ウタが“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチと再会して彼の娘になる話。
ゴードンさんには悪いことをしました。君は今、泣いてもいい。

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ONE PIECE FILM REDの内容に触れています。
ネタバレがあることを踏まえて、ご覧ください。

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乗るしかねェ、このONE PIECE FILM REDの……ウタの波に!
という訳で、私もウタでなんか書きたいなぁ~、と思い、書きました。


ウタ、黒ひげの娘になるってよ

「何これ、電伝虫?」

 

 その日の浜辺はいつもと違った。

 たくさんの木くずや金物が打ち上げられ、大小無数の漂流物が浜辺にまばらな波線を描いているのだ。

 何もないはずの散歩道は、一晩でゴミ溜めのようになってしまっていた。

 ウタは、そんな中でそれを見つけた。

 

「……見たことない種類」

 

 大きさは普通の電伝虫とそう変わらない。だが、本来なら渦模様を浮かべた楕円形の殻を背負うはずなのに、ねじれた円錐形のものをつけている。

 何より、その側面に何かボタンのような装置が埋め込まれていた。人に飼われた電伝虫は殻を改造されるのが常だが、こんな精密な改造が施されているのは初めてだ。

 普通の電伝虫ではない。

 

「……どうでもいいけど」

 

 けれど、そんな未知との遭遇もウタの胸を高鳴らせることはなかった。かつては勝気な光を灯していた瞳も、今は暗く濁ったままである。

 もうすぐ十年になろうとしている。

 あの日、父や家族と慕った者たちに捨てられてから。

 彼らがこの島を破壊し、略奪し、自分を捨てて海の向こうに消えてから、約十年。

 それを思うと、ウタの感情は冷たく沈むばかりだ。

 

「……ゴードンに教えないと」

 

 これ以上思い返すのが嫌で、ウタは無理やり気持ちを切り捨てた。そんなことよりも、今はやるべきことがある、と。

 事実、電伝虫ととともに流れ着いた漂流物の山は問題だ。滅ぼされた時に壊れた街の残骸すらまだ残っているのだ。この上、浜辺まで瓦礫に覆われてはかなわない。

 あの日から、二人だけで生きてきた。最低限の瓦礫を片付け、慎ましく寂れた、国の亡骸を這うようにして生活してきた。

 ゴードン。彼と二人だけで。

 

「戻ろう」

 

 また、二人だけで瓦礫を撤去しなければならないだろう。そう思うと、返したきびすが鈍りそうだ。

 回想とはまた別の意味で憂鬱に思い、それでもゴードンがいる島の中心部に戻ろうとして、

 

「ゴードンってのは」

 

 声がした。

 

「この男のことかい?」

「!!?」

 

 男の声。しかし、ゴードンのものではない。

 聞き覚えの無いその声は、一人の男が砂浜に打ち捨てられることの先触れであった。

 

「ウゥ……」

「ゴードン!!」

 

 サングラスをかけた面長の男が、その大きな体を砂の上に沈ませた。埋められた顔は打撲と流血によって傷つき、食いしばった歯から苦悶を漏らしていた。

 負傷は顔だけではない。

 かつて王であった頃の面影もない、それでも質素で丈夫であったはず服は、至るところが破け、血に染まり、袖に至っては肩の縫い目からもぎ取られていた。

 暴力に晒されたことは明らかであった。

 

「何が」

 

 駆け寄り、問おうとした。

 だがそんなことは、聞くまでもないことだ。

 目の前でゴードンを投げ捨てて見せた、この見上げるほどの巨漢が、彼をこんなにも傷つけた犯人であることは明らかなのだから。

 

「頑固な男でよ。ちょっとやり過ぎちまった」

 

 小山に手足が生えたような男だ。

 開襟したシャツから毛むくじゃらの胸を晒し、大樽もかくやという腹を見せつけてくる。

 珊瑚のように節くれだった髪と無精ひげ、ところどころ抜けた歯を惜しげもなく晒し、野蛮で卑賎な笑みを浮かべた顔がこちらを見下ろし、

 

