術式がドラ〇もんの道具で説明できるんだが? 作:妄想癖のメアリー
「……終わったか」
領域を解き、辺り一面がすっかり更地となってしまった会場を見て八手は呟いた。
少し遠くを見れば、友軍である花御が他の術師と戦っているのが見える。五条悟と天鳳礼司以外、そこまで警戒しなくても良いと夏油は言っていたが、花御の呪力の消耗を見る限り苦戦を強いられている様子だった。
あの花御があそこまで追い詰められている事実に冷や汗を流しながら、八手は援助へ向かおうと地面を踏みしめる。
「っ!? ……がっ!!」
そして今飛び立とうとした瞬間、背中に何かが刺さったような感覚と衝撃が襲ってきた。
「おいおい。勝手に終わらせてんじゃねえよ」
嫌になるほど聞き覚えのあるその声に、八手は大急ぎで距離を取る。振り返ると、そこには制服をボロボロにし、上裸で空中に佇む礼司の姿があった。
生きている事もそうだが、八手にはもう一つ気がかりなことがあった。
「貴様……何故術式が使用できる」
そう。先ほど八手に攻撃をしたのは、何時ぞの次元剣。礼司の術式『無次元呪術』によるものだ。今まで全く術式を使ってこなかったため、ここに来て突然それを使用したことに違和感を覚える八手。
そんな八手の質問に対し、礼司は右手をプラプラとさせながら飄々と語った。
「お前が壊してくれたんだよ。俺の右手についていた呪具をね」
と言っても、そこにはあるべきものが無く、右手首から先は原型が全く残っていなかった。残っている右腕も、右半身共々傷だらけになっている。
「なるほどな。貴様がわざわざ俺の領域を真正面から受け止めたのは、それを破壊するためだったか。……だが随分と余裕だな? 俺の術式ももうじき回復する。死に体の貴様に負けるほど落ちぶれたつもりはないぞ」
「随分と饒舌に語るね。この帳ももうすぐ五条先生に破られるけど、そんなに悠長にしてる暇はあるのかな?」
「じきにわかることだ」
八手がそう語り終えるとほぼ同時。礼司は術式で作った足場を駆ける。しかし対峙している八手に向かってではなく、むしろ全く反対の方向へと向かった。
礼司の背中に向かって回復した術式で攻撃する八手だったが、振り向くことすらなく防がれてしまう。
そして八手の呪力範囲外に移動した礼司は、ポータルを使って瞬く間に姿を消した。
「花御の方へと向かったか!」
花御では術式が回復した礼司に勝つことは不可能。そう考えた八手は、術式を使用しトップスピードで追いかける。
次代の最強と特級呪霊たちの戦いは、今まさに第二ラウンドを迎えるところだった。
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「お疲れ二人とも。今どんな状況?」
ポータルをくぐった先にいたのは、雑草野郎と対峙する葵と悠仁の2人。
「礼司!? ……っ! お前、それ……」
突然飛び出てきた俺に驚いた悠仁だが、欠損した右手首を見た悠仁が心配そうに声を上げた。
「ああ大丈夫。後で治せるから」
1対3で闇雲に攻撃をするのは不利と考えたのか、雑草野郎は特にアクションを起こさずこちらを静観している。
コイツは知らないのだろう。この状況下で、俺にとって味方は足手纏いになってしまうということを。
「そういう問題じゃ!」
優しさゆえかそれでも声を荒げる悠仁。しかし、天狗野郎が戻ってくる前に2人を避難させておきたい。
「ごめん。今は話してる余裕ないんだ。葵」
「……ッチ、潮時か。下がるぞブラザー」
俺の呼びかけに答えた葵は、構えを引いて俺の後ろに下がる。……って、ブラザー?
