Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~ 作:埴輪庭
二日後、クロウは郊外の第二町馬車乗り場へ向かった。指定時間より少し前だったが、馬車の前には人影が幾つか。以前グランツ達の依頼を手伝った時、協働の冒険者達が遅刻をしてきた事を思い出す。
人影はクロウに気付くと声をかけてきた。
「やあ、貴方がクロウさんですね。宜しくお願いします。私はガーラ商会所属のジャドといいます。そして彼等が銅等級冒険者のレイ、ジリアン、アタランテ。レイは私の甥っ子でしてね、個人的に非常に期待をしてるんです。ジリアンもアタランテも彼等が小さい頃から知っている息子、娘みたいなものでして! ははは……今回、余り危険じゃないルートを通るという事で、やはりなんといいますかね、経験を積んでもらいたくってね」
やめてくれよおじさん、と叫ぶレイ。気まずそうなジリアン、アタランテ。
クロウとしては特に思う事はなかった。危険がない依頼など余り興味はないのだが、今の自分がどれだけ動けるかは気になる。狼の一匹でも出てくれないかなとぼんやりジャドの話を聞いていた。
◆
「なあ、クロウ、さん?」
馬車でレイがクロウへ声を掛けた。ん、とクロウが顔を向けると、レイはやや言い出しにくそうに愛剣を指差す。
「そ、その剣だけどさ! すっげぇ綺麗だよな……黒くてさ、かっこいいよな……な、なあ! ちょっとだけでいいから持たせて……ッ!?」
レイが返事を待たずにクロウの腰元へ手を伸ばした、その瞬間。
レイには見えた。怒りに顔を歪める少女が。
真っ黒な目がレイを睨みつける。そして何かを引っかくような不快な音が馬車にキリキリと響き渡った。
ジリアンもアタランテもジャドも、それには気付いていない。クロウだけが顔を顰めて耳を叩いていた。
「触らせないよ、静かにしな」
クロウが鞘をポンポンと叩くと、ひっかき音は止む。レイの目の前から怒りの表情を浮かべていた少女もまた消えていた。
あれはなんだったのだろうか。レイはクロウに訊ねようとするが、ふと手首を見ると青あざが出来ていた。小さな手の形の。余程の力できつく握り締められなければこんなものは出来ない。
馬車を見回す。少女はどこにもいない。ああ、でも影が。ザワ、ザワと動いているように見えないか。この馬車には自分たちのほかにも誰かが。
──考えちゃ駄目だ
ごくり。
レイは生唾を飲み込み、その先を口に出すことをやめる。
クロウはそんなレイを見てぽつんと言った。
「悪いね。少し、気難しい子なんだ」
パン、と馬車の床木が叩かれる音がする。
「レイ、静かにしてよ、暴れないで頂戴!」
アタランテが文句をいってくるが、反論する気力もない。
「次は、触ろうとしない方がいい。許してくれないかもしれないから」
クロウがそういうと、レイはガクガクと何度も頷いた。