術式がドラ〇もんの道具で説明できるんだが?   作:妄想癖のメアリー

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『最強』との逢着

 

 

 

「ん……──あれ? ここどこ」

 

 妙に落ち着くような懐かしい音と感触を思い出したのか、ぱちぱちと目を開きながら周囲を見渡す礼司。

 

(そうだこの感覚は……懐かしいな。車に乗せてもらったのも大分昔の話だ)

 

 自らの状況に合点がいったのか。そう1人思案する礼司。

 

「おはようございます……目が覚めましたか。あまり無理をしないでください。今のあなたは、過度な術式の使用によって呪力切れを起こしています」

 

「あ、おはようございます……えっと、あなたは……」

 

 バックミラー越しに運転している男性と目が合う礼司。この時点で、五条や夏油と違って常識を持った人物であると何となく理解した彼は、丁寧にあいさつを返した。

 

「えっと、私は伊地知、伊地知潔高と申します。君を連れてきた五条さんの仕事の補佐みたいなものをしています」

 

「あ、僕は天鳳礼司です。ええっと、あの後どうなったんでしょうか? 五条先生によろしくって言ってから記憶がないんですけど……」

 

 後部座席でポリポリと頬を掻きながら申し訳なさそうに呟く礼司に、当時の状況を思い出したのかげんなりしながら語る伊地知。

 

「任務終了後は電話で迎えに来るように伝えられるんですが、今回も同じように連絡を受け、指定された場所に向かったら……その、五条さんは明らかに何かあったであろう子供を背負っていました。そして一言『この子呪術師にするから、親御さんとかに連絡しといて』とだけ言ってどこかへ……」

 

『どこから連れてきたんですかこの子!? 流石に誘拐はやっちゃマズイでしょう!?』

『伊地知。僕が子供を誘拐するような人間だと思ってたんだ。後でマジビンタね』

『マジビンタ!?』

 

 後にされるであろうマジビンタにおびえながら、ため息を吐く伊地知。

 

(あ、この人苦労人だ)

 

 そう確信させてしまうほどの何かが伊地知にはあった。

 そんな礼司の失礼すぎる思考に気づくことなく、伊地知は安心したように語った。

 

「って、君に言っても仕方ないですね。親御さんの元へ案内できますか? もう11時を回っています。多分心配してるでしょう」

 

「親は……居ないです。数年前に呪霊に……」

 

「……なるほど、すみません……嫌な事を思い出させて」

 

 心底申し訳なさそうに謝る伊地知に、気を使わせてしまったと焦る礼司。

 

「いえ! もう昔のことなんで大丈夫です。周りの人に支えられて、何とか生きています」

 

「……強い子なんですね。君は」

 

 苦笑いを浮かべながら語る礼司に、それがどれだけ過酷であるかをしみじみと思う伊地知。

 

「あはは……ありがとうございます。えっと、とりあえず自宅に向かおうと思うので、そこの角を右に曲がってもらえますか?」

 

「分かりました」

 

 そうしていったん会話が途切れる。

 気まずさを感じた伊地知が鏡越しに姿を確認すると、虚ろな瞳で前から後ろに流れる景色を見ていた。

 

 元はと言えば少し奇妙な力を使うことができただけの、ただの少年だったのだ。

 夏油や五条と出会い、自分が全く知らない世界がある事を理解したのだ。無理もないだろう

 

「えっと、五条先生の手伝いをしてるって言ってたけど、具体的にはどんなことをしてるんですか?」

 

 ──しかしその沈黙も長くは続かず、思い出したかのようにふと語る礼司。

 まさか自分に焦点を当てた質問が来るとは思ってもいなかったので、しどろもどろになりながらも説明する伊地知。

 

「わ、私ですか……呪術師が呪霊を狩ることで一般の人々を守っている事はご存じでしょうか?」

 

「はい、夏油が言ってました。猿どもを守るのがどうとかーって」

 

