その首置いてけザフト共   作:みども

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イルクーツク攻略戦 2

 

 

 イルクーツクより11機のMSを主軸とする大部隊が出撃したことは、斥候によりすぐさま27機甲連隊の駐屯地に知らされた。

 

「敵戦力の詳細は?」

 

『MSはザウート6機、バクゥ2機、ディン3機の計11機。対戦車ヘリ18機、装甲車6台、車両25台、大隊規模歩兵部隊を確認しています。また、指揮官機のディンを確認。イルクーツクの守備隊長、雪原の鷲の専用機ですね』

 

『対戦車ヘリまで全機出撃させるとは、思い切りがいい。別働隊の勝利はこれで確実となりました』

 

 バッテリーの節約のために、通信以外のコクピット内の空調機器に至るまでジンの機能を一時停止させて待機しているアルトリアは、駐屯地にもたらされた斥候の情報から敵の出撃してきた主力部隊の内容を聞き、雪原の鷲を落とすための策を動かす。

 

 作戦の第一段階である、迎撃部隊を殲滅し敵の主力をつりだすことには成功した。

 イルクーツク攻略戦の要となる作戦は、この主力を釣りだして最大の脅威のMS部隊を出し尽くしたイルクーツクに別働隊による攻撃を仕掛けて陥落させるというものである。

 誘因に成功した今、イルクーツクの敵戦力は著しく低下しており、攻略を仕掛ける好機である。

 

 MSの前には無力でも、クマネズミは戦車である。

 その上市街地でも問題なくその機動力を発揮できる優秀な戦車だ。MS部隊さえいなければ、戦車隊を主力とする別働隊によるイルクーツクの制圧は容易となる。

 

 問題は一時的にイルクーツクを制圧したとして、この主力部隊が戻った場合にはすぐに再奪還されることだが、そうならないためにアルトリアはこの釣りだした敵主力部隊を殲滅する作戦も立てていた。

 

「よし。作戦通り、別働隊はイルクーツク攻略戦を開始しろ。頼んだぞ、ヘルモルト」

 

『了解です、此方は問題ありません。むしろ連隊長の方が厳しいのでは?』

 

「軽口を叩けるならば心配ないな。行け!」

 

『了解! ヘルモルト中隊、イルクーツク攻略を開始します!』

 

 主力が出払った隙をつき、迎撃部隊を誘引する囮から回された戦車部隊と合流し潜伏していた別働隊のヘルモルト中隊が、即応可能なMSのいないイルクーツクへと突入を開始する。

 多少は兵を配置しているだろうが、今のイルクーツクは本当に必要最低限の守備隊しか残っていない。

 旧式のクマネズミといえども戦車を有する27機甲連隊の別働隊を相手に歩兵戦力だけではコーディネイターといえども歯が立たず、ヘルモルト隊は容易に制圧に成功することとなる。

 

 そして、その間本命であるゲルガーの率いる敵主力部隊を迎え撃つアルトリア達の本隊、そして誘引した敵部隊を待ち構えるミハエルの中隊は、イルクーツクへの攻撃を悟らせないように主力部隊への攻撃を開始した。

 

「クズネツォフ。貴様の中隊のほうは準備できているか?」

 

『バクゥの機体はスクラップですが、武装は使えますからね。いつでもいけますよ』

 

「よし。斥候からの敵観測情報をもとに、攻撃を開始しろ! まずは敵の航空戦力、ディンとヘリ部隊だ! 全機地面に叩き落とせ!」

 

『了解! 行くぞ、やっちまえユウ!』

 

 最初に撃破したMS小隊のバクゥ。

 機体こそ損壊し使用不能となったものの、レールガンとミサイルポッドは健在である。

 ミハエルたちはMS小隊の殲滅後、すぐにこのバクゥに残された武装の確保を行い、ミサイルポッドとレールガンを簡易砲台として活用できるようにしていた。

 

 MSの操作ができずとも、ミサイルポッドとレールガンの砲塔を扱うことくらいならば可能である。

 ミハエルとユウがそれぞれレールガンとミサイルポッドの砲手を担当し、斥候の観測情報をもとに正確に把握している敵の航空戦力に対して攻撃を開始した。

 

『堕ちろやザフト共!』

『くたばれザフト共!』

 

 レールガンとミサイルポッドの一斉斉射。

 ククリとは比べ物にならないMSの正面装甲を真正面から破壊可能なバクゥのメインウエポン。

 それが斥候の情報により雪煙の向こうの空を飛ぶザフトの航空部隊の正確な位置に狙いを定めて発射され、ヘリ4機とディン1機を撃墜し、そしてゲルガーの操る白いディンの重突撃機銃を持つ片腕を撃ち砕いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 強い風が吹き、雪を舞い上がる視界の悪い戦場。

 ヘリ部隊とともに上空より索敵を行うゲルガーたちに連合から襲いかかった先制攻撃は、ロックオン警報すらない突然のものだった。

 

「何!?」

 

