術式がドラ〇もんの道具で説明できるんだが? 作:妄想癖のメアリー
「ヤッホー! 昨日は眠れた?」
「……空飛んで入ってくるのやめてくれない? 五条先生」
「やだよめんどくさい。ただでさえ僕目立つ格好してるのに」
律儀にベランダから靴を脱いで入ってくる五条。
そこに気を遣うなら正規の方法で入ってきてほしいと願う礼司だったが、どうやら聞く気は無いようだ。
「自覚あったんだ……」
「いやー僕。ちょっとカッコ良すぎてさ。いやー困っちゃうなー! イケメン過ぎて!」
「そっちかよ!? あんた自分の恰好鏡で見てみろ!」
何せ間違っていないのが余計に腹立つ。
どうせ何を言っても無駄だと悟った礼司は、ノリを早く終わらせるために本題に入る。
「で、今日は何するの? 五条先生」
「おー? やる気満々だね。そうだね……
──今日はどうしよっか?」
「決めてねえのかよ……」
本題に入ってもボケ続ける五条にツッコミを入れる礼司。
小学生に一生ツッコませて恥ずかしくないんだろうか。
「冗談冗談。今日の日程はもう決めてあるよ。昼は学長のとこ行った後にちょっと術式を見せてもらおっかな。そして夜はちょっとした自主トレのメニューを教えるから、それをやってもらおっかな」
「学長……?」
言葉からして高専の学長とあたりを付けた礼司だが、人物像が一切分からない為首をかしげる。
「そう。君が将来通う事になる高専の学長だよ。嫌でしょ? フリーで頑張って実力付けたのに高専の試験で落とされるの」
「試験あるの? 初耳なんだけど」
「俺スカウトされただけなのに……」とボヤく礼司に、からかうように話す五条。
「アハハ。君はクソ真面目だからね、気張って行かないと落とされるよー? ほら、掴まって」
玄関に向かった五条は手を差し出す。
これから出かけるのではないかと、不思議そうにその手を掴む礼司。
「? 分かった」
「よし。じゃあ見てて」
五条は呪力を込め、術式を発動させる。
──次の瞬間。マンションの玄関に居た2人は、石畳の上に立って居た。
春特有の、暖かい日差しが差す。
「もう驚かねえ。アンタが何しても」
「その割に顔がすっごいことになってるよー? 時間もう過ぎちゃってるからほら、急いで急いで」
目を見開いて硬直する礼司に、笑いながら話す五条。
しかし、聞き逃してはいけない言葉が聞こえた。
「……遅刻?」
「うん。授業始まる前の、8時に来いって言われてたけど、2分くらい過ぎちゃってるね」
「何してんだよ! これで印象悪くなったらどうすんの!?」
教師の言葉とは思えないが、この五条悟は常識に当てはめて考えていい人間じゃないのだ。
東京の中にあるとはいえ、郊外の方にあるためか、非常に自然豊かである。
木や草が生い茂る道を歩く2人。
「────東京都立呪術高等専門学校。日本に2校、もう片方は京都にあるんだ。表向きには私立の宗教系学校とされてるよ」
「五条先生の他にも教師の人は居るの?」
今の所五条と伊地知の2人にしか会っていない礼司は、他の呪術師のことに興味津々だ。
「うん。学年ごとに一人ずつ。あとは伊地知を含む補助監督がちょっとと、保健室のおっかない先生が居るよ」
「誰がおっかない先生だって?」
生い茂る道を抜け、正面の広場についた辺りで、初めて声を聞く女性が現れた。
白衣を着た、目の下の隈が特徴的な美人である。
「あれー、外出てくるなんて珍しいね。硝子」
「引きこもりの癖に」と、非常に失礼なことを言っているが、2人が気の置けない間柄なのは、この短いやり取りでよく分かる。
五条の言葉を無視して、興味深そうに礼司の顔をのぞき込んで話す彼女。
「君があの夏油を吹っ飛ばしたっていう礼司君? 将来有望って聞いたけど、こんな小さな子だったんだ」
