術式がドラ〇もんの道具で説明できるんだが?   作:妄想癖のメアリー

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礼司視点→三人称視点です。


襲撃

 

 

 

 咄嗟に姿勢を低くしたおかげで何とかなったが、この辺り一面の森は吹き飛んでしまった。今の術式が使えない俺にはこいつの相手は厳しい。せめて得物か何かがあれば話は変わるのだが。

 

「何でテメェがここにいるんだよ」

 

「……」

 

 そんな俺の質問も目の前の呪霊は答えない。呪霊にコミュニケーションを図るなんて滑稽にも見えるだろう。しかし、残念なことに俺はこいつに見覚えがあった。

 

「何とか言ったらどうなんだよ。天狗野郎」

 

「……私には八手という名がある」

 

「知るか」

 

 そう。一か月ほど前に俺を襲撃してきた三体の呪霊、その一体である。こいつが居ると言う事は、恐らくあの火山頭と雑草野郎も来ていると考えた方が良いだろう……不味いな。学生の皆が戦っていい相手じゃない。早く向かわないと。

 

「どこへ向かうつもりだ?」

 

「ッチ!」

 

 俺が背を向けた瞬間。先ほどの広い範囲を吹き飛ばす風ではなく、鎌鼬の様な鋭い風を放ってくる。なるほど、こいつが周りの木を吹っ飛ばしたのは、俺に逃げ道を作らせないためだ。だがその割には、他の二体がこちらに来る気配がない。となると……

 

()()()()。俺の」

 

「ふん……」

 

 あくまで話すつもりはないと。クール気取りやがって。

 

「悪いが後がつかえてるんだ。お前に構ってる暇はねぇんだよ!」

 

 右手に呪力を込め放出する。やってることはメカ丸の時と同じだが、今回の場合は威力が段違いだ。多量の呪力を、小さく圧縮し放出。術式も使っていないお粗末な技だが、俺の呪力操作で行うと特級にも通じる武器になる。

 

「……よく人の身で、ここまでの呪力操作を」

 

「あんま舐めてかかると痛い目見るぜ?」

 

「そんな油断はしない。お前の強さは前回でよく分かっている」

 

「そりゃどうも!」

 

 その声をきっかけに、本格的な攻防が始まった。現状俺が出来るのは二つ、近接戦闘と呪力弾による攻撃。正直こいつの他にも来ていると考えると、()()()と領域展開を使うための呪力を残しておきたいため、呪力弾については多用できない。

 先ほどから落ちている帳も含め、恐らくは相当計画的に練られた犯行だ。だとすると目的は何だ? 俺、五条先生の抹殺ではないとして……

 

「よそ見は感心しないな」

 

「っぐ!?」

 

 天狗野郎の鎌鼬が高速で飛んでくる。一度に何個も飛ばすことができるのか、俺の逃げ道を潰すように放ってきている。

 何とか拳で受けることができたが、手にはパックリと裂傷が出来てしまった。すぐさま反転術式で治療する俺を見て、天狗野郎は感心したように呟いた。

 

「……つくづく規格外だ。コレをまともに食らえば、花御でもタダでは済まないというのに」

 

「じゃあ、それを何発も飛ばせるお前は一体何なんだよ」

 

 そんな俺の問いかけは、同じような攻撃で返ってきた。地面から1m程の高さに浮いているこいつだが、俺を一切近寄らせる気がない。

 ────しかし、そうなると1つ疑問が生まれて来る。どうして上空で戦わないのか。

 

「なるほどな。お前、五条先生の攻撃を警戒してんだろ?」

 

「……!」

 

 一瞬だが動揺が走ったな。当たりだ。つまり、俺の目標は五条先生が帳を破るまで、こいつをここに張り付けて置くことに変わったってわけだ。

 

「じゃあやりやすい……なっ!」

 

 俺はもう一度右手に呪力を込め、それを放出する。弾丸の速度を優に超えたその砲撃には、()()()()()()()()()が込められている。

 

「今更こんなもの……! 何だと!?」

 

 左手で呪力弾を払った天狗野郎が、苦悶の声を上げる。そりゃ痛いだろう。なぜならそれには正の呪力が込められているんだからな。

 

「ッチ!」

 

 ザンッと、自らの左手を切り落とした天狗野郎。察しが良いな、あのまま放置していたら恐らく体がグズグズになって死んでいただろう。

 

「どうした? 俺はいくらでもぶっ放せるぞ?」

 

「っクソ!」

 