 雪煙の中から上がってきた多数のミサイル。

 突然の奇襲攻撃にはゲルガーも対応できず、コクピットや翼への直撃は避けたものの、重突撃機銃を持つディンの片腕を吹き飛ばされてしまった。

 

 ザフトの白服を授かるゲルガーですら片腕に被害を抑えるのが精一杯だった攻撃。

 部下には対応しきれず、随伴のディン1機がコクピットをレールガンに貫かれ、さらにヘリ部隊にも飛んできたミサイルは回避しきれなかった4機のヘリを撃ち落とした。

 

『サブローター破損! 制御不能! うわあああぁぁぁ!』

『なぜだ、ロックオンもないのに! くそおおおぉぉぉ!』

『一体何が──ガガッ……──』

 

 次々と聞こえる友軍が撃ち落とされる音。

 聞き慣れたバクゥのレールガンとミサイルポッドの発射音。

 その直後に、レールガンによって随伴のディンが撃ち落とされ、ロックオン反応のない無誘導のはずなのに恐ろしい正確さで次々に飛来するミサイルがヘリを、そして自機を破壊した。

 

「馬鹿な……この雪煙の中で、空を飛ぶ相手に地上からこんな正確な攻撃ができるはずが……クソッ! 被害状況を確認しろ!」

 

 すぐに全滅したと思っている迎撃に繰り出したMS、そのバクゥの武装を用いた攻撃だと推測するゲルガー。

 やはり先発したMS部隊は全滅したということかと、信じたくなかった想定通りの事態に頭を悩ませる。

 同胞を撃った連合のナチュラル共は許しがたいが、それよりも隊長としての義務を優先し、被害状況の確認を行わせた。

 

 撃墜されたのは、ディン1機とヘリが4機。

 このニュートロンジャマーの影響下と雪煙の吹く中で、敵はどういう手段を用いてこちらの位置を正確に把握して攻撃を仕掛けているのかわからない現状、空を飛ぶリスクは高いと判断する。

 

「ホッグス、ディンを地上に下ろせ! 敵に狙い撃ちにされるぞ! ヘリ部隊も低空飛行に切換えろ!」

 

『雪原の鷲ともあろう男が、臆病風に吹かれたのかよ隊長! ナチュラル共の偶然だ! あいつら絶対ェ許さねえ、1人残らず血祭りに上げてやる!』

 

「バカ、やめろホッグス!」

 

 だが、残る1機のディンのパイロットのホッグスは仲間を殺されたことで頭に血が上り、ゲルガーの命令を無視してレールガンが撃たれたと思われる方向に突っ込んでいった。

 こちらはまだ敵戦力の全貌も見えていないというのに、無謀な突撃もいいところである。

 

「クソッ! ヘリ部隊は低空飛行に切換えろ! 落とされるぞ!」

 

 ヘリ部隊に指示を出し、ホッグスを追跡するゲルガー。

 だが、ホッグスの雪煙の中に消えた直後、悲鳴が聞こえて通信が途切れた。

 

『な、なんでナチュラルがバクゥを使って──うわあああぁぁぁ!』

 

「ホッグス? どういうことだ、何があった! おい応答しろホッグス! ……やられたか」

 

 ホッグスのディンがロストしたことを示す表示が出され、機体がやられた現実を突きつけられる。

 

 ホッグスはやられた。それを受け入れるしかない。

 今すぐ報復したい衝動をなんとか理性で押さえ込んだゲルガーは、ホッグスからの最後の通信を思い返す。

 確かに彼は言っていた。

 ナチュラルがバクゥを、と。

 

(連合がバクゥを……? そんなバカな。動かせるとしても、せいぜい武装くらいのはずだ)

 

 言葉通りの意味で解釈するならば、連合がバクゥを製造して配備してきたということ。

 だが、連合にたとえバクゥを作れたとしても、武装のミサイルポッドやレールガンを扱うくらいがせいぜいでありそれを操縦することはできないはずだ。

 ゲルガーの中にもやはり、ナチュラル共にはMSを使えないという固定観念があった。

 

「ちっ──!」

 

 地上より、次々とミサイルが飛んでくる。

 吹雪の吹き荒れるシベリア特区の暮らしに慣れている斥候たちにとって、この程度の雪煙など視界の障害にはならない。

 ゲルガーの予想通りミハエルの中隊はバクゥの武装を砲台として扱っているだけでMSなどいないのだが、ミハエルのはなったレールガンに貫かれる前にホッグスが見たバクゥの紛い物の群れ。そのことを伝える通信を聞いたゲルガーを困惑させ、真相に気づくことがむしろ遅れる結果となった。

 

 ニュートロンジャマーの影響により、レーダーなどがほとんど使えなくなった地球。

 目視による索敵に頼ることが多くなった戦場において、MSを主力に運用しMSに偏重したザフトは、身を隠し目で観測する偵察部隊などの戦場の裏方で活躍する兵科に対する運用スキルが連合に対して大きく退化してしまっていた。

 ゆえに、雪煙の中でも雪に紛れ正確に敵機の情報を観測できる多数の斥候という、無誘導兵器を正確に当ててくるカラクリに気づかなかった。

 