「あはは……我々はフリーで活動しているのではなく、その大本に協会みたいなものがあります。そこから与えられた仕事をこなしていくのが、呪術師です。私のような補助監督は、呪霊の情報を伝えたり、周囲の安全の確認、送迎などをしています。五条さんとは、高専の先輩後輩の間柄にあります」

 

「戦えない人の役割ですよ」と。自虐的に笑う伊地知を受けた礼司。

 

「その、呪術協会? みたいなのは結構しっかりした組織なんですね」

 

「ええ。呪術総監部は古くから一般の人々を呪霊から守っており、情報こそ公開されることはありませんが、政府からも正式に認められています。五条先生が教鞭を振るっている、東京都立呪術高等専門学校もその下部組織です」

 

「俺も今から、その高専? に行くんですか」

 

 首をかしげながら聞いてくる礼司に、否定の意を示す伊地知。

 

「いいえ。基本的には中学校を卒業してからでないと入学できないので、そのまま学校に通ってもらいながら、五条さんの仕事の一部を割り当てることになると思います」

 

「でも、俺夏油に家バレちゃってますよ?」

 

 嫌な沈黙が走る。

 

「そうだった……つかぬ事をお伺いしますが、どのようにして夏油さんから逃げきったのですか?」

 

 冷や汗をかきながら聞いてくる伊地知に、あの男のヤバさを改めて実感した礼司。

 

「術式でブラフを掛けて、油断したところを上空5000mまで吹っ飛ばしました。完全に子供だと舐めていたのか、術式も使わず手加減されていたので何とか」

 

「……その年で夏油さんを出し抜いた時点で天才ですよ。少し羨ましいです。私は、何の役にも立てませんから」

 

 そう自虐的に語る伊地知。しかし、その発言を見逃すことができなかったのか、静かに、それでいて強い口調で語る。

 

「呪術師とか、補助監督とか、俺よく分かんないですけど、何の役にも立てないってのは少し違うと思います。伊地知さんみたいな人が居るから、五条先生も安心して戦えるんだと思いますよ? それに……伊地知さんが居なかったら、おれ寝起きに五条先生と話さなきゃいけないし」

 

「ぷっ! ……失礼しました。ありがとうございます。そう言っていただけるだけ、大分違います」

 

「あのハイテンションは心臓に悪いよ」と呟く姿が様になっていたのか、笑いながら感謝を告げる伊地知。

 

 ──それから少しの間無言になる両者だったが、先ほどと違って伊地知が気まずさを感じることは無かった。

 

 

 

 

 

 

「送ってくれてありがとうございました。あの、これからどんな感じの予定ですか?」

 

「今日はもう遅いので、ひとまずゆっくり休んでください。明日また必要な書類だったりを持ってきますので」

 

 

 

 ──そんなやり取りの後、伊地知と別れた礼司は、そのまま布団へと向かう。

 

「シャワーは……明日でいいや」

 

 ベットサイドにかけてあったパジャマに着替えた礼司は、倒れこむように布団へと入る。

 

「はあ……この年で仕事するようになるなんて、思わなかったなあ……ねえ。父さん、母さん」

 

 ベット横のサイドテーブルに立てかけてある写真に向かって呟く。

 そこには今よりも幼い礼司と、その両隣に笑顔で映っている若い男女が居た。

 他にもアルバムの中に何枚か入っている。毎年礼司の誕生日が来るたびに3人で撮っていた。

 

 ──もう、成長した礼司と両親が一緒の写真に写ることは無い。

 

 

 

「あ、ヤバい……うっ、くっ」

 

 

 

 ────流れ出した涙は、そう簡単に止められるものではなかった。

 

 

 

 

 

「ん……朝か」

 

 泣き疲れてしまったのだろう。気が付いたら朝になっていた礼司は、壁にかけている時計の時間を確認する。

 

「7時か……ちょっと寝坊しちゃったな。サキちゃんに連絡しないと」

 

 そう言ってスマホを取り出して連絡を入れる礼司。

 定期的に学校をサボっているのが功を奏したのか、特に言及されることなくやり過ごせたようだ。

 

「気持ち悪いな……シャワーでも浴びよ」

 

 伊地知との待ち合わせまであと1時間ほどある。それまでの時間をどう潰すか考えて、礼司はとりあえず体を清めることにしたようだ。

 

 

 

 

 

 ──ピンポーン。ピンポーン……ピピピピピピンポーン! 

