魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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ここで、あの少女です。


赤い好敵手

 後ろからいきなり声がして俺は振り返って見た。そこにいたのは女の子だった。

 赤い髪をポニーテールにして、黒のシャツに緑の上着、さらに短パンという格好だ。最初はその子から見えているへそや、素足なんかに目がいってしまうかもしれないが、俺は今ただまっすぐにその子を見ていた。

 聞き捨てならないことを言ったからだ。

「いきなり人のスコアにけちつけるとは御挨拶だな」

「事実なんだからしょうがねえだろ。そこで見てな。あたしが本物ってやつをみせてやるよ」

 そう言ってその子は俺を押しのけようとした。だが、俺は動かなかった。見るだけなんてつまらないではないか。なにより目の前の少女は自分で負かしてひざまづかせたかった。

「これには対戦形式というのがあるんですよ? それで白黒つければいいじゃねえかよ」

「あたしについてこようとしたら、お前置いてかれて恥かくぜ? そんなあたしの優しさに気づかねえのかよ?」

 このとき俺は占いのことは完全に頭から消えていた。

 ただ、目の前の女をぶちのめすことしか考えてなかったからだ。

「なら、賭けるか? 勝ったやつが負けたやつに今日の飯をすきなだけおごるっていうのはどうよ?」

 すると、その少女は笑い出した。

「ははっ、いいねぇ、そういうの! あたしは構わないぜ」

 こいつは自分が負けることは微塵も考えていないようだ。その態度だからこそ倒し甲斐があるというものだ。こいつが負けた時の顔が見物だ。それに俺は身体を動かしたからかなり腹が減っている。こいつの財布に大ダメージを負わせることも可能だ。

 

「よし、後悔すんなよ」

 俺は上着を脱いでシャツのボタンを二つ外した。久々の本気モードだ。さっきのスコアが本気だと思うなかれ。調子に乗っている彼女に敗北の味というものを教えてやろうではないか。

「その大言に敬意を表して本気でいってやるよ。俺の本気についてくるんだな」

「上等」

 そして曲が流れ始め、闘いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

「いっただっきまーす。あむっ」

 目の前の子はそこにある大量のハンバーガーやポテトを食べ始めた。これらの食費はもちろん……

 

 俺持ちですよコンチクショー!!

 

 勝負は五分だったと思っている。だが台に落ちた自分の汗ですべってしまったのがまずかった。一度ペースをくずすと取り戻すのはかなり難しいのだ。そのときの差が最後まで響き、俺はこの子に敗れたのだ。

 そして、近くのファーストフードへ行き、今に至るというわけだ。

「しっかし、あんたも中々やるじゃん。格下だと思ったのは謝るよ」

「そりゃどーも」

 俺はぶっきらぼうに答える。一方的に負けるより、僅差で負ける方がくやしいものだ。しかし、とりあえず自分の好きなものを馬鹿にさせなかっただけでよしとすべきなんだろう。

 そう自分を納得させ、俺は自分を負かした女の子を改めてよく見てみた。

 顔は結構かわいいな、と素直にそう思った。活動的な印象を与えるポニーテールに強い意志を感じさせる勝気な瞳。暁美とは違う魅力を持った美しさがそこにはあった。

 しかし、さらに目を引くものがあった。それは、

 

(どんだけ食うんだよ、こいつ……)

 

 目の前にある大量のハンバーガーやポテトである。口は小さいくせに一個のハンバーガーをあっという間にたいらげる。安いハンバーガーだけで本当によかったと思っている。高いものも食っていたら、コンビニで金を下ろさなければならないところだった。

「ちゃんと全部食えよ。残したら許さないからな」

「当たり前だ。あたしは食い物をそまつにはしねぇ」

 そういう彼女の瞳に強い意志が感じられた。しかしその後すぐにうれしそうにハンバーガーをほおばる姿に戻った。そのギャップがなんだか可愛らしいと思ってしまった。

 

 

 

「ふー、食った食った。久々にうまかったよ、ごちそうさん」

「そうかい、それはよかった」

 こっちも目の保養になったので、それなりに満足だった。

「けど、あんた、見滝原の学生だろ? なんでこっちに来てんだ?」

「ああ、それは……」

 占いのことを言おうとしたが、やめておいた。

 目の前の子にそれを言うのはなんだか恥ずかしかったからだ。

「こっちには俺より強いやつが中々いなくてな、強いやつを求めてここに来たってところかな……」

 少しかっこつけて言ってみた。実際俺の知ってる中で俺より上手いやつはいなかったため、嘘は言っていない。考えてみればダンスゲームにおいて敗北を知らないというのは俺も同じだった。しかし俺は敗北の味を知らないわけではない。あの男に何度沈められ、敗北したか、俺は数えることを止めたくらいなのだから。

