術式がドラ〇もんの道具で説明できるんだが? 作:妄想癖のメアリー
「うわっ!? ……礼司! ……くそっ、あいつ1人で!」
時は少し遡り、虎杖と東堂が礼司のポータルによって帳の外に追い出された直後。
特級呪霊たちが放つ膨大な呪力を目印に、元居た場所に戻ろうとする虎杖だったが、その背中に待ったをかけるものが居た。
「やめておけ」
「東堂! 何で止めるんだよ! いくら礼司が強くても、あんな奴2体も相手にできるわけないだろ!」
先ほど2人がかり、それも特級呪具を使用してやっと勝負になっていた花御と、それ以上の実力を持っているであろう八手。そんな2体を相手にたった1人、それも右手首が吹き飛んでいる状況で戦えるわけがないと言う虎杖。
しかし東堂も見捨てているという訳ではなく、むしろ全く逆の意味での行動だ。
「邪魔になるからだ」
「……は? 邪魔になるって、誰の?」
「礼司のだ」
虎杖は礼司の実力を知らない。伏黒や五条から散々強いとは聞いてきたが、それでも彼は一緒に特訓している姿しか礼司の戦闘を見ていないのだ。
しかし東堂たち……虎杖と釘崎以外の全ての学生は知っている。天鳳礼司という男の、その規格外の才能を。
そのとき、目の前の黒い幕が音を立てて崩れる。
「帳が! あれは……五条先生!」
足止めを食らっていた五条が、帳を破った瞬間だった。
術式によって宙へ浮かび、アイマスクを外して全体を見下ろしている五条。その目線の先には、今まさに術式を行使しようとする礼司の姿があった。
それを見て何を思ったのかは定かではないが、五条は安心した様子でアイマスクを戻した。
「いやー。鍵かけっぱなしだって気づいたときは焦ったけど、歌姫が鍵を持ってく前に決着つきそうだね。2人とも、怪我はない?」
「俺たちの前に、まずアンタの一番弟子の心配をしてやれ。右手首から先が消し飛んでいたぞ」
「あららー、大分無理させちゃったね。ま、礼司なら大丈夫でしょ」
東堂の報告を聞いてもなお飄々と語る五条。
虎杖が声を荒げようとしたそのとき、轟音と共に辺りに強風が吹き荒れた。
「皆初めて見るんじゃない? 僕の一番弟子の本気」
『生徒』ではなく『一番弟子』という辺り、その他生徒との関係性の違いが分かる発言だ。
そして五条が指を指した先には、空中に佇む礼司の姿があった。
「『次代の最強』と名高い術師の本気をね」
瞬間。隕石が降ってきたと勘違いしてしまうほどの衝撃と轟音が、辺り一面に響き渡った。
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「懐かしいな礼司。お前とこうやって話すのは、お前の入学を許可したとき以来か」
「……はい。すいません」
時は戦闘が終わってから少し過ぎ、少し羽目を外しすぎてしまった俺はいつかのように夜蛾さんに説教を食らっていた。
「帳の範囲内だけでなく、グラウンドや校舎にまで被害が出ている。夏季休暇中だったから良かったが、業者が来るまで立ち入り禁止だ」
大分抑えめにしたんだけど……やっぱり感情が昂ると調整が甘くなるみたいだ。実戦でほとんど使ったことがない技だったっていうのもあるだろうけど。
夜蛾さんがいうことはご尤もだ。むやみやたらに大技をぶっ放したら、もしかしたら被害が出ていたかもしれない。
「その辺にしておいたらどうですか学長。今回のMVPは礼司君ですよ」
何も言い返せずに下を向いていた俺に、冥冥さんが助け舟を出してくれた。
「……そうだな。ご苦労だった。生徒達が心配している。顔を見せてきてやれ」
「はい! ありがとうございます!」
「お、じゃあ僕も行ってこようか「お前は駄目だ。悟」えー」
やり取りをしている最中ずっと正座をさせられていた五条先生が嬉しそうに立ち上がるが、夜蛾さんのげんこつによってその場に押さえつけられる。
先生も無下限を解いている辺り、反省はしているのだろう。
その様子を見て少し腹の虫がおさまった俺は、冥冥さんに一礼をしその場から退出した。
「はぁ……交流会の続きもキツそうだなー」
元はと言えば俺が校舎をぶっ壊したせいなのだが、ぼやかずにはいられなかった。
モヤっとした感情を持ちながら、俺はとある地点を目標にポータルを開いた。
「……いや、やめとくか」
たまには歩いて行こう。
そうしてボロボロになった校舎を避け、数分程歩いて向かったのは医務室がある棟。ここはギリギリ倒壊範囲外だったようだ。
「何アンタ。酔ってたの?」
「釘崎はあの状況で俺が酒を飲みかねないと思ってるの? ショックなんだけど……」
廊下を1人歩いていると、部屋の中から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
