいなかった。それだけではなく、この家には誰かが住んでいるのなら当然するはずの生活臭が全く感じられなかった。まるで、この家にはもともと誰も住んでいなかったかのようにだ。
暁美に促されたその部屋は何とも表現しづらいものだった。まず最初に目に写ったのは大量に浮かぶ額縁だ。そこには見たことがあり、また見たことがない魔女の姿や、奇妙な文字の書かれた石板、いくつかの箇所に印が書かれている見滝原の地図等、様々なものが写っていた。そしてさらに周りを見ると壁らしきものが見当たらなかった。全体が白であるために空間が分かりづらくなっているせいかもしれないが、これら全ても暁美の魔法によるものなのだろうか?
そして今、俺と暁美は互いに向き合って座っている。ついにこの時が来たのだ。
「それじゃあまずは聞かせてもらうぜ。ワルプルギスの夜のことだ。ソイツがここに来ると言っていたが、そのことについて詳しい情報を教えてくれ」
今の俺達に足りないのはなによりアイツの情報だ。それがないと対策が立て辛くなってしまう。もともと暁美が言いだしたことなのだから、暁美はアイツに関してさらに詳しい情報を持っているはずだ。
「ワルプルギスの夜が来るのは今からおよそ一週間から二週間の間よ。三日前辺りになるとアイツが来ることが分かるようになるはずよ。出現予測地点はこの辺り。現れる前兆としては空が雷雲に覆われる、いわゆるスーパーセルの前兆と同じね」
そう言って暁美は先ほどの見滝原の地図が写った額縁を引きよせ、その印を指し示した。あれはアイツの出現予測地点だったというわけか。
「アイツを倒すための作戦とか弱点はないのか?」
「作戦ならいくつも考えられるわ。巴マミ達が全員生存している現状でならばね。だけどアイツの弱点については分からないわ。効率的な打撃と火力の運用、他の魔女との闘いと同じだけど、これが現時点で最も効果的な方法よ」
「なるほどね……」
暁美の言いたいことはよく分かる。本来闘いにおいては心理戦や駆け引きを前提とするべきではない。特に心理戦においては俺が杏子との闘いで使っていたが、本来俺達が闘うべき存在は魔女だ。魔女に俺達の言語が通用するはずがないのだから、心理戦が成立するわけがないのだ。いかに効率的に、そして迅速に打撃を与え続けるのか。それこそが実戦においての基本であり、そして必勝法なのだ。それが俺があの男との訓練で学んだことだ。
「あなたはどうなの? 洲道裕一」
「そのフルネームはそろそろやめてくれないか? なんか感じが悪いからさ」
「……裕一、あなたはワルプルギスの夜のことは何か知らないの? あなたはアイツと何らかの繋がりがあるではないの?」
「…………」
俺は一瞬話すべきか迷った。この情報は正直知った所で打開策になることはないだろう。今の所できるのは暁美の言う通り、効率的な打撃を打ち込むことしかないのだから。
だけど逆に話してはいけないということでもない。暁美は今の所嘘をつかずに俺に情報を教えているのだ。それなら俺は答えないわけにはいかないだろう。無理に隠して信頼を失っては元も子もない。
そして俺は暁美に話した。幼い頃より見てきたアイツの悪夢を、アイツに手を伸ばそうとする俺とは別の存在を。
「……一応聞いとくけど、お前は俺のことに関しては?」
「ごめんなさい。私もあなたのことに関しては何も分からないわ。さっきの悪夢の話でも思い当たることは何も……」
「やっぱりか……」
あまり期待していなかったが、暁美はやはり俺のことについては何も分からないみたいだ。やっぱり俺の原点についてはあの男に聞くしかないのか……
「アイツについての大まかな所は分かった。その情報をもとにしてマミさん達と計画を練った方がいいな。それから暁美、お前もアイツを倒そうとしているみたいだけど、そのために俺達と手を組むということはできるのか?」
「ええ。……おそらく私だけでは倒すことはできないわ。できるなら、あなた達の力を貸してほしいの」
暁美の時間停止を駆使して闘ってもアイツは倒せない、か……それならやはり共通の目的を持つ仲間として一緒に闘うべきだろうな。
「分かった。それならまずは俺とまどかを通した方がいいだろうな。他の三人はお前を信用していないわけだし」
「そうしてもらえると助かるわ」
アイツを撃退するのなら、暁美の協力は是非ともほしい。そのためにはまどかにまずは事情を話してからマミさん達に暁美の加入を進言する。まどかなら快く引き受けてくれるだろう。
……さて、次のことを聞かなければならないな。事実であってほしくはないけど、逃げるわけにはいかないよな……
「暁美、お前がマミさんと杏子に会っていた時のことだけどな……」
「……なにかしら?」
