Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~【最新話からイマドキのサバサバ冒険者に統合】   作:埴輪庭

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メンヘラと異形②

 ◆

 

 ここでようやくクロウはシルファ達の方を振り向いた。そして凍りついたアニーの腕を見て、眉を顰める。

 

 そして“本気で心配する為に”その腕をまじまじと見つめ、甲斐甲斐しくアニーを支えるグランツの心境を慮り、アニーと親しいであろうシルファの心境に思いを馳せる。

 

 ――シルファ、グランツ、アニーは心の通い合った仲間同士だ。シルファが言っていたけれどアニーとグランツは恋人同士らしい。それならグランツの心には今頃張り裂けるような悲しみが充満しているだろう。アニーもどうだろうか。彼女も冒険者である以上、怪我が悪化して死んでしまうなんて人は沢山見てきたに違いない。自分の傷がこの先どうなるか不安だろう。それに冒険者としてやっていくことはもう難しいかもしれない。仕事はどうなる?生活は?未来への不安!嗚呼、なんてことだ…

 

 クロウの心がどんどん落ち込んでいく。

 そしてこの瞬間、クロウは心からアニーを心配する事ができたのである。

 

 クロウの指先が痺れ、やがて震えを帯び、そして腕全体へ広がっていった。

 

 悲しみと怒りがクロウの神経回路にこれ以上ないほど詰め込まれ、激発した感情は魔力をドカドカと生産し、クロウの体からは黒い魔力のスパークがバチバチと発散される。

 

「アニーさん…あなたの仇は必ず討つ」

 

 クロウが呟いた。

 

 シルファ達3人は思う。

 

 ――まだ死んでない

 

 ◆

 

 ここまでのクロウの心の動きは、彼のある意味で日本人的気質による所が大きい。

 

 それはつまり、礼儀だ。

 仮にも仲間である以上、“本気で心配しなければ無礼である”とクロウが訳の分からない事を考えた仕儀である。

 

 クロウはアニーとさほど交流があったわけではないが、一緒に依頼をこなしたこともある。

 いわば同僚であった。

 

 であるなら心配の1つくらいしてもいいだろう。だが、それはあくまで仲間意識があるからであって、それ以上ではない。

 

 だから心配するといってもそんなものは上辺だけのものになってしまう。

 

 それでは余りに無礼ではないか?

 そうクロウは思ったのだ。

 

 クロウは優しい男であるが、その優しさは自己満足のためだけに発揮されるため、他者を心から慮るという事は困難である。

 

 だが、他者という存在を自身の内に含める事ができれば、他者を心から心配するという難事も可能となるのだ。

 

 ――アニー…なんて事を…ゆ、許せない…

 

 クロウの歯が強くかみ締められる。

 ぎりぎりという不気味な音がクロウの口元から発されていた。

 

 肉体からはスパーク、口元からは不気味な音。

 

「あ、あの、クロウ様…」

 

 たまらずシルファが口を開くと、クロウは強く頷いた。

 

 クロウはシルファの想いを汲んだのだ。

 

 仲間を傷つけたあいつに無残な死を与えてくれという復讐の念。

 

 貴族という立場ならばプライドも高いだろう、どこの馬の骨とも知れない冒険者風情に復讐を託す屈辱感たるやどれ程のものだろうか。

 

 しかし友情がプライドを上回り、こうしてクロウに頼むに至ったのだ…自身はシルファの自称友人としてこの気持ちを汲まねば男ではない…

 

 クロウはそう考え異形が吹き飛んだ方向へくるりと向き直ったのだが…

 

 当然全てクロウの妄想である。

 

 ◆

 

 さて、いきなり現れたクロウに真っ二つにされた挙句に蹴り飛ばされたオドネイ・ロナリアであるが、吹き飛ばされた事で肉体の修復する時間を稼ぐ事が出来た。

 

 クロウがオドネイの元にたどり着く頃にはその肉体はすっかり修復され、二本の足で立っていた。

 

 腕が伸びてもいないし、全身から触手が伸びているわけでもない。

 

 なぜか?

 

 これはオドネイの肉体を蝕む虫の大半が自殺したからである。全てではないが、大半が自殺…自壊した。

 

 本来オドネイのように魔力が強い者を侵蝕するためには、どっさりと虫を流し込む必要がある。

 多少虫が入り込んでも数次第では抵抗されてしまうのだ。

 

 クロウが彼を蹴り飛ばしたとき、当然クロウは魔力で身体能力を強化していたのだが、その時クロウの魔力がオドネイの肉体に浸透した。

 そして自殺した。

 

 魔力とは個人のアイデンティティーの上澄みのようなものなので、強烈な希死念慮が混入されている毒のような魔力に虫風情が抵抗できるはずがない。

 

 とはいえこれはオドネイの快癒を意味するわけではない。

 僅かに正気でいられる猶予を与えられたに過ぎない。虫はオドネイの血管にも混じりこみ、放って置けばまた増殖するだろう。

 

「君が、クロウか。娘と親しいと聞いている」

 

 オドネイの言葉にクロウは小首をかしげた。

 それまで触手を振り回す化物であったのが急に人間に戻ったなら当然の反応だ。

 

「君のおかげで僅かな時間自分を取り戻す事が出来たようだ。礼を言う。しかし余り詳しく話す時間はない。邪悪の残滓はまだ私の中にいる。時間がたてばまた自身を見失うだろう…。だから結論だけを言おう。私は“先代”ロナリア伯として、そしてシルファの父として君がシルファの傍に在るに相応しいか、ためさせてもらおうと思う。立ち会ってくれるね?」

 

 クロウは何故そうなるのかさっぱり分からなかった。分からなかったが、頷いた。

 

「感謝する。ここが広場で良かったよ。では……」

 

 ――ジ・カカネグイ・フォル・ネ・エルバ…

 

 周辺の気温が急速に低下していく。

 いや、低下というのは生ぬるい。

 急降下していく。

 

 空気すらもが凍てついて、仮に朝方であったならばダイヤモンド・ダストを観測できたであろう。

 

 ――冰刺雷葬陣

 

 大気中に細やかな氷を発生させる。

 そして氷粒が摩擦しあうことで静電気が発生する。

 

 冰刺雷葬陣はそれらを束ね合わせ、制御空間の何処からでも雷撃を放つという大魔術だ。

 

 クロウの周辺360度、つまり全方位から闇を引き裂く輝く雷条が迸った。




本作の魔法、魔術、剣技の理論、理屈についてはでっちあげなのであくまでフィクションだと考えてください。そんなんじゃ雷発生しないよっていわれても、発生するんです。そういう世界なんです。ばりばりー!って。
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