 そう言って右手に呪力を込めると、焦ったように不規則な軌道で距離を詰めてくる。といってもそんなバコスコ使う気は無いんだが。

 通常の呪力と違い正の呪力は、調整が難しく呪力の消費が激しい。だから呪力弾の生成にも時間がかかる。俺がこんな技を見せたのは、こいつが距離を詰めざるをえない状況にするためだ。

 

「良いのか! わざわざ距離詰めちまってよ。俺は今すぐ領域でぶっ殺してもいいんだぜ?」

 

「ふん……貴様は今、術式を使うことが出来ないんだろう? あの厄介な刀を出してこないんだからな」

 

 まあ、流石に気が付くか。と言っても好都合、このまま近接戦闘で畳みかける。

 

「フッ!」

 

 天狗野郎が右手に持った扇子で攻撃を仕掛けて来る。速度、重さ共に今までの呪霊とはわけが違う。いくら呪力で強化したところで、当たり所が悪ければ大けがだ。

 それを左手で逸らし、がら空きになった胴体にボディブローを入れる。

 

「っぐ……」

 

「硬いな」

 

 恐らく、食らう直前に空気を操作して威力を弱めたんだろう。かなり本気で打ったが、そこまでダメージが入ったようには思えない。厄介だな、呪力で空気を操る術式か。

 返しの蹴りを避け、一度距離を取る。詰められる距離に引く辺り、こいつも近距離で仕留めたいと思っているようだな。

 

「本当は足止めのつもりだったが、今のうちに仕留めておいた方が得策だろう」

 

 手に持った扇子をしまい、腰を落とし拳を構える天狗野郎。なんだ? 鎌鼬のアドバンテージを自ら捨てに行ったのか……? 

 

「俺の術式は、呪力で満たした空気を自在に操る。範囲を絞れば、先ほどと同じように斬撃を飛ばすこともできる。そして、気流を発生させることにより、こういう事もできる」

 

 術式開示と共に、先ほどとは段違いの速度で突っ込んでくる。

 

「ジェット噴射か! 器用なことするな!」

 

「効果範囲は俺の呪力が蔓延している空間全て。お前の術式と相性が良い俺に任されたが、どうやら杞憂に終わったようだ」

 

 近接では俺の方が有利だと判断したが、どうやら認識を改めなければいけないらしい。

 呪霊術師共に打撃を行う際は、その部位に呪力が流れる。他の術師より、呪力を認識する能力に長けた俺は、五条先生を除いて近接で負けたことがない。だがこいつの術式が加速を行うため、認識する前に打撃が飛んでくる。

 

「二度戦ったが、お前の脅威は術式ではなく、その適応能力の高さだ。たった数回の攻防で、もう俺の術式に慣れてきている」

 

「上から目線で……もう勝った気でいるつもりか?」

 

「ふん……この出力を見てなお言えるか見ものだな」

 

 先ほどよりも速い速度で攻撃を仕掛けて来る。こいつ、セーブした力に俺が慣れるまで待っていやがったな? 

 しょうがない、一度距離を取って立て直すか。

 

「だろうな。そうすると思っていたよ」

 

 それと同時に、4本の風の刃が俺に向かって飛んでくる。こいつ扇子が無くても打てるのかよ! 

 

「ッチ! やりづらいったらありゃしねぇ」

 

 打点をずらした為、致命傷は免れた。しかし、わき腹と左腕が深く抉られてしまった。反転術式で治療を行うが、近距離でも中距離でも分が悪いな。

 

「術式無しでよく戦った。これで最後にしてやる」

 

「クソが……」

 

 ────その時、距離を詰めようとしていた天狗野郎の動きが止まる。声が聞こえてこなかった為呪言ではない。そうなるとこの術式は……

 

「礼司!」

 

「菜々子!? どうして逃げなかった!」

 

 俺の斜め後ろには、スマホのカメラを構えた菜々子が居た。普通だったら木々に邪魔をされて写すことが出来ないが、天狗野郎がここら一体の木を吹き飛ばしたことが仇になったのだろう。

 

「うっさい! これ、真希先輩からアンタに!」

 

 菜々子が腰から何かを取り出し、俺に向かって投擲する。それは俺が少し前に真希ちゃんに貸した刀だった。

 

「ナイスタイミング! 愛してるぜ! 二人とも!」

 

「こういう時だけ調子乗んな! 私は逃げるから、死ぬんじゃないわよ礼司!」

 

「逃がすと思うか!」

 

 そのまま走り出した菜々子に向かって、攻撃する天狗野郎。しかし、コレがあるなら俺の勝ちだ。

 一瞬で射線上に移動し、真正面から風を切りつける。そのまま切断された呪力の塊は、おれを避けるようにして左右に着弾した。

 

「何!?」

 

「さぁ、第二ラウンドだ! かかってこいクソ野郎!」

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 ガン、ガン、と辺りには硬い金属のようなものがぶつかる音が鳴り響いている。礼司が刀を受け取ってから数分、着実に形勢は礼司の方へと傾きつつあった。

 

(しくじった……! 刀一本でここまで変わるとは!)

