その首置いてけザフト共 作:みども
隊長機と思われる、指揮官用ディンの急降下攻撃。
至近距離ではなったロックオン警報のないはずのミサイル攻撃を回避され、反撃に放たれた散弾銃によってバクゥのミサイルポッドを用いた簡易砲台を破壊されてしまった。
寸前で砲台を捨てて狐の巣穴に逃げ込んだことで、至近距離でのMSの爆発という脅威に晒されながらも奇跡的に多少の火傷のみという軽傷で済んだユウは、まだ半分近く残弾の残っていたはずの吹き飛ばされたミサイルポッドの残骸を名残惜しそうに見ていた。
『ユウ! おい返事しろ! 大丈夫か!?』
爆発で行かれた耳も聴力を取り戻し、ミハエルの通信が聞こえてきた。
バクゥの武装を流用した簡易砲台が吹き飛ばされたことで、ユウが巻き込まれて死んだと思っているらしく、返事をしなかったことにかなり切迫した様子で名前を叫んでいる。
ひとまず無事伝えるため、そしてククリとジン1機しかまともにMSに傷をつけられる武装を持たない名ばかり機甲連隊において貴重な戦力となるバクゥの装備を失ったことを詫びるため、有線通信機のマイクに向かって返事をした。
「……すまない中隊長。貴重なミサイルポッドをやられた」
『ユウ! お前、心配かけるなよ! ミサイルなんてどうでもいい! 敵からパクったやつだ、お前の命と天秤にかけられるもんじゃねえだろ!』
ユウの声を聞いたことで、心底安堵したミハエルの声が聞こえる。
同時に武装なんて仲間の命に比べれば惜しくもないからそんなこと言うなと叱責も受けた。
『とにかく無事でよかった。寿命が縮むかと思ってヒヤヒヤしたぞ。怪我は無いのか?』
「火傷を多少受けただけだ。戦闘継続には問題無い」
『無事ならすぐに返事してくれよな……でも、良かった』
返事ができなかったのは至近距離でMSの爆発という轟音を聞いたことで一時的に耳がいかれてしまったせいで何も聞き取れなかったからなのだが、わざわざ言い訳する必要も無いかとそのことに関しては何も言わないでおくユウ。
ディンは全機を破壊、ヘリ部隊にもある程度の損害を与えたが、しかし敵の航空戦力は健在である。
先制攻撃は成功したが、戦車隊の脅威となる航空戦力の殲滅が達成できていないならば完璧とは言い難い。
幸い傷も戦闘行動も問題なくこなせるなど大したことは無いため、再び戦列に復帰するべく狐の巣穴に隠してあったククリを担いでミハエルの方に向かって歩き出す。
だが、その一歩目を踏み出した直後だった。
「────ッ!?」
銃声が耳に届くとともに、右太ももを貫いた銃弾による激痛がユウを襲った。
ククリを落として雪の大地に転がるユウ。
とっさにベルトから抜いた拳銃を発砲元にいたヘリの残骸のそばで倒れながらもかろうじて残っていた息で銃を撃ってきたザフト兵士に向けて発砲し反撃。
ユウの放った弾丸はザフト兵士の右目に直撃した。
「ぐああぁぁぁ!? こ、この……卑劣なナチュラルがああぁぁぁ!」
目をやられ、手当たり次第に銃を乱射する生き残りのザフト兵士。
その銃撃を盾代わりにしたククリで凌ぎながら、顔面を撃ち抜く。
その1発が眉間を貫いたザフト兵士は、今度こそ息絶えた。
「ぐっ……!」
激痛に苛まれる右脚に鎮痛剤代わりに雪を押し当て、その上から傷口を抑える。
幸い弾丸は貫通したが、傷が深く血が止まらない。
「ミハエル……すまない、しくじった……」
『お、おい! 何があった!?』
「ヘリの、ザフトの生き残りにやられた……」
『ま、待ってろ! すぐに救護班を向かわせる!』
ミハエルに撃たれたことを通信で伝え、その場に仰向けになる。
相手は生まれつき強靭な肉体を持つコーディネイター。その中でも戦闘訓練を積み、実戦に出ることを許されたザフトの兵士であることを失念していた。
墜落したヘリの中でも生存するという可能性があることを。
「気をつけろ……他にも、生き残りが……いる、かもしれない……」
『おいふざけるな! ユウ! そんなことで死ぬなんて許さねえからな!』
「ハッ……死ぬ気は無い……ザフト共に勝って、レナの為に……理想郷を……」
『ああ! 妹ちゃんのためにも、お前は死んじゃダメだ! 理想郷を一緒に取り戻すって、約束しただろ!』
「そう、だな……」
『ユウ? おい、意識を持たせろ! ユウ!』
ミハエルの声が遠くなっていく。
シベリアの雪原に倒れながら、徐々に寒さと痛みを感じなくなる中で、空を見上げながらユウは特区に残してきた唯一の家族のことを思い、そして静かに目を閉じた。
ミハエルがこのあとすぐにユウを見つけ出したことで一命は取り留めたものの、負傷により意識を手放したユウはここで前線から一時退場することとなる。
そして、翌日にユウが目を覚ました時には、すでにイルクーツク攻略戦は終わってしまっていた。