「ちょっと聞きたいことがあっただけなんだがな。まったく、何を渋る理由があるんだか……何もかも無くしちまったクセによォ」

「…………?」

 

 その野卑た面立ちに、ウタは見覚えがあった。

 ずっと昔、この男を見たことがある。ウタ自身は話したこともないが、何かひどく記憶に残ることをしでかして、印象に残ったのだということは覚えている。

 誰だ、そう思い、見据えるように睨み、

 

「“赤髪”のお残しを貰いたいだけなんだがなァ……ゼハハハハハ」

「……あんた!」

 

 その笑い声を聞いた瞬間、全て思い出した。

 この男が何者であったのかを。

 

「――ティーチ!! 白ひげの部下の、マーシャル・D・ティーチ!!!」

 

 それがこの男の名前であった。

 

「んん? 何だお嬢ちゃん、おれの知り合いか?」

 

 名前を言い当てられ、男は怪訝な顔をした。

 こちらを覗き込むようにして、どうやら向こうも見覚えを見出したらしい。顎を撫で、考えをめぐらせるようにあちらこちらへと目を泳がせる。

 それでも中々答えが見つからないようなので、仕方なくウタは自分から切り出すことにした。

 

「……10年以上前。あんたが傷つけた、“赤髪”のシャンクスの船にいた子供を覚えてない?」

「!」

 

 そこまで言って、ようやく思い出したらしい。

 

「ゼハハ! そうか思い出した、“赤髪”の船に乗っていた、髪の毛二色の小娘!! あの時のガキか!」

 

 自分がそうであったように、この男にとっても予期せぬ再会であったのだろう。

 意表を突かれたティーチは、腹を揺らすほどの笑い声を響かせた。

 

「あの野郎、どこの女に手を付けてガキを海賊船に乗せてンのかと思ってよ! 正気かよって、思わずヤツの面をぶん殴っちまったぜ!!」

「……違うわ。あんたは、カギ爪で引き裂いたのよ」

「ん~そうだったかァ? ゼハハ、細けェことは気にすんな!」

「……!」

 

 思わず歯ぎしりして睨みつけてしまうウタである。

 かつて幼かった頃、まだシャンクスを父と慕っていたあの頃。無敵だと思っていた彼の顔に、癒えることのない傷を刻みつけたのがこの男だ。

 シャンクスでも手傷を負わされることがある。

 その衝撃に、当時のウタを強く動揺させられたのを覚えている。傷ついたシャンクスに泣きつき、どうにか傷跡が残らないようにできないかと喚き散らした。

 そして傷が残った時、また泣いた。

 シャンクスはおどけたように、自分の海賊旗に傷跡の意匠を描き加えたが、それでも長く立ち直ることができなかったのを覚えている。

 だが、それも今は昔だ。

 

「で、何でお前がここにいる? “赤髪”もいるのか?」

「……………………」

 

 そんな風に思ったシャンクスも、もういない。

 彼を思って泣いた過去も、無意味となったのだ。

 

「シャンクスなんて、もう関係ないよ」

「あァん?」

 

 突然暗くよどんだ声を返してきたウタに、ティーチは怪訝な表情を浮かべた。

 俯き、目元を前髪で隠した少女の様子を見て、男は首をかしげる。だがそこはティーチ、一見野卑に見えて狡猾な男である。人に倍する人生経験もあって、ウタと“赤髪”の間に何かがあったのだろうと察した。

 そして同時に結論も出す。

 そんなものに興味はない、と。

 自分は自分が望むものを手に入れるためにここへ来た。偶然再会した顔見知りの過去に用はない。

 だから、続くウタの言葉にも乗った。

 

「どうしてここに来たの? この島にはもう何もないよ」

「何もないってことはねェ。お前が持ってる電伝虫がある」

 

