Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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2章・第11話:依頼受領

 ■

 

 ギルド。

 

 クロウは依頼掲示板を見ていた。

 緊急性のありそうな依頼はないが、調査関係の依頼が多い。

 出元は中央教会と呼ばれる大陸最大派閥の宗教団体だった。

 

 ━━前世で言うならキリスト教的なものだろうか? 

 

 考えを巡らせていると、唐突に肩に手が置かれる。

 クロウは全く背後の気配に気付く事が出来なかった。

 死線を幾度も潜り抜けた今のクロウの感覚をすり抜ける程の手練はアリクス広しと言えども少数だろう。

 ここまで自らの気配を殺す事が出来る者とは……

 

「ようクロウゥゥ、元気してるか? 俺は元気じゃない。聞いてくれよ、ちょっとした仕事があってな。そのせいで余り寝てないんだ。そんな俺に何か言うべき事はあるか?」

 

(気配を殺している……んじゃなくて気配が死んでいる……後、目も死んでいる)

 

 死んだ目のランサックであった。

 酒の匂いもする。

 普段は鬱陶しい程に陽気な彼が、疲れ果ててスキットルから酒を飲みながらクダを巻いていた。

 

 ━━何か言うべき事、か

 

「お仕事、お疲れ様でした」

 

 きちんと踵をつけ、頭を下げる。

 きっと大変な依頼の後なのだろう、ならばお疲れ様でした、以外の言葉はない。ランサックはクロウの先輩冒険者である事だし、前世経験も相まって彼はこの状況に完璧に対応してのけた。

 

「おう……お前は労ってくれるんだな……俺がしっかり役目を果たしている事を褒めてくれる奴は本当に少ない。お前はその内の1人だ。お前は本当にきちんとした男だぜ、クロウ! キチンとしてるのは態度だけじゃねぇ、ヤバい依頼に自分から何度も飛び込んで成功させてくる。冒険者の鑑ってやつだな。それに引き換え、あの小僧はなんだ? 一方的に選ばれた事には同情するが、拒否権もあったはずだろがィ! 話は受けて特権だけ散々っぱら味わっておいて、いざって時には尻尾巻いて逃げ出す!? だから俺に仕事が回ってくるんだろうが! 思いだしたらまた怒りが湧いてきたぜ……俺はランサック。俺の名前は怒りの代名詞だ。……あ、そうだ、ルイゼが言ってたぞ。……え? いや、ギルドマスターだけど……。え? 親しいのかって? ……うーん……そうだな、親しいというかこき使われているというか……それはともかく! ルイゼがお前を金等級に引き上げるってよ。その内話が下りて来るだろ。と言う事でじゃあな、俺はもう寝る。機会があったらあの小僧をぶっ殺しておいてくれ」

 

 圧倒的情報の暴力棒で頭を殴られたにも関わらず、クロウは些かもうろたえてはいなかった。

 泰然自若といった様子で何度か頷き、ランサックが去った後は何事もなかったかのように依頼掲示板とにらめっこをする。

 周囲の冒険者達も彼らのそんなワンシーンに“またいつものか”という表情を向けるだけであった。

 

 ランサックが延々としゃべくり散らし、クロウが黙ってそれを聞く。

 王都の冒険者ギルドでは既に日常茶飯事な情景となってしまっている。

 

 クロウもランサックの言葉を全て消化し、理解したわけではない。

 感覚としては新聞を読み流す感じだろうか。

 

 とはいえ、クロウにも気になる言葉の1つや2つはあった。

 

 金等級? 

 あの小僧? 

 

 クロウがその功績にも関わらず金等級へ上がらないのは、シロウではない本来のクロウが銀等級へ上がったばかりだったからという理由がある。

 だが、王から直接勲章を授けられるような功績を為したとあれば、昇級も不思議ではないということだ。

 

 どういう形で昇進……昇級するのだろうかと少しワクワクしていると、2階から誰かが降りてくる。

 同時に微かなそよ風が吹き、クロウの前髪を揺らした。

 

 現れたのはルイゼ・シャルトル・フル・エボン。

 アリクス冒険者ギルドのギルドマスターであった。

 

 

「ギルドマスターだぜ……」

 

「相変わらず美人だな」

 

