Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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2章・第6話:開眼

 ■

 

 王宮に出向くにあたり、魔剣コーリングは置いていこうという話になった。

 持ち込んで何かあってからでは遅いし、持ち込めば絶対に何かあるからだ。

 貴族というのは全員が全員シルファの様な者ではないし、不躾に剣を取り上げようとする者もいるかもしれない。

 

 クロウの愛剣は見た目だけなら非常に美しく……いや、派手ではないのだが、機能美の様な潔い美を感じさせる。

 取り上げられないまでも勝手に触れられる事は十分ありえる。

 

 もしそんな事になれば下手をすれば死人が出てしまう。

 クロウは承認欲求&英雄願望に希死念慮をどっさり混ぜ込んだ様な男ではあるが、社会的破滅願望のようなものは持っていない。

 

 むしろ、社会のルールのようなものは出来る限り守ろうと思っている。

 だから王国貴族を大量殺戮して指名手配を食らう羽目になるのはまっぴら御免なのだ。

 

 魔剣の説得? にはクロウが当たったが非常に難儀した。

 

 というのも、ギルドでクロウが剣に向かって

 

 “王宮にいくことになったのだけれど、その間君の事を宿においていかなきゃいけないんだ、待っててくれるかい? ”

 

 と語りかけると、金属の板を金属の爪で引っ掻き回すような不協和音や、バンバンとギルドの壁が叩かれる音……要するにラップ音が盛大に鳴り響いたからだ。

 まあギルドの誰も負傷をしなかった辺りただ盛大に拗ねているだけなのだろうが、その場の者にとっては恐怖でしかない。

 

 グランツは大盾を掲げその陰で防御体勢を取っているし、アニーは手を組んで祈りを捧げていた。

 アシュリーは急用を思い出したらしく、職務放棄して裏へ引っ込んでしまう。

 

 結局クロウとシルファが延々とコーリングの納められている鞘を上から下からゴシゴシと撫で上げ、事態を収拾するに至ったわけだが、クロウは疑問に思う。はて……この剣はここまで自己主張が激しかっただろうか……? と。

 

 これには名づけが大いに影響しているのだが、この時点ではクロウ達は何も気付いていない。

 

 それからも打ち合わせは続き、シルファがクロウの礼服などを用意するなど大まかな話がまとまった。

 式典は二ヵ月後となっているので、時間には十分余裕がある。

 

「それで……クロウ様にはご不便をお掛けしてしまうのですが、式典までは危険な依頼などは受けないで欲しいのです。勿論それまでの生活に必要な費用は出しますので」

 

 その金はシルファのポケットマネーだった。

 シルファとしてはクロウを放っておくとまた危険な依頼を受けかねないと危惧していた。

 だから彼女個人の判断でクロウにストップを掛けたのだ。

 英断と言える。

 

(クロウ様の目が死んでいる……。釘をさして正解でした)

 

 すると、いつの間にか職場復帰したアシュリーが

 

「クロウ様、それでしたら奉仕依頼はいかがですか?」

 

 とにっこり勧めてきたので、クロウは笑顔で頷いた。

 そうだ、自分にはまだそれがあったと言わんばかりだ。

 危地に飛び込む依頼が良いのは間違いないのだが、どういう形であれクロウが必要とされるならばそれが例えドブ攫いであっても嬉しく思ってしまう。

 

「ある意味で王国の英雄とも呼べる偉業を為した人が奉仕依頼とは……」

 

 話には聞いていたが、彼はやはり変人だな、と思うシルファだった。

 

 ■

 

 という事でクロウは荷運びをしている。

 汗水垂らし顔を顰めながら。

 しかし弱音は吐かない。

 

 クロウが汗水垂らしているのは、流石の彼と言えども、荷運びに対して差し迫った死を感じる事が出来ない為だ。

 それでも常人の倍近く荷を運べているのは流石ではあるが、これは冒険者稼業で鍛えた素の力である。

 

「よう兄さん! 助かるよ、それにしても細く見えるってのに大したもんだなぁ!」

 

 親方がクロウを讃える。

 

「い、いえッ……どういたしまして……ッ」

 

 汗まみれで不敵に笑うクロウだが足腰はガクガクと笑っている。

 だがそんな苦境にあってクロウは充足感を覚えていた。

 クロウの体力は削れていくが、承認欲求は満たされていく。

 

 ■

 

 こんな調子でクロウは式典当日まで5勤2休で働き続けた。

 適度に休みを入れているのは、休む事もまた仕事であるというグランツやアニーのアドバイスに従ったからだ。

 シルファの護衛として、そして銀等級冒険者としてグランツ達は殆ど完璧に近い自己管理を徹底している。

 

 クロウも先輩に逆らうほど跳ね返ってはいないので、素直に従った。

 

 その間愛剣はウンともスンとも言わない。

 完全にぶんむくれている。

 だが、壁に立てかけておいた剣が翌朝傍らへ移動している辺り、放っておけば機嫌はなおるだろうとクロウは見ている。

 

 

 そして夢でも……。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 黒髪の少女がその目を開いてクロウを物問いたげな目で見ていた。無言の抗議かなと夢の中のクロウは思う。

 

(あれ……? そういえば彼女に瞳は……あったっけ……?)

 

 そう、無かった。

 これまでは。

 だが名を付けられた事により……。

 名付けと言うのは時として非常に重要な意味を持つ。

 名付けられたモノは力をより増大させたり、または削がれたりもするのだ。

 魔剣コーリングにとっては……言うまでもないだろう。

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