Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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第18話:壊れたエルフを殺してあげたい⑥

 

「たすかったよ、クロウ…だが、なるほど、あれがアーノルド達を殺したのか」

セイ・クーは傍らのガデスと目配せを交わす。

 

そのガデスはエルフもどきを見た瞬間、血が沸騰したかの如き激昂を覚えたが、その憤怒を押し殺しどっしりと盾を構えた。

 

対魔法に優れた一品物である。

盾を構えつつ、じりじりと距離をつめていく。

“機”を窺うために。

 

先の戦いで見せた跳躍力から察するに、彼我の機動力の差は大きいとガデスは認識していたがそれでも距離をつめていくことに意味がないとはいえない。

 

未熟な重戦士は敵に先に動かれる。

優れた重戦士は敵を動かす。

そしてガデスは後者であった。

 

セイ・クーと極自然に目があい、同格の戦士として互いが互いのやりたい事を理解する。

 

ドゴラは攻めっ気を見せていない。

とはいえ臆しているのではなさそうだが。

彼の握る槍の先端が淡く緑色に光っている。

精霊の力を借り、何がしかの強化魔導を施しているのかもしれない。

 

シルファは少しずつ移動し、ガデスを盾とするような位置取りに。

 

シャル・アはいつのまにか姿を消していた。

だが彼女が逃げたわけではないことは言うまでもない。

 

エルフもどきはといえば、クロウに注意が向いている。

 

 

クロウは手に走る激痛を極めて俯瞰的に見ていた。

 

勿論痛いものは痛い。電撃に齎された痛みは彼に強く死を想起させる。

死への恐怖、傷の痛み。

 

こういうものは通常、戦闘力を減衰させる要素だ。

死をおそれることで体は強張り、痛みは肉体の十全な稼働を阻害する。

 

しかしクロウは違う。

死を強く意識すればするほどに、肉体はそれを拒もうと、死の運命を打開しようと肉体の制限を緩めていく。

 

このままでは死んでしまうと肉体が悲鳴をあげ、筋肉にエマージェンシーを出す。俗にいう火事場の馬鹿力である。

 

剣と魔法の世界で火事場の馬鹿力なんてたいしたものではないだろう、と思うものもいるかもしれないがそれは違う。

 

特に体を鍛えたわけでもない一般的な成人男性…魔法の力だとかそんなものがない、普通の人間さえ後先を考えずに正真正銘の全力をだせたならば、片手で約250kg、両手で約500kgの重量を持ち上げる事が可能なのだ。

 

体を鍛えたことのない主婦でさえ、子供のために車を持ち上げたという実例もある。

 

だが通常は体が壊れないように脳がリミッターをかけており、出しうる力は全力の20パーセントに過ぎない。

 

後先を考えず力を振り絞らないと死ぬ、そういう状況になってはじめて500パーセントもの身体能力向上率をたたき出せる。

 

まあそこまでしないと助からないような状況では、力を出す間もなく死んでしまうというケースが殆どだが。

 

対して、この世界の身体強化魔法はせいぜい何割か身体能力が向上するに過ぎない。よくて50パーセントかそこらだ。

これはもう比べ物にならない。

 

では冒険者として日常的に体を鍛え上げていたクロウが火事場の馬鹿力を発揮したときはどうなのか。

その身体能力の向上率は、実に900パーセントに達する。

 

その時クロウの纏う革鎧の中が透けて見えるものがいれば、彼の体を纏う筋肉の繊維の一本一本が針金で出来ているが如き肉の異形を幻視したであろう。

 

 

優れたパーティの条件とはなにか。

それは優れたメンバーで構成され、優れた連携が出来ることだ。

優れた連携とはなにか。一々相談しないでも、各々が自身のロールを忠実に全うし、それが全て噛み合うことである。

 

そう言う意味で彼らは優れたパーティと言える。

 

クロウが弾丸の様に飛び出すと同時に、ガデスが、セイ・クーが、シルファが、ドゴラが、シャル・アが一斉に動いた。

 

“殺(シャ)ァッ!”

 

殺気に満ちた雄たけびを伴い、破城槌の如き勢いでクロウの剣の切っ先がエルフもどきの顔面を貫かんとする。

 

 

エルフもどき、いや虚(ウツロ)の目が見開かれ、迫り来る切っ先に向かって五指を広げ

 

「מַחסוֹם」

 

行使された障壁の魔導が間に合い、クロウの突きは防がれる。

 

普通ならそのまま弾かれる。それが障壁というものだ。

 

しかし滅茶苦茶な膂力で突き抜かれる長剣の切っ先からはガリガリという音と共に障壁を抉り削る音が響き続け

 

それを見た虚はもう片方の手を差し向けようとするものの

 

「そちらの手は大人しくしてくださいまし」

虚の手に巻きつくのは糸。

 

大蜘蛛の魔物の糸を束ね、より合わされた特殊な拘束具に巻き取られ、虚の腕は動かせない。

 

姿を消していたシャル・アが背後から奇襲をかけたのだ。

 

━━ぐりん

 

虚の首が真後ろに曲がり、血のように真っ赤な口中をシャル・アの前に覗かせる。

 

(魔力が集中!?口から魔導…!?)

 

ぎょっとしたシャル・アは一瞬体が硬直してしまう。

だが、いまにも放たれようとした何かはシャル・アに当たることはなかった。

 

クロウやシャル・アに気をとられていた虚の間隙をつく形で、ガデスが盾を構えシャル・アの前に滑り込む。

 

同時に放たれる純魔力の砲撃は、仮にシャル・アに直撃していたならばその上半身を吹き飛ばすだけの威力はあったが、対魔力に特に優れるガデスの大盾が致死の一撃を受止めた。

 

青白い閃光。

 

魔力と抗魔力の盾のせめぎ合いは大盾の勝利に終わる。

だがガデスは全身のバネをつかい受止めた反動で体が動かない。

 

ニィっと不気味に笑う虚は再度口を開くが、何かに気付いたように首を傾け、そらす。

 

次の瞬間、虚の上から頭部めがけて槍を突き下ろしてきた。

木をつたってのトップアタックはおしくも外されるが、ドゴラの槍の切っ先は虚の肩に深く突き刺さる。

 

虚はやや苛立った様子でシャル・アの糸を振り払うと、肩部分に突き刺さったドゴラの槍を掴み、力任せに槍ごと投げ飛ばそうとするが

 

━━ドッ                       

 

とレイピアの先端が虚の甲を貫き、その隙にドゴラは虚を蹴り飛ばし、反動で槍ごと脱する。

 

憎憎しげな表情を向ける先は、セイ・クー。

 

「僕を見てる暇、あるのかい?」                           

皮肉気にセイ・クーは言い

 

「━━解呪!」

シルファの声が響き渡ると同時に、クロウの突きを防いでいた障壁が解け

 

唸りをあげるクロウの長剣の切っ先が

 

━━ぐちゅり

虚の左目へ突き立てられた。

 

“GiAAAAaaaAAa!!!!”

 

Oの字に開かれ、響き渡る苦痛の叫声。

 

そして

 

「━━お前の…悲鳴が聞きたかった、ぜぇ!」

 

その後頭部にハンドアクスの刃がたたき付けられる。

 

━━アーノルドを、エメルダを、お前は殺したのだ

━━なら、お前も死ね

 

しぶく血潮。

 

虚の背後で、ドラゴンロアの重戦士ガデスが壮絶な笑みを浮かべていた。

 

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