Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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第2話:赤角に殺されたい前編

商人も多く使う近くの街道に、最近山賊が出るらしい。

山賊団は黒屍(クロカバネ)と名乗り、街道をゆく人々を襲っているそうだ。

 

黒い布を体に巻きつけ、襲った人々を皆殺しにすることが名前の由来なのだとか。

 

危機を見るに敏であり、勝てないと見るや遁走するために被害はジワジワと拡大しているのだそうな。

 

馴染みの食堂の親父の情報を聞きながら、クロウは肉と野菜が雑にいためられたモノをモソモソと食べていた。

 

「お前はよう!もっと旨そうに食えないのか?」

親父がクロウにクレームをつける。

 

「はい」

クロウは短く答えた。

旨くはないので、旨そうに食うことはできないという意思を強くこめたつもりだ。

 

はあ、と親父はため息を1つついた。

「ところでよ、お前さんやらかしたらしいじゃねえか!」

 

━━何を?

 

クロウが訊ねる前に、親父が続けた。

「ロナリア家のご令嬢をよ!助けたらしいじゃねえかよ。すっかり噂になってるぜ!」

 

「いいえ」

クロウは短く答えた。

貴族の令嬢を助けた覚えなど……あれ?もしや…

「………」

 

クロウが否定のすぐあと黙り込むと、親父がきいてもいないのに教えてくれる。

 

「護衛1人つれていって森で何をするつもりだったのかね?お貴族様のやりたいことはわからねえなあ。それでグレイウルフの群れに襲われてあわやってときにクロウという人に助けられた…らしいなあ。運が良いお嬢さんだ。グレイウルフの群れをどうにかできる冒険者なんぞ限られてるからなぁ!!」

 

クロウとしては、ふうん、というところであった。

確かに助けたが、助けた後の話なんてどうでもいいからだ。

貴族になんて好き好んで関わるつもりはないし、そのご令嬢にしたってすぐ自分の事など忘れることだろう。

 

「あ!!お前はよォ!なんで青菜を残すんだ?しっかり食え!じゃねえともうつくってやんねえぞ!」

クロウは黙ってモソモソと青菜を食べた。

 

 

「あ!クロウさん!」

ギルドに入るなり、受付嬢のアシュリーが元気よく話しかけてきた。

クロウは礼儀正しくぺこりと頭を下げると、そのままカウンターを素通りして依頼ボードへ向かう。

 

「ちょっと!無視しないでくださいよう!」

アシュリーが訴えかけてくるので仕方なく話をきくことにする。

 

「クロウさん、ロナリア家という貴族家をご存知ですか?そちらのご令嬢がクロウさんにどうしてもお礼をしたいということで」いいえ」

 

アシュリーの言葉に被せていくクロウ。

同時に、手に持つ依頼票を手渡す。

 

「いえ、だから貴族家のお達しですから断わると面倒なことに」いいえ」

トントンと依頼票を指差すクロウにアシュリーはまるで公道上に転がる馬糞を見るような目を向けた。

 

はあ、とため息をつくアシュリーはクロウの持ってきた依頼票を見て目を剥いた。

 

【王都南西の荒地に出没するとされる、オーガ特異固体通称【赤角】の討伐、依頼達成報酬は金貨50枚。最低でも銀等級冒険者5名以上のパーティを推奨する】

 

というものだった。ネームドと呼ばれる特異固体はそれがどういうカタチであれ、想像を超えてくる。

通常種とは何もかもが違うのだ。

 

赤角は最近出現したオーガの特異固体である。

黒く硬質化した肌、頭部から伸びる巨大な真紅の一本角。

通常のオーガとは膂力も内包する魔力も文字通り桁が違う。

 

かのオーガの被害は大きい。

オーガ出没後、またたく間に荒地を住居とする原住民の部族がいくつも滅ぼされた。

荒地の部族は先祖伝来で受け継いできた豊富な薬学の知識を有しており、彼らからもたらされる薬はアリクス王国の王族を救ったこともある。

 

アリクス王国も部族に対し融和的な政策をとっており、両者は友好的な関係といっていいだろう。

 

そんな【友人】が次々滅ぼされることをアリクス王国はよしとせず、当然のごとく討伐隊をおくるがこれが悉く失敗に終わる。

 

赤角は知恵もまわるようで、多数の前には決して姿を見せないのだ。

 

優れたる剣技も、深甚なる魔導も、姿が見えねばどうにもならない。

 

ならば少人数での討伐隊を編成すればいいのかもしれないが、事はそう簡単ではない。

 

よくも悪くも、王国の戦士達は集団行動になれており、少人数での行動となると…ということだ。

結果、赤角の討伐は冒険者ギルドへ一任されることになった次第だ。

 

赤角討伐の褒章金である金貨50枚という額は、一般的な家庭であるなら20年は満足に生活できるような金額だ。それほどの報酬でさえ十分とはいえない。

 

艱難辛苦を舐め、経験を積んだ猛者でさえ足がすくむ相手である。

クロウは冒険者としては銀等級であった。

これはおおむね中堅所といったところだ。

普通なら、赤角に1人で挑むような真似をすれば、一矢報いることもなく無残な死を遂げることは必定である。

 

だが、先日クロウが相手取ったグレイウルフの群れ。

これもまた、依頼等級として考えれば赤角とそうかわらない。

クロウに一蹴されたように見えるが、あれはただの一頭でさえ金属製の武器を噛み砕くような魔狼なのだ。

普通なら防具に身を固めてようとも、全身を食いちぎられてお陀仏である。

 

しかしクロウは普通じゃないし、なんだったらお陀仏したかった。

 

そんなクロウは赤角の討伐依頼票を見たとき、まるで脳天に雷撃が落ちたかのような衝撃を受けた。

 

━━これだ

━━これなのだ。この依頼が俺の生涯最後の依頼になるだろう

 

クロウの豊富な戦闘経験が告げる。

お前はここで死ぬのだと。

お前にとっての死神は、この赤角なのだと。

大地を床とし、空を屋根とし、自然に寄り添うがごとき生活をしてきた無垢なる者たちを無残に食い散らした邪悪な悪鬼の話は聞いた事がある。

 

━━命を賭けても、なお届かない。それはわかる

━━だが、俺の命をもって、悪鬼に深手を、願わくば相打って見せよう

 

「ク、クロウさん………」

クロウの爛々と光る目を見たアシュリーはそれ以上の言葉を告げることができなかった。

 

踵を返し、ギルドを出て行くクロウの背を見るアシュリーは、クロウとはもう会うことができない、そんな思いを抱く。だが、後から「そういえばあの人って毎回あんな感じよね」と思うアシュリーであった。

 

クロウは困難そうな依頼を受けるときは毎回盛大に死の覚悟をキメてトリップ寸前になってしまうので、一部の受付嬢は彼の事を怖がっている者もいる。

 

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