術式がドラ〇もんの道具で説明できるんだが?   作:妄想癖のメアリー

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母の揺り篭

 

 

 

「────はあ? 特級案件の調査? 特級とか、今まで同行すらさせてもらえなかったのに、俺1人で?」

 

 部屋でくつろいでいた俺に、五条先生からの電話がかかってくる。

 一体どういう風の吹き回しだろうか? 

 

『うん。まだ今日の分使ってないでしょ? ちょっと今手が離せない状況でさ、サクッと調査だけしてきてよ』

 

「いいけど…俺、報告書とか書けないよ?」

 

 今までは全貌が分かっている一級、準一級の呪霊や、報告書に書く必要もないほど低級の呪霊しか祓ってこなかったのに……

 

『今後被害が拡大しそうになるかどうかだけ知れればいいから。じゃあ、頼んだよー』

 

「ちょっと! ……切りやがった」

 

 せめてどんな状況だったかとかだけ教えてくれないかな。

 まあ、特級を任せられると判断されたって言うのは、ちょっとだけ嬉しいかも。

 

「よし、じゃあいっちょやりますか!」

 

 

 

 取り合えず伊地知さんに電話して確認しないとね。

 

『……今回の任務は、福岡の郊外にある15年前に潰れた児童養護施設での調査です。入居していた子供に対して虐待をしていた疑惑がかけられていました。それからニュースになって閉館せざるをえなくなり、施設だけが廃墟となって今もなお残っています。

 

 肝試しに入った大学生4人が死体となって発見されたため、特級相当の案件であると判断されたそうです。

 

 封鎖をしたら被害が発生しなくなったため、緊急性は低いです。しかし放置していい理由にはならないので、五条先生に割り当てられました』

 

「……胸糞悪いな」

 

 当時の子供たちの気持ちを考えると、心に来るものがある。

 

『なので君が祓う必要はありません。調査だけして、安全に帰ってきてください』

 

「ん。りょーかい」

 

 別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう? みたいなこと一度でも言ってみたいけど、そんな悠長に考えてたら死ぬからな。

 最初に一級呪霊と戦った時はマジできつかったし。

 

 

 

 

 

 俺は、伊地知さんが部屋に来るまで、ポータルを繋ぐ準備をしていた。

 五条先生からもらった、ネックレスのような呪具を持ち、フードと目隠しをする。

 

 この半年間の中で、俺は自分の術式に対する理解と、五条先生直伝の結界術の勉強をした。

 その時に貰ったこの呪具も、かなり気に入っている。

 

 お、来た来た。

 

「こんばんは礼司君。今日もよろしくお願いします」

 

「ホントすみません……毎回突然で」

 

 五条先生も早めに伝えてくれればいいのに……ってそれが出来るような人じゃないか。

 

「いえいえ。慣れてますので……それでは。私はここで待っていますので、気を付けてください」

 

「わかりました。行ってきます」

 

 セロテープで部屋の壁に一枚のお札を張り付ける。

 それっぽい文字が赤色で書かれた、禍々しいお札だ。

 もうちょっと形式にこだわりたいけど、これが一番楽だから仕方がない。

 俺が掌印を唱えると、直径2メートルほどの大きなポータルが表れた。

 

「────ご武運を」

 

 伊地知さんに頭を下げ、ポータルをくぐる。

 件の施設より、少し離れたところに出口を設定してある。

 東京から福岡。直線距離で言えば900㎞と、明らかに桁が違うが、呪力切れを起こすことは無い。

 というか、そんなに遠くに作れない。秘訣は壁に貼り付けたお札にある。

 

 さっき使った札は、俺の呪力を込めることにより、『1日1度だけ、どこでもポータルを繋ぐことが出来る』

 使用後は文字が焼き切れてしまうが、俺が寝ているときに自動的に呪力が補充されるようになる。文字通りの片道切符だ。

 無駄に呪力を持て余すことなく、効率的に使用することが出来る。因みに2枚使ったらガス欠するので、それは成長に期待といったところだ。

 だが、これだと帰ってくるのにかなりの時間がかかる。

 

「でも、便利だよなー呪具って」

 

 ────そこで大事になってくるのが、このネックレスなのだ。

 