 

「その動きにももう慣れてきたぜ!」

 

 八手の扇子を使った殴打にも、刀を使って逸らすことで回避する礼司。そのまま彼は返す刀で八手の右腕を切り裂いた。呪霊、しかも夏油に、『宿儺の指10本以上の実力は確実にある』と評価された八手にとって、再生することは容易のはず。しかし、この刀はただの呪具ではない。

 

(しかもこの純白の刀、切り付けられたところが上手く再生しない! これはまさか……!)

 

「やっと気が付いたか、これは『次元剣』と同じ、俺の異空間を抽出して形作った刀だ。呪力で操作できない縛りを加え、術式が発動していなくても顕現できるようにしている」

 

「……術式の開示か」

 

 縛りによるバフより、その性能について聞いておいた方が益があると判断したのだろう。八手は攻撃の手を止め、刀を回しながら説明する礼司へと向く。

 

「お前が気になっているのは、恐らくその傷についてだろう?」

 

 八手は自身の右腕を見る。すでに再生しているが、切断された場所からは煙が上がっている。舌打ちをしながらさする八手を尻目に、礼司は刀についての説明を続ける。

 

「この刀は、呪力をスポンジのように吸収し、長い期間そこにとどまるようになっている。俺は、さっきお前に撃った正の呪力をここに込めている。傷の直りが遅いのはそれが原因だ」

 

「……なるほどな。俺の術式がいとも簡単に切断されたのも、それが原因か」

 

「ご名答」

 

 もう話すことは無いと、刀を下に構える礼司。それを見て自嘲するように笑った八手。

 

「……まさか、ここまでの実力差があるとはな。五条悟がこれ以上だとしたら、つくづく不公平な勝負だ」

 

「何が言いたい」

 

 警戒を怠らず、言葉を発する礼司。目の前の呪霊から発せられた雰囲気が、確かに変化した。

 

「だが、俺は自ら、そして仲間の夢の為に、刺し違えてでも貴様を殺す。────領域展開」

 

 八手は力強く宣言した後、両手を合わせ掌印を組んだ。

 

「させるか……っぐ!?」

 

 両手を切り落とそうとした礼司だが、突風によって後ろへ吹き飛ばされてしまう。

 

「(恐らく……俺は五条悟によって祓われる。だから皆、後は頼んだぞ)────『狂飆牟礼(きょうひょうむれい)』」

 

 ────辺り一面が、山の様に盛り上がった大地に覆われた。

 

 

 

「……しくじったな。まさかまだ領域を使う余裕があったなんて」

 

 辺り一面を覆う濃密な呪力を感じながら、冷や汗を流す礼司。

 

 八手の領域『狂飆牟礼(きょうひょうむれい)』は、漏瑚の領域である『蓋棺鉄囲山』とよく似ている。術式のベースとなる風を操る能力を、一切の制限なく使用することができ、その攻撃は必中となる。並みの術師なら、領域に入った瞬間風によって体が四散するが、礼司は呪力で攻撃をガードして事なきを得ていた。

 

「このままお前の呪力切れを待ってもいいが、そんな悠長な時間は無い。一撃で終わらせてやる」

 

「ッチ! シン・陰流『簡易領域』」

 

 シン・陰流『簡易領域』。平安時代、蘆屋貞綱という人物を起源とする術式は、門下生を凶悪な呪詛師から守るため、弱者の領域として考案された。

 門外不出という縛りを結び、その対価として効果を跳ね上げたその術式は、本来であればシン・陰流の門下生でないと習得することは出来ない。しかし、『次代の最強』と呼ばれ、他の追随を許さない呪力操作を行える礼司は、一度見た技を、記憶から引っ張り出したのだ。

 

「今更何をやっても無駄だ! 貴様は、俺がここで殺す!」

 

 背後に莫大な呪力を込め構える八手。そしてその呪力を爆発させ、轟音を立てながら突進する。その速度はマッハ3を優に超えていた。

 

「技借りるぜ霞ちゃん! 『抜刀』」

 

 

 

 ────その純白の一閃は、全てを置き去りにした。

 

 

 

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