 節くれだった太い指は、ウタが拾った電伝虫を指した。

 この男は、電伝虫を追ってこの島に来た。そして、電伝虫は無数の残骸と共に流れ着いていた。

 それはつまり、

 

「あんた、この電伝虫を運んでいた船を襲ったのね」

「おうよ。……まぁそれは口実なんだがな」

「口実?」

「おれはこの島に用があってな。“白ひげ”のオヤジに怪しまれずこの島に来るのに、理由が必要だったんだ」

「……そのために、船を沈めたの……?」

 

 信じられない暴虐だった。

 どんな船だったかは知らないが、船と言うからには少なくない人数が乗っていたはずだ。だが、この島に流れ着くのは残骸ばかりで人は一人もいない。

 乗組員たちを逃がすような男には見えない。

 うそぶくためだけにそこまで人や物を傷つけられる男の精神に、ウタは開いた口がふさがらなかった。

 

「“白ひげ”の人となりならシャンクスから聞いたことがある。そんなことして、許される訳ない」

「気にすんな。海軍の軍艦さ」

「……どうしてそれが、問題ない理由になるの?」

「ん? 敵がどうなろうと知ったことじゃねェだろ」

 

 心の底から不思議そうな顔をする男である。

 ますます信じられない思いを募らせるウタであったが、しかしティーチもいつまでもそれに付き合う理由がない。

 今こうしてウタの前に現れた理由を果たしたいからだ。

 

「まァお前には関係ないことだ。そして、お前に聞くこともない。……知りたいのは、この男だけが知っている」

「グ……!」

「ゴードン!!」

 

 投げ出した足をティーチに踏みつけられ、伏した男は苦悶の声を上げる。

 思わず駆け寄ろうとしたウタだが、それもティーチに手で制されてしまえば、それも出来なくなる。

 

「さァ今度はちゃんと答えてもらおうか。次しぶったらどうなるか、分かってンだろ?」

「……!!」

 

 ウタの眼前に突き出された手のひらが、次第に近づいていく。

 大きな手だ。ウタの小ぶりな頭など、包み込んであまりある。五指はまるで獲物を狙う獣の歯であるかのように、後頭部へ回り込もうとする。

 ウタは動くことができなかった。

 動けば、その前に手は迫ってくる。それ以前に、手のひらが放つ威圧感が少女の心を威圧し、動かせることを許さなかったのだ。

 

「やめろ……、ウタに手を出すな……!」

「だったら答えてもらおうか、おれの質問に。かつて音楽の国と称えられたエレジアの元王なら知ってるハズだ」

 

 そして、ティーチはその言葉を言い放った。

 

 

 

「――“解放のドラム”ってのは何だ?」

 

 

 

「……!!!」

「解放の、ドラム?」

 

 ゴードンと暮らして長いウタをして、初めて聞く単語であった。

 ドラム、というからには楽器か演奏だろうか。なるほど、だとすれば音楽大国であったエレジアの元王がそれを知っていてもおかしくない。

 それを問うために、ティーチはここに来たのか。

 

「貴様、どこでその言葉を……」

「趣味が歴史研究でね。物知りなのさ」

 

 そういう間にも、ティーチの手は迫った。

 

「そんなことはどうでもいい。さァ、知ってることを全部話してもらおうか」

「ぐ、う」

 

 ティーチの手は、もはやウタの鼻先に触れるほど。ゴードンを踏みつける足に至っては、今にも踏み砕く寸前のところまで来ていた。

 自分の身だけであれば、あるいはゴードンも耐えたかもしれない。だがウタを人質にとられて、それでも沈黙を保つことはできなかった。

 ゴードンにとって、ウタはシャンクスとの誓いの証であり、また娘にも等しい少女であったからだ。

 

「……“解放のドラム”とは」

 

 ついに、その口は開かれた。

 

「楽曲では、ない」

「何ィ? じゃあ何だ」

「心音だ」

 