 このネックレスは、呪力を込めることで変幻自在に大きさを変え、よほど手荒く使わない限り壊れる事がない。

 そして()()()()()()()()()()()()()()があり、それはリビングの壁にかけてある。

 これら2つは呪術的には全く同じ性質を持つらしい。だから俺がこっちで伸ばしたら、家の方のヤツも伸びるし、その逆もしかりだ。

 

 これを渡された時のことは鮮明に覚えている。

 

 

 

『元々は呪詛師を拘束するときに使う道具だったんだよね。何時でもどこでも首絞め拷問が出来たから。ちなみにデザインは呪力を込めれば自由に変えられるから、礼司に似合いそうな形にしておいたよー』

 

『んな物騒なもん渡さないでよ!? センスいいのが余計腹立つわ! ……で、何に使えるのこれ。俺拷問とかしたくないんだけど』

 

『これを媒体にしてポータル開いてみて』

 

『……! これは』

 

『そう。もう一つの方にもポータルが繋がってるでしょ? 同じものとして扱われてて実質ゼロ距離だから、呪力消費無し! 礼司ならこれの有用性、分かるよね?』

 

 

 

 これをくぐれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 エグいほど便利だから普段から乱用している。デザインもお気に入りだ。最初は血とかついてたけど。

 ……ホントに四次元ポケットみたいになっちゃったな。何でも出し入れできる無限大の空間に、スペアポケットか…

 

「っと。余計な事考えんなよ。特級が出てくるかもしれねえんだ」

 

 ちゃんと集中しねえとな。

 

 

 

 

 

「────いかにもって見た目してんな」

 

 人目につかないように少し歩いてから施設についた俺は、その外観を一瞥する。

 the・廃墟って感じだな。

 

「……とりあえず、帳を下ろさないとな。『闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』……よし」

 

 結界術の基礎中の基礎である帳。もう何回唱えたか分からないその言霊に呪力を乗せる。

 

「よし、入るか」

 

 ポータルを開き、もう片方の座標を中に設定する。

 罠があるかもしれないのに、正面から入るバカは居ない。

 足を踏み入れるが、特に変なところは無い。

 

「……もう少し探してみるか」

 

 ここまで来て『何もありませんでした』とおめおめと帰るわけにはいかない。

 そこそこ大きな施設だ、数十人の子供の食事を補える調理場や、小さな体育ホールのようなモノもある。

 

 だが、くまなく探しても特に呪霊の反応などは無い。

 取り越し苦労だったか……? 

 

 

 

 

 

「────人の家をウロウロと荒しちゃって。その年で呪術師ごっこかな? ぼくちゃん」

 

 

 

 ────は? 

 

 

 

「……お前、誰だ。なぜ()()姿()()()をしている!」

 

 ……気が付かなかった。首元に手を置かれて、話しかけられるまで全く。

 そのナニカは、俺から離れて自らの姿を見る。

 

「あら。この姿は()()()()()かしら? 年相応にママのおっぱいが恋しいみたいね?」

 

 そう。そのナニカは、俺の記憶の中の母親に酷似していた。

 3年前に呪霊に殺された、俺の母親に。

 

「黙れ……! その顔で、その声で俺に話しかけるな!」

 

 ────感情が制御できない。

 

 口調や仕草こそ全く違うが、それ以外のすべての情報が俺に目の前のナニカが俺の母親だと訴えかけてきている。

 顔も、声も、匂いもだ。

 

「あらあら、反抗期かしら? まあいいわ。あなた呪術師みたいだし、私が何者か教えてあげる。私は、()()()()()()()()()()で生まれた呪霊。恐怖、嫉妬、怒りに嫌悪。そしてこの姿は、私の術式の一部よ」

 

「術式……?」

 

 術式開示によるバフが心配だが、俺はこいつの情報を持って帰る必要がある。

 

 いち早くこの場から去りたい、しかし呪術師として、『五条悟の弟子』としてのプライドがそれを許さない。

 

「私の術式は、子供の魂を取り込んで呪力に変換することができる。この場においての子供は、年齢じゃなくて精神や魂がどれだけ澄んでいるかのことよ。あなたはきれいな魂をしているのね? とっても美味しそう……

 

 ────だから、大人しく私に食べられて?」

 

「ッチ! 誰がお前なんかに食われるか!」

 

 そう言うと、呪霊は猛スピードで向かってくる。

 ……速い! 一級呪霊とは比べ物にならない! 