「はい! 天鳳礼司と申します! えっと、あなたは……?」
元気よく挨拶をした礼司。
呪術師には珍しいタイプの人間だと思いながら、硝子と呼ばれた彼女は挨拶を返す。
「私の名前は家入硝子。ここでニヤけてるこいつと、君が吹っ飛ばしてくれた夏油とは同期の関係にある。入学したら会う事も多いだろうから、その時はよろしくね」
「はい、よろしくお願いします! 家入さん」
「……なんか僕と態度違くない?」
子供の様に拗ねる五条を無視し、会話を続ける礼司。
「というかホントに小っちゃいね、小学何年生?」
「4年生です」
「って事は10歳くらいか……夏油の奴、10歳の子供に一杯食わされたの? ウケる」
学長の元へ向かいながらも、楽しそうに話す2人。
礼司の方は言わずもがな。久しぶりに会ったまともそうな大人である。
家入も、当時の夏油の様子を聞いて腹を抱えている。
10以上年が離れた2人だが、意外と相性はいいようだ。
「これから学長の面談に行くんだろう? じゃあ一つアドバイス。まともな事を言って誤魔化そうとするとかえって逆効果だ。
──呪術師になって何がしたいか。自分の欲望をぶつけるんだ」
あくまで解釈は自分でしろという事なのか、それ以上家入が語ることは無かった。
「……何となくですけど、分かりました。ありがとうございます」
「なるほどね。クズ共が気に入ったのもよく分かる。まあ怪我したら私のとこに来なよ。死んでない限りは治してあげるから」
そう言って、礼司の頭に手をポンと乗せ、きた道を戻って行く家入。
その時何かをされたのだろう、
「あっはは。随分と気に入られたね?」
「……そう? 特にそうは思わなかったけど」
「いーや。初対面の、それも子供にあんなに入れ込んだりしないよ。呪術師はすぐ死ぬからね。すぐ仲良くなって死なれたら悲しいじゃん?」
暗にわざと仲良くならないようにしている。と語る五条。
礼司にとっては、そのあり方は少し歪だ。
「……寂しくないんですか」
「それでへこたれるなら、呪術師なんてやれないよ」
慣れているだけで、やはり人並みに悲しくもなるんだろう。
「……俺、強くなります。皆が安心出来るように」
「若いねえホント。じゃあまず面談をクリアしないとね」
「そうだった……」
「────遅いぞ悟。5分遅刻だ。その癖、直せといつも言っているハズだ」
五条に案内された建物に入った礼司は、その奥にいる人物と目が合う。
「……その子が?」
「天鳳礼司です。遅刻をして申し訳ございません」
姿勢を正し、頭を下げて謝罪する礼司。
「……いいや、これは悟の責任だ。君が謝る必要はない。それで……
──この呪術高専に、何をしにきた」
これが面談なのだろうか。
余りに抽象的なその質問に、少し間をおいて答える礼司。
「……呪術を学ぶため、そして強くなるためです」
「それで? 強くなって、その先に何を求める」
誤魔化しは許さないと言った様子に、唾を飲む礼司。
年の割に達観しているとはいえ、慣れない状況に言葉が詰まる。
「出来るだけ多くの人を助けたい」
「──何故?」
「両親の遺言だから」
その言葉に、ピクリと肩を震わせる学長。
あまりお気に召す答えではなかったらしい。礼司の予想通りだ。
そうだと分かれば、礼司は割り込む間を与えさせずに続ける。
「……って言ったら、五条先生には呪術師向いてないって言われちゃいました。酷くないですか? スカウトしてきたのはそっちの方なのに」
「……続けろ」
「だが、今ではよく分かります
────俺は
「ではどうして」
何故か動き出した人形を元の場所に戻す学長。
あれも彼の術式なのだろうか。
「俺には才能があるらしい。夏油も五条先生も言ってた。小さい時に2人が居なくなっちゃって、俺の周りには……俺を認めてくれる大人がいなかった。