 

「ああ! もう! うるせえな!」

 

 ベットの上で本を読んでいた礼司は、近所迷惑になるほど呼び鈴を連打したバカに向かって叫ぶ。

 

「もう……今出るってば」

 

 そう言って駆け足で扉を開けた礼司は、目の前に立って居る2人の男性に対してジト目で呟く。

 

「……伊地知さん?」

 

「違います!? ……五条さんが」

 

「あ、やっと出たー。遅いよ。ほら、早くいくよ。時間は有限なんだから」

 

「遅くねえだろ……」

 

 今時小学生でもやらない事を平気でするこの教育者に、呆れたように呟く礼司。

 

「もう準備できてるよ。どうすればいいの?」

 

「んーとりあえず。君の保護者に電話できる?」

 

「……分かった」

 

 

 

 

 

「──いやー。今までクズな人間たくさん見てきたけど、君のおじさんも引けを取らないくらい清々しいクズだったね」

 

 携帯を投げ渡してきた五条は、面白そうに腹を抱えている。

 

「……笑いすぎですよ五条さん。私も概ね同意ですけど」

 

 あの温厚な伊地知も珍しく腹を立てている。

 

「もともと兄弟仲悪かったみたいだから、その息子となればしょうがないよ」

 

「それでも金と家だけ与えて放逐て。呪術師の子の親はロクでもない奴多いよねー。恵も似たようなもんだし」

 

 とある男を思い浮かべながら、道に落ちた吐しゃ物でも見るような顔をする五条。よほどその男が嫌いらしい。

 

「いや誰だよ……って恵?」

 

「うん。君とおんなじくらいの呪術師の卵だよ。僕と同じ御三家の血を継いでいて、噂によれば10億円で父親に売られたみたいだよ」

 

「叔父さんよりよっぽどクソじゃん……」

 

 そうぼやいてベッドの上に座る礼司。

 

「ってか。この埃っぽい家から早く出ない? 虫とか出そうでキモいし」

 

「……掃除はちゃんとしてるぞ。1人で住む分には落ち着くし」

 

「やっぱデリカシーねえわコイツ」と、出会って2日目にしてもう呆れられている五条だったが、本気になった彼を見くびらない方がいい。

 

 

 

「──じゃ、引っ越すよ。君の術式便利そうだし、全部そこに入れて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ねえ。五条先生?」

 

「んー。どしたー?」

 

 伊地知が運転する車の後部座席に乗った礼司は、何か言いたいことがあるのか、抗議するように訴える。

 

「俺言ったよね。術式で作った異空間に物入れると疲れるって」

 

「うん。言ったね」

 

「車に乗る荷物くらい、出しても良くない?」

 

 顔を青くしながら座席に寄りかかる礼司。

 しかしこの五条悟はそれを気にするような男ではない。

 

「え、やだ。僕足長いからモノ置かれると不快なんだよね。修行にもなるし、そのままでいてよ。そう! グレートティーチャー五条の生徒を思っての気遣いだよ」

 

「絶対後付けだろお前……!」

 

 恨めしそうに睨む礼司を、面白そうに手を叩いて笑う五条。

 この状態で1時間ほど車に揺られていた礼司は。新居に着くなりゲロをぶちまけたそうな。

 

 

 

 

 

「──仮にも新築の家だよ? 入るなりトイレに行ってゲロ吐くって、ちょーっと酷いと思わない?」

 

 げんなりした様子でトイレから出て来る礼司を、呆れたように見つめる五条。

 

「はあ、はぁ。お前のせいだよ! ……てか、新築?」

 

 出すものを出して余裕ができたのか、部屋の中を見渡す礼司。

 間取りは2LDK。地上50階近くあるマンションで、家具や家電もかなり質の良いモノがそろっている。

 