「お前はさやかのソウルジェムを早く浄化しろと言っていたそうだな。さもなければ、取り返しのつかないことになる、とも言っていた。……その取り返しのつかないことって、なんだ?」
「それ、は……」
暁美はそのまま口ごもり、俯いてしまった。どうやらよほど話したくないようだ。そうだとするのなら、なおさら俺の考えた最悪の展開が現実味を帯びてしまう。暁美が口ごもってしまう理由としては、他に選択肢はあまりないのだから。
「……裕一、あなたはどうなの? 今のあなたにソウルジェムの最後の秘密が分かるのかしら?」
暁美は答えずに逆に質問で返してきた。それは俺のことを試すつもりなのか、それとも言いたくはなかったのか? どちらかは今は考える必要はない。とにかくようやく答えを確かめる時が来たのだ。知らずにすますことは許されない。それはこれから先の俺達自身のためにつながるからと思えたからだった。
「ソウルジェムについて考えるようになったのは、それが魔法少女の魂そのものであることを知った時からだった。ソウルジェムにはまだ何か秘密があるんじゃないのかっていう疑惑がすぐに浮かんだよ。そして最後にお前が言っていた取り返しのつかないことについて考えた時に、ようやく答えが出た。およそ考え付く限りで、最悪な答えがな」
「最悪な、答え」
「魔法少女と魔女、希望と絶望、
「裕一、あなたは……」
「そして魔法少女の魂であるソウルジェムは魔力を消費しただけで穢れが溜まるわけじゃないんだ。怒り、恨み、妬み、自棄、破壊衝動、そして絶望、そういった負の感情でも穢れが発生するんだ」
昨日と今日会っていたさやかの様子と、対して魔力を使っていないはずなのに溜まった穢れの量、そして目の前の杏子のソウルジェムが濁った時、あいつは自棄になっていた。どれも二人が負の感情に沈んでいた時に穢れが発生していたんだ。そう考えないと、あの急速な穢れの溜まり具合に説明がつかない。
「そこまで見て、そして穢れが溜まった先に取り返しのつかないことがあると知って俺はようやく分かった。要するに、最後にヒントをくれたのはお前だったんだよ」
「そう……だったのね。それなら、あなたの答えを聞かせて、裕一」
暁美は最初こそ動揺していたが、今は冷静に俺の答えを待っている。暁美はすでに答えを知って、それを受け入れたということなのだろうか? どれだけの葛藤があったことなのか、俺には想像がつかない。だけど俺だって逃げるわけにはいかない。そこから目を反らしていたら、きっとそのつけを払う時が来ると思ったからだ。
「答えは…………表裏一体」
光が当たれば影ができるように、幸福があるなら不幸があるように、希望と絶望もまた同じように隣り合わせで切り離せない関係にある。つまりバランスだ。天秤のようにどちらかの量が増したら、そちらに傾くものだ。
魔法少女もまた、負の感情をため込めば絶望に近くなる。
「そして臨界点を超えた時……全ては反転する」
SGは反転してGSとなり、
希望は反転して絶望となり、
魔法少女は反転して……
「魔女の……正体、は……」
口に出すのが怖ろしかった。言ってしまったらもう戻れないような気がしたからだ。けど、一番辛いのは俺じゃないんだ。まずは俺が逃げ出しているようでは話にならないんだ。
「絶望に堕ちた、魔法少女だったんだ……」
……沈黙が痛かった。今言ったことが考えすぎだと、間違いだと言ってくれたら、どれだけ楽だったことだろうか。もしも事実だとするなら、こんなのはあまりにも救いがなさすぎる。
だけど現実はどこまでも優しくなかった。
「……その通りよ」
他でもない魔法少女がそれを肯定してしまったからだ……
自身が持つ紫色のソウルジェムを掲げて暁美は説明を続ける。
「ソウルジェムが濁りきって黒く染まる時、それは砕け散り、新たにグリーフシードが生成され、そこから魔女が誕生するのよ。それが……私達魔法少女の逃れられない運命なの」
「そん、な……」
考えた可能性だが、それを事実だと言われるとやはり信じたくはない。誰かのために祈った魔法少女が、いずれは誰かを祟る魔女となり、そしてまた別の魔法少女に倒されてしまう。それが、魔法少女の末路。そこに希望なんて見出せるはずがなかった。
(マミさん、さやか、杏子……)
皆のことを考えると辛かった。このことを知った時の絶望がどれほどのものかは分からない。下手をすると、それで立ち直れなくなることだってあるかもしれない。
だけど、それでも……
(それでも……きっと皆なら乗り越えられる)
俺は見てきたのだから。彼女達の強さを。たとえ誰かが倒れそうになっても、他の誰かが救ってきたのを今まで見てきたじゃないか? それを、俺が信じないでどうするんだ?
