Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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閑話:後世

 ■

 

 希代の聖剣コーリングの担い手は、この天騎士アルファレドこそが相応しい。

 ……そう思っていたあの時の自分を捻り殺したい。

 

「だが、どの道私は死ぬのか」

 

 ハッという自嘲の笑みが毀れた。

 愛すべき国は腐海に沈み、護るべき民はみな動死体と化した。

 ルクセンを襲った腐れ病は爆発的な規模で広がってしまった。

 当然周辺諸国にも助けを求めたが、各国はみな強くこれを拒否した。

 拒否されて当然の事をしてしまったのだから仕方が無いのかもしれない。

 

 だが、あの一件に関係の無い国民達まで例外なく皆殺しとは……

 

「なにが聖剣だ……」

 

 アルファレドは窓の外に広がる腐った庭を見て呟く。

 視界の端には少女が佇んでいた。

 凄まじい形相だ。

 言葉を発することはないが、彼女の意思はわかる。

 

(俺だけは最後まで苦しめてやる、ってところか?)

 

 アルファレドはため息をついた。

 自害をしようにも、腕は2本とも腐って落ちている。

 

 ◇◇◇

 

 昔日のアリクス王国で勇名を馳せた冒険者がいた。

 死にこそ救いがあるなどとのたまい、それでいてアリクス王国に降りかかる幾多の危難を切り裂いた剣士。

 血泪のクロウ。

 

 死に親しみ、死が彼の肩を叩くと破顔一笑、剣を振るう力がいや増したという正真正銘の狂人だ。

 とはいえ、自殺志願者と嗤う事はできまい。

 

 アリクス王国だけでなく、世界が闇に覆われようとしたとき、彼は率先して死地……そう、果ての大陸へ赴いたのだ。

 

 それだけではない、他の勇士達と合力し、復活した魔王を討滅した第一人者でもある。

 本来の勇者ではない事に何の不都合があるだろうか? 

 勇者がなすべき事を他の者が為したならば、それは為した者こそが勇者と呼ばれるべきなのだ。

 

 アリクス王国は彼に勇者の称号を与えた。

 

 その傍らにはいつも黒い刃をもつロングソードがあった。

 それこそが聖剣コーリングだ。

 

 クロウを最後の最期まで護りぬいた誉れの剣。

 魔王討伐後、魔王の呪毒で即座に死ななかったのはこの聖剣の守護の権能ゆえだと言う。

 

 結局彼は剣を振るう力を失ってしまったものの、コーリングを携えている時は日常生活を送る程度は出来たとの事だ。

 

 しかしその権能も万能ではなかったらしく、少しずつ花が萎れるようにして勇者クロウは弱っていった。

 クロウを見舞う者も多かった。

 

 1年に1度は陰気な顔をした術師とその妻らしき剣士が訪れたという。

 他にもクロウの名目上の妻候補などという謎の主張をする貴族の術師やら、風俗狂いの上級冒険者や、極東の王族なども……

 

 彼らはみなかつての魔王討伐隊のメンバーであった。

 やせ衰えた勇者は年々元気を失ってはいったものの、それでも彼らとの会話を楽しんでいたという。

 

 魔王の最期の呪いは凄まじく、討伐隊のメンバー達は幾度もクロウにかけられた呪いの解呪を試みたが叶わなかった。

 

 だが、それでもなお15年という年月を生きたというのだから凄まじい。

 死に様も安らかなものだった。

 

 ある朝、クロウ付きのメイドが彼を起こしにいった時、彼は既に死んでいた。

 苦しむ事はなかったようだ、と医者も言っていたそうだ。

 勇者クロウの死をアリクス王国は悲しみ、悼んだ。

 

 死に寄り添い続けた勇者の眠る場所は冥府の女神の神殿こそが相応しいとされ、遺骸はそこへおさめられた。

 聖剣コーリングもまた彼の棺におさめられ、1人と一本は永遠に安らかに眠るはずだったのだ。

 

 だが愚か者がいた。

 アリクス王国の者ではない。

 遠い小国、ルクセンが下らぬ陰謀をめぐらせたのだ。

 

 魔王の呪いで弱りに弱った勇者を15年も生かし続けた強力な守護の権能があれば、小国だと侮られるどころか大陸に覇を唱える事も可能なのではないか、などという愚か極まる考えを実行に移した。

 移してしまった。

 

 クロウが没して5年後、ルクセンは間者をアリクスへ送り、クロウの棺を荒した。

 そして聖剣コーリングを盗み出した。

 アリクス王国の者は元より、周辺国家でこのような蛮行はたとえ犯罪組織であっても畏れ多い事であった。

 なにより、聖剣コーリングにまつわる逸話を皆知っている。

 

 聖剣を盗むなんて罰あたりというか命知らずな真似をする阿呆がいるなんて誰もおもっていなかったのだ。

 

 ──かの聖剣を主より離す事なかれ

 ──禁を破らば聖剣は魔剣と化し、災いを齎すであろう

 

 勇者の眠りを妨げてはならぬと警備の兵を最小限にしていた事もルクセンの蛮行を成功させる要因となってしまった。

 とはいえ、これは警備の不備を糾弾しづらい事情もある。

 

 聖剣の警告だろうか? 警備兵が多いとその分騒がしくなる事は仕方ないのだが、そういった時部隊全体を頭痛なり腹痛なりが襲うのだ。

 命に別状があったわけではないが、まるで誰かに叱責されているような心地であった、と当時の警備兵は言う。

 

 アリクス王国はこの件を軽く見ることはせず、少しずつ警備の兵を増減させたりして良い塩梅の配置を模索したりもしていた。

 結果として墓荒しを許してしまったというのは皮肉といえよう。

 

 ルクセンが中途半端にアリクスの遠国であったことがいけなかったのかもしれない。

 王が代わったばかりで、まだ王としての自覚が足りなかったことがいけなかったのかもしれない。

 ルクセンが過去には大国だったことがいけなかったのかもしれない。

 当時の王が過去の栄光を取り戻そうと考えてしまった事も……。

 

 だが盗掘は成功した。

 盗み出された聖剣コーリングは、ルクセン随一の騎士アルファレドに下賜され、勇者の剣を継承した次代勇者としてルクセンの威を知らしめる……はずだったのだ。

 

 ルクセンは現在では史上最も愚かな国だったとして知られている。

 

 なぜなら、この事件後亡国となったルクセンから更にコーリングを持ち出すものが現れ、当然の如く災いは各国へ広がり続け、最終的には魔族がヒト種を殺した総数の半数ほどの人命が犠牲になったからだ。

 

 アリクス王国とてコーリングの行方を追ったが、追う先から持ち出すものが現れたのでイタチごっこになってしまったというのも人死にが増えた原因だろう。

 

 後世の歴史家は、コーリングに備わる闇の側面のせいで、ひたすら災いが広がる方向へ権能が作用してしまったからだという。

 

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