Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~ 作:埴輪庭
ギルドでは驚愕と納得と呆れの入り混じった視線に出迎えられた。銀等級複数を要する依頼へ単独で向かうなど、普通なら生存は絶望的である。そういう意味での驚愕。だがクロウならやりかねないという納得。無茶ばかりやっている、相変わらずの死にたがりだなという呆れ。
銀等級パーティのシルファたちが後を追ったことを踏まえてみても、討伐はもとより生存すら危ういというのが堅実な見方であった。まあ普通なら。
「よく、ご無事で……!」
アシュリーが感極まったようにクロウを迎える。
「はい」
クロウは返事とともに、赤い角の残骸をカウンターに置いた。そしてちらりと背後のシルファたちに目をむけ、アシュリーに対して軽く頷く。彼らの力も借りて討伐することができた、という意思表示である。だがここまで簡略化されると、普通は何をいっているか分からない。
しかしアシュリーはさすがにそれなりの付き合いがあるだけあって、彼の言いたい事のおおよそを察した。
「シルファ様! グランツ様、アニー様、クロウ様の救援にむかってくださったことを感謝します」
「いえ、クロウ様には以前命を救われました。当然のことをしたまでです」
シルファはそう答えると、後ろの二人に目配せをする。グランツとアニーは黙したまま肯いた。
「クロウ様も本当にありがとうございます。達成された今だからいえますが、あの依頼は王都のギルドでも正直手に余るものでした……」
アシュリーが深々と頭を下げる。
「はい」
クロウは相変わらず一言で答えた。だが、その表情はいつもよりもほんのすこし柔らかい。
◆
ギルドでのやりとりを終え、クロウ達は帰路につく。宿は別だが、途中までは同道することになった。
「それにしても驚きです。まさかクロウ様が銀等級冒険者だったとは……いえ、それより低いとおもっていたわけではないのです。逆に、そこまでの実力がありながらもなぜ銀等級に留まっているのかということで……」
「はい」
クロウがいまだ銀等級なのは、そのコミュニケーション能力の低さゆえである。そもそも本来のクロウが銀等級に昇格したばかりというのもあった。ギルドの規定で、昇格後は暫くその位置に留まることになっているのだ。これはその等級に本当に相応しいかギルドが見極めるための期間でもある。
「……しかし、グレイウルフの一件もありますが、クロウ様はもはや金等級でもおかしくないとおもいます」
「いいえ」
「……えっと……」
「はい」
「……はぁ」
シルファは溜息をつくと、前を歩くアニーとグランツに視線を向ける。
・
変わった方だ、というのがシルファの偽らざる感想であった。というより、はいかいいえでしか話している所を見た事がない。今の問いにしても、クロウは首を横に振るだけだった。
出会ってまだ日は浅い。だが彼が受けてきた数々の依頼内容を鑑みれば、確かに金等級であってもおかしくない実力を持っていると思える。しかしクロウは頑としてそれを認めようとしなかった。
金等級冒険者になるには推薦なども必要だ。クロウは見る限り人付き合いが上手とはいえない。おそらくそのあたりの折衝がうまくいっていないのではないだろうか。
「まあ、クロウ様の事情もあるでしょうしね」
そう独り言ちて、シルファはふと自分の足が止まっていることに気付く。考え事をしていたせいで、いつの間にか立ち止まったままになっていたようだ。
「すみません、お待たせしました!」
シルファは慌ててクロウたちの後を追った。