「あ~今日も疲れたっとぉ~」
何処かの大都市から少し離れた近郊の市。築30年ばかりの賃貸アパートに戻ってきた職業スーパー店員の職業戦士の男は両手にビニールの買い物袋を持ちながら器用に自身の家のインターホンを押す。
『……はいはい?』
「よっすー。帰ったよ~」
『あぁ提督か。ちょっと待ってなー』
程なくしてトタトタと音がして中からカチャリと鍵を開けると共に扉が開かれて中から男より少し背が小さい女性が出てきた。
「お帰り提督ー」
「わっわっ、両手に袋持ってるからタンマタンマ!?」
「お、悪い悪い提督」
そのまま男に抱き付いた女性に男は慌ててそう言って離れてもらうのである。そして買い物袋を女性に見せる。
「惣菜の残り物とか半額以下で貰ってきたからこれで食べようか」
「お、いいねいいねー。此方も御飯と味噌汁は作っておいたからな」
「いいな、ありがとう『長波』」
男からそう呼ばれた女性ーー『長波』はニカッと笑う。
「いいって事よ提督」
そして男は玄関で靴を脱いで六帖のDKのところに行くと既に酒盛りを始めている金髪ロングの女性がいた。
「お、帰ってきたなAdmiral。さぁ今日も飲もうか!!」
「いや既に飲んでいるじゃないかネルソン……」
「なに、これは食前酒だ。そして今から飲むのはラム酒だ」
そう言いながら金髪ロングの女性ーーネルソンはゴソゴソとラム酒を取り出してコップにラム酒を注ぐのである。それ他所に男は買い物袋から晩飯のモノを取り出すのである。
「今日はミンチカツだ」
「よし、ならばウスターソースでバシャバシャだな」
「バシャバシャは駄目だろ……」
横で皿に盛り付けたミンチカツにウスターソースをバシャバシャとかけるネルソンに長波はそう言うがネルソンは何処吹く風である。まぁ長波も何度も言ってきて改善の余地が無かったので既に諦めている案件であったので自身もウスターソースを少しだけかけてミンチカツを口に放り込むのである。
夕食後はそのまま風呂に入るが男はネルソンとの晩酌付き合いの為、先に長波が風呂に入る。
「はぁー……いい湯だぁ……」
狭い一人用の風呂に肩から浸かり腕を真上に伸ばしながら身体を伸ばす長波。お湯が胸を跳ね壁面のタイルに当たり床のタイルに落ちていく。
『タオル、籠に入れとくぞ~』
「あー、ありがとう提督~」
扉の外で男はそう声をかけて離れる。長波は湯から出ると身体を洗うのである。
「はぁー、いい湯だったぞー」
「ん。ほらネルソン、次はお前だぞ」
「がぁーっ……がぁーっ……」
「ダーメだこりゃ。完全に泥酔してるよ」
「そんなに飲んでたのか?」
「俺は程々にしたけど、ネルソンはラム酒を2本空けてたからな……」
「あの馬鹿……また提督にラム酒を買いに行ってもらわないとな……」
男の言葉に溜め息を吐く長波であった。その後、起こしたネルソンを風呂に入れ最後に風呂に入った男は湯上がりで冷蔵庫からお茶を取り出して飲む中、DKのところに設置されたパソコンを前に長波は起動をする。
「お、パソコン起動した?」
「あぁ。15時以降の演習をまだやっていなかったからな」
「あぁ……俺も無理だったからな。遠征で手一杯だったしな」
「というより仕事中は遠征くらいしか出来ないもんな」
長波はそう言いながら缶ビールを開けて飲みながらDMMのサイトを開いてログインをする。
『か・ん・こ・れ』
「暁の水平線に勝利を刻むのはいつになるやら……」
「DMMのサ終までだよ」
「そうなったら私達も消えるかな……?」
「……長波、冗談で言っていい事と悪い事があるからな?」
「い、いひゃいいひゃい!? わかひゃってゃらやめれ~~~」
男が長波の両頬をつねり痛がる長波である。それはさておきいつもの演習とバケツを取るためのクエスト消化を開始する。
「そういや……二人が此方に来てからもう2週間が経つんだな……」
「あー……確かにそれくらい経ったなぁ」
演習をしつつ長波はカレンダーを見ながらそう呟く。カレンダーの8月15日に赤の丸印が付けられていた。それは二人が艦これの世界から現実世界に来た日を記していたのだ。
