Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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2章・第18話:下魔将オルセン

 ■

 

 自分を罰したいと言う思いはこれまで以上にクロウを深く苦しめる事となるだろう。

 だがクロウにとってはその苦しみでさえもが力の源となる。

 

 痛みに身悶えし、叫びを上げながらもクロウは剣を振るう。

 

 それはまるで、己の罪を償う為に己を痛めつけている様にも見えた。

 

 ■

 

 まさかこんな所で当代勇者とまみえるとは。

 

 不運。勇者は脅威でしかない。

 しかし幸運でもある。その言動は理解しがたいが、聖剣を担うほどには成熟していない。

 

 オルセンは己の内に湧き上がる複雑な感情をもてあましていた。

 

 彼ら魔族にとって勇者とは、恐ろしく忌まわしくそして理解しがたい存在だ。

 

 彼らは例外なく魔族を憎む。

 憎むだけではない。

 魔族への憎悪により際限なく強くなっていくのだ。

 

 なぜ憎むかも分からない。

 かつて先々代の魔王は勇者へ何故魔族をそこまで憎むのかと訊ねたという。

 

 勇者はこの様に答えた。

 そうあれかしと造られた、と。

 

「お前は愚かだが哀れな存在ですね。勇者などと偉ぶってはいても、やっていることは所詮殺し屋の真似事ですか。愚かしくも悲しい神の走狗よ! この下魔将オォルセンが! お前に永遠の安らぎを与えて差し上げましょう! כּוֹחַ!!」

 

 オルセンが腰を落とし、古代語を高らかに叫ぶ。

 だが炎は起こらず、氷は形を為さず、雷は奔らない。

 地も静かなものだ。

 

 だがオルセンの身に生じた変異は明らかであった。

 バキバキとオルセンの肉体が肥大していく。

 

 変異が終わった時、そこにはただ力があった。 

 

 ■

 

 盛り上がったオルセンの肉体は、そのサイズを2回りは大きくさせている。

 

「ふふふ……チンケな飛び道具で勇者を殺せるはずもなし。このオルセンの最強の武器……即ち、我が肉体をもって屠り……お前の首を魔王様へと捧げましょう!」

 

 肥大化した筋肉を見せびらかす様にポージングを取るオルセンに対して、クロウは一切動じていないように見える。

 

「死ねィ!!!!」

 

 裂帛の気合と共にオルセンが大地を蹴る。踏み込みだけで地面が大きく陥没した。

 そして次の瞬間にはクロウへ拳を振りかぶっていた。

 直撃すれば頭蓋など容易く粉砕するだろう一撃だった。

 ──しかし、クロウはその攻撃を剣で受け止めていた。

 

 だが、かろうじて、だ。

 

 オルセンの打撃は魔剣コーリングの剣腹を伝播し、クロウの腕まで伝わるとその破壊力を拡散させる。

 

 舞う血飛沫。

 クロウの両腕はオルセンの一撃でボロボロになっていた。

 力任せに腕を振るうだけではない。

 そこには確かな技があった。

 

「ふふふ。いかがです? 私の拳打の味は。自ら拳を振るうなど、と私を蔑む同族も多い……しかし私にそんな口を叩いた者はもう全員この世にいません。私を舐めた者は皆殺しにして差し上げました! そして! お前の様に私を舐めなかった者もまた、私は皆殺しにして来たのだ!!」

 

 オルセンの両の手が剣となり槍となり斧となり、様々な軌跡を描いてクロウへ襲いかかる。

 連打(ラッシュ)だ。

 

 勿論クロウとてただ棒立ちとなって受けているわけではない。

 傷ついた腕を振るい、弾き、そらし、守り……なんとかオルセンの連撃をしのぎ続けていた。

 

 ■

 

 魔族という種族にあって、自ら手を汚すような戦い方は基本的には下賎とされている。

 

 カルミラのように剣を使ったり、オルセンの様に己が四肢を武器とするなど、下等生物が如き在り様ではないか、と。

 

 ではどういう戦い方が魔族として相応しいかといえば、豊富な魔力に物を言わせた大規模魔法だ。

 しかしオルセンはそんな多くの魔族を内心で見下していた。

 

 魔法の力を軽く見るわけではない、しかし魔法を重んじる余りに己という最大の武器が錆び付いてはいやしないか? と。

 

 真に強敵と対峙した時、さびついた武器で果たして武勲をあげることが出来るのか? と。

 

 さびついた武器を使い続けた結果として、魔族は下等生物共に押し込められる羽目になったのではないか? と。

 

 そんな思いが彼の中には常にあった。

 だからこそ彼は自身を鍛え上げてきた。

 魔族の矜持を守る為に。

 自身の価値を証明する為に。

 

「ふ……ふふふ……さすがは勇者。見事です。ですが、そろそろ体は限界が近付いている様ですね」

 

 必殺の意を込めた連打を受けきったクロウを見て、満足そうに笑う。

 

 クロウの全身からは血が滴っている。

 しかしクロウの目は死んでいない。むしろ爛々と輝いているようにも見える。

 

 そんなクロウがゆっくりと口を開く。

 オルセンは勇者が何を言い出すのかと攻撃の手を止めた。

 

「あんたの……あなたの拳は俺の骨にまで響く。俺だって魔力で体を強化しているのに。一撃一撃がとても重い……鋭い。自分を厳しく律して、鍛えてきた男の拳だ」

 

 クロウの思わぬ賞賛の言葉に、オルセンは訝しげな表情を浮かべる。

 

「あなたは……長い年月鍛えてきたその技で俺を殺そうとしているんだな。俺は……あなたの努力に相応しい男だと認めてくれるってことか?」

 

 オルセンはクロウの言葉を聞いて、慨嘆した。

 

 クロウの余りにも低い自己評価。

 それでいて人並み以上に承認欲求もある様だ。

 

 そんなモノ、手駒としてはさぞ使い勝手が良いだろう。

 必要とされていると錯覚させ、気持ちなどという目に見えないもので死地へ飛び込ませる。

 なんと悍ましい事を! 

 

 オルセンは怒りのボルテージを上げていく。

 

「お前達はやはり我々が管理した方が良さそうです。そもそも、大陸の支配者たるは我々だったのですから。私達魔族などよりも、神のほうが、教会のほうがよほど残酷だとは恐れ入りますよ」

 

 オルセンの目から見てもクロウという勇者は強者である。

 

 死を恐れず敵へ立ち向かう胆力がある。

 つまり戦士だ。

 

 そんな戦士を操り人形が如き存在へつくりかえてしまった神、教会といった連中にオルセンは憤っていた。

 

 ■

 

 ちなみにだが、クロウとオルセンの会話はなんとなくキャッチボールできてる感じは出しているものの、実際は何一つかみ合っていないし、クロウは勇者でもなければ教会や神から洗脳じみた事をされた事もない。

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