だから嬉しかった。才能を認められて、努力を褒められて……このまま誰にも認められずに大人になってくんだって思ってたから。
そして、それから逃げたら俺は自分を許せない。人生の後味が悪くなる。そんなの嫌だ」
「だからここへ呪術を学びに来たと?」
「────あと金が欲しい。五条先生がくれた部屋、マジで居心地よかったし」
ダメ押しという様に語る礼司。
嘘は言ってないからいいだろう。
「……悟、ここの施設を案内してやってくれ。後呪霊を祓うとき、慣れるまでは必ず同行しろ。いいな?」
「もちろん。そのつもりですよ。貴重な金の卵を、みすみす殺すわけないでしょう。伊地知と硝子に怒られたくないし」
「……って事は」
「挨拶がまだだったな。私の名は夜蛾正道。まだ先の話になるだろうが、これから長い付き合いになるだろう。
──────君は合格だ。これから、よろしく頼む」
「……! よろしくお願いします!」
「いやー良かったね。君がバカ真面目のままじゃなくて」
「バカ真面目は余計だっての……昨日言われた後、ちょっと考えたんだ。もし後悔するような死に方をして、その原因を2人に押し付けることになったらって」
「それであの答えと。やっぱバカ真面目だねー。だから気に入られるんじゃない? このたらしめ」
隣を歩く礼司の肩をウリウリとつく五条。
「やめて」と口で言う礼司だったが、本気で嫌がってはないようだ。
「というか、僕に褒められたのそんなに嬉しかったの? 口では生意気言っといて、意外と可愛いとこあるじゃん」
「……うるさい」
口元をシャツの襟で隠しながら呟く礼司。
話を変えたかったのか、先ほど夜蛾に言われたことを思い出す。
「そう言えば、施設案内してくれるんでしょ? どこ行くの?」
「高専にあるグラウンドだよ。そこでちょっと君の術式を見せてもらおうと思ってね……ほらもうすぐ着くよ」
建物を潜り抜けた先にあったのは、陸上競技場のようなトラックと、芝生が敷かれた広いコートがあった。
「ひっろ。ちゃんとした競技場じゃん」
「お金だけはあるんだよ。ほら、がらんとしてた方が都合がいいでしょ?」
「まあね」
そう言ってグラウンドの中心に立つ2人。
向き合うようにして距離を取る。
「ってあれ? 家入さんと伊地知さんじゃないですか」
グラウンドを囲むようにして高くなっているところに立つ人影を見る。
手を振ってくる家入に返す礼司。
「今の時間はみんな教室で勉強しているからね。特にやることもないし、暇で見に来たんでしょ。伊地知は引っ張られてきた感じだね」
「……見られると緊張しちゃうんだけどなあ」
そうぼやく礼司だったが、まんざらでもないようで、かなり気合いが入っている。
「よし! じゃあ早速やって行こうか。まずはちょっと君の生得術式を見せてほしいな。六眼で見えるとはいえ、本人がどれだけ理解してるか知りたいし」
「いいよ。じゃあ最初は……これかな」
そう言うと自分と五条の間に、縦2m、横1mほどのポータルを起動した礼司。
それを見て感心したように語る五条。
「へぇ。掌印も唱える必要もなく発動できるんだ。洗練されてるね。あ、まだ開いたままにしといて」
「最初は壁を指でなぞったり、口で言わないと開けなかったけど今はできるよ。やった方が楽だけど」
ポータルに近づいた五条は、手をくぐらせたり顔を出し入れしたりしている。
隣で見ていた家入たちからすれば、五条の顔だけ別の場所にあるように見えるため、非常に面白そうにそれを見ていた。
「これ何個まで、どの距離くらいだったら作れるの?」