あの日ーー8月15日、男はいつも通りにスーパーでの仕事が終わり、惣菜やら値引きした晩飯を袋に持って帰ってきた。朝出る時にかけた筈の鍵は開いており、扉を開けて中に入るとDKの方で艦これをしている長波とネルソンがいたのである。なお、ネルソンはラム酒を空けて酔っ払っていたが……。
「……コスプレイヤーの不法侵入か?」
「あー、そうじゃない。そうじゃないぞ提督」
「提督?」
「うん、そうだよ。貴方は私達の提督」
そう言って長波は開いているパソコンを指指す。パソコンは二人がしていたのか艦これのホーム画面が開いていた。
「……どゆこと?」
男は首を傾げるが長波は一つ一つ説明するのであった。
「……つまりは、エラー娘のサーバー処理が追い付かずバグで現実に艦娘が来訪する事になったと……?」
「そうなんだよ。予定では30分くらいで戻る筈だったんだけど……もう三時間も戻れていないんだよな」
長波の説明に頭を抱える男である。
「……取り敢えず今日は泊まれば? もしかしたら明け方には戻ってるからもしれないしな」
「ハハ、イベント時のメンテ明けと一緒だな」
だが翌朝、二人はパソコンの中に戻る事は出来ずテーブルの上に一枚の紙があった。
『サーバー処理したけど、二人は戻れなかったから一緒に暮らしてね。ゴメ~ンね☆byエラー娘』
「………ヌガァァァァァァィァァァァァ!?」
エラー娘の置き手紙に憤怒する男であった。だがどうしようもないので男は溜め息を吐いて仕事へ行く準備をする。
「取り敢えずは仕事行くわ。冷蔵庫の中身はあるけどよく考えて昼と晩を食べてくれ」
「あいよ。ちなみに中華鍋はある?」
「……明日休みだから安めなのを買ってくるよ」
チャーハン作りたいんだろうなぁと思う男であった。その日から男が賞味期限が切れた品物や余った惣菜を多めに持って帰る日々が始まったのは言うまでもない。
「そういやさ」
「んぁー?」
男が片付けをしながら長波に声をかける。
「二人が此方に来れたのって何か理由でもあるのか?」
「あー………いやぁ……ジャンケン……かな」
「……ジャンケン?」
「あぁ……皆が皆、此方に来たがっていたからな。それで長門さんがジャンケンで決める事にしてやっていたんだ」
「成る程な……」
「ちなみに提督嫌いな奴もいたよ」
「………心当たりがあるんだが……」
「朝潮と夕雲かな」
「えっ……あの二人が?」
「満潮と清霜の件かな」
「…………………」
長波の言葉に男は視線をそらす。男は過去のイベント時に間違って進撃させてタイミングは違うが満潮と清霜を轟沈させてしまった経緯があった。それ故なのだろうと男は思う。
「後、提督ってイベント時はよく暴言吐くじゃん? それの影響で潮やリベッチオ、暁達の駆逐艦達からはあまり好かれてなかったな。私は特に仕方ないと思っていたから気にしてなかったしなぁ……」
「……次のイベントからは気を付けるようにするよ」
「おー、そうしてくれ。もしかしたら皆も評価を変えるかもな」
そう心に誓う男だった。
「まぁ私はAdmiralがラム酒を飲むようになったから益々良いがな!!」
「まさかラム酒にハマるとは思わなかったけどな。まぁ美味しいし……」
まだ酔いが覚めてないネルソンがヌハハハハハと笑うのである。チラリと時計を見ると既に0000を過ぎていた。明日も早いのだ、男はもう寝る事にした。
「今日はもう寝るぞ」
「おー、じゃあ布団は一枚な」
「……やらしい事はしないぞ」
「憲兵は来ないぞ」
「青い制服は来るさ」
隙あらば一線を越えようとする長波とネルソンであるが男は「まだお金が貯まっていない」と言って添い寝なら許していたりする。
「ちなみに余はNカップだぞ!!」
「聞いてねぇよ」
「私はGカップに増えたぞ」
「だから聞いてねぇよ」
大の字で寝る二人の髪の良い匂いが男の鼻腔を擽り、男は仕返しとばかりに二人を抱きしめてそのまま深い眠りに入るのである。
「……これは役得かな?」
「むしろ良い!!」
顔を真っ赤にする長波とネルソンであった。
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