 答えをゴードンは続けた。

 

「とある悪魔の実を食べた人間だけが放つ鼓動。それがまるで、演奏するかのようなリズムを刻むことから、その名がつけられた、と」

「演奏するような心音の能力者だと? そんな話、聞いたこともねェ」

「覚醒しなければならないんだ。……過去数百年、そこに至った者はいないということなのだろう」

「なるほど、覚醒ね」

 

 そう言って、ティーチは最後の質問をした。

 

「で。その悪魔の実の名前は?」

「…………」

「おい」

「……ニカだ」

「ハァ?」

「――動物系、ヒトヒトの実モデル“ニカ”。その実を食べ、覚醒した者だけが、“解放のリズム”を奏でる」

 

 口ごもり、だが続けたゴードンの言葉に、ティーチは目を丸くした。博識を自称する男をして、聞いたこともない名前であったからだ。

 

「そんな悪魔の実、図鑑にも載ってなかったぜ?」

「当然だ。過去数百年、その名はあらゆる記録と記憶から失われた。悪魔の実であるからには現存するのだろうが、どこにあり、どんな名前になっているのかも分からない」

「……フン、数百年前に失われた情報、ね。“空白の100年”に絡むなら、やったのは世界政府か……」

「貴様、どこまで踏み込むつもりだ。一介の海賊が知ろうとすれば、どうなるか分からないぞ」

「それはてめェの気にすることじゃねェさ」

 

 サングラス越しに睨みつけるゴードンを、しかしティーチは鼻で笑うばかりだ。それどころか、彼の足をことさらに踏みにじり、

 

「しかしニカ、ね。はるか昔、奴隷どもの間で信じられた神だ。その名前が、こんなところで出るとはな」

「……知っているのか」

「言っただろう。おれの趣味は歴史研究、古いことも大体は知っているつもりだぜ」

 

 問い返され、ティーチは答えた。

 

「“太陽の神”、“解放の戦士”。呼び名は様々だが、人々を苦悩から解放し、笑顔にする力を持っていたという」

 

 そして、

 

「その体は――ゴムそのものの性質を持っていた」

「え」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ウタの唇は声をこぼした。ティーチが告げた言葉が、彼との出会いによって思い起こされた古い記憶を更に蘇らせたからだ。

 あの頃、幼かったあの日。

 自分が望むものなら何でも叶えてくれた父が、しかし譲ることのなかったもの。

 それを、思い出したからだ。

 

「……どうした、お嬢さん」

 

 そして、それを聞き逃すティーチではなかった。

 

「何か、知ってることでもあんのか?」

「……昔」

 

 手のひらは、遂にウタの頭を覆いつくすところまで来た。増すばかりの威圧感に圧され、唇を震わせながら、ウタはそれを答えた。

 

「私が子供の頃、シャンクスが悪魔の実を手に入れた。その悪魔の実は……ゴムゴムの実」

 

 その能力は、

 

「体がゴムみたいになる、ゴムゴムの実」

「……!!」

 

 次の瞬間、掴む寸前だったか手のひらは頭の上に乗り、首をねじ切らんばかりに撫でまわしてきた。

 

「そうか、ゴムゴムの実か!! なるほど、そりゃ盲点だ。たしかに、隠すつもりならわざわざ同じ分類にしておく意味もねェか!!」

 

 げたげたと笑うティーチの顔は、爽快なほどに晴れ渡っていた。

 まるで、長く解決しなかった悩み事が一気に解決した時のような、そんな喜びようである。

 それは実際、彼にとってはその通りだったのだろう。

 

「ヒトヒトの実であれば超人系と偽ることも出来る、か。ここまでの大ウソ、こりゃいよいよ世界政府の仕込みって線が強くなってきたな!」

「ちょ、ちょっと、いい加減離して……!」

「ん? おお悪いな、つい楽しくなっちまってよ」

 

