その首置いてけザフト共 作:みども
民間人を戦争に使わないことを信念とするカリオンが、国際法を順守するという建前を使い、本国上層部にラクスの保護をしたことを知られ余計な横やりが入る前にプラントへ慰霊団の引き渡し交渉を行い、それを受けたシーゲルがプラントのトップとして、同時に娘を思う父親としてラクスの早期帰国を望んだことで、両者の利害は一致。
デブリベルトの中でも様々な理由からジャンク屋や宇宙海賊すら近寄りたがらない宙域となっている、ユニウスセブンの残骸が集中する宙域にて両陣営の派遣した、グスタフとヴェサリウスの間で慰霊団の引き渡しが行われることとなった。
本来ならば、何事もなく終わるはずの保護した民間人の引き渡し。
だが、カリオンとシーゲルによって素早く作られたことで戦争の激化を狙うもの達の横槍を入れる隙を与えることなく用意したはずのこの場に、それは現れた。
「チッ……大西洋の連中め、近くに残っていたのか」
ラクスとシャトルの機長がグスタフのブリッジからシャトルに乗り込み、アスランとラスティの操縦するジンに引き渡されヴェサリウスに向かうその最中、周囲の宙域を警戒するユウの扱う偵察型ジンのセンサーがヴェサリウスとグスタフめがけて接近してくる多数のMAからなる編隊を発見した。
多数のメビウスからなる編隊。
それはこの近くで慰霊団のシャトルを襲撃してきた、あの大西洋連邦の部隊だった。
本国に確認を取ったところ、大西洋連邦はこの件を否定し付近に作戦行動中の部隊は存在しないとして、連中に宇宙海賊のレッテルを貼り付け切り捨てたという。
証拠隠滅のため既に大西洋連邦が回収したとみていたが、付近の宙域に残っていたらしく、どこで嗅ぎつけたのかは知らないがラクスの所在を知って襲撃を仕掛けてきたと推測される。
実際にはこの引き渡しの場を知ったザフト側のある人物がブルーコスモスの重鎮に情報を流し、そこから大西洋連邦の軍部より宇宙海賊のレッテルを貼られ宇宙をさまようしかなくなったラクス暗殺の特務部隊に指令が入ったことで仕掛けられた襲撃である。
メビウスの編隊は既に本国から切り捨てられた存在であり、宇宙をさまよい餓死するか証拠隠滅のために派遣される大西洋連邦からの刺客の襲撃によって散るしかなく、再度連合に復帰して生還するにはラクス暗殺を成功させる以外の道が残っていなかった。
そんな宇宙海賊のレッテルを貼られて切り捨てられた暗殺部隊の事情など知らないユウは、メビウスの編隊が慰霊団の襲撃犯達の操っていた機体と同じものであることを確認すると、そのことをグスタフへ通達した。
「ナガト機よりグスタフへ。こちらナガト、周辺宙域を索敵中、接近する所属不明のメビウス編隊を確認。識別コードが慰霊団のシャトルを襲撃していた機体のものと一致しました。至急確認を願います」
『此方グスタフ、了解。……対象のメビウス各機の識別コードの照合ができました。前回交戦した部隊の機体と全て同一機です』
グスタフに確認してもらったところ、やはり慰霊団を襲撃してきたあの大西洋連邦の部隊だった。
フェルナンドからは連中の所属に関して大西洋連邦がそんな部隊は知らんという切り捨てに走ったという話は、既にユウ達も聞いている。
『大西洋連邦へ確認した際、対象は大西洋連邦軍が存在を否定、連合を装う何らかの武装組織若しくは宇宙海賊として認定され、プラント民間人および当艦艇所属の部隊に対する攻撃行為により、地球連合加盟国間全土に対し指名手配を受けているテロリストに該当しています』
上層部からの命令に従い動いていたのに、いつの間にか宇宙海賊にされた上に指名手配までされていた。
発見次第、本来は味方のはずの連合の部隊から攻撃を食らう立場である。証拠の隠滅のために大西洋連邦から派遣される部隊もあるだろうし、口封じということか。
そういう任務についていたとはいえ、何のためらいもなく本国から切り捨てられるとは。
この扱いにはさすがに撃たれた恨みがあるユウとしても、メビウスの編隊に対して少しばかり同情してしまう。
