その首置いてけザフト共 作:みども
シベリア・蒙古戦線における補給線の大動脈と言えるシベリア鉄道が多く交わる重要拠点、イルクーツク。
理想郷の完成のため、連合・プラント大戦にユーラシア連邦軍として志願したシベリア特区からの志願兵で構成された第27機甲連隊。
彼らに与えられた最初の任務は、ザフト軍の1個師団が防衛するこの要衝を機甲連隊とは名ばかりの27機甲連隊単独で攻略するという無理難題であった。
質で劣る上に数でも劣勢。
物量でかろうじて膠着する戦線を維持してきた地球連合が数の上でも劣るとなれば、ザフトに勝てる道理などない。
27機甲連隊の攻撃に対し、戦う前から勝利したかのような余裕でMS部隊を繰り出し迎撃を行ったザフト。
しかし4機のMSを主軸とするこの部隊を相手に、27機甲連隊は連隊長であるアルトリア・ホーエンハイム大佐の奇策と、彼らの中で唯一圧倒的にザフトを上回っている苛烈な戦意が作り上げる高い士気を持って、この迎撃部隊を撃破して見せた。
雪煙が視界を遮るイルクーツクにて、ニュートロンジャマーの影響によりノイズの多い通信の中でかすかに聞こえた悲鳴とMS反応のロスト。
それを見たイルクーツク守備軍司令官であるハインリヒ・ゲルガーは、今回攻めてきたユーラシア連邦の地上軍が今までの敵とは明らかに違うことを確信し、戦う前からの戦勝気分は消し飛んだ。
「フリッド機の反応は?」
「ロストしたままですが、おそらく通信障害から──」
「いくらニュートロンジャマーの影響が色濃い地球とはいえ、この距離で一瞬たりとも反応を捉えられないはずがない。先の通信にかすかに聞こえた悲鳴……おそらく、迎撃部隊は全滅した」
「そんな馬鹿な! 敵はナチュラルのクマネズミが数輌ですよ! あんなリニア・ガンタンクの足元にも及ばない豆大砲しか持たないクマネズミに、バクゥが撃破されるはずがない!」
守備隊司令部のザフト兵士たちは納得していないようだが、ゲルガーには確信があった。
フリッド機から最後に届いた、かすかにノイズの間で聞こえた悲鳴。
錯乱した末に友軍を撃ってしまったことで精神が崩壊した時にあげたフリッドの悲鳴は、紛れもなく本物だったと感じた。
雪煙もあり銀世界が舞い上がる外は不気味なシベリアの姿をしている。
作られた環境の広がる故郷のプラント、スペースコロニーでは決して見られない光景だ。
それは美しくもあったが、今のゲルガーの目にその光景はまるで冬という名の死神が命のぬくもりを持つ者の生贄を求めているかのような、とても不気味で不吉な景色に見えた。
「……稼働可能な全MS部隊と対戦車ヘリ部隊、装甲車両部隊、歩兵部隊を招集してくれ。最低限の守備隊のみを残し、全戦力を持って出撃、この敵を確実に叩く」
「「「!?」」」
ゲルガーは迎撃部隊が壊滅したと判断し、MS4機を主軸とするザフト軍を瞬殺するほどの戦力を持つ敵部隊を想定して中途半端な戦力を繰り出せば各個撃破の的になると考え、これを撃破するためにイルクーツクの守備隊の稼働可能なほぼ全戦力を投入する決断をした。
「流石に大げさすぎませんか? MSのバッテリー1つとってもかなりのエネルギーを使います」
いくらなんでも警戒しすぎである。
敵は所詮ナチュラル。MSを持つザフトの足元にも及ばない劣等種族がなす数だけの集まり。
そんな奴らに負けるはずがない。
まだ驕りの抜けないザフトの兵士たちからは、守備隊の隊長であるゲルガーに対してナチュラルの戦車部隊相手に大げさすぎるのでは止める。
ゲルガーはすでに迎撃に出した部隊が全滅していると見ていたが、一方で彼らは悪天候だから予定よりも殲滅に時間がかかっているのだろうと楽観視しており迎撃部隊の勝利を未だに疑っていなかった。
これまでの物量さをものともしない度重なるザフトの勝利が、もとよりナチュラルを下に見ているザフトの兵士たちに敗北という事態が想定できなくなるという盲目とすら言える慢心を抱かせてしまっている。