「どういうことだよ東堂! 礼司も! そんな怪我で……ってうわっ!?」
埒が明かないので2人の足元にポータルを開く。何か言いたげだったが、ポータルを閉じることで強制的に遮った。
それと同時に、轟音を鳴らしながら天狗野郎が雑草野郎の隣に着地する。
「大丈夫か。花御」
『……ええ。かなりダメージはありますが、どれも致命的ではありません』
「火山頭はお留守番か?」
目の前で問答をする呪霊たちに対してそう質問する。
「漏瑚は留守番だ。精霊に近い俺たちと違って、あいつは天元の結界を突破することが出来ないからな」
数回のやり取りと、皆の状態によってこいつらの狙いがある程度分かってきた。こいつらがこんな無謀な突撃をしてきた理由だ。
俺を殺すことはサブクエみたいなもんだろう。あいつの領域は完全に俺を殺すつもりで出したもの、それは間違いない。土壇場で簡易領域を出し、呪力による保護を頭と左半身に抑えたため何とかなった。
刀が無かったら俺の体は木っ端みじんに吹き飛んでいた事だろう。菜々子たちには感謝しないとね。あと技をパクらせてもらった霞ちゃんにも。
確かに術式が使えない状況は、相手にとって絶好のチャンスではあった。
しかしアレは五条先生の気まぐれだ。情報が漏れたってこともないだろうし、襲撃するなら別の場所。それこそ火山頭と3体で攻めて来るべきだ。今は足止め食らってるけど、五条先生も居るからね……となると。
「やっぱり高専の呪物か? 例えば……宿儺の指とか」
「……答えるつもりはない」
おっけ、確信した。
こいつらやっぱ呪物回収が目的だ。まあきな臭いとは思ってたんだよね。1000年ぶりの両面宿儺の受肉もそうだし、この前悠仁たちが派遣された少年院に
さらにこのレベルの特級呪霊が複数徒党を組んでの行動。それも高専の内部について詳しくないとできない芸当だ。こいつらは、
「あっそ。じゃあいいけど。そろそろ死んでもらうよ」
そう言うと同時に身構える呪霊たち。弱っている雑草はともかく、天狗野郎はまだそこそこ呪力を残している。特級たちの中でも頭一つ抜けているこいつだが、特に呪力量は恐ろしいほど多い。これだけだと五条先生と並ぶかもしれない。
対して俺は片手が無いため掌印が結べない。領域を出されたらポータルも出せず詰むだろう。ここで五条先生の援助を待ってもいいけど……俺今ちょっと腹立ってんだよね。コイツにも、五条先生にも。
次元剣を取り出し、地面に一撃を放つ。
たった1本の剣とは思えない重厚な音と、黒い稲妻が辺りに散らされる。
丹田から溢れていた黒い感情が、それを期に一気に引いてゆき、思考がクリアになるのを強く感じる。
「俺のポータルは、1つの座標を生得領域である異空間に接続、そこを経由して出口を別の座標に作る。その異空間の距離を0に設定することにより、体感では一瞬にして移動したようになる。つまり、異空間の距離を伸ばすことも可能という訳だ」
2体から距離を取り、上空に足場を作る。天狗野郎の術式範囲内のためポータルは開けないが、さしたる問題ではない。
「そして次元剣には1つの弱点がある。それは抽出してから加速するまでにそこそこの時間を要すること。その加速度は次元剣の体積に比例する。だが逆を言えば、こいつは呪力と空間さえあれば無限に加速し続ける」
術式順転、術式反転それぞれの術式開示を行い、バフをかける。
「つまりポータルさえあれば、異空間を通すことでたった1mmの隙間でも、理論上は無限に加速させて射出することも可能ってことだ」
「させるか!」
最後の言葉で、俺が何をしようとしているのかを理解した天狗野郎。術式による鎌鼬を飛ばしてくるが、術式によって弾かれる。
それを見て遠距離は無理と考えたのか、雑草は足場を作り、天狗野郎は猛スピードで突撃してきたが、残念ながらもう手遅れだ。
「『開け』」
「!? っがぁ!」
流石に呪力消費が激しいため、掌印と呪詞を忘れずに行う。
直径3m程のポータルを開きそれを上空10㎞ほどと接続、呪霊たちと呪力で蔓延した空間を気圧差で根こそぎ吸い取る。吸い込まれる前に破壊されてしまったが、あいつの呪力は毛ほどもこの場に残っていない。
そしてポータルを自分と、体勢を崩した呪霊たちの間に展開。今もなお異空間内で加速し続けている次元剣の軌道上にポータルを展開する。
地球に激突する隕石とほぼ同じ速度。秒速10㎞ほどの速度で次元剣を放つこの技は、ポータルから放出された際の空気抵抗で発火し、赤い尾を放つことからこう名付けられた。
「次元剣『彗』」