その首置いてけザフト共 作:みども
イルクーツクから出撃したザフトの地上部隊は、ヘリ部隊から聞いた隊長の危機を救うべく、雪原の鷲を狙う卑劣なナチュラルの地上部隊に攻撃を加えこれを殲滅戦と猛然と前進する。
その先頭を走るバクゥとザウートが、雪道を走るククリを装備した連合のトラック部隊を補足した。
「敵部隊を見つけた! 歩兵ランチャーを乗せたトラックだな」
『奴らこっちに気づいてるぞ。投げナイフを乗せたトラックで俺たちに立ち向かうつもりか?』
「構うもんかよ! 俺たちで轢き潰さねえと、あの投げナイフが隊長に向くんだろ!?」
『そうだ! 卑劣なナチュラル共がミサイルを飛ばしてきて仲間がやられた! 1人残らず皆殺しにしてやれ!』
「任せておけ! 命乞いする暇も与えねえ……ぶち殺してやる!」
ククリを飛ばしてくるトラックに対し、ゲルガーの援護のためにもとザフトのMSパイロットであるメルク・ロビンソンが乗機のバクゥを加速させる。
仲間を撃たれたことを聞いて激昂する彼は、もはや目につくナチュラル全員を殺さなければこの怒りは収まりそうになかった。
悪路も難なく走破するバクゥの機動力を生かし、トラックとの距離をみるみる縮めていくメルク。
射程は十分。走行しながら標準を合わせ、トラックに向けレールガンを発車しようとした時、トラックの方からククリが発射された。
「バカが、そんな不安定な上にロックオンもしないミサイルなんぞ──ぎゃああぁぁぁ!?」
ロックオンもされていない状態で発射されたミサイル。
そんなもの当たるわけないと、直撃コースを外れたミサイルなど無視していたが、ミサイルは突然空中で炸裂し強烈な閃光をカメラ越しにメルクの目にお見舞いしてきた。
『急に止まるな──うおっ!?』
レールガンの狙いを定めるためにカメラ越しの映像に集中していたところに炸裂した閃光弾に視界を潰され、悲鳴をあげるメルク。
たまらずバクゥのブレーキをかけ緊急減速したことで、前方のメルク機が影になったおかげで閃光弾を食らわずに済んだすぐ後ろを追走していたもう1機のバクゥが避けきれずに追突してきた。
これにより地上部隊の隊列が乱れ、その直上を通過したヘリ部隊が大きく前方に出てしまう。
そこへすかさず雪に紛れた伏兵とトラック部隊から多数のミサイルが発射された。
『うわあああぁぁぁ!』
『避けきれない──!?』
『クソッ! こんな数どうすれば──ギャアアァァァ!?』
ロックオンに頼らず斥候の情報を頼みとして正確な無誘導ミサイル攻撃を行うククリの斉射。
雪煙で視界が悪い上に対空攻撃を回避するために低空飛行していたことで、ククリの射程圏内という至近距離でこれを食らうこととなったヘリは、回避すらできずに次々に撃ち落とされていく。
雪煙に紛れれば、敵も対空砲撃を行えない。
管理された環境であるプラントで生まれ育ったザフトの兵士たちは、雪が舞う銀世界を、極寒の雪原の大地を知らない。
そしてそのシベリアの世界に慣れ親しみ、吹雪の中でも先を見通す目を育ててきた斥候が存在するということを知らなかった。
貧弱な歩兵装備を相手に、ザフトはMSに次ぐ戦力である対戦車ヘリ部隊を瞬く間に壊滅に追い込まれてしまった。
「この……ナチュラル共がアアアァァァ! 許さねえ、テメエら絶対に許さねえ!」
目の前で仲間が、ヘリが撃ち落とされていく光景。
なんとか回復した視界にそれを見たメルクは激昂し、歩兵をひき殺しトラックを破壊しようとレールガンを発射しながらバクゥを疾走させた。
『メルクに続け! 卑劣なナチュラルめ、皆殺しだ!』
メルクのバクゥから放たれたレールガンがトラックを撃ち抜き、これを一瞬で破壊する。
間一髪車から飛び降りた兵士たちも、メルクは容赦なくバクゥで轢き殺した。
そしてメルクに続けと、後続の地上部隊も怒りに任せて突撃を開始する。
