Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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第17話:壊れたエルフを殺してあげたい⑤

 

「俺はガデスだ。知っているとおもうが銀等級パーティ、ドラゴンロアのメンバーだ。俺達は王国の地歴調査院から依頼をうけ、ニルの森のエルフ消失について調査にいった。だがニルの森のエルフの里は何かに襲われたような痕跡があった。それでその事を王国にすぐ持ち帰るか、もう少し調査を進めるかと話し合っていたらヤツが現れた…」

 

ガデスはつらつらと話を続ける。

逃げ切れないと悟り交戦したこと。

異様な風体のエルフであったということ。

どう戦い、どう敗れたか。

敵の手札。

そして仲間の死。

 

「ドラゴンロアにはもう1人仲間がいる。ハルカだ。弓を使う。だが、アイツはもう戦えねえ…当たり前だな、尊敬していたリーダーが目の前で黒こげになっちまったんだからよ」

 

ぎりぎりと歯を食いしばる音が離れていても一同の耳に聞こえていた。

 

「間違いなく虚(ウツロ)だ。厄介だぞ」

ドゴラが唸る。

 

森に生きる戦士であるドゴラはエルフにも詳しい。

心を喪くしたエルフの末路についても話だけは聞き及んでいた。

 

ドゴラの説明でシルファもセイ・クーも思案に暮れる。

 

「…ヤツは…アーノルドの一撃を受けてもぴんぴんしていたが、頭部への強撃は避けた。体を半分まで深くきられてもニヤニヤ笑ってたヤツが頭への一撃は避けたんだ。何かあるとおもわないか?」

ガデスが顔を顰めながら言う。

 

仲間を失い、到底勝ち目などなさそうな戦いでもタダでは転ばないあたりにガデスという戦士の練度が見える。

 

「じゃあ一先ず作戦と言えるほどでもないけれど、頭狙いだね。まあどんな生物だって頭をやられれば大抵死ぬとおもうんだけど…そのエルフに関しては急所がそこしかないとおもうくらいで良さそうだ」

 

「それぞれの役割はまあ得物をみれば分かるけど、シャル、君は余り突出せずにフォローに回っておくれよ。ま、いつも通りだね」

 

セイ・クーがまとめ、最後に「なにかほかにあるかい?」ときいた。

 

シルファがいいえ、と首を振り、他の者たちも同様のようだった。

 

「よし、じゃあそろそろ馬車がくる。ニルの森へ向かうとしようか」

 

 

 

馬車。

 

「それにしてもお久しぶりですね、クロウ様。先立っての一件では力をお貸しいただきありがとうございました」

 

シルファがクロウへ礼を述べた。

クロウはかぶりを振る。だが言葉はない。

別にクロウははいかいいえのみでしか会話が出来ない呪いにかかっているというわけではないのだが、前世由来のコミュニケーション能力の低さゆえに言葉を出すことができない。

 

例えば赤いリンゴを差し出されたとして、「このリンゴは赤いですか?」といわれればYESと答えるだろう。

なぜならそのリンゴは赤いからだ。

 

「このリンゴは美味しそうですか?」ときかれれば状態次第だろうが答えるのは容易い。なぜなら自分がそれをおいしそうとおもうか、まずそうとおもうかを自分の心でもって確認することは簡単だからだ。

 

だが、「このリンゴをみてどうおもいますか?」という質問には答えられないのだ。

なぜなら正解がないから。

 

だからクロウと面識の浅いものは、彼が無視をしている、取るに足りないものとしてこちらをみている、と思い、彼に馬鹿にされたと思って怒りを抱いたりする。

 

しかしその点シルファは貴族としての教育ゆえか、クロウのそんな気質、つたなさ、未熟さをこれまでの付き合いで何となく理解していた。

だから気にせず話を続ける。

 

「クロウ様が共に戦ってくださりとても心強いです。あの悪名高い盗賊団、黒屍の輩に囲まれたときも獅子奮迅のご活躍であったとか。それに特異個体【赤角】討伐の際の雄姿も忘れられませんわ」

 

シルファが微笑みながらクロウを賞賛する。

セイ・クーやガデスは興味深そうにその様子を見ていた。

 

シャル・アは自分の爪の手入れに余念がなさそうだったが、話自体はしっかりと聞いていた。

 

ドゴラは視界にクロウをいれたくないとばかりにそっぽを向いている。失礼だとしてもこれは仕方ない。

ドゴラの目には黒い少女がちらちら見えてしまっているのだから。セイ・クーはたしなめようか迷ったが、クロウが気にしている風でもなかったので放っておいた。

 

クロウは苦笑しながら、謙遜するかのようにかぶりをふった。余り褒められても気恥ずかしいものだ。

 

 

3日後、道中で村々に寄って休憩したりしたが、特にトラブルなどはなく一行はニルの森の入口へたどり着く。

 

鬱蒼とした木々を見つめ、シルファが呟いた。

 

「荒れに荒れ、千々に乱れた魔力の残滓を感じます。恐らくはエメルダさんの魔力ですね。そう遠くない地点で大きな魔術が行使されたのでしょう。ただ、あまりに雑な、力業の魔術。そうでなければここまで場の魔力は乱れません。エメルダさんは優れた術師です。優れた術師がこういう真似をする時は意図的に魔導を暴走させる時、つまり…」

