Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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閑話:ザザ⑥

 ■

 

 ザザがいつものようにリリスにバブバブした翌日、娼館を出るとなぜかエスタが居た。

 エスタは控えめに見ても機嫌が良いとは言えず、ザザを力の籠った目で睨みつけている。

 

 しかしザザはそんなエスタにちらりと目を向けたきり特に声をかけることもせずに去っていこうとした。

 

「待ちなさい、ザザ!」

 

 怒声が響く。

 周囲の者達が何事だとザザ達を見ていた。

 

「……なんだ、エスタ。用事か」

 

 ザザは気がない様子でエスタに答えた。

 別にザザはエスタを避けているわけでも嫌っているわけでもない。

 ただ、友人でもなければ体の関係にあるわけでもない相手などどうでも良いだけであった。

 

 確かに昔、エスタがエルフの里からかどわかされ、奴隷商人の馬車に乗せられていた時に助けたのはザザだ。

 しかし別にそれはエスタ個人を助けたわけではなく、とある筋からエルフ救出の依頼を受けたからでしかない。

 

 奴隷商人の護衛をバッタバッタと薙ぎ払うザザの姿に憧れたエスタは冒険者を目指す。

 そしてそれは成功といってよかった。

 エスタは弓と魔法の力で瞬く間に階梯を昇り、銀等級へと進んだのだ。

 

 なぜエスタが昇級を急ぐかといえばそれはザザの傍らで戦うためである。

 ザザ自身が言ったのだ、金等級になったらお前と組む事を考えてやってもいい、と。

 

 ザザは薄情なのでそんな事はすっかり忘れているが、エスタは忘れていない。

 ここまで言えば分かる事だが、エスタはザザに惚れていたのであった。

 

 ■

 

「ねえザザ!あなた最近ずっとしょ、しょ、娼館に通いっぱなしじゃないの。ちゃんと冒険者としての仕事はしてるの?お、女遊びで身を持ち崩した冒険者は少なくないわ。お節介かもしれないけど!あなたがそんな風にはなってほしくないのよ…」

 

 エスタは最初は勢い良く、そして最後は俯き加減にザザに訴えかけた。

 何の事はない、嫉妬しているだけである。

 彼女はザザの動向を常に調べている。

 最近は通いの娼婦に盛大に散財していると聞いた時のエスタは、心臓に雷衝でもぶち込まれたかの様な衝撃を受けた。

 

 そんなエスタをザザはまるで虫でも見るかの様な視線を向けていた。

 ザザとて朴念仁ではない。

 エスタが自身に男女の感情を向けている事くらいは分かっている。

 

 ――だからこそ面倒くさい

 

 ザザは金で女を抱くほうが楽だと思っている。

 決められた額の金を出し、一線を引いて関係を持つほうが楽だ。あとは金さえ出せばあとは勝手に気持ちよく楽しくなれるところも気に入っている。

 

「そうか、気遣ってもらって悪いな。まあ気をつけるとする。じゃあな」

 

 ザザにも色々と言いたい事はあったのだが、結局あたりさわりなくその場を収めようとした。

 それが不味かった。

 

「あなたはいつだって!!あなたはいつだって私の事なんてどうでも良いと思っているのね!」

 

 エスタが激昂した。

 いや、激昂どころの騒ぎではない。

 激昂し、しかも涙すら零しているではないか。

 女の最大の武器、それは涙。

 美人のエスタの涙ともなれば極めて凶悪な兵器になりえる。

 普通の男ならうろたえ、困惑し、女に主導権を握られてしまうだろう。

 

 だがザザは普通じゃなかった。

 

 つかつかとエスタに向かって歩み寄ると、おもむろに手を伸ばし、エスタの誰にも触れさせていない部分をわしづかみにして口を開いた。

 

「それ以上喚くなら引き千切ってやる。俺はうるさい女が嫌いなんだ。いいか、エスタ。お前は俺の家族でもなければ恋人でもない。友人ですらない。俺のやる事に口を出さないでくれ。もし俺のやる事に口を出したいのなら、そして俺にお前の言う事を考慮させたいのなら」

 

 ザザはエスタのそれを掴む力を強めると、もう片方の手でエスタの腰を掴み、引き寄せた。

 

「俺のモノになれ。俺に心も体も捧げろ。股を開けといったら従順に開け。俺が死ねといったらその場で首を掻き切れ。俺の為に生きて俺の為に死ね」

 

 ザザの目が荒々しい光を帯びる。

 それはまるで獰猛な肉食獣の様であった。

 

 ザザの全身から精気の様なものが吹き出るのをエスタは感じた。

 ザザは捕食者で、自分は餌にしか過ぎないのだと分からされてしまった。

 

「出来ないなら2度と俺の生き方や、やる事に口を出すな。俺より強くも無く、そして俺のモノでもなんでもない奴に偉そうな口を叩かれると叩き斬りたくなってしまう」

 

 どんとエスタを突き飛ばし、ザザは背を向け去っていった。

 エスタはそんなザザの背をぼうっと見つめているばかりであった。

 

 ■

 

 エスタは全身を突き刺す殺気の針に縫いとめられ、ぴくりとも体を動かすことができなかった。

 金等級と銀等級、たった一つの階級の違いは、万尋にも及ぶ広さの谷にも等しかった。

 

 同時に、エスタは自身でも理解しがたい不可思議な感覚に襲われる。

 それは正しく快楽、悦楽の類であった。

 

 美しく強いエルフ、凛々しく堂々とした姐御気質の彼女は多くの者達から慕われる。頼られる。

 弓に優れ、魔法に優れ、銀等級でも期待の星だ。

 であるからこそ、他者にこうも無下に扱われた事などはなかった。

 奴隷に身を落としかねなかった時の様に弱いならばいざしらず、今の自身は強いのだ。

 強いのに、何故。

 

 ――それは、ザザが私よりももっともっと強くて恐ろしい存在だから

 

 エスタの下腹部が熱くなる。

 何故。

 

 ――それは

 

 そう、エスタがドMだからである。

 彼女は強度の被虐体質だ。

 

 それは過去の奴隷に身を落としかねなかった出来事が影響している。

 とはいえ、酷い扱いをしてくれるならば誰でも良いわけではなかった。

 自身より強くなければならない。

 強いだけではなく、護ってくれなければならない。それでいて、自身を庇護しながらも苛んでくれる相手がいい。

 

 要するにザザである。

 

 愚かな奴隷商のせいで、そしてザザのせいでエスタは歪んでしまったのだ。

 

 ■

 

 エスタにセクハラとパワハラをした後、ザザは苦い思いをかみ締めながらギルドへ向かっていた。

 なぜ苦い思いをかみ締めているのか。

 それは金がないからである。

 エスタの事ではない。

 酷い男だ。

 

 連日の風俗通いは当初無限に思えたザザの銭袋を酷く痩せさせてしまった。

 入ってくる金もあるが、出て行く金のほうが遥かに多い。

 

(まとまった金が欲しいな…ランサックが居れば話を聞いてみるか)

 

 ザザの表情は渋い。

 ランサックと繋ぎがとれなければそれはそれで困るし、繋ぎがとれて仕事をやったとしてもそれは恐らくヤバい山だろう。報酬は多いが大体命掛けになってしまうのがランサック案件なのだ。

 

(俺の剣が通らない魔族…ああいうのは御免被るが、仮にあんなのがまた出てきた場合、アレを試すとするか)

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