 撫でまわすティーチの手から逃れ、ウタはぼさぼさになった髪を整えながら男を睨む。

 恨みがましい眼差しだったがそんなものは慣れたもの、どこ吹く風でティーチはぶつくさと独り言を重ねていく。

 

「そうか、“赤髪”のヤツが押さえたか。……ヤツも腹の読めねェ野郎だ……あるいは全部知った上で動いてんのか……?」

「……気は、すんだか……?」

 

 言ったのは、今も踏みつけられるゴードンである。

 

「あぁ悪いな。おう、話は終わったよ」

「だったら、すぐに出ていけ。ここはお前の居場所じゃない」

「ああ分かってるさ。もうお前らは用済みだ」

 

 ティーチはゴードンの足を解放し、そのまま一歩前へと進み出た。

 見るのは、ウタが抱える電伝虫だ。

 

「後はこの電伝虫を回収すれば、おれの用事は終わりだ。いやァ思った以上の収穫だった、世話になったな、お前ら」

 

 心にもないことをうそぶき、ティーチは手を伸ばす。

 太い指は電伝虫をつまみ上げ、ウタの手元から自分の懐へと移し替えようとした。

 だが、

 

「あン?」

 

 ウタの手が電伝虫から離れなかった。

 摘まみ上げられた殻から、少女の手が離れない。

 

「待って」

 

 それは少女の呼び止めだった。

 

「あんた、これからどうするつもり?」

「あァん? そりゃお前……“赤髪”の野郎からゴムゴムの実を奪うのさ。もう誰かに食わせちまったんなら、そいつごと奪うがな」

「そう」

 

 ティーチの答えを聞いても、少女は手を離さない。

 

「……なんだ。止めるつもりか?」

「バカ言わないで。私を捨てたあいつが、今更どんな目に遭ったってどうだっていい。むしろせいせいするわ」

「じゃあ、この手は何のつもりだ」

「私の知らないところで、勝手に終わられたって気が収まらないのよ」

 

 そこには怨嗟があった。

 恨みと辛み、逃れようのない憎しみが少女の言葉を歪める。

 

「あいつの全部を台無しにしてやりたい。私の目の前で絶望するあいつの顔が見たい。私を裏切ったあの男を……破滅させたい」

 

 だから、

 

 

 

「――ティーチ! 私をあんたの娘にして!!!!」

「!!!?」

 

 

 

「あいつの船以外の船に乗り、あいつ以外の男を父と呼び、あいつのやろうとしたことを全部めちゃくちゃにしてやる!!! ――あいつに、“赤髪”のシャンクスに復讐してやる!!!!」

 

 だから、

 

「だから私をあんたの娘にして!! ――私はウタ、元・赤髪海賊団の音楽家、ウタだよ!!!」

 

 轟く恨みの叫びは、水平線の果てにまで響き渡るかのようであった。

 それに居合わせた男どもは、少女の気迫に圧倒されていた。火の灯るような目を鬼の形相に宿す、ウタという少女の怒りに、気圧されたのだ。

 ゴードンが、ティーチが言葉を紡げるようになったのは、それからいくらかの間を必要とした。

 

「何と言うことを……!」

「……ゼハハ。女の恨みってのはおっかねェ」

 

 口をわななかせるゴードンであったが、ティーチは逆に、ひきつったような笑みを浮かべていた。

 やがて、その笑みは爆ぜるような哄笑となる。

 

「ゼハハハハハ! 面白れェ、面白れェ小娘だ!! まさか自分の父親が破滅するところを見るために、このおれの娘になりたいだなんてな!」

「あいつに私の気持ちを分からせるまで、絶対に許さない」

「いいぜェ、海賊ってのはこうでなくちゃな。恨み恨まれ、それを成し遂げるか払い除けられる真の強者だけが、この海で生き残れる」

 

 そして、

 

「何より音楽家ってのが気に入ったァ!! ――海賊ってのは歌わなきゃなァ!!!」

「じゃあ……」

「ああ、いいぜェ……」

 