 

シルファはその先を言えなかった。そして自分の少し見込みが甘かったかなと内心危惧する。

彼女ほどの術師が自爆しなければ足止めも出来ないような相手だとは思わなかった。

かつて見た赤角もあれはあれで化け物だったが、明らかにこちらのほうが格上だろう。

 

ガデスもまた魔力の乱れを感じる。

基本的にこの世界で戦を生業とするものであれば相応の魔力操作は身につけている。身体強化には魔力の操作が不可欠だからだ。

 

ガデスの脳裏にエメルダの姿が浮かぶ。

 

小生意気で気が強い女だった。

ハルカの姉気取りで、それでいて凡ミスも珍しくなく、なにかとハルカにフォローされていた。

 

アーノルドがやられた後、ガデスがハルカを連れて無様に遁走した際、最後にエメルダのほうを振り返ったときに、エメルダは笑っていなかったか?

 

ガデスはハンドアクスを握り締め、盾を抱えなおし、無言で森へと歩を進めていった。

セイ・クーとシルファは顔を見合わせ、ややあってガデスを追っていく。

他の者たちもそれに続いた。

 

 

━━誰かが死ぬ。そういう類の戦いになる

━━だけど、この戦いで死ぬ誰かは俺だ

━━俺が死に、皆を救う。すでに死んでいる人達の仇も討つ

━━これが最後の戦いか

 

森を進む内にクロウのテンションは静かに高まっていった。

濃密で芳しい死の気配がそこかしこから漂ってくるのだ。

これだけの森なのに、鳥一羽すら見当たらない異常。

 

クロウは少しでも手強そうな相手だとスグに死を想起し、急速に躁状態へと移行するが、彼の「誰かが死ぬ、そういう類の戦いになる予感」というのは決して間違ってはいない。

 

直接対峙したガデスは当然として、セイ・クーたち三日月の3人やシルファもこの異様な静寂、魔力の残滓、あたり一面に漂う不吉な気配から相手の危険度の高さを察している。

 

一行は言葉もかわさず、無言で森を進んでいく。

 

 

森の中を進んでいるはずなのに、まるでダンジョンの中にいるかのように感じる。

 

ガデスが不意に立ち止まった。

周囲を大きく見回している。

 

「さっきと同じ所だな。あの大樹の洞はみえるか?あの洞からニルのエルフの村落はそう離れていない。迷ったということもないはずだ。魔針通りにすすんでいるんだからな」

 

ガデスがそういって、手のひらにある小さなコンパスを見せる。

 

「私も斥候働きを得手としますので、早々方角を見失ったりはいたしませんが、さて。確かに私達は一定の方角へ真っ直ぐむかっていったはずなのですけどね」

 

シャル・アはうっそりとボヤいた。

 

「…魔域と化したか。つまりはそれほどの相手か」

ドゴラがぼそりというと、シルファは魔域?と首をかしげた。

 

「いわゆる迷宮化というやつさ。分かりやすくいうと滅茶苦茶ヤバイ相手が滅茶苦茶ヤバイ魔力で環境を汚染して、ダンジョンみたいになってるってことさ。さて、僕らは何人が生きて帰れるとおもう?」

 

セイ・クーが冗句交じりに言うが、誰も言葉を返さない。

それどころか、非難交じりの視線に射抜かれセイ・クーは肩をすくめた。

 

だがすぐにその目を見開き、後ずさる。

クロウが剣を抜き、ゆっくりと歩いてくるではないか。

 

「な、ちょ…クロウ!?単なる冗句だよ、そんな怒らなくても…ま、まてまてまて!こんなところで仲間割れは…」

 

シルファたちがあわてて凶行をとめようとするが、クロウは激しく足を地面へ打ちつけ走り出す。

 

━━斬られる

 

セイ・クーが仕方なしにレイピアを抜き、クロウを迎撃しようとするが、クロウはセイ・クーに目もくれずに彼の背後へ駆け出して、漆黒の長剣を一閃させた。

 

”バチン!”

 

クロウの剣はセイ・クーを背後から射抜こうとしていた雷の一矢を何かがはじけ飛ぶような音と共に受止める。

 

剣は強烈な電撃を受け、クロウの手のひらに伝導した。

 

空気が焼ける匂い

皮膚が焼ける匂い

肉が焦げる匂い

 

ガデスたちがあわてて展開を始める。

 

彼らの眼前に立つのは、1人のエルフ…のようなもの。

 

蝋のように真っ白な肌、尖った耳。端整な顔立ち。

だがその目は白目の部分も真っ黒に染まり、まるで穴のようで、ニタリと弧を描く口元から見える口内は血のように真っ赤だった。

 

魔力を感じられるものならばすぐにわかるだろう、全身を取り巻く濃緑の魔力は、自然のそれに連なる色ではなく腐敗した何かのそれに見える。

 

美しき森の民、エルフの成れの果て。

その狂相に、ガデスたちは一瞬気圧される。

 

 

 

そしてクロウもまた似たような狂相を浮かべていた。

 

 

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