「おい、変な目を向けるなよ。アリクス最強の術師だ。機嫌を損ねたら指一本でバラバラに引き裂かれちまうぞ!」

 

「アリクス最強? え、でも勇者ってのもいるんだろ?」

 

「だから術師の中ではって事だよ。でもその勇者……余りいい噂をきかないけどな」

 

 周囲の冒険者が好き勝手言っていると

 

「貴方達を此処でバラバラに引き裂いたら床が汚れてしまうでしょう。この建物は良い材木を使っているんです。血で腐ったらどうするのです? 引き裂くとしたら外で引き裂きますよ。さ、今日も頑張って仕事をしていらっしゃい。無事に戻るように」

 

 ルイゼはしっしと手を振って冒険者達を追い出した。

 そんなルイゼに冒険者達は特段恐れる様子もなく、ある者はニヤニヤ、あるものはデレデレとした笑みを浮かべながらギルドを出て行く。

 

 さて、とルイゼがクロウへ向き直った。

 

「クロウ。はいどうぞ」

 

 クロウの手を取ったルイゼが何かを手渡す。

 見てみると金色のコインだ。

 王国金貨ではなく、表面に複雑な文様が刻まれたコイン。

 金等級の証。

 

「ありがとうございます、マスター・ルイゼ」

 

 ぺこりとお辞儀するクロウの頭を撫で、がんばりなさい、と言ってルイゼは去っていく。

 ……とおもいきや、彼女は階段の前で立ち止まり振り向くことなくクロウへ告げた。

 

「クロウ、貴方は面白い成長の仕方をしています。これからも期待しています。そして、腰の子。余りオイタをしない様に。貴女を仕置きできる者は少ないですが、私はその少ない者の内の1人です。少なくとも、今の時点では」

 

 ルイゼが2階へ去っていった後、ふるりと腰の剣が震える。

 クロウが親指でよしよしと柄頭をさすっていると、次第に震えは収まった。

 

 ━━兎に角依頼を受けなきゃな

 

 依頼掲示板へ再々度向き直ると、アリクスから馬車で2日程の農村、その近くにある元は坑窟として使われていた穴倉に魔物化した熊が住み着いたらしい。その討伐……という依頼が目に入った。

 

 それだけ聞くと金等級が受ける依頼としては些かもの足りないものを感じるかもしれないが、その熊は既に銀等級の冒険者を2人葬っている。

 村の者も何人も犠牲になっており、周囲一体の森に不気味な雰囲気というか、殺気の様なもので満たされ、小動物はその数を激減させているという事だった。

 

 周辺環境に影響を与える魔物は、例外なく危険性が極めて高いと言っても過言ではない。

 

 依頼票を見ていると、ピクピクと瞼が痙攣する。

 体が恐れを感じているという事だ。

 心とは裏腹に、一部分とはいえ体は死を恐れている。

 つまり……

 

(それなりに、危険な依頼だ)

 

 クロウの体が危ない事はよせと瞼を痙攣させて合図している。

 それを無視したクロウはピッと依頼票を剥がし、忙しそうに事務処理をしているアシュリーの元へ持っていく。

 

 ■

 

「かしこまりました、クロウ様。こちらの依頼を……受ける……のです……ね」

 

 クロウの目を見たアシュリーは一瞬舌がまわらなくなってしまった。

 瞳孔が完全に開いた血走りの目を向けられれば誰でもそうなる。

 殺意の目、殺しの目だ。

 そこに絶妙な塩梅で混ぜられている希死念慮というスパイスのせいで、クロウの目は破滅的な凶兆を孕んでいるかのように見えてしまう。

 

 だがアシュリーも慣れたもの。

 ショックから一瞬で立ち直る。

 なぜなら、クロウは基本的にそんな感じで依頼に向かうからだ。

 

「はい。宜しくお願いします」

 

 むしろ、言葉少なめに返答してくるあたり、以前よりは落ち着いているといえる。

 

 アシュリーはさらさらと依頼票へサインをし、控えを取り、ご無事でお帰り下さいますように、という言葉と共にクロウへ手渡す。

 

 ギルドを去っていくクロウの背を見届けると、アシュリーは次の冒険者の依頼受領処理の仕事に戻った。

 

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