 女の子は一瞬ぽかんとしていたが、次の瞬間笑い出した。

「く、ははっ! おもしれえやつだな、お前は!あたしもこの辺りであれが強いやつがいなくて退屈しかけてたんだ。あんたのようにあたしに渡り合えるやつはいないかと思ってたさ」

「嬉しいね、俺と同じ思いを持ち、俺と渡り合えるやつに出会えるとはな」

「あたしもだ。これが神様の思し召しってんなら、今だけは神様に感謝してもいいかもしれねえな」

「神様ねえ、けど、それは違うんじゃないのか?」

「あん?」

 女の子はどういう意味だとこっちに視線を向ける。

「俺達は互いに好敵手を求めてたわけだろ? んで、その結果、俺達がこうして出会った。そこに何かの意志が入る余地なんかないだろ?

 そもそも俺、神様はいてもいなくてもどっちでもいいいと思っているしな。人の人生にちょっかいさえ出さなければ、だけど」

 きっかけは占いだったが、それを実行したのは自分の意志だ。自分の出した結果に対して何々のせいでこうなった、と言うのはあまりにもみっともない。

 あの夢で自分以外のなにかに動かされるのはいやだと強く感じたから、なおさら強くそう思う。

 女の子はまたもやぽかんとしていたが、次の瞬間さっきより愉快そうに笑い出した。

「あははは! 確かにあんたの言うとおりだ。あたし達の未来が全部他の誰かに左右されるなんて我慢ならねえ。自分のことは自分で決めなくちゃならないんだ。それが当たり前なのに、意外と分かってないやつが多いんだよな。大人も子供も関係なしにだ。いいね、あんたはその点分かってる。そんじょそこらのへなちょこよりは骨があるよ」

「それはさっきの勝負で分かってたことだろ?」

「違いない」

 俺の言葉に彼女は肩を揺らした。さっきこの子は自分で決められない人間が多すぎると言っていたが、俺ははっきり言って普通とはとても言い難い育ち方をしている。だからむしろそういう人間の方が普通だと俺は思ってしまうのだ。それがいいことなのか悪い事なのかはこの際おいておくとしてだ。だがとりあえず俺の回答がこの子のお気に召したのは幸いだと思うことにした。

「あたしは佐倉杏子だ。あんたは?」

 おもむろに自己紹介してきた。そういえばまだ、俺達は自己紹介もしていなかった。名前を知らなくても、結構話は盛り上がるものだ。

 だが、名乗られたら、名乗り返さないといけない。

「俺は洲道裕一だ」

「洲道裕一、ね。ならあんたのことは裕、て呼ぶよ」

 先ほどのランキングにyuuと入れていたのを見ていたからだろう。別に変な呼び方でもないので好きにさせた。

「じゃあ、俺は杏子で」

「ああ、それでいい」

 こうして俺は佐倉杏子という好敵手と出会った。

 

 

 

「じゃあ、俺は帰るぜ」

「ああ、分かったよ」

 ファーストフード店を出たとき、もうすっかり暗くなっていた。そろそろ帰らないといけない。

「裕はまたこっちに来るのか?」

「ああ、そのつもりだ。今度こそお前に勝ってやるよ」

「はっ、いつでも受けてやるよ」

 売り言葉に買い言葉。俺達はこんな感じでいい。会って少ししかたっていないが、すでにこのやり取りがずっと前からあったかのように俺にはしっくりきていた。

「ああ、そうだ」

 そう言って杏子はポケットからチョコ菓子を出して俺に差し出してきた。俺が首をかしげていると、

「お近づきの印さ。食うかい?」

 どうやら、知り合った人に菓子を渡すのがこいつのくせのようだ。普通なら受け取るべきなのだろう。

 だが俺はそれを手で制した。

「そいつは俺が勝ったときにいただくとするぜ」

 するとまた杏子は笑って、

「やっぱ、お前は面白いわ、裕。いいぜ、ますます気に入った」

 

 

 

 こうして俺は杏子と別れた。

 俺は恭介達とは少し違う友達を得られたことに心臓が高鳴っていた。それはとても心地よく、夢とは違い、まぎれもなく自分の鼓動であると確信できた。

 

 

 

「見滝原、か……あそこにいい思い出はほとんどないけど、魔女はうじゃうじゃいるし、マミからかっさらうついでにあいつに会うのもいいかもしれねえな」

3




というわけで、裕一、杏子と会う、でした。今回裕一はアニメの展開にはからみませんでしたが、あの分岐点までには介入するつもりです。
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