3回ノックをすると、部屋から恵のけだるげな返事が返ってきたため入室する。
「お、礼司じゃん。もうお説教終わったの?」
「うん。冥冥さんのおかげでね。ピザ貰うね」
お、うまコレ。疲れた体にはちょい重いけど。
「……お前、相当無茶したらしいな」
もぐもぐとピザを噛んでいると、恵がこちらをじっと見てそう聞いてきた。
「んー? 別にそうでもないよ」
「嘘つくな。右手が丸々消し飛んでたらしいじゃねえか」
いや一応反転術式で治せるし……って、そういう意味で言ってないか。
「あの場であいつらを止められるのは俺だけだよ。五条先生がいつ帳を破れるかも分かんなかったし、それでいて祓えそうだったから祓った。それだけだよ」
「新技だったんだよねー」と続けて語ると、恵はどこか納得したような様子で小さく呟いた。
「お前も虎杖も、強くなったんだな」
「おう! 礼司にきっちりしごかれたからな。黒閃も決めたし!」
マジ? スゲーじゃん悠仁! そりゃああの雑草も死に体になるはずだ。
悠仁の体術は折り紙つき。呪力の扱いも大分うまくなってきた上で黒閃まで決めたとなれば、準一級……いや、一級相当の実力を持ってるかもしれない。
「俺は……あの場に居ながら何もできなかった。少年院の時も合わせて、二度もだ」
拳を強く握りしめながら、恵は悠仁に問いかけた。
「あの時、俺たちそれぞれの真実が正しい。そう言ったよな。……その通りだと思う。だが、逆を言えば俺たちは2人とも間違っている」
「人を助ける理由なんて千差万別。そして、それに100%の正解なんてないよ恵」
「そうだな。後は納得できるかどうかだ」
そう呟き、続けて語る恵。先ほどとは違い、どこか強い意志が込められた口調だった。
「俺は強くなる。弱い術師は我を通せない。お前ら2人もすぐに追い抜く」
「私抜きで話続けんじゃないわよ。あんたらがコソ練した分、すぐ取り戻してやるから」
言うねぇ2人とも。俺もゆっくりしてる暇はなさそうだ。
「それでこそ、
……なんでお前がここに居るねん。どっから入ってきた?
そこには、両腕を組みながら感心した様子で頷く葵の姿があった。中々場違いだけど、そういう事を気にする性格ならもっと友達いるだろうね。
「礼司! ポータル」
「あいよー」
話がややこしくなるし、恵の休養に悪いからさっさと放り出しておこう。
「礼司! ブラザーとの話しがまd」
とりあえず離れた茂みに放っておいた。これでしばらくは来ないだろう。
「やっぱ便利ねーあんたのポータル」
「だからって夜に『ポータル開け』って電話してくるのやめて欲しいけどね」
しかも寝てたりして出れなかったら怒られるの理不尽すぎじゃない?
「お前そんなことしてたのか……」
ほら恵も引いてるよ。せめて常識的な時間にしてくれると嬉しいんだけどね野薔薇ちゃん。
「うっさいわね。別に減るもんじゃないし良いじゃない」
「家に来る度に色々くすねてく癖に何が減るもんじゃないだ」
術式範囲の関係で、一旦俺がいる場所に来ないといけないんだけど、その度家の物パクってくんだよねこの人。
この前なんか俺の部屋の芳香剤パクって行きやがったし。あれ高かったんだぞ……
「年収10億の癖にケチってんじゃないわよ」
……まあ、別にいいけどさ。
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こんにちは! 役立たず三輪です!
自分でそう言いつつも、内心「まあそこまでじゃないっしょ?」って思ってました。
礼司君にも『術師初めてその年で簡易領域使えるんだ! 凄いじゃん!』って言われたし。
でも皆が特級呪霊と戦っている間、爆睡ちゃんをかましてたし、褒めてくれた礼司君なんて、私の技一回見せただけで完コピしちゃったみたいです!
『霞ちゃんのおかげで特級の領域凌げたよ! ありがとね!』
なんて、年下の男の子から曇りない瞳で言われた私の心境は、国語の問題にしたら難問になるでしょう。……あと刀折られてたし。
それはともかく、中止かと思われていた交流会は、意外にも滞りなく進みました。
礼司君のポータルで皆で京都校へと向かい。楽しく野球をやりました。
……それは良いのですが。
「────虚式『茈』」
「危っね!? いきなり大技ぶっ放してんじゃねえよクソ教師!」
「ほらほらー。ちゃんとやらないと死んじゃうよー?」
「……絶対泣かせてやる!」
エキシビジョンマッチとして、五条先生と礼司君のガチバトルが始まってしまいました。どうしてこうなったんでしょうか……
次回は丸々VS五条を書くつもりです。