Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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第6話:呪いの魔剣に殺されたい前編

━━そろそろ限界か

クロウが宿屋の自室で愛剣の手入れをしていると、無視できないほどの刃こぼれがあちらこちらに散見された。

 

赤角との一戦に限らず、これまでの激戦でボロボロになってしまったのだろう。

もはやいつぽきんと圧し折れてしまっても不思議ではないとさえ思われた。

 

刀身はすっかり曇り、切れ味は最早期待できそうもない。

だが、クロウは気にせず、そのまま研ぎ始めた。

 

砥石を使って丁寧に、丹念に、何度も同じ箇所を往復させる。

そして、再び磨きなおすと、そこには先程までの曇りが少しだけ薄れていた。

 

クロウはソロ冒険者であるから、依頼の報酬は全て自分のものだ。赤角の報酬についてはシルファたちに一部譲渡したが。ともあれ、そういうわけで金には困っていないので、武器をかえようとおもえば買い換えることは出来る。

 

しかしクロウはどうにもその気になれなかった。

磨り減ったら捨てて、新しいものへと変えられる。

それはまるで前世の自分のようではないか?

 

そうおもうと、このおんぼろロングソードはまるで自分の魂の一部かのような気がしてくるのだ。

 

━━明日、鍛冶屋にもっていこうか

専門家ならあるいはこのロングソードを廃棄せずに仕立て直してくれるかもしれない。

 

いずれにせよ、多少研ぎが出来るとはいえ鍛冶方面では門外漢である自分が判断するよりはマシなはずだ。

そんなことを考えながらクロウは眠りについた。

 

 

翌朝、クロウは朝早く起き、準備をすると早速鍛冶屋に向かった。

店内に入ると、カウンターの奥に座ったドワーフの老人が顔を上げる。

 

髭面のいかつい風貌をしており、一見すると近寄りがたい雰囲気があるが、意外とその表情は柔らかい。この店の主、ダガン=バドッカだ。

 

彼はかつて金等級冒険者だったと噂されている。

だが、今はこうして鍛冶屋を営む隠居の身だ。

その腕は確かで、彼の打ったものはどれも一級品だと評判だった。

 

クロウはカウンターまで歩いていく。

そして、手に持った愛剣を差し出した。

それを見た瞬間、ダガンの眉がピクリと動く。

クロウの愛剣を見て、何か思うところがあったのだろう。

しばらくじっと観察した後、やがて納得したように一つ肯くと、口を開いた。

 

その声音は低く、どこか哀愁が漂っていた。

「これは……もう駄目じゃな。剣としては死にかけておる」

「ハガネもボロボロじゃわい。毒に、魔に、血に、侵されておる。これじゃあ鋳潰して新しく仕立て直す事もできん」

「可哀想にの。儂には聞こえるわい。まだやれる、ここで終わりじゃない、主人のためにまだ斬れるとの」

 

クロウは黙ってそれを聞いていた。

ダガンの言うことは正しかった。

鍛冶には素人のクロウでさえ、この剣からは感じるものがあるのだ。

 

いまにも木っ端微塵になってしまいそうな崩壊の気配を、か細いなにかが押しとどめていた。

まるで前世の自分の様ではないか。

 

「……お前さんはよほどこの剣を愛したようじゃの。普通はここまで【声】を出さんわ。…じゃが…ふむ、まてよ…しかし…」

ダガンがなにやら苦悩めいた表情を浮かべ、思い悩んでいた。

 

━━どうにか出来るのだろうか?

愛剣を救ってやれるなら金は惜しまない。

クロウがそう思っていると、やがてダガンは口を開いた。

 

「…少し待っておれ」

ダガンが店の奥へ戻っていく。

待つ事暫し。ダガンは黒い鞘に入っている一振りの長剣を持ち出してきた。鞘には複雑な文様の帯が巻かれているが、その剣をみれば専門家でなくとも分かるだろう。

 

「お前さんも分かったようじゃな。そうじゃ、これは呪いの魔剣…む?わかっていてその目はちょっと、やはり、変わっておるのう…」

 

クロウの目は慈愛に満ち溢れていた。

まるで陽だまりの下、猫同士が戯れている光景を見ているお爺さんのような目だ。

 

呪いの魔剣!素晴らしいではないか。

恐らく一振りごとに命を削るとか、災厄を次から次へと招き寄せるとか…その手の呪いなのだろう。

 

とはいえ、魔剣は複雑な術式やら呪詛やらのせいで学術的価値はおしなべて非常に高い。

クロウの経済力といえどとても手が出るものではなかった。

元より買い換えるつもりはないが、まさか自分に勧めるつもりなのだろうか?

 

クロウがきょとんとしていると、ダガンは重々しい口調で言った。

「これはさっきも言ったように、呪いの魔剣じゃ。一度封印を解けば、あらゆる行動が所持者を危険へと導き、最終的に死に至らしめる。だが、呪いってもんは絶対のモノじゃねえ。相対する力をぶつければ呪いは弱まる」

 

フゥーっと息をつき、ダガンは続けた。

「そういう技術っていうかの、口伝というか、そういうものは昔からあるんじゃよ。もちろん、先人の夥しい犠牲があってこそのものじゃが…」

 

ダガンは苦々しい表情を浮かべた。

「この場合の力っていうのはの、害をなそうとする力に護ろうとする力をぶつけるわけじゃな…。難しいことじゃないが、危険なことではある」

 

「それこそわしなんぞよりずっと前の鍛冶屋はな、剣としては優れて居ても強力な呪詛のせいでまともに扱えないような魔剣を扱えるようにするために、色々頭を捻ったもんじゃ。結局考え付いたのが、火に水をかけるような力業じゃった。要するに、魔剣に抗するものを一緒くたにして鍛造しなおしちまえばいいってな」

 

クロウはあんまりな力業に苦笑してしまう。

 

「普通はそんなもん駄目だとおもうじゃろ?わしも思う。呪いとか守護の力ってのはそういうモンじゃないとおもうんだが…案外これがうまくいってしまったのよ」

 

ダガンの目線を追えば、それはクロウの愛剣に向けられていた。

 

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