(今は前を向くんだ。落ち込んでいる暇なんてない)
とにかく暁美との話を続けるんだ。
「魔女の原点については分かったけど……それはつまり、女の子が魔法少女になって、そして魔女になるというプロセスは一つの繋がった道となるわけだよな?」
「そうよ」
「つまり、あいつはそれを最初から知っていたということになるよな?」
「……キュゥべえね」
この説が真実である以上、魔女の原点は魔法少女と同じ原点であるキュゥべえとなるのだ。そうなると、次に考えるべきはあいつの正体についてだ。
「結局あいつの正体は何だって言うんだ?」
「キュゥべえというのは本当の名称ではないわ。あいつらの本当の名称は……インキュベーター。孵化器、という意味があるわ」
「インキュベーター……」
それがあいつの本当の呼び名。魔法少女と魔女、全ての原点の名前か……
「キュゥべえの名称はその一部から取ったということか。……けど、ちょっと待て。今お前はあいつを複数で呼ばなかったか?」
「まさにあいつらは複数で存在するのよ。一つの個体が死を迎えると、別の個体が動きだす。身体のストックはほぼ無限にあるようだから、殺すのは事実上不可能ね」
なんだそりゃ……死がない生き物なんかが存在するっていうのかよ? いや、『ほぼ』無限だから殺し続ければ死ぬのだろうが……
「そんなやつらがこの地球にいたなんてな……」
「あいつは元々地球にいたわけではないわ。ある目的を持って宇宙からやってきた存在なのよ」
「それはそれは……」
話が宇宙規模になってしまったよ。まあ、宇宙生物なら何があっても不思議ではなくなるのかね? 人を魔法少女や魔女にしたり、願いを叶えてしまったり……
「目的ってなんだ? あいつの故郷がピンチだから、助けて下さいとか?」
「少し違うわね……裕一、あなたはエントロピーという言葉を知っているかしら?」
「えーと……確か色んな力学とかで使われる質量を表わす言葉だっけか?」
「そんな感じでいいわ。簡単に言うと、焚火で得られる熱エネルギーは木を育てる労力と釣り合わないということよ。エネルギーは形を変えるたびにロスが生じてくる。だから、宇宙全体のエネルギーはどんどん目減りしていく」
うーん……それは良くない事態なんだろうな。生物が生きていくためにはエネルギーがいる。つまりこのままだと全ての生物がエネルギー不足で死に絶えるということなのか。
「それを防ぐためにインキュベーターがいるってことなのか?」
「そう。あいつらは熱力学に縛られないエネルギーを探し、そして目を付けたのが私達人類。あいつらは知的生命体の感情をエネルギーに変換するテクノロジーを開発したのよ」
「感情っていうのなら、わざわざ人類に目を付ける必要はないんじゃないか? 自分でやればいい話だろ?」
「あいつらには感情がないのよ。それではわざわざそのテクノロジーを作り出した意味がなくなってしまう」
……感情がないだって? それはあり得るのか? たとえ今は感情がないとしても、あいつは今まで生きてきて、さらに他の生き物とコミュニケーションをとることができる理性はあるはずだ。その過程で何も芽生えないということなんて本当にあることなのか……?
