Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~ 作:埴輪庭
クロウが奉仕依頼を続けている内になんだかんだで日にちが経ち、何だかんだで式典の日が来てしまった。
魔剣コーリングは朝起きたら宿屋の壁に突き刺さっていた。クロウは壁代を弁償しなければいけない。
◆
「クロウ様、お待ちしておりました」
待ち合わせはギルドだったので、ギルドへ向かうとシルファが待っていてくれた。クロウが挨拶をすると、馬車がそろそろ到着するという。勿論王宮へ着いてすぐ式典という事はない。お色直しやら作法の最終的な確認やら、色々やらなければいけないので時間には余裕を持っている。
馬車は定刻通りに到着し、シルファと共に乗り込む。
「普段お使いの剣はちゃんと置いてきたのですね」
シルファの問いかけにクロウは頷く。朝起きたら壁に突き刺さっていたことも。
「それは大変でしたね……」
シルファとしてはそれ以外に言い様がない。もしクロウが他の剣に持ち替えるなんていったらどんな事になるんだろう、というおぞましい考えが浮かぶが慌てて打ち消す。ナンデモアリな剣なら、遠くからでも考えている事を読まれてもおかしくないからだ。
そもそも剣が自己主張する事自体が異常なのである。いや、そういった武器がないわけではない。特殊な武器が自我を持つ事はある。あるが、その姿を実像として投写するなど聞いた事もない。
(クロウ様の剣は想像よりずっとずっと特別なものなのかもしれません)
ならばそのつもりで対応しなければ、と思うシルファだった。
とはいえその剣も持ってきてはいない。クロウ自身も控えめが過ぎるが、決して無礼な者ではなく、基礎的な教育は受けてきた様に見受けられる。
とはいえ、そこが疑問なのだ。シルファが調べた限り、冒険者クロウという人物は銀等級に至る程度には才があったが出自は農村の出で、礼儀作法やらに触れる機会はなかったはずなのである。冒険者となってから貴族との接触があったのだろうか。ルイゼ様へ聞いてみてもいいかもしれない。
ルイゼ・シャルトル・フル・エボンは黒金級という冒険者の最高階位にして、冒険者ギルドのギルドマスター、更には伯爵位をも賜っている女傑である。アリクス王国の出身ではないという話も有名だ。
だが彼女を詮索しようとする者は今はもう居ない。全て、絶えた。
クロウの事は彼女が拾ってきたのだ、とランサックが言っていた事をシルファは思い出す。
いずれにせよ、クロウが王宮で問題を起こす心配は要らないだろう。ぼんやり車窓から外を眺めているクロウを見て、シルファはそう結論づけた。
◆
王宮。
一人の伯爵嫡男がけたたましく糾弾した。
「貴様! 平民風情が何故王宮に入り込んでいる! しかもロナリア伯爵令嬢に馴れ馴れしくしおって! 見れば黒髪だと!? 薄汚い帝国鼠の係累か!」
クロウは目をぱちくりさせ、シルファは手で顔を覆った。