狐の巣穴に身を隠す連合の兵士を逃すまいとザウートの砲撃をたたき込み、出てきたところを装甲車やバクゥで轢き殺し、後ろをついてきた歩兵部隊は怒りのままに狐の巣穴へ手榴弾やマシンガンをぶち込みまくり、瀕死の兵士を引っ張り出しては蹴り付け殴りつけ銃撃を身体中に叩き込んでいった。
「死ねザフト!」
「この程度で俺たちを殺せるか!」
「皆殺しはこちらのセリフだ!」
だが、この連合の兵士たちは今までのナチュラル兵とは違った。
MSや装甲車に轢かれようが、ザウートの砲撃を撃ち込まれようが、引っ張り出されてボコボコにされようが、命尽きるまでザフトを殺してやるという執念で立ち上がり這いずり回り、銃による反撃から噛みつきまでしてザフト兵に襲いかかるという異常な戦意をみなぎらせて立ち向かってきた。
「な、なんだこいつら──ぐあっ!?」
「馬鹿な、なんで生きて──ぎゃあ!?」
「や、やめろくるなぁ!?」
「タダで死んでたまるか!」
「1人でも道連れにしてやる!」
「その首よこせザフト!」
27機甲連隊の兵士たちは、同じユーラシアを故郷としながらコーディネイターとナチュラルという人種間問題によって地獄のようなシベリア特区に追い出され、白い死神のもたらす寒さと戦い続けて、命がけで獣や虫を捕り喰らい飢えをしのぎ寒さをしのぎ生き残ってきた。
その末に手に入れそうになった、安寧の理想卿をザフトによって破壊された。
その怒りは特区で育まれた強靭な肉体に不屈の闘志を植え付け、コーディネイターのザフト兵士たちすら理解困難な、勝つか命尽きるまでザフトを倒すという執念に突き動かされる狂戦士たちを生み出していた。
ただでは殺されてやらない。
理想郷を破壊する
狂戦士と化した27機甲連隊の兵士たちの強さとしぶとさはザフト兵士たちの常識も凌駕し、一方的になぶり殺しにすると思って襲いかかったザフトの歩兵たちに逆に牙をむいて襲いかかり、混戦を生み出した。
「俺たちも加勢するぞ!」
「死ねザフト!」
「その首置いてけザフト共!」
さらには身を隠していた27機甲連隊の兵士たちが、斥候までも我先にとMSや装甲車のいる部隊に向かって突撃を仕掛けてきた。
トラック部隊も反転し、突っ込んではククリを撃ち兵士たちが飛び降りてザフトに対し手当たり次第に襲いかかっていく。
死ぬことよりもザフトを殺すことに執念を見せる、死の恐怖が無いとすら思える突撃だった。
これにより数はザフトの方が上だが、その狂戦士ぶりに怯みあまつさえ逃げる兵士まで出るほどに気迫で押され、むしろザフトの方が押し込まれ、被害が拡大していく。
「チッ……!」
当然、これを見ているだけでは気が済まない。
メルクたちは死に損ないの27機甲連隊の兵士を吹き飛ばし援護しようとしたが、すでに味方歩兵と入り乱れた戦闘に発展しているため、強力なMSの火力を向けることはできなくなっていた。
「装甲車部隊は歩兵を援護しろ!」
『分かってる!』
MSの火力を向けられないとなると、装甲車に援護を頼むしか無い。
歯がゆい思いを抱きながら、メルクは自分のなすべきことに目を向けてバクゥを動かす。
とにかく、ゲルガーを狙う敵軍を叩く。
そのことに集中するべくMS部隊は雪原を疾走しようとした。
「俺たちは隊長の援護のために、このまま敵の中枢を叩く──ぐおっ!? な、なんだ!?」
だが、突如としてバクゥは雪原の大地に足を取られた。
後続のザウートやバクゥも同様に地面にとらわれる。
突然のことに驚くメルクだが、バクゥを立て直そうとする。
地形への適応性能は高い。足を取られるというのは想定外だが、雪原だろうとバクゥは走れる。
「バクゥがそんなことでやられると思うなよ! バーニアを──なんで立て直せねえんだよ!?」
だが、彼の予想に反してバクゥは立て直しが効かず沈む一方だった。
それもそのはずである。
メルクたちが踏み込んだのは、
極寒の雪原は川を凍らせる。
人どころか車が乗れるほどに分厚い氷が張っている川は、並大抵のことではその氷が割れることは無い。
だが、車などよりもはるかに重たいMSならば?
それがいきなり複数機も乗れば?