『隊長! 一体何が起きているのですか!?』

 

「地上部隊、慎重に進め! 敵はどこから来るかわからない!」

『地上部隊、全速前進して敵に突っ込め! 隊長が狙われているんだ! ホッグスもやられた!』

 

 いきなり味方の航空部隊が次々撃ち落とされて落下してくる事態に、何が起きているのかついてこられない様子の地上部隊の方から確認を取る通信が入る。

 ゲルガーは未確認の連合のバクゥなどという情報もあるなかでむやみに地上部隊を突撃させるのは危険だとして、敵弾の発射予測ポイントを観測しやすい航空部隊と足並みを揃えさせるために停止を命令しようとしたのだが。

 その前にゲルガーを狙われていること、そしてホッグスたちを失ったことに怒りを抑えられなかったヘリ部隊の方から、隊長であるゲルガーの指示を遮るように地上部隊に向けて攻勢を開始する要請が発せられた。

 

「待て! 勝手な指示を出すな!」

『了解だ! ゲルガー隊長を救うぞ、アックス隊突撃だ!』

 

「よせ、敵戦力の把握もできていないんだぞ! ──クソッ、通信が……!」

 

 勝手な行動をとる地上部隊を止めようとするが、飛来するミサイルを回避するのに精一杯のゲルガーには地上に降りる余裕がない。

 加えてニュートロンジャマーによる通信障害が上空を飛行しているために地上部隊と距離の離れているゲルガーの指示を遮り、降下させたヘリ部隊の通信しか届いていない様子だった。

 

 この雪煙の中でも連合は正確にこちらを攻撃する何らかの手段がある。

 そのカラクリも判明していない中で、いくら戦力的に優勢にあるとは言っても、MSの装甲を貫けるバクゥの武装を奪われた現状でむやみな進軍は危険極まりなかった。

 

 特に今回の敵は普段の連合の数に任せる軍勢とは何かが違う。

 そうゲルガーの危機察知の本能が警鐘を鳴らしている。

 

(とにかく降下して地上部隊を止めなければ──)

 

 そう思うゲルガーだが、異常に正確な上に無誘導でロックオン警報も出ないミサイル攻撃が次々に襲いかかるため、重突撃銃を失い迎撃手段も半減した機体で回避に集中しなければならず、降下を妨害されている。

 そのため指示を出すことが困難であり、加えて回避を繰り返すためバッテリーの消耗も大きかった。

 

 ミサイルの方向はわかるが、今の武装は対空散弾銃という射程が非常に短い武器であり対地攻撃には向いていない。

 敵の迎撃の手を削るためには、雪煙のせいで相手の位置を正確に把握できていない雪原の地表に危険を冒して降りる必要があった。

 

「くっ……! おのれ卑劣なナチュラル共、この程度で鷲の首を取れると思い上がるなよ!」

 

 だが、そこはザフトの白服を授かる隊長であり、雪原の鷲と恐れられるゲルガー。

 正確な数もわからない敵の群れに突撃する危険を冒すことも、片腕を失ったMSで戦わなければならなかった死地も、幾度も乗り越えている。

 何より、ここで自分がリスクを冒して敵の機先を制さなければ、地上の味方が大きな被害を受けるだろうという危機を直感で感じ取っていた。

 

 仲間を、ザフトを、プラントを守るために、このイルクーツクを渡すわけにはいかない。

 ミサイルの飛んでくる方向を見定め、雪煙の吹き荒れる地表目がけて急降下突撃を敢行した。

 

「なめるなぁ!」

 

 雪煙の中という更に視界の遮られる死地に、よりミサイルの発射地点との距離が近くなる死地に自ら突撃してくる。

 そのリスクを冒し、ユウの扱うバクゥのミサイルポッドへ突撃するゲルガーは、前兆のないミサイル攻撃をあえて自分は見つかっているという想定のもとで、戦場に身を置く戦士の勘だけでタイミングを見極めて至近距離から発射されてきたバクゥのミサイルを回避して見せた。

 

 だが、ゲルガーは見落としていた。

 ホッグスが死の間際に発した重要な情報を。

 地表こそ、無数のMSの装甲を破壊するミサイルが大量に配置された死地であることを。

 

「仲間の形見を弄ぶな、卑劣なナチュラルがぁ!」

 

 ミサイルを回避し、見つけたバクゥの残骸に向けて散弾銃を放つ。

 それは仲間の遺品と言えるバクゥの装甲を貫き、ミサイルポッドの砲台を爆散させた。

 

 だが、その直後に。

 バクゥの氷像に配置されたククリの砲火にさらされ、その機動性を持たせるための犠牲として装甲が非常に薄い機体であるディンは砕け散った。

 

「うわあああぁぁぁ!?」

 

 白い指揮官用ディンが爆散する。

 雪原の鷲と恐れられた男の最期は、誰1人敵兵を殺せずに無数の投げナイフによる攻撃にさらされるという、エースとしては哀れなほどあっけないものとなった。

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