プラントと連合の本来の国力差を考えれば、そもそも勝ち続けていくことで中立国を新プラント勢力に取り込んでいき、ようやく互角に渡り合えるかどうかというほどの戦力差だというのに。
敗北などそもそも許されないのがザフトと連合の戦力差なのだが、それでもザフトは勝ちすぎていた。
もはや兵士たちが危険なレベルの驕りを得てしまっているザフトの現状に、ゲルガーは危機感を抱いた。
「納得がいかないのならば、イルクーツクを出て別の戦線に行けばいい。これはイルクーツク守備隊の隊長として君たちに出す指示だ。即応可能な全守備隊を出撃だ!」
ザフトは正規のプラントの軍隊ではなく、志願したコーディネイターたちによって組織された義勇軍である。
そのため管轄の部隊をまとめる隊長はいるがそこに階級はなく、全員が同列という扱いになっている。
そのため隊長の命令に納得がいかなければ、兵士が逆らったとしてもそれを裁く権限はないのである。さすがに戦争を行う組織である以上、命令系統は確固としたものを持っているが。
それでも、ゲルガーは兵士たちの抗議を無視して即応可能な部隊の全軍出撃の指示を出した。
あくまで従わないというならば、イルクーツクから出て行けとまで言って。
そのゲルガーの剣幕に、慢心しきっていたザフト兵士たちもさすがに様子がおかしいことを察する。
シベリア・蒙古戦線をザフト優勢に導いてきた立役者たる猛将、雪原の鷲の異名を持つゲルガーがこの連合の部隊に対して強い警戒心を持っている。
明らかにただ事ではない。ナチュラルにコーディネイターが負けるはずがないと慢心する彼らだが、ゲルガーの異変する嘲笑するほど愚かで盲目ではなかった。
「私のディンを用意しろ。陣頭指揮に入る!」
「「「ハッ!!」」」
ゲルガーの指示のもと、イルクーツクの守備隊は最低限の守備戦力を残し、稼働可能であった11機ものMSとヘリ部隊、さらには歩兵一個大隊を主軸とする大規模な地上部隊を出撃させた。
この大戦力を率いるのは、シベリア・蒙古戦線で類い稀な活躍を見せその強さから“雪原の鷲”の異名を持つザフトの猛将ハインリヒ・ゲルガーである。
ジン1機しかまともな対抗戦力を持たない27機甲連隊には到底対抗不可能な戦力である。
罠があり被害を受けたとしても、それごと蹴散らせるだけの万全の戦力を整えて出撃してきたゲルガー。
その詳細はイルクーツク近郊に潜伏する斥候から直ちに連隊駐屯地に伝えられ、アルトリアの耳に入る。
勝てるはずがない大部隊の出撃の報告を聞いたアルトリアは、しかしジンのコクピットにてその表情を絶望に染めることなどなくむしろ白い歯を見せて笑みを浮かべた。
「そうか……予定通り、釣れたな」
イルクーツクから守備隊のほぼ全軍、最低でも即応可能なMS部隊全機を出撃させる。
それこそがアルトリアの考えていたイルクーツク攻略戦の作戦だった。
臆病風に吹かれることなく相手の罠ごと踏み潰す豪胆さと、そして確実に勝つための戦略の集中運用。
この猛将の思考を読み取り、雪原の鷲を見事に釣り上げることに成功したことに、彼女は自らの作戦が順調に進んでいることを確認し望む展開を見せは戦況に喜びを感じた。
「雪原の鷲、ハインリヒ・ゲルガーの首をとる! イルクーツクを我々の手で取り戻すぞ!」
「「「了解ッ!!」」」
アルトリアの鼓舞に、実戦を経験し兵士として完成した27機甲連隊の面々が力強い声を返す。
イルクーツク攻防戦における最大の戦い、今はまだ無名の27機甲連隊と、雪原の鷲の決戦。
「……見えたぜ。どうせ敵からパクった代物だ、残弾惜しむなよ! やっちまえユウ!」
「ミサイル発射!」
その戦いの火蓋は、イルクーツク北部にて雪に身をひそめるミハエルの中隊が斥候の観測を元に上空を飛ぶディンを狙ったバクゥのミサイルポッドを用いたミサイルの一斉斉射によって切られた。