『ナガト機は対象へ武装解除及び投降を呼びかけて下さい。勧告を拒否、または無視した場合は構いません。民間人の安全保護および自衛権の行使に基づき、撃墜してください。生死の有無については不問となります』
……殺しも許可する、ということか。
ラクスと仲良くなっていたので最後まで会話できる機会を設けたかったから、そしてきな臭い事になる予感があったので、ユウは今回ミランダをグスタフに置いてきたのだが、結局味方撃ちをしなければいけない事態になったことを考えれば正解だったようである。
「ナガト機、了解。接敵します」
『グスタフよりクズネツォフ機へ。ナガト機に随伴、援護を要請します』
『こちらクズネツォフ機。了解、任せときな』
連中の境遇を思えば可哀想ではあるが、だからと言って民間人の命を狙うものを見逃すほどユウは甘くないし優しくない。
ユウは接近するメビウスの編隊の方へ投降を呼びかけるべく向かい、ミハエルのジンが戦闘になった場合の援護のためにグスタフの直掩から離れてユウについてきた。
クラインの娘だろうが、プラントに住むコーディネイターであろうが、ユウ達にとっては国家に武力を与えられ軍務につくべき者が身柄を守るべき民間人。
その安全を脅かす存在に、本来彼らを統率し守るべき大西洋連邦が宇宙海賊のレッテルを貼り付けた集団ならば、撃墜する大義名分もあるため容赦をする理由はない。
グスタフに属する部隊からMSが居なくなるのは大きいだろうが、ラクスらが搭乗するシャトルはグスタフの部隊だけでなく複数のMSを展開するヴェサリウスの守っている。
身命の安全は保障されているので、この場で自分たちがやるべきことは民間人を戦場に巻き込まないようにメビウスの編隊が接近する前に迎撃することだった。
接近するメビウスの編隊の前に立ちふさがったユウは、スナイパーライフルを構えオープンチャンネルによる警告を編隊に向けて発する。
「此方は地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊所属、ユウ・ナガト少尉。そこの接近するMAは、直ちに全機機関を停止して全武装を放棄、投降せよ。貴様らには民間人襲撃に関する殺人未遂行為、並びに略奪未遂行為に関する容疑がかかっている。警告を無視した場合、当方は貴様ら全機を撃墜する準備がある。これは、地球連合に加盟する全国家の司法機関が正式に認めた決定だ! 改めて言うが、貴様らは地球連合加盟国全てに指名手配を受けている一級の犯罪者だ! 命が惜しければ直ちに投降しろ!」
『うわぁ、初手から相手の心へし折る警告容赦なくするな。
「民間人に危害を加える輩に容赦など必要ない。真相が何であれ、彼奴らを大西洋連邦もまた正式に宇宙海賊として認めたことは紛れもない事実だ」
それは警告を向けられたメビウスの編隊やナガト機と通信をつないでいるグスタフだけでなく、チャンネルを傍受したヴェサリウスにもつながることとなり、クルーゼ隊にもこの情報がいくこととなった。
──唯一、この場でこの通信を聞けなかったのは通信設備を含め全ての機器が破損などにより停止しているシャトルの中にいる者達だけであった。
帰国するためには、ラクスを殺すしかない。
本国からその最後通告を受けていたメビウスの編隊に、その警告は通じない。
何より、彼らにとってそのラクス暗殺を果たすために立ちふさがっているのが、前回も邪魔をした上に仲間を何機も墜とした仇である、MSを操るコーディネイターの分際で地球連合に属するなどとほざく裏切り者ならば、その警告に従う者などいなかった。
『黙れ! お前らだけは絶対に許さない、宇宙のチリに消えろコーディネイター!』
警告を無視して、リニアガンの発砲やミサイル攻撃が開始される。
当然、ユウとミハエルはそれを投降拒否、すなわち撃墜されても文句なしという返答として受け取った。
『短気な連中。大西洋ならともかく、俺たちユーラシアに降伏しておけば自分たちは生き残れただろうに』
「宇宙海賊として散ることを選んだのは相手の方だ。コーディネイターと差別する連中に大義名分を掲げて八つ当たりできる絶好の機会、存分に活用させてもらう」
