Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~ 作:埴輪庭
全身に突き刺さるナイフ。流れる血、命。肉体を補強する魔力は枯渇し、指一本動かせない。痛いのか痛くないのか、そんな事でさえも分からない自らの状況に、クロウは歓喜していた。
なぜならこれは、この状況はクロウの求める所の一切を余さず満たしたものだからだ。誰かを救い、死に至る。それも難敵を討ち果たした上で。
クロウも戦に身を置く者だから分かる。この傷は最早どうもならないと。シルファもガデスもセイ・クーもシャル・アもドゴラも、誰もクロウを助けられない。治癒の術を使えないというわけではない、傷が深すぎるのだ。
今クロウが生きているのは、その身で生み出した膨大な魔力の残滓が、かろうじて生命を繋ぎとめているからに過ぎない。
◆
「ク、クロウ様……」
シルファは声を震わせて名前を呼び、突き刺さったナイフを引き抜こうとした。
「だめですよ。ナイフを抜いてしまうと出血がとまらなくなってしまいます……ただ、これは、もう……」
シャル・アが項垂れる。彼女からしてみれば、間接的にクロウを殺したようなものだったからだ。もちろん他のものはそうはおもってはいないが、ナイフは彼女のものであるため、自分でもいいようのない自責の念に囚われていた。
セイ・クーもドゴラも無言だった。ガデスは腹を貫かれたとはいえ、重要臓器は奇跡的に無事だったため応急処置をされなんとか生きながらえている。だが意識はなく、放っておけば危うい。
本来、あれほどの存在を相手に二名の犠牲で済んだことは僥倖なのだ。だが、彼らにとってそんなおためごかしは何の慰めにもならない。
◆
時は少し遡る。
ギルド受付嬢のアシュリーはクロウたちの依頼受領を認め、彼らが出発した後も淡々と準備をしていた。
エメルダとはギルド員と冒険者の枠組みを越えた友情があり、だからこそ彼女を殺した相手への薄暗い感情を引き起こした。
だがアシュリーはギルド員としての義務を除いても、ドラゴンロアを瓦解させたほどの相手を倒せる実力はない。
ならば、と彼女は彼女に出来ることをした。彼女自身の信用、コネ、ツテをつかって後詰めの部隊編成をしたのだ。
私財を相当に吐き出したことは言うまでもない。
そして、彼女には分かっていた。自らの信用をつかっての部隊編成、その部隊から死傷者が多数出ることにでもなれば、彼女自身のギルド員としてのキャリアも恐らく終わるであろうと。あるいは危地へ故意に誘導したということで罪に問われるかもしれない。
だがアシュリーにとってそんなことはどうでもよかった。
彼女が薄暗い復讐の念を抱いた時、それを瞳のない少女がじっと見ていたことが関係があるかどうかは誰にもわからない。
◆
クロウの弱弱しい視線がガデスへ向かう。クロウにとって気がかりは彼であった。
その視線を捉えたシルファはクロウの手を握りながら優しく言った。
「ガデスさんは大丈夫です、応急処置をして癒しの術をかけています……だからクロウ様……だから……」
クロウの呼吸は弱弱しい。
最後に、最期に何をいうべきか……クロウは色々考えるが、頭がぼうっとして思いつかない。
だからシルファの手を握り返し言った。
「あ……ありが、とう……」
・
最期の時は近いだろう、セイ・クーは瞑目し、沈鬱気に空を見上げた。その時、耳がなにかが近付いてくる音を拾う。
「ん? なにかきこえないかい? シャル」
シャル・アは耳を澄ませる。そして首肯した。
「複数……五人か六人。ヒト種の足音、ですね。近付いてきます」
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「おいおいおいおいおいおい! クロウ! 死に掛けてるじゃねえかよ! なんだこりゃあ! ナイフ? なんでこんなに刺さってるんだよ! 深ッ! ハイハイハイハイハイ、危なかったなぁーまあ安心しろや、この上級回復薬をよ、こうしてな、こう! ほらぁ! 吞め! イヤイヤじゃあねえんだよ、吞め! ほらほら、この傷にもこう! 振りかけようね〜」
物凄い勢いでかけよってきたのはランサック、ギルドの鼻つまみものとしてしられている槍使いだった。後ろには彼が率いてきた一党が続いている。
ぽかんとする一同を尻目にランサックはガデスのところにもツカツカ歩いていった。
「おうおうおうおう! お前もか! ほらほら、おお、腹に穴あけちゃってなあ、ほらほら、痛いかもしれねえが我慢しろよ。どうだ、ははは! いてえか! 笑える! なんだその面は、くしゃくしゃじゃねえかよ! まあ治って行ってる証拠だよ、我慢しようなァ〜」
クロウとガデスを回復薬漬けにした後、ランサックはシルファたちに言った。
「お前らが依頼をうけて出発したあとアシュリー嬢ちゃんがな、別口で依頼を出したんだよ」
別口? とシルファが問うと、ランサックは深く頷いた。
「まあ後詰? 別働隊? そういうかんじのやつだな。これはアシュリー嬢ちゃんの個人依頼だ。国は関係ねえ。まあよう、思う所があったんだろうな嬢ちゃんも。もしあんたらが死んでたら、俺らがそこのエルフもどきを殺ることになってた。俺らはよ、国の依頼じゃうごかん。
ランサックはバンバンとシルファの背を叩き、少し休んでから帰って来いよ、と手をヒラヒラさせて去っていった。
シルファはハッとクロウをみると、その傷は塞がりかけている。上級回復薬、とんでもない。そんなものじゃない効果だった。
クロウは不機嫌そうだ。傷が痛むのだろうか。
そういえば、とシルファが思いだす。
(クロウ様がはいといいえ以外のことを話すの、はじめてききましたね……)