その首置いてけザフト共   作:みども

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合言葉は“俺たちも地球人類”と“ザフト許すまじ”


デブリベルト救助戦 1

 

 

 C.E.71年──

 独立を目指すプラント評議会と、プラントの利権を守るために独立運動を阻もうとする地球連合との間で勃発した、後に『第一次連合・プラント大戦』と呼称されることとなる戦争は、物量において圧倒的に上回る地球連合が質に勝るプラント義勇軍ザフトを相手に劣勢を強いられ、開戦より1年近く経過している中で未だに決着の時が見えない戦況が続いていた。

 

 当初はプラント利権をめぐる戦争に過ぎなかったが、地球連合の一角である大西洋連邦が行った農業プラント『ユニウスセブン』に対する核ミサイル攻撃、通称『血のバレンタイン』と呼ばれる事件により、プラントの反ナチュラル感情が爆発。

 報復としてザフトにより行われたオペレーション・ウロボロスにより地球は深刻なエネルギー不足に陥り、10億人の餓死者を生む惨劇『エイプリル・フール・クライシス』が発生。

 戦争は利権をめぐる国家間の争いから、無関係な民間人を大量に巻き込んだこれらの事件により、互いに相手の種族であるナチュラルとコーディネイターへ憎悪をぶつけ合う絶滅戦争に様相を変えていた。

 

 

 

 

 血のバレンタインによって24万3721人の命が失われることとなった悲劇のコロニーであるユニウスセブンの残骸を始め、様々なものが時を凍らせて漂う広大なデブリ帯。

 無数のデブリ、宇宙嵐による磁場、ニュートロン・ジャマーの影響などによる計器不良など。

 様々な要因により無数の宇宙船の墓場にもなっているこの危険宙域にて、座礁した地球連合軍所属の輸送艦から国際救難信号を受け、救助のための捜索任務に従事する1隻の宇宙艦艇と2機のMS兵器──すなわちモビルスーツであるジンを駆使する一団の姿があった。

 

 彼らは地球連合に加盟する勢力の一角、ユーラシア連邦が組織した宇宙軍の艦隊の一つ、“ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊”に所属する者達である。

 プラントの義勇軍であるザフトの主力兵器であり、その操作性の複雑さなどから遺伝子操作により生み出された新たな人類であるコーディネイターにしか操れないとされるはずのMS兵器。

 それを自在に操ってデブリ帯を進み、艦艇の航路を確保するために適切に除去していく、MSを立ち上がらせることも困難なナチュラルにはとてもできない芸当をこなしていた。

 

 なぜ彼らがMSを自在に操作できるのか。

 その答えは単純で、これらのジンを操作しているパイロット達は全員地球連合軍に志願したコーディネイターだからである。

 

「ユーさん! 2時の方向、距離1600に座礁した輸送艦がいますよ!」

 

 その1人、通常のジンよりも索敵能力に優れる長距離強行偵察型ジンの操縦担当のパイロットである“ユウ・ナガト”は、同乗する情報処理担当のパイロットである“ミランダ・トゥハエフスカヤ”から先頭を進み索敵をする中で目標の輸送艦を発見したことが伝えられた。

 

「了解。ナガト機よりグスタフへ。こちらナガト、目標の輸送艦を発見しました」

 

『グスタフ、了解。こちらでも目標の輸送艦を確認しました。目標への接近ルートを検出、クズネツォフ機は航路上の安全確保を願います』

 

『クズネツォフ機、了解。ゴミ掃除は任せておきな!』

 

 ミランダの報告を受けたユウが、艦艇──グスタフへ目標の輸送艦の発見を報告。

 座標を受け取ったグスタフが救助のための接近ルートを検出し、安全のために排除しなければいけないデブリを特定。

 そしてグスタフからそれらのデブリのデータを受け取ったもう1機のキャットゥスを装備したジンが、邪魔なデブリの破壊を行い航路を確保した。

 

『フッ……良い、完璧だな。我ながらいい仕事だぜ』

 

『クズネツォフ少尉、デブリ除去くらいで調子に乗らないでください』

 

『…………ごめんなさい』

 

 キャットゥス装備のジンを操るパイロット、ユウ達と同じくコーディネイターであり同僚である“ミハエル・クズネツォフ”の自画自賛に対し、グスタフのオペレーターが厳しい評価を出す。

 持ち前の明るさが取り柄のミハエルだが、オペレーターの冷たい評価にはさすがに響いたらしく、ションボリとした声となった。

 

 そんなやり取りをしつつ、先行しているユウ達のMSが座礁した輸送艦のもとにたどり着く。

 

「此方はユーラシア連邦第9航宙機動艦隊所属、ユウ・ナガト少尉です。貴艦の救助に来ました」

 

『えっ、ユーラシア連邦……? まさか、友軍なのか!? 救援感謝します! よかった……助けが来てくれたんだ……!』

 