当然、立たせることなど不可能であり、氷は割れバクゥたちは川に沈んでしまう。
バクゥは地形対応能力が高いと言っても、それはあくまで地上の話。
氷の大地の上を走ることはできても、割れた氷が浮上の邪魔をする極寒の川に落ちるという事態まで想定した設計にはなっておらず、沈んだ現状では対応できなかった。
バーニアを吹かしても割れた氷や一緒に落ちたザウートが邪魔で浮上できず、ズブズブと機体は沈んでいく一方となる。
これがアルトリアの仕掛けた最大の罠。
快適な環境を設定されたプラント育ちのザフトたちは知らない、川や海も凍らせる極寒のシベリアが生み出す自然の猛威の1つであった。
一度でも氷を割って沈んで仕舞えば最後。
水面全体を覆う氷が邪魔をして、容易には抜け出せずそのまま白い死神によって冥府へ誘われてしまう凍てつく落とし穴である。
ディンとヘリを失った時点で、彼女にとって地上を走るMSは冬を利用した罠に嵌めるカモである。
そして、この罠にはまった瞬間をアルトリアは見逃さない。
敵の進路を予測し、誘引し、そして予定通りの場所に張った罠に敵をはめた。
動けず凍った川に嵌った敵MSの位置は、偽装を施して仕掛けた落とし穴の位置は、付近の斥候までも突撃したため情報が入らなくなり見えなくなったとしてもあらかじめ把握している。
「敵は罠に嵌った。残弾を惜しむな! クズネツォフ隊、一斉斉射!」
『了解! 総員、指定ポイントに総攻撃! 全弾使い切るつもりで撃ちまくれ!』
クズネツォフ隊に残されたすべての火砲が罠にはまったメルクたちのMSに向かって持てる火力の全てを噴く。
無数のミサイルやレールガンにさらされ、回避もできないMS部隊は次々に被弾した。
「ナチュラル共があああぁぁ!」
「──チェックメイトだ」
「ジンだと……!? な、なんでナチュラルがMSを──」
そして、千載一遇の好機をものにしたところで登場したアルトリアの操作するジン。
いくら1対8であっても、動けないMSを仕留めるのは容易である。
標準装備の重突撃機銃、そしてディンから奪い取った散弾銃や重突撃機銃を弾薬を惜しむことなく撃ちまくるジンによって次々に貫かれ、メルクたちのMS部隊は狂戦士と混戦になっていたザフト兵士たちの眼の前で蜂の巣となり、そして1機残らず破壊されていった。
「う、嘘だ……」
「そんな……」
「なんで、ジンが……」
彼らにとっての誇りであり、驕りであり、慢心であり、頼みの綱であり、そして連合相手に度重なる勝利を築いてきた最大戦力であるMS。
その全てを破壊された上に、1機とはいえ敵としてMSが姿を現したことに、ザフト兵士たちの士気は完全に打ち砕かれた。
「投降するか、ジンに挑むかの2択だ。選べ、ザフト共」
アルトリアの操る銀世界に溶け込む白いジンが降り立った戦場で、ザフト側にもはやまともに戦う気力を残すものは1人も残らず。
その手に持つ武器を次々に手放し、車両を捨て、手を後ろに組み膝をついていく。
それはザフトのイルクーツク守備隊の主力部隊が完全な降伏を示したものであり。
そして、質でも数でも劣っていた27機甲連隊が初めて挑むこのイルクーツク攻略戦にて勝利を獲得したことを示す何よりの証拠であった。
『こちらヘルモルト中隊。イルクーツクの庁舎と駅は完全に制圧しました』
「ああ、こちらも片付いた。喜べお前たち、この戦いは我々の勝利だ!」
「「「オオオオォォォォ!!」」」
アルトリアの言葉に、27機甲連隊は風が収まったことで上空の視界いっぱいに広がった銀世界を照らす青空に向けて、高らかに勝利と歓喜の雄叫びを上げたのだった。
凍った川を使った落とし穴。罠としてはシンプルで地味に思うかもですが、戦車も通れる氷が張る冬の川というものを経験したことがないプラント育ちのコーディネイターは嵌る……と思います。念には念を入れて土で偽装していたし。雪煙の起きる視界の悪い日を決戦日に選んでいたし。仲間を撃たれて頭に血が上っていたし。
普通の落とし穴と比較して、氷が邪魔で上がれないという障害があるので、嵌って仕舞えばバクゥでもさすがに対応できないだろう……ひょっとしてできるかな?いや、できないと思い嵌ってもらいました。
イルクーツク攻略戦は決着つきましたが、もう1話イルクーツク編が続きます。