 

 落ち着いてあいつの前にポータルを開き、その出口をすぐ近くの反対側に設定する。

 傍から見ると急にUターンしたような挙動になる。急激に入れ替わった景色に、不思議そうにあいつは首をかしげている。

 

「不思議な術式ね? 一体どんなトリックを使ったのかしら?」

 

「教えねえよ。お前なんか、術式を開示する必要すらない」

 

 間違いなく開示した方が戦いやすくなるのだが、一瞬で逃げられると悟られた瞬間本気で襲ってくる可能性も否定できない。

 数回同じような攻防を繰り広げた後、俺は呪霊に話しかけた。

 

「随分楽しそうだな」

 

 情報を稼ぐためにコミュニケーションを試みる。

 そもそも会話ができる時点でこの呪霊は異常なのだ。特級の間でも上位に属している可能性が高い。

 

「ええ、とっても楽しいわ。この姿はね、対象であるあなたが今一番会いたい人物の姿。そしてその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 会話を展開しながらも、呪霊は攻撃の手は緩めない。

 振るわれた拳を紙一重で回避する。当たれば一撃で骨を持っていかれるだろう。

 皮肉な話だ。俺が呪術師を目指すきっかけになったであろう母さんへの想いが、今はこいつの糧になっているのだから。

 

「お前、今まで何人の子供を食ってきやがった」

 

 俺がそう聞くと、呪霊は「んー?」と言って指を折って数えていく。

 

(俺が倒す必要はない。俺は情報を取って来ればいいだけ)

 

 そんなのは体のいい言い訳だ。言われなくても分かってる。

 だが俺は、記憶に残る母親の面影を感じ、どうしても攻撃する勇気が出せなかった。

 

「この施設では、大体100人くらいかしら? トータルでは覚えてないわ」

 

「……」

 

 大切な人の姿をした呪霊に殺されてきた子供が、100人以上だと? 

 彼らの心を想像すると、心底腹が立つ。こいつにも、────こいつに母親の面影を重ねている俺にも。

 

 ……よし。これで最後だ。

 もう会うことは無い。後で五条先生に一思いに吹っ飛ばしてもらおう。

 

1()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「もう。質問ばっかりじゃない? まあいいけど。私の術式によって食べられた子はね? 『存在そのものが無くなる』の。最初から生まれなかったかのようにね」

 

「……は?」

 

 呆けた俺に、呪霊はあっけらかんと言い放つ。

 

「だってそうでしょ? 私はこの子たちのお母さんなの。私の胎内に戻ったら、生まれたっていう事実もなくなる。周りの人の記憶も、公的な記録も、一切の例外は無いわ」

 

 微笑みながら自らの胎を撫でる呪霊。

 目の前の醜悪な存在と、慈しみを感じる所作に頭が混乱する。

 

「じゃあ……子供を殺され────その思い出すら失った親が、何百人も居るって事なのか」

 

「だからなによ。全ての子供はね、私のエサなの。記憶が残らないだけありがたいと感謝してほしいわね」

 

「……もう喋るな。これ以上、俺の思い出を汚さないでくれ」

 

 我慢の限界だ。これ以上、こいつに付き合ってられない。

 そう言って術式を発動しようとネックレスに呪力を込める。

 ────しかし、俺は最初の時点で致命的なミスをしていた。

 

 最初に接近された時点で、俺は気が付くべきだったのだ。

 この呪霊との、圧倒的な力の差に。

 

 

 

「あら、もう遊びは終わりなの? 残念」

 

「ッ!?」

 

 今までの動きとは比べ物にならないほどの速さで後ろに回られる。

 こいつ、今まで手を抜いていたのか!? 

 後ろから抱きしめるように手を回してくる呪霊に抵抗しようと力を入れるが、ピクリとも動かない。

 

「クソ!? 離せ!」

 

「貴方は今までで一番のご馳走だから、一番美味しい食べ方で食べてあげる……

 

 

 

 

 

 ────領域展開」

 

 

 

 

 

「────静謐(せいひつ)揺籃(ようらん)

 

 

 

 

 

「ふふふふ……早く可愛い表情を見せてね 礼司君?」

 

 

 

 

 




静謐:静かで安らかなこと。世の中が穏やかに収まること。太平。

揺籃:ゆりかご。(比喩的に)少年時代。

最近ページビューが多いので気になりました。どこでこの小説を見つけていただきましたか?

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