 このまま宇宙に取り残されてデブリの残骸の仲間入りを果たすかもしれなかった輸送艦の乗組員は、ザフトを象徴する兵器であるMSに驚いたものの友軍の助けで命が繋がったことの嬉しさの方が勝ったらしく、コーディネイター差別の風潮が強い地球連合軍ではあるが素直に感謝の意を述べてきた。

 

『大変失礼した。私は地球連合宇宙軍第5艦隊所属の輸送艦“蔡瑁(さいぼう)”艦長、キム・ヨグン中佐だ。改めて、救援感謝する』

 

「ユーさん、輸送艦の識別コードが一致しましたよ。その船で間違いないです!」

 

「了解。ナガト機よりグスタフへ、識別コードの照合完了。救助目標の輸送艦蔡瑁であることを確認しました。誘導ビーコン発信します」

 

 輸送艦の識別コードを照合したミランダが、救難信号を発した救助目標の輸送艦であることを確認する。

 ナガトが誘導ビーコンを発するとともにグスタフに報告し、それを受け救助目標であることを確認できたグスタフが、ミハエルがデブリを除去して安全を確保した路を航行し接近してきた。

 

『此方、グスタフ。これより蔡瑁の救助を開始します。クズネツォフ機は物資搬出及びポッド移送作業を、ナガト機は周辺宙域の索敵を願います』

 

「ナガト機、了解」

『クズネツォフ機、了解。任せとけ!』

 

 航路を確保したグスタフが到着したことで、乗組員救助などの作業をグスタフとミハエルのジンに任せ、ユウ達は周辺宙域の警戒に移った。

 

『救助作業の想定時間は、乗組員救助作業2400秒、復旧作業7200秒、全行程終了まで推定10800秒です。デブリに敵機が隠れている可能性もあります。全行程終了まで宙域の安全確保を願います』

 

「ナガト機、了解。現在敵影確認できず、索敵範囲拡大します」

 

 救援作業の完了まで約3時間。

 蔡瑁の座礁は戦闘によるものではなくデブリによる事故だが、救難信号を発したことで座礁した位置をザフトが掴んでいる可能性もあった。敵が来ない保証はどこにもない。

 

 友軍の救助中は、蔡瑁はもちろんながらグスタフの方も無防備となる。

 国際法で非戦闘状態で人命救助に従事する部隊を意図的に攻撃することは禁じられているが、それはあくまでも地球連合と中立国にて取り決められているもの。

 敵であるプラントの軍は、大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国といったプラント理事国を始めとする国々が独立を認めていないことを盾に国際法を守る義務はないと、人道への理解すら持たないザフトである。

 

 見つかれば問答無用で攻撃を受ける可能性が非常に高く、戦闘ともなれば無防備な艦艇が狙われ多くの犠牲者が出ることになる。

 それを阻止するためにも、ユウ達は偵察型ジンの各種センサー類、そしてカメラによる目視確認を駆使して周辺の警戒を行い、ネズミ1匹見逃さないように索敵を行う。

 

「情報処理担当は私なんですけど……」

 

「2人の方が効率的だ。目視は此方でやるから、センサーの索敵に集中しろ」

 

 機体の操縦とともに目視による索敵までこなすユウに、情報処理担当のミランダは自分の役割を取らないでと小さな声で苦情を漏らすが、ユウは2人の方が効率的だと流した。

 敵機の発見が遅れ無防備な艦艇の攻撃を許す最悪の事態を防ぐために、警戒にやり過ぎというものはない。

 

 索敵範囲を拡大し、デブリの影に敵が潜んでいる可能性も考慮しつつ、安全確保のための索敵を行っていく。

 

 幸いにも、単艦で座礁した特に重要物資を積んでいるわけでもない輸送艦にとどめを刺すためだけにデブリベルトという危険宙域に入るリスクを冒すをの嫌ったのか、それともそもそも輸送艦の存在に気づいてすらいないのか、ザフトの姿はなかった。

 神経を使い索敵を行ったナガト達にとっては徒労という結果となったが、それが最良である。友軍艦艇の救助中は、接敵せずに済むのがベストだ。

 

 ザフトの姿がなかったこともあり、救助作業は順調に進んでいる。

 任務の方は順調だったが、索敵を行っていたナガト達に救助任務に従事するミハエルから通信が届いた。

 救援任務にはさほど関係ない話だが、その内容は不穏な空気を感じるものだった。

 

『なあ、ユウ。なんか、輸送艦にいた東アジアの人たちからおかしな話聞いたぞ』

 

「無駄話は止めて作業に集中しろ」

「えっ、ひょっとして幽霊見たとかですか!?」

 

『いや無駄話でも幽霊でもねえから。俺たちよりも前にこの近くに大西洋連邦の部隊が通ったのを見たとか言うんだけど、救難信号出していたのに目視確認できるレベルの距離でガン無視されたとか』

 

 それは救助された蔡瑁の乗組員から聞いたもので、第9機動艦隊が救難信号を受信しグスタフが派遣されるより前に、この宙域を大西洋連邦の部隊が通ったというもの。

 当然、蔡瑁は救難信号を発信していたのだが、その大西洋連邦の部隊は蔡瑁を救援するどころか、目視確認できるほどの位置まで接近したにも関わらず蔡瑁を無視したという。

 どうやらその味方に見捨てられたという出来事が蔡瑁の乗組員達に大きなショックを与えたらしく、もう助けてくれるならどの国の誰でも──それこそコーディネイターでも──いいと思うほどに追い詰められていたらしい。