……つまり。
数も質も劣る27機甲連隊は、わずか1日の戦闘でイルクーツクの奪還に成功し、そして圧倒的戦力を持つザフトの守備隊──残る地上に集う8機ものMSを有する敵の主力部隊を殲滅してしまうのである。
それも、1個師団からなるザフト軍は出撃したMSを全て破壊された上にほとんどが戦死ないし捕虜となり帰還者を出さなかったという甚大な損耗を受けたのに対し、27機甲連隊側の死傷者は100名程という軽微な被害に収まるという圧倒的な大勝利で。
鷲の首を落とされたザフトは、指揮官が戦死したことも知らぬまま雪煙の舞う雪原の中を進軍し、そしてアルトリアの仕掛けたイルクーツク守備隊の主力部隊を殲滅する罠が張られた狩場へとまんまと足を踏み入れてしまうこととなる。
『敵地上部隊補足! ザウートとバクゥを先頭に、予定通りの進路でグズネツォフ中隊のいる戦場に向かってきています!』
「……来たか」
斥候の報告を受け、アルトリアは乗機のジンを起動させる。
航空戦力を損耗し、視界の悪い雪煙の地表にヘリを下げた敵は、彼女の計画通りにその罠に向かっていた。
作戦通りの展開。
敵は圧倒的戦力だが、それでもコーディネイターの能力とMSを過信し、頼り、驕った連中。
砂時計の中に広がる制御された環境で生きてきた、荒ぶる星の地球がもたらす自然の猛威というものを何1つ知らない、プラント育ちの天狗共である。
この一戦でイルクーツクの守備隊を殲滅し、理想郷を取り戻す第一歩を踏みしめてみせる。
『トラック隊、陽動を開始しました!』
「作戦開始だ!」
囮のトラック部隊が接敵した。
作戦開始の指示を出し、アルトリアはジンを立ち上がらせた。
「見せてやるザフト共……銀世界での戦いというものをな!」
イルクーツクの攻防戦は最終局面を迎える。
「ニュートロンジャマーの影響で、向こうとの無線通信は困難です」
「敵は気づいていないみたいだな。よし、なら始めるぞ」
そして、アルトリアが敵主力を相手に戦闘を開始した頃。
戦車部隊を擁するヘルモルト率いる別働隊が、最低限の守備隊のみを残すイルクーツクへと攻撃を開始した。
「クマネズミだからってなめるなよ! ヘリもMSもない相手なら、圧倒的にこっちの火力と装甲が上なんだよ! 突撃だぁ!」
クマネズミによる砲撃とともに、戦車を先頭とする部隊が一斉にイルクーツクへ突入。
ザフトの守備隊が応戦するも、ほぼ全戦力と言っていい部隊を出撃させた彼らにはイルクーツクを戦車を有する敵から守るすべはなく、主要施設を次々に制圧されていった。
「予想通り最低限の戦力しか無いな……これなら市街地に敵兵が配置されている可能性は低いはず。よし、庁舎と駅の制圧を優先! 民間人の居住区からザフトを離すように押し込んで行け!」
最低限の守備隊しか残していなかったイルクーツクのザフトは、司令部の庁舎と最大の重要施設であるシベリア鉄道が集中するイルクーツクの駅に集中的に戦力を配置しており、民間人居住区の並ぶ市街エリアや郊外区画、博物館や美術館などが並ぶ中心区画、公園や墓地などにはほとんど兵を配置していなかった。
都市の外苑を制圧後、無人の大通りを進み庁舎と駅から市街地方面に伸びる道路をすぐに確保。
そこからザフトを庁舎及び駅に追い込み市街地の方から引き離すようにして包囲網を展開し、民間人を人質に取られないよう市街地を戦場にさらすリスクを排除してからすかさず庁舎と駅へ戦車を突撃させ正面からバリケードをぶち破り、それに歩兵が続く形で建物へと侵入を果たす。
「「「その首置いてけザフト共!!」」」
そこからはザフト憎しと士気において大いに上回る27機甲連隊が、奇襲と歩兵相手に容赦なく戦車を用いた戦いでザフトのわずかな守備隊を圧倒。
瞬く間に庁舎も駅も制圧に成功し、イルクーツクは連合が取り戻した。
「よし、こちらは上手くいきました。市街地の民間人の解放も順次進めよう」
「了解!」
ヘルモルト中隊はザフト守備隊を制圧後、休む間も無く占領されていたイルクーツクの民間人の解放に向けて動き出す。
アルトリアの勝利を信じているが、万が一連隊が敗北した場合にはザフトの主力部隊がすぐにイルクーツクの再占領を行うためにこちらに戻ってくることになる。
そうなればイルクーツクは戦場となり、市街地も砲火にさらされることになるだろう。
そうなる前に民間人の避難準備を進める必要もあった。
──だが、彼らはまだ知らなかった。
プラントの統治権をめぐる独立戦争だったはずのこの戦争が、互いの人種を憎しみ合う凄惨極まりない絶滅戦争に様相を変えてしまったという本当の意味を。
次回はイルクーツク攻略戦の最後の戦いになります。
イルクーツク攻略戦後27機甲連隊の過去編は一旦終了し、本編の方に戻りヴェサリウスのクルーゼ隊視点から進める予定です。