Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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2章・第5話:Calling

 ■

 

 3日後。

 クロウはギルドへ向かった。

 ギルドではシルファ、グランツ、アニーが待っていた。

 

「やあ」

 

 クロウははにかみながらそれだけ言う。

 会話は出来る様になったとはいっても、語彙力が足りないのでそれが精一杯なのだ。

 勿論シルファ達もそこは分かっているので、クロウの事を無愛想だなんて思ったりはしない。

 

「クロウ様、すっかり傷は良くなったみたいですね。安心しました。それで早速なのですが、お話したい事があります。お時間は宜しいでしょうか……?」

 

 クロウはうんと頷く。

 

「有難う御座います。用事とは単刀直入に申し上げますと、先の堕したエルフの討伐について、王国がこれを表彰するとの事です。恐らく後日ギルドから伝えられるとは思うのですが、あの死闘を共に潜り抜けた仲ですから……私の口からお伝えしたいと思いまして……」

 

 王国に功績を認められた……その事実にクロウは意外にも取り乱すことはなかった。

 

 あのエルフは生涯最期の相手として相応しい相手だったとクロウは今も思っている。

 

 最後の突き、愛剣の切っ先がエルフの頭部を吹き飛ばす直前、クロウは感謝の念にも似たあえかなる想いを感じ取った。

 クロウもあのエルフへ感謝にも似た何かを向けていた。

 

 感謝の念を向ける同士が互いに命を奪い合う。

 情交等足元にも及ばない濃密な時間があの瞬間に確かに流れていた……

 

 あの戦いをこのアリクス王国が評価するのは当然だし、あの場に居たものすべてが讃えられて当然だとクロウは思う。

 

 とクロウが妄想していると、急に腰の愛剣の重さが増したように感じられた。

 まるでいい加減しつこいと叱っているかのような愛剣の自己主張にクロウは反省をする。

 

 確かにそうだ。

 愛剣は恐らく、というか確実に自分を買ってくれている。

 あの相手でもまだ不足とばかりに評価してくれているのだろう。

 ならば過去の死闘に想いを向けるなど、愛剣への侮辱。浮気的な行為に他なるまい。

 

 ■

 

「クロウ様……? やはり気が進みませんか……?」

 

 シルファが不安げな様子で尋ねてくる。

 

「いいえ、光栄です。俺達のあの戦いを王国が認めてくれることは嬉しいですよ。それで……ええと、国王陛下が言葉を授けて下さるのでしたか? はい、当然参列させて頂きます」

 

 グランツとアニーが目をまんまるくしてクロウを見ている。

 なんですか、とクロウが聞くと

 

「いやあ……クロウが普通に話しているの、今も慣れなくてな、いや、悪い。悪気があっていったわけじゃないんだ。クロウが俺達とも普通に話してくれるのは嬉しいって思ってるぜ」

 

「うんうん。いままでずっとハイかイイエばかりだったからね」

 

 

 クロウは頷き、爽やかな笑顔で言った。

 

「こんな俺にも親切にしてくださった皆、そして、こいつのお陰ですよ」

 クロウがポンと腰の愛剣を叩く。

 

 愛剣はクロウの自らへの信頼を受け、歓喜の余りその剣身から余りあるほどの禍々しい邪気を発散した。

 

 これは先述したが、クロウの愛剣が護剣としての顔を見せるのはあくまで主人のクロウにだけであって、その他の全ての生物に対しては魔剣としての顔しか見せない。

 

 従って、発散された邪気もクロウにとってはなにか甘い感じの空気が漂ってるなくらいにか感じられないが、他の者にとっては死神が目の前で“お前をいますぐ殺す! ”と殺害宣言しているような邪悪な気配がいきなりたち込めてきたように感じられるのだ。

 

「う、うおおおおお……ッ……!」

 グランツが後ずさり、背中に背負った大盾を構えようとする。

 

 シルファは流石に慣れてきてはいるが、それでも冷や汗を浮かべながら言った。

 彼女はアリクス王国の貴族であるが、同時に優秀な術者でもある。

 その彼女には分かっていたのだ。

 クロウの得物は恐らくは意思を持つ特級の魔剣だと。

 で、あるならば取るべき策は1つ。

 

「ク、クロウ様……そういえばその剣の銘はなんですか?」

 

 そう、優れた剣には名前があって然るべきである。

 だがクロウは剣の名を口に出した事はない。

 そして、魔剣には意思がある……

 で、あるならば……

 

 シルファが質問をすると同時に、何かが自分の様子を窺っているような気配を感じた。

 視界の端に人影が映る。

 だが視線を合わせてはならない……まだ……。

 

 銘? と首を傾げるクロウに、シルファはたたみかけた。

 攻勢の時。

 

「はい、素晴らしい剣には皆名前があるものです。魔剣レイグラム、聖剣エルクス・キャリバーン、あとは初代アリクス国王が振るっていたという月割りの魔剣ディバイド・ルーナムなどが有名所でしょうか。クロウ様の持つ剣も恐らくは特別な……特級の剣に相違ありません。名づけがまだなら是非名前をつけてあげるべきでしょう」

 

 窺っていた気配から好意のような何かを感じる。

 

「なるほど……そうですね……名前か……コーリングとかはどうかなと思いました。この剣からたまに声が聞こえるんですよ。綺麗な声なんです。辛い時もその声に励まされた覚えがあります。コーリングは呼び声っていう意味があるんですよ」

 

 クロウの護剣、或いは魔剣には名前が付けられた。

 

 クロウの死後、後の使い手全てを無残な死へ至らしめ、剣魂の慰撫を試みた聖職者達を片っ端から呪殺した史上最悪の邪剣……「喚び声の邪剣コーリング」が今この瞬間誕生したのだ。

 

 だが、これは不思議な話なのだがロナリア家の者にはその呪いは及ばなかったといわれる。

 最終的にかの邪剣をクロウの眠る地へ運び、奉じたのはロナリア家の者だったそうだ。

 

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