「五条先生の部屋じゃないの?」

 

「なーに言ってんの? これ、君の部屋だよ」

 

 

 

「────は?」

 

 

 

「君には僕の仕事の中で簡単なモノをしてもらうからね。これくらいは出世払いさ」

「高専にはまだ入れないから、近くの公立の小学校の入学届けも出したから、夏休み明けくらいまでは特訓して、そっから登校してね。彼女とか連れ込んでもいいけど、呪術師やってるのバレないようにしてよ?」

「あ! このソファいいでしょ? 僕が使ってるブランドのなんだ。値段は……80万くらいだったかな?」

「ほかにも家具家電は僕と同じモノ! 高いから壊しちゃだめだよー」

「マンションは賃貸契約だから、死んだら解約しちゃうから死なないでね?」

 

 ──何も聞こえない。何も聞きたくない。家賃だけでなんか月50万くらいするとか言ってたけど聞きたくない。

 てか、意味わかんないし。家賃だけで俺の月に使ってる生活費の10倍くらいあるし。友達の家で飯食わせてもらってたのがバカみたいじゃん。

 

「お小遣いいくらくらい欲しい? 月100万じゃ流石に足りないか。まあ最初はそんなもんにして、出来高制でどんどん上げてくから我慢して。ってあれ?」

 

「……きゅう」

 

「……おーい。生きてるー?」

 

 余りに住む世界の違う光景に、礼司が目をまわしてしまうのも無理は無かった。

 

 

 

 

 

「やだ! 俺元の家に帰る!」

 

「何でよー。せっかく過ごしやすい環境用意したのにー」

 

「なおさら質悪いわ!? 俺が今までどんな生活送ってきたと思ってるんだよ!」

 

 玄関に走って外に出ようとする礼司の襟首を掴んで止める五条。

 傍から見れば、駄々をこねる弟と兄のようにも見える。

 

「てか、今でも君準一級くらいあるでしょ? そのくらいの術師が、2、3年間地域の呪霊払い続けてきたんだから、これくらいの報酬貰っても少ない方だよ。それに特級呪師になったら、文字通り桁が違うお給料もらえるんだよ?」

 

「……俺が特級術師になれるって、本気で思ってるの?」

 

 首輪を掴まれた猫の様な体勢で聞く礼司。

 昨日戦った夏油という術師との圧倒的な差を感じ、自身がそこまで至れると思っている五条に驚いているようだ。

 

「当たり前じゃん。だって、君僕にすっごい似てるからね。いろんな所が」

 

「……なんか複雑な気分。分かったよ。抵抗しないから、降ろして」

 

 大理石の床に立った礼司は、部屋を隅々まで見渡して一人呟く。

 

(本当に借りてきた猫みたい。ウケる)

 

「今日からここで暮らすのかぁ……掃除大変だな」

 

「彼女でも連れてきて掃除させればいいじゃん。君、結構仲いい女の子いっぱい居たんでしょ?」

 

「言い方! ……てか、何で知ってんの?」

 

 自分の交友関係まで詳しく知っているこの男に、戦慄を覚えながら聞く礼司。

 

(呪術師ってこんなことまで調べられるんだ……こっわ)

 

 恐らく呪術の謎パワーで調べたと思ってる礼司だが、五条はひらひらと懐から何かを取り出した。

 

「いくら一人暮らしだからと言って、スマホのロック位かけなきゃだめだよ?」

 

「俺のスマホじゃねえか! ふざけんなよお前!?」

 

 奪い返そうと飛び掛かる礼司だったが、ひらりひらりと交わしながらスマホを流し見る五条。

 

「うわーモテモテじゃん。今日学校休んだだけで10件くらい連絡来てるよ? 真面目そーな性格しといて、実は意外とチャラ男だったりする?」

 

「うるせえな! あんま見るなよ人のスマホ!」

 

 40センチ近い身長差がある2人。五条がスマホを上げるだけで礼司は手が届かない。

 

「てか、今彼女いないの? いるんだったら早めにフッといた方がいいんじゃない?」

 