 答えは簡潔だった。

 

 

 

「ウタ! お前は今日からこのおれの娘だ!!!」

 

 

 

「……!!!」

「待て! 待ちなさい、ウタ!!」

「黙ってな元王サマ!」

「ぐァ!?」

 

 暗い喜びに頬をほころばせるウタ。

 それを止めようとしたゴードンだったが、しかし断頭台のような勢いでティーチに踏みつけられ、骨肉の砕ける音とともに沈黙を余儀なくされる。

 もだえる傷だらけの男を無視し、ティーチは手を差し伸ばし、少女の小さな手と固い握手を交わす。

 

「親子の盃は帰ってからだ。おめェのような面白ェ娘だったら、あいつらも大歓迎だろうぜ」

「それ、白ひげ海賊団の人たちじゃないんでしょ?」

「お、分かるか?」

「あんた、絶対何か企んでる。白ひげを隠れ蓑にして、こうして調べものもして、何を考えてるの?」

「決まってる、成り上がりさ。すべてはおれが“ひとつなぎの大秘宝”を手に入れ……海賊王になるためにな」

「海賊王」

「そうさ。おれがこの大海賊時代の勝者となり、……新しい時代を作り出す」

「――新時代」

「そうさ。おめェは新しい海賊王の娘になるんだぜ、ウタ」

「そういうことはなってから言って」

「手厳しいねェ!! 娘ってのはこういうもんか、ゼハハハハハハ!!」

 

 言いながら、男と少女は歩いていく。

 砂浜に刻まれた足跡は刻一刻と増えていき、その数を増やしていくほどに、離別は深まっていく。

 そんな風に、ゴードンは思った。

 

「待て……! 待ってくれ、ウタ……!!」

「ごめんね、ゴードン」

 

 ウタが最後に、一度だけ振り返った。

 しかしそこにあるのは、悲しみ以上の決意だった。

 

「私はこの島を出る。復讐のために」

「ウタ……!」

「大丈夫、歌い続けるよ。私がどんな気持ちでいたのか、シャンクスに分からせるために」

「違うんだ、ウタ! シャンクスは、彼は……!」

「――さよなら」

 

 男の慟哭は、もはや誰にも届かなかった。

 もはやウタは振り向かない。ゴードンの顔を、滂沱の涙と悲しみの相貌を、少女は見返さない。

 彼が何を言おうとしたのか、それを思うこともなく。

 

 

 

「行かないでくれ!!! ウタァ~~~~!!!!」

 

 

 

 ――その後、白ひげ海賊団で事件が起こる。

 マーシャル・D・ティーチによる、仲間殺し。その動機は悪魔の実を奪うことにあったという。

 出奔したティーチは“黒ひげ”を名乗り、数人の仲間を連れて“偉大なる航路”前半の海へと去っていた。

 巨漢ばかりが集うその海賊団にはただ一人、小柄な少女の姿があった。

 黒ひげ海賊団の音楽家。

 新種の電伝虫で世界中に歌声を届ける謎の少女。

 やがて“七武海の娘”、“四皇の娘”と呼ばれるようになっていく少女の名を“赤髪”のシャンクスが知るのは、まだ先の話――。

 




信じて送り出した娘が、自分の顔に今も疼く傷跡を残した時代を変える危険な海賊の娘になって世に出てくるなんて。
シャンクスくん、今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?

父とのすれ違いをMAXに引き上げる方向で話が出来上がりました。
ウタは歌姫デビューする前にお話が分岐しているので、ちょっと性格が違うというか、原作ほど追い詰められていない感じ。まぁしんどい目に合うのは変わりないですが。

ちなみに、本作は「黒ひげがドラム王国を滅ぼしたのは実は“解放のドラム”を調べていてその過程でやったこと説」からヒントを得ています。原作中で黒ひげがニカとか“解放のドラム”とか調べてるって設定は、投稿時点ではないので、悪しからず。



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