「そして人類の中で特に効率がいいのが、第二次性徴期を迎えた私達くらいの女の子の希望と絶望の相転移なのよ」
「希望と絶望……ま、まさか……!?」
そこまで聞いた時に繋がってしまった。キュゥべえの言っていた、『契約』とは何かが分かってしまった。
「だから……女の子を魔法少女にするのか!!」
「…………」
「そして絶望に堕としてSGをGSにして魔女を孵化させるのか!! インキュベーターの名前通りに!!」
「…………」
「願いを叶える代わりに、魔女になってもらってエネルギーを回収する……それがインキュベーターの『契約』なんだな!?」
「……その通りよ」
全てが分かった時、俺の頭の中は怒りで一杯になった。目がチカチカする。何かに当り散らしたくなってくる。今の俺は、まるで身体全体が沸騰しているみたいだ。
ふざけるな。なんだそれは。皆それぞれの想いを抱いて魔法少女となって闘っているんだ。それを最後には魔女になってもらって、他の魔法少女に倒してもらう。しかもそれを相手には教えないで魔法少女にして、自分はエネルギーだけをもらっている。俺達人類は消耗品か何かだっていうのか? ふざけるなふざけるなふざけるな……!!
もはや心の限界はすでにギリギリになっていた。だが耐えるんだ。今はあいつはいない。目の前の暁美に怒りをぶつける前に、話を続けるんだ……
「暁美。キュゥべえは近い内に自分の正体について話すのか……? それを聞いた所で、状況があいつにとっていいものになるとは思えないんだけど……」
暁美が今までの話を予知で知ったとするなら、それが明らかになる時が来ることになるということだ。それによるキュゥべえにとってのメリットがなんであるのかは今の所思い浮かばなかった。
「裕一……あなたは私のことで少し勘違いしていることがあるわ」
「勘違いだって? それって何だ?」
「私がそのことを知ったのは予知ではないということよ。実際に体験して知ったことを私は話しているのよ」
「なに……? つまりそれは……」
「そう、私はあなた達とは違う時間に生きていた存在。いわゆるタイムトラベラーというものなのよ」
タイムトラベラー。SF小説なんかでよく聞く言葉だが、今の暁美は自分のことをそう言った。確かにそれは暁美の時間操作の魔法について最初に考えたことだった。だけどそれはあり得ないはずなんだ。
「それは変だな。もしもその通りなら、今の時間では暁美ほむらが複数存在していることになる。だけどお前は仲間を集めようとしていた。複数存在するのなら、仲間なんていらないはずだ」
「裕一、あなたは『並行世界』という概念を知っているかしら?」
「『並行世界』? いや、知らないな……」
「簡単に言うと、この世界と限りなく似た世界というものが無数に存在していて、私が時間を遡った時にはその並行世界に飛ぶものなのよ。だから私が複数存在するとことは原則としてはないのよ」
うーん……? つまり同じ時間軸にある世界には飛ばないから、過去や未来には影響はないということなのか? 暁美の時間を巻き戻すというのは、要するに新たな並行世界に存在する『暁美ほむら』と同じ存在となることで限りなく似た世界の中で同じ事象を繰り返すということなのか。
分かりにくいな……だけど暁美が複数いないとなるなら、おそらくその考えが正しいのだろう。とりあえず、そういうものとして話を進めてみよう。
「要するにお前は……未来におきた結果に納得できなかったから、それを変えるために魔法少女になった。そしてその願いに適していたのは時間操作の魔法だった。お前がその先の未来を知っていた理由はそういうことだったのか」
「理解が早くて助かるわ」
そして暁美は起こり得る未来を乗り越えるために行動していたということか。そしてその最たる目的というのが……
「暁美……お前がまどかにこだわる理由っていうのはなんだ? 思い返せば、お前の行動の裏にはいつもあいつがいた。お前の『過去』において……あいつと何かあったのか?」
可笑しな気分だった。それは暁美に過去や未来の話をすることに対してだった。
過去と言ったが、少なくともこの並行世界においての過去では暁美はまどかとそこまでの関係ではないということは、まどかの今までの反応で間違いない。それでも彼女はここにいるまどかに執着し、動いている。それほどの執念の理由は何なのかに俺は疑問を抱いていた。
「あの子は……まどかは、私の大切な友達なのよ」
迷いなく言い切る暁美の答えはじつにシンプルだった。
そして彼女は語り出す。彼女が友達であったという『鹿目まどか』のことを。
何度も時間を遡り、闘い続けた暁美ほむらの原点を――――
ワルプルギスの夜の情報、そして魔女の原点、インキュベーターの『契約』、そしてほむらの時間遡行……
一気に暴露させてもらいました。長くなってきたので一旦区切ります。