 普段なら命を助けられてもコーディネイターだからと毛嫌いしてくることが多いのに蔡瑁の乗組員達には素直に感謝されたのは、そのようなことがあったからだった。

 

「何ですかそれ! 大西洋連邦の人たち、やっぱり酷いです! ザフトの次くらいに嫌いになりましたよ!」

 

『ナチュラルに見捨てられてコーディネイターに助けられるって、皮肉な話だと思わねえか?』

 

「…………」

 

 たしかに、同族である大西洋連邦のナチュラルに見捨てられたことには絶望し、敵だと差別視するユーラシア連邦のコーディネイターに助けられて感激するというのは皮肉な話である。

 しかし、ユウはそんな皮肉の効いた話よりも、むしろ救難信号を発する座礁した味方を見捨てたというその大西洋連邦の部隊の方が気になっていた。

 

 地球連合と言っても、この国際組織は一枚岩ではない。

 中心となるプラント理事国である“大西洋連邦”、“東アジア共和国”、“ユーラシア連邦”。

 その他、様々な事情により地球連合に加盟している“南アフリカ統一機構”、“南アメリカ合衆国”、“赤道連合”、“スカンジナビア王国”。

 現在の地球連合は地球に存在する11国のうちこの7国によって構成されており、すべての地球の国家が加盟しているわけではない。

 

 主要国であるプラント理事国の3勢力はプラントの独立阻止という共通目的で一応の団結をしているものの、元々無数の係争地を抱える敵対国同士であり、ザフトという共通の敵を倒した後はプラントの利権や国際社会の覇権地位をめぐる対立が起こるのが必然であり、すでに水面下では同盟国同士で足の引っ張り合いをしているような国々である。

 その他の加盟国も、元々親プラント国であったにもかかわらず大西洋連邦の一方的な侵略を受けて併合・傀儡にされ強制的に地球連合に加盟させられた南アメリカであったり、親プラント国であるアフリカ共同体との対立から利害の一致により地球連合に加盟した南アフリカ統一機構であったり、開戦当初は中立を表明していたが外交的圧力により恫喝に近い形で強制的に加盟させられたスカンジナビア王国や赤道連合であったりと、とてもまとまっているとは言い難い国々である。

 

 つまり、第9機動艦隊の属するユーラシア連邦、蔡瑁の属する東アジア共和国は、大西洋連邦からしてみれば同盟国ながらに敵国といえる存在である。

 大西洋連邦のその部隊からしてみれば、将来的な敵対国である東アジアの艦艇を危険なデブリベルトの中で助ける義理はないと考えているかもしれなかった。バレれば外聞的に大きなマイナスを祖国に与えるというリスクはあるが。

 

 ことがそんな単純ならばまだいい。

 難破船が幽霊船になればいいという浅はかな考えが達成される前に、ユウ達が救難信号を受けて救出に成功したのだから、大西洋連邦は助けを求める同盟国の部隊を見捨てるクソ野郎だと批判できる新しい手札を東アジアとユーラシアが獲得した結果となったで終わる。

 

 だが、もしもその部隊が何らかの特別な任務を受けて行動している部隊だったとすれば? 

 それこそ、救助を求める座礁した同盟国の艦艇を見捨てるほどの何かを抱えている場合。

 そうなれば事は複雑となる。

 

 大西洋連邦は、地球連合加盟国においてナチュラル至上主義の人種差別主義者たちの集まりであるブルーコスモスの影響を最も強く受けている勢力である。

 国を挙げて大々的に迫害を行ったユーラシア連邦も大概だが、プラントの反ナチュラル感情を爆発させた血のバレンタインを起こした当事国であり、親プラントというだけで一方的な武力併合を行ったり、コーディネイターやその関係者だけでなく疑惑を受けるだけで本当は何の関わりもないナチュラルなのにテロ被害にあって命や家族を失うことが日常茶飯事という、ある意味地球上で最もコーディネイターへの迫害が強い国だ。

 そんな勢力の部隊が担う特務など、関わりたくもない内容であることが容易に想像できる。

 

 あくまで特務云々はユウの勝手な推測にすぎないのだが、キナ臭い予感が強くする話ではあった。

 

「ユーさん? 何です、考え事ですか?」

 

「……いや、何でもない」

 

「大西洋連邦の人たちは酷いと思います! でも、あの人たちを助けられて良かったです!」

 

「……そうだな」

 

 ミハエルの話を聞いて黙り込んだユウに、ミランダが声をかけた。

 ミランダの方は、ユウほど複雑に話を受け取っているわけではなさそうである。

 内心、ミランダの竹を割ったような性格とその単純さを羨ましく感じながら、ひとまず蔡瑁の救助を無事に終えられるように再び索敵に集中することにした。

 

 

 

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