「だから言い方! ……別に、そういう雰囲気の子が居ないわけじゃないけど」

 

 言い淀む礼司に続きを催促する五条。

 

「けど?」

 

「あの化け物……呪霊を祓う中で何回も死にかけたから。もし俺が死んだら可哀そうかなって。後あんまり踏み込んできてほしくなかったし」

 

「うわ―罪な男の子……呪霊から逃げようとは思わなかったの?」

 

 茶化す五条だが、そのノリも潜めて真面目に質問する。

 雰囲気の変化を機敏に感じ取ったのか、礼司もちゃんと答えるようだ。

 

「いや。あいつらほっとくと人襲うじゃん……俺の親も呪霊に殺されたし、周りに頼れる人もいなかった。だったら俺がやるしかないじゃん?」

 

「……傑と同じこと言ってるし。僕とあいつに似てるとか、将来相当クズになるぞー?」

 

「自覚あるのかよ……」

 

 呆れたように呟く礼司。この目隠し男は無自覚に人を煽っていたわけじゃなく、ちゃんと自覚があったらしい。

 

「まーでも、よーくわかった。

 

 

 

 ──君、呪術師向いてないよ」

 

 あっけらかんと言い放った五条。先ほどまでの礼司の可能性を大きく語っていた男と同一人物とは思えない。

 

「……どういう事? 才能あるって言ってくれたじゃん」

 

 少し拗ねたように言い放つ礼司。何だかんだ言っておきながらも、自分の努力や才能が認められてうれしかったのだろう。

 そんな子供らしさに微笑ましさを感じながらも、五条は指を立てて答える。

 

「呪術師はね、イカれた人間じゃないと務まらない仕事なんだよ。モチベだって他人の為じゃなくて、お金が欲しいとか、強い奴と戦いたいとか、ムカつく上層部の奴らを駆逐したいとか……その点において、君はちょっと()()()()()()よ。なに昨日の言葉? 『呪術師になれば、いっぱい人を幸せにできるかな?』って。正義のヒーローみたいに言っちゃって」

 

「親の遺言なんだよ。『なるべく多くの人を幸せにして、幸せに生きてくれ』って。常識人の呪術師が居て悪いかよ」

 

 一言一句覚えて完璧なモノマネを披露した五条に、苛立ちを感じながらも反論する礼司。

 

「……なおのこと悪いね。遺言なんかに従ってちゃ、死ぬとき後悔するよ? 呪術師はロクな死に方しないって有名なんだから」

 

「……」

 

 バツの悪そうにそっぽを向く礼司。夏油も同じことを言っていた。

 そんな彼の肩を掴み、腰を下ろして目線を合わせる五条。

 

「だーかーら君を鍛えるんだ。中途半端な奴に負ける事無いように、ね。最強の指導は、チョーっとばっかし高くつくよ。礼司君はついてこれるかな?」

 

 子供に言い聞かせるように話す五条に、礼司は一歩下がって、改めて頭を下げる。

 

「……分かった。よろしくお願いします。五条先生」

 

「よろしい。今日はゆっくり休みな。明日から特訓が始まるんだから」

 

 そう得意げに語った五条。子供っぽくていたずらが好きな、手放しでは尊敬できない大人だけど、それでも信頼できる人なんだと理解した礼司。

 彼の周りには、頼れるほど信頼に足る大人はそんな多くは無かった。両親は幼い頃殺され、親戚に頼れる人もいなかった。

 

「……先生」

 

「ん?」

 

「──ありがとう」

 

 

 

 ────そんな彼の前に現れたこの『最強』は、少しではあるが確かに……確かに礼司の凍り付いた心を溶かしたのだろう。

 

 

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういえばなんだけどさ」

 

「うん、なに?」

 

「なんで俺、前の家から荷物持ってこさせられたの?」

 

「え、おもろいから。それ以外なくね? 早く捨ててよそのボロい家電」

 

「…………後で絶対泣かせてやる」

 

 

 

努力する理由が1つ増えた礼司であった。

 

 




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