Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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ここから第2章です。
また、表紙の挿絵をさしかえました。

【挿絵表示】

これです。
この少女はクロウの愛剣ちゃんです。
midjouneyで出力しました。



2章・第1話:商隊護衛依頼

 ■

 

「おお、大怪我してたんだって? あんまり無茶するなよ、ほら、新作だ。今度店に出すつもりなんだ。食え食え、何でも西方の料理らしいぜ。ん? 何の肉かって? 狼だよ!グレイウルフとはまた違うんだ。話を聞く限りだと荒野を根城にする狼が魔物化したものらしいな。グレイウルフは森に棲むだろ? 使う筋肉が違うんだよ。そうしたら味も変わる。そういうわけよ」

 

 クロウはフゥンと頷いた。

 先頃のエルフの話といい、彼は色々な事を知っている。

 そういえばランサックもそうだったなと命の怨人の事を思い出した。

 

「何か危ない話はないですか?」

 

 クロウの目的はそれだった。

 エルフの一件は本当に危なかった。

 後一歩で死ねた、素晴らしい死に方が出来た最高の……

 嗚呼……とクロウの脳をあの時の熱の名残りがじりじりと焼く。

 

 ドン、という音で我にかえった。

 クロウの目の前に木ジョッキが置かれている。

 親父が出してくれたのだろう。

 のぞき込むと中には並々と入った水、そして小さな人影。

 

 振り返るが誰もいない。

 リン……と涼やかな音が聞こえた。

 

 ■

 

 結局親父はクロウの求める情報を持っていなかった。

 種切れだよ、とぶっきらぼうに言われ、肉料理を残さずに食べてから店を出た。

 クロウは思う。知り合いは皆彼が話せた事に驚いていたが、親父だけは驚かなかった事を。

 

 考えても仕方のない事だ、と軽く頭を振り、次に足が向かう先はギルドだ。

 クロウは体の調子、心の調子を整えたかった。

 

 目的を達成する直前で叶わなかった事に悲しみは感じるが、クロウは前世とは違う心の活力の様なものが自らにみちみちている事を実感している。

 

 だからこそ、失敗してもすぐ次へ向かう事が出来る。

 クロウが向かう次とは当然次なる危地である。

 クロウはギルドで新たなる危地を、死地を探したいと思っていた。

 

 体と心の調子を整えるがために危地を死地を探すというのは随分狂った事のように思えるが、これはもう率直に言って狂っている。

 

 だがまともだ。

 最初はハイとイイエくらいしか話せなかったのに、死闘を共にした者達と軽い会話なら出来るようになり、退院時には見知らぬ他人であっても受け答え位なら普通にできるようになった。

 犯罪行為なんて犯した事も当然ない。

 この世界ではかなりまともだ。

 

 そんなクロウの正気と狂気は奇跡的なまでのバランスを保ち、0から一気に100へと持っていける感情の振れ幅は、彼により強い力を与えるだろう。

 この世界の人間は魔力を持って肉体を強化し戦う故に。

 そして魔力とは感情から生み出される物であるが故に。

 

 まあ、それがクロウにとって良い事か悪い事かは分からないが。

 クロウが強くなればなるほどに、クロウは死から遠ざかるのだから。

 

 ■

 

「こんにちは」

 

 クロウがアシュリーへ声をかけると、アシュリーはふにゃりと笑った。

 クロウが話せるようになって誰より喜んだのは彼女だった。

 

「こんにちは、クロウ様! 依頼探しですか?」

 

 うんと頷くと、ではこの辺りはどうでしょう、と何枚かの依頼票を見せてくる。クロウが目を通すがピンと来たものは無い。

 無いが、何かしらは受けるつもりだった。

 あくまで今回は調子を整える為である。

 

 どうにも力加減というのか、クロウは自身が根本的に底上げされたような気がしてならなかった。

 この違和感は、愛剣の気配を多く感じる様になってからの事だ。

 宿でも剣に向かって話しかけるも、当然だが剣は黙して何も語らない。

 

 語らないのか、語れないのか……

 

 ともあれ、とクロウはアシュリーが差し出した依頼票の中から、一枚を取り出す。

 

「ああ、その依頼ですね。これは記載の通り合同の商隊護衛依頼になります。受注パーティは最近銅級へあがったばかりの新米パーティです。本来彼らのような新米が護衛依頼を受ける事は出来ないのですけど、発注者とそのパーティは既知の様で。親戚だそうですよ。経験を積ませたいのだとか」

 

 ふうとため息をつくアシュリー。

 

「依頼発注をした商人はギルドへ多額の寄付金をしてくれている人なので、少し融通を効かせなければいけなかったんですが……しかし彼らだけでも不安があるから、銀級の冒険者を募集していたんです。報酬は通常より少し割り増しですが、受けますか?」

 

 クロウはここへ来てピンときた。

 

 ──まさか

 ──これか? 

 ──未熟な冒険者、護衛依頼……

 ──彼らに何か危険が迫っているという事か? 

 ──俺は彼等を護る為に、導かれた……? 

 

 クロウは腰に差した愛剣を見る。

 うんともすんとも言わない。

 

 なんだ、違うのかとガッカリはしたものの、依頼は受ける事にした。

 どうせ調整目的であることだし……。

 

「ではよろしくお願い致します。街道については特に不穏な知らせなどは届いておりませんし、巡視兵の皆さんも警戒の要無しと通達が来ております。依頼は2日後の鐘2つの時刻より。クロウ様の参加は伝えておきますね。場所に就きましては郊外の第2町馬車乗り場です。お間違えのないように……」

 

 クロウは頷き、依頼票をもってギルドを出ていった。

 

 




クロウの言う「命の怨人」というのは誤字ではありません。
でも別に恨んでるっていうわけでもありません。
受け取る善意については、善意は善意として有難く受け取るタイプの青年です。最初はお前ちょっとなにしてんねん、と怒りましたが今は怒ってないです。
それはそれとして死にたい、というだけです。

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