「んー……限界まで作った事無いからわかんないけど、大きさと距離を絞れば50個くらい作れると思うよ? 消費する呪力は、『ポータルの面積×距離×個数』で消費するから、大きさを絞ればこんな事もできるし」
そう言うとポータルを閉じる礼司。
何をするのかとワクワクする五条だったが、突如として彼の周りをドーム状に囲うように、多数のポータルが出現する。
大きさは直径20cmほどの真円で、数は10個ほど。
対して礼司の前にあるポータルは同じ大きさだが、数は1つだけだ。
そこに手を突っ込んで出し入れする礼司。
もちろん五条の近くのポータルから手が出て来るだけだったが、その有用性に気が付かないほど五条悟はバカではない。
「おお! すごいねこれ。そっちから入れた手が、
そう。今まで通りなら、1つのポータルから1つしか出し入れすることが出来なかった。
しかし今回は10通りのパターンがある。
端的に言えば、ポータルさえあればどの方向からでも攻撃することができる。
「でしょ? 強い呪霊とかはこれで殴りまくってボコしてたんだ」
「遠距離から肉弾戦を仕掛けられるだけで強いけど、相手に考える選択肢を増やさせるのはシンプルに強いね。どこから出て来るかとかは自由に決められるんでしょ?」
「うん。ただポータルの間に、俺の手とかが入ってるとダメなんだよね。だから一度手を抜いてからじゃないと再設定できない」
そう言って全てのポータルを一瞬で閉じる礼司。
「結構制約多いんだよねー」とボヤく礼司だったが、五条は既に彼の強さを改めて実感していた。
(強いね。あれだけの数のポータルを開いておきながら、呪力がほとんど減ってない。多分僕や傑の呪力の練り方を見て学習したな? 賢い子だ)
「よし! じゃああれやってよあれ、傑ぶっ飛ばしたヤツ。超気になる!」
「……あれめっちゃ疲れるから小さい奴でいい?」
五条が頷くのをみて、集中力を高める礼司。
距離が遠い二点間を繋ぐのは、ちょっとだけ時間がかる。
「あと、危ないから遠い所に出すよ? ……開け」
────ここで話は少し変わるが、我々を乗せて飛ぶ旅客機は、一体どのくらいの高さを飛行するかご存じだろうか?
答えは上空一万m。夏油を吹っ飛ばした高度の2倍である。
そして誰もが一度は考えた事はあるはずだ。
気圧という概念がある。簡単に言うと空気が発生させる圧力のことだ。
高度が上がるほど、空気は減っていき、それに伴って気圧も下がる。そして、空気というものは、気圧の高い所から低い所に流れる性質がある。
山に登った時に、ポテトチップスの袋がパンパンになるあの現象も、袋の中の気圧と、外の気圧に差が生まれたことによる現象だ。
ここで話を戻そう。────飛行機の窓が割れたらどうなるか。
高度一万mの気圧は基本的には260hPaほど。機内は地上よりちょっと低くて800hPa位だ。
この気圧の差により、飛行機内の空気が一斉に小さな窓から抜け出す。
その時の風の速さは、最大で秒速130m。
補足として窓の大きさが小さければ小さいほど風が強く吹くと言う事を覚えておいてほしい。
この時の天気は晴れ。気圧は1015hPaほどだった。飛行機よりも200hPaも高い。
そんな中礼司は、ちょっと張り切ってしまったようだ。
倒れないようにポータルの大きさを20cm。夏油の時の約五分の一ほどの大きさを。
────何故か彼は高度一万mの高さに設定してしまった。
飛行機よりも高い気圧差で、窓よりも小さいポータル。
さて、どうなる? 答えは簡単だ。
「何か言うべきことがあるんじゃないか?天鳳」
「…大変申し訳ございませんでした」
────その時の風速は、秒速130mを優に超えてしまったらしい。
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