Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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夜の訪れ④

 ◆

 

 ぱこん、とセイ・クーがクロウの頭を叩いた。

 

「ク、クロウ様、冗談はおよしくださいませ…」

 

 シルファが引き攣った表情で言う。

 クロウとしては冗談ではなかったのだが、余り常識的な発言とは言えなかったかな、と少し反省をした。

 

 だが、少し怖がらせてしまった様なので説明はしなければならないと、先ほどの言の弁明をする。

 

「誤解があるみたいだけど。なんていうのかな。シルファ、君からはいい匂いがする」

 

 クロウはシルファに近付き、くんくんと匂いを嗅いだ。

 

「死期が近付いている人の匂いだ。病気とかの死じゃなくて、もっと突発的な死の匂いだ。俺は冒険者になってこういう匂いをよく嗅いできたから分かる」

 

 クロウの言葉に皆が沈黙した。

 シルファもセイ・クーもグランツもアニーも。

 それが与太話だと一蹴する事はできなかった。

 なぜなら彼等の中で一番死に接してきたのはクロウであるからだ。

 

 いつでもクロウは自分の命を掛け金としてきた。

 そんな人間が死の匂いを嗅ぎ分けられるというのなら、それはそうなのだろう。

 

「こんな事があった。危険な依頼を受けた冒険者がギルドから出て行こうとした。俺はその人が横を通りすぎた時、なにか甘くていい匂いがするなとおもってた。暫くたってもその人は帰還しなかった。死んだんだ」

 

「俺の故郷では自殺の名所っていう場所があった。生きる事に疲れた人達が不思議をそこを選んで自殺していく、そんな場所だ。俺は不思議だった。死のうと思えばどこでだって死ねるはずなんだ。だのに何故みんなそこで死ぬのだろう。俺はその場所へ行って見て納得した。そこからは甘い匂いがしたんだ。心が安らぐ匂い。この香りを胸いっぱいに吸い込んで、そのまま死ねるのならばきっと来世はもっとまともな人生が送れるだろう、そういう期待をさせてくれる匂いだ」

 

 ――そんな匂いが、君からする

 

 そう結んだクロウの両眼は爛々と輝いていた。

 シルファはクロウの視線をまともに受け、心に占めるクロウの部屋が少し多くなったように感じた。彼女は今後はより多くクロウの事を想うであろう。

 

 シルファはクロウの瞳の奥を覗き込む。

 何の変哲もない黒い瞳だ。

 しかし更によく見れば、その黒は様々な色が混じりあった色である事に気付く。

 

 クロウの瞳は極彩の暗黒色をしていた。

 これが意味する所は1つだ。

 自殺願望といっても色々あるという事である。

 

 単に死ねればよいというわけではない。

 クロウの場合は承認欲求が満たされた上で、更に惜しまれながら死にたいという、つまりは欲張り自殺願望…それだけの話に過ぎないのだが、シルファはクロウの瞳の色に神秘を見出した。

 

 神秘というと語弊があるかもしれない。

 

 シルファ自身にも言語化しえないその感情は、例えるならばSNSで死ぬ死ぬ辛い辛いを連呼している社会不適合者に惹かれる者が一定数いるが、そういった者達が抱くドロドロした感情にも似ている。

 

 まとめれば、クロウは前向きになったように見えるがやはり変わらずメンヘラで、シルファはそんな男に惹かれるダメンズ好き女だという事である。

 

「…っ、わ、わかりました。つまり、私の身に危険が迫ってるという事なんですね…?」

 

 シルファがおそるおそる言うと、クロウは曖昧に頷いた。

 

「周辺を厳重に警戒いたします。グランツやアニーもおりますし…王都とはいえ不逞な輩はおりますものね。ご忠告、感謝いたします」

 

 シルファはぺこりと頭を下げ、クロウはやはり曖昧に頷いた。

 クロウの曖昧さは彼自身にもシルファにどういう類の良からぬ事が迫っているのかがわからなかったからだ。

 

 確実性にもかける。

 

 シルファに良くない兆しが見えるだけに過ぎない。それも何となく。

 

 それから5人はちょっとした雑談をして、間もなくシルファ達3人は去っていった。

 

 クロウは去っていくシルファ達の背を見送り、ふうっとため息をつく。

 もっと明確に危機が迫っている事が分かれば助力を強く申し出る事も出来たのに、と。

 何となくあぶなそうだ、だけではどうにも口に出しづらかったのだ。

 

 この変な遠慮の仕方はクロウの前世であるシロウの、いや、日本人と言う民族が備えた奥ゆかしさ…悪癖のようなものなのかもしれない。

 

「いいのかい?クロウ。行かせてしまっても」

 

 セイ・クーが言うが、クロウは難しい事を考えているような渋い表情をして答えた。

 

「正直わからない。シルファが厄介事に巻き込まれている…ような気はする。けど確実じゃないんだ。何がどういう形で、どれくらいの脅威で差し迫っているのか。それが分からない」

 

 クロウはしょぼくれた様子で答えた。

 そして素振りをしながら言葉を続ける。

 

「友達なら助けるべきだと思われるかもしれないけれど、それも俺にはよく分からない。だって俺達は冒険者だ。俺もシルファも、皆子供じゃない。何でもかんでも手を貸すよ、助けるよ、と、そう言うのは簡単だろうけど、それをされたほうはどう思うだろうか。子供扱いしている事にならないだろうか」

 

 ――ごちゃごちゃ考えすぎだと思うんだけどなあ

 

 セイ・クーはそんなクロウを見ながら思う。

 そう、クロウはごちゃごちゃ考え過ぎなのだ。

 

 結局クロウは善意の押し付けだと思われる事を

 怖がっているようだが、善意なんてものは1度押し付けてから、反応をみて更に押すなり引っ込めるなりすれば良い。

 

 何も刃物を押し付けるわけじゃないのだから、相手にとって迷惑であったとしても然程深刻なことにはならないだろう。

 

「助けてほしいといわれれば喜んで助けるよ。でも本人がそういわないなら…いや、でも、どうなんだろうな。俺はだめだな、いつまでも成長出来ない。俺こそ子供みたいだ」

 

 クロウのいじけた言葉とは裏腹に、振られる剣は鋭さをいや増していく。

 

 ――こうして見ている分には普通なんだけどね

 

 セイ・クーの目にはクロウは極々普通の年齢相応の青年に見える。いや、やや幼いくらいか。

 しかし、セイ・クーは戦闘時に置けるクロウの狂乱の姿を知っている。

 どちらが本当の姿なのだろうか、と思うが、そんな事は詮無き考えであった。

 

「まあ、シルファ嬢だってクロウの、僕等の助力がほしければそう言うはずさ。何せ彼女は貴族令嬢だ。貴族っていうのはね、クロウ、人を使い慣れているんだ。だから頼るべきと感じた時には躊躇ったりしない。傲岸なほどに、助けてもらって当然と言う様な態度で助力を求めてくるはずだよ」

 

 セイ・クーの言葉にクロウはやや苦笑しながら答える。

 

「貴族ってなんだか嫌な人が多そうに聞こえるね」

 

 セイ・クーはおどけながら腰に手を当てて答えた。まるで男装の麗人に見える彼は、どんな振る舞いでもサマになる。

 

「おや、知らないのかい?貴族の中にも良い人は勿論居る。いるけれど、良い貴族なんてものはこの世界に存在しないんだ」

 

 どこかで聞いた話だな、とおもいつつクロウはセイ・クーに軽く笑みを向けた。

 

 

 

 

19時にもう一回更新します

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