Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~ 作:埴輪庭
(骨が折れている。筋肉もズタズタだ。ここまでか。これが、魔族)
「……コーリング……」
クロウが空を仰ぎ、ポツリと呟いた。
オルセンは油断なくクロウを睨みつけている。勇者が相手であっても負ける気はしなかった。肉体の全身を魔力が巡り、爪の先まで力が漲っているのを感じる。
「……コーリング……俺の……」
──最期を、見守ってくれ
掠れた声でクロウが呟いた時、それが顕れた。
「ぬ、ぬう!?」
オルセンが後ずさる。全身が総毛立ち、彼の優れた感知能力は招かざる者、それもとびきり邪悪でおぞましい存在がこの場に顕れつつある事を感じ取った。
「き、貴様ァ! 何を喚んだ! 勇者ではないのか! その様なおぞましき者を喚びよせるとは……! なりふりかまわず勝ちに来ましたか! 退け邪悪! このオルセンの邪魔をするなァァ!!」
大容量の魔力が唸りをあげ、オルセンの右拳へ集中していく。魔力が青白いスパークを放ち、クロウを照らす。その時オルセンは何か違和感の様なモノを感じた。
(ええい! 違和感などと言い出せば、この者自体が違和感そのもの! 全て吹き飛ばしてお仕舞いです!)
脚に力を込める。突っ込んで拳を振れば何もかもが終わる。だが時間がない、これ以上時間を与えてはならない。
オルセンは自らの直感を信じ、勝負に出た。地を蹴り、クロウに突っ込むオルセン。
「ぐおおおぉぉぉぉおおお!!」
轟く雄叫びと共に、魔力を右の拳へ収束させた一撃を見舞おうとする。全てを砕く破壊の鉄槌だ。
クロウの眼前。腕を振りかざす。そして、振り切れなかった。
小さい指がオルセンの拳に触れている。小さい指がオルセンの拳を止めている。
そしてオルセンは見た。
◆
腕どころか脚も動かない。次第に呼吸すらも浅くなっていく。オルセンの肉体は一切の外傷を負わないままに急速に死に近づいていた。
いや、実際はそうではないが、オルセンの感覚としてはそのようなものだ。
(眼が。赤い眼が。見るな。その眼で)
紅く歪んだ眼の少女がニタリと嗤う。冷や汗が全身から吹き出る。もしこんな状態で勇者に斬りかかられたら。死ぬのか。この私がだ。
慌ててクロウの方を見ると、剣を握るのも限界な様子だった。
一先ず安心、などはとてもできなかった。相手は勇者だ。剣を一振りするくらいならできるはずだ。
しかし奴が。あの少女、あの眼が自身を縛り付ける。
──いや、まて、いない……?
気付いた時には少女は消えていた。体も動くようになっている。
「何を喚んだか知りませんが、どうやら失敗……お前……誰と話しているのですか……?」
オルセンは険しい表情を浮かべ、クロウへ質問をした。だがその質問が届いたようには見えない。クロウは楽しそうに、オルセンには見えないだれかと会話をしていた。
「そうかい? コーリング……」
「不思議だ、君の声が聞こえる……」
「いつも俺をみていてくれたのか?」
「俺はまだまだやれるっていうのか?」
「でもコーリング、もう手も足も動かないんだ」
「え? この魔力は……あの女の人の?」
「プレゼント? うれしいなあうれしいなあ」
「うん? 髪の毛がボサボサ? 帰ったら櫛を通すよ……」
「うれしいなあ、君と話せてうれしいなあ」
「え? 彼が邪魔だって? そういえば戦っていたんだ、そうだ、忘れていた」
「俺は」
「彼を」
「
クロウの最後のセリフに、囁く様な少女の声が被さっていた。