Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~ 作:埴輪庭
「クロウ様? どうしたのです……? 傷が痛むのですか……?」
お見舞いにきていたシルファがクロウをあやしている。
クロウは治療所に入院していた。そしてむっすーっとふくれあがっていた。これでもう二日連続でふくれあがっている。怒っているのだ。
シルファに苛立っているわけではない。ランサックだ。なにもかもランサックが悪いのだ。
クロウは最高の見せ場をうしなったショックで怒り狂っていた。
口元をうにうに動かして、言葉にできない怒りを表現しようとしていた。だが、どうにもできないので諦めた。
──なんであそこで助けるのか
──ランサック、でばがめ、お節介
あわや惨死の仲間を身をもって救い、最後の一撃で難敵を倒し。それで死んで終わりでいいではないか。
見舞いにきたランサックに「危ないところだったな」などと言われたときには、クロウは本当に剣を引き抜こうとした。だがなぜか剣は鞘にがっしりおさまって抜けなかったのだ。ちなみにその剣はクロウのベッドの脇に立てかけてある。離そうとするとガタガタ震えだすからだ。
だが待てよ、とクロウは思う。もしかしたら自分にはもっと相応しい死に様があったのではないか。良く考えてみたら、あのエルフとの戦いは限られたものしか知らないはずだ。
恐らく、もっと強大な、そして邪悪ななにかとの戦いが待っているのでは……?
なるほどな、と納得する。
シルファはそんなクロウの様子に困惑するが、良く分からないけど機嫌がなおったしまあいいかとおもっていた。
◆
「なあ、クロウ……」
隣のベッドで寝ていたガデスがクロウへ話しかける。クロウは頭だけガデスのほうをむけた。
「仇うってくれてありがとよ」
「……俺だけの力じゃない」
「え!?」
「え?」
ガデスはクロウの事をてっきり言葉を話す事が出来ない病気かなにかだとおもっていたが、普通に返事がかえってきて驚いた。
そう、クロウはあの死闘の後少しだけ話せるようになったのだ。命がけで共闘した彼ら相手限定の話になるが。
◆
「過日はかばっていただきありがとうございます」
病室を訪れたシャル・アがクロウへ頭を下げた。
「……あ、ああ、いいんだ」
まとも、な返事が出来ることを自分でも驚くクロウ。なるほど、これが成長かと感慨深い。死線を潜り抜けたことで、くぐれずに死にたかったが、人間として一皮剥けたらしいと自画自賛する。
「私のナイフで怪我をさせてしまったことで……なんというか……本当に申し訳なく……」
「……いいんだ、よい、ナイフだったとおもう。凄い威力だった」
「……?」
言うまでもなく、もう少しで死ねた位凄いナイフだったと褒めているつもりのクロウだが、当然かみ合わない。
◆
その翌日、扉の脇に立ったまま動かない大男がいた。ドゴラである。
「ぬ……」
「……」
「……森の民として礼を言う」
「……こ、こちらこそ……」
「?」
◆
「やあクロウ! 怪我の具合はどうだい?」
「……大丈夫」
「そうかそうか! よかった! それにしてもあの時は助かったよ、ありがとう」
「……うん」
「ところで君、普通に話せたんだね!?」
「ガデスにも驚かれたよ……」