『そう来ないとな、行くぜ!』
2機のジンに対し、敵は25機ものメビウスからなる編隊。
1対5で互角とされるジンとメビウスの戦力差を考慮すれば厳しいように見えるが、敵は補給もできずに宇宙を彷徨い続けたことで動きがかなり悪い。対してユウ達の機体だが、ラクスから逃げる口実とはいえこのデブリベルトの戦闘を考慮して無数の浮遊するデブリの重力干渉などに合わせユウがOSの改良を施したことで万全のコンディションである。
「堕ちろ」
『馬鹿が』
正確な攻撃で接近前から2機のジンは普段の人種差別で味方からも晒される嫌がらせの憂さ晴らしも兼ねて撃ちまくるスナイパーライフルとキャットゥスを次々にあてて、メビウスを墜としていきその数を削っていった。
戦況は圧倒的にユウ達の優勢であり、ザフト側が援軍を出す必要すらなかった。
ただし、ユウ達がメビウスの編隊を迎撃するために動いたことにより、グスタフの護衛をする僚機のうち、MSが一時的に離脱しヴェサリウスとグスタフの戦力差が大きく開くこととなる。
ラクスの身柄も既にクルーゼ隊が確保していた。
何の問題もない。
──そんなユウ達の認識は、甘すぎた。
この世界が残酷で、無慈悲で、対峙している相手がザフトであること。
民間人を戦闘に巻き込まないように配慮するのは当たり前などという甘さに溺れた考えを相手も通してくれる保障などどこにもないという現実を、無慈悲な戦場で身をさらし続けていたのにまだ彼らは理解できていなかった。
プラントの要人であるラクスをクルーゼ隊が確保している状況。
ラクスの命を狙う大西洋連邦の派遣した暗殺部隊の襲来。
その迎撃のためにグスタフから脅威となるMS部隊が離脱し、彼我の戦力差が絶対的なものとなる好機。
ブルーコスモスにこの慰霊団引き渡しに関する情報を流して特務部隊を呼び寄せたことで生まれるこの絶好の機会を待っていたクルーゼは、仮面の下で全てが自分の思うままに進む展開に邪悪な笑みを浮かべた。
ヴェサリウスの方には、グスタフから事情を説明する通信が行われている。
当然表向きの理由である、ラクスの命を狙う宇宙海賊からの襲撃があったためこれを迎撃していることや、同盟国の尻拭いでもあると考えているフェルナンドから戦力的には十分のためグスタフの部隊が単独で対応するから援軍の必要はないことなどである。
『クルーゼ隊長、どうしますか?』
シャトルを牽引するアスランとラスティの護衛についているジンのパイロットのミゲルから、クルーゼに判断を仰ぐ通信が入ってくる。
襲撃犯が地球連合で指名手配を受けている海賊であったとしても、彼らが戦っているのはラクス達ユニウスセブンの慰霊団を守るため、すなわち本来はザフトが守るべきプラントの民間人を国際法と人道的観点から守るために戦っているのである。
ザフトの精鋭がいる中で、自国の民間人を他国の軍人に守ってもらうというのはさすがに体裁が悪い。
援護だけでもいいから参加するべきではないか?
地球連合に属するとはいえ、ラクス達を助けてくれたこと、民間人だからと政治的思惑に利用せずこうしてほとんど無条件で返還してくれていること、そして最前線で戦ってくれているのがジンを操縦していることからコーディネイターだからということ。
様々な理由から、いくら地球連合を敵視するザフト達といえどもクルーゼ隊の面々にはグスタフに対して好印象があり、彼らがラクスの命を狙う不届きものと戦ってくれているのを任せきりにするのが申し訳なく感じる者も少なくなかった。
グスタフの方は手出し無用と言っているが、いくらMSとはいえ相手の数が多い。
義憤でこの戦争に参加した義勇兵というザフトの側面も相成り、同胞であるコーディネイターを援護し、ラクスを守るためにこの戦いに参加したいと思う感情が湧いてもおかしくはない。
だが、そのミゲルからの通信を受けたクルーゼは。
邪悪な笑みを隠し、画面越しでも見る者がおもわず後ずさりたくなる険しい表情を浮かべて動き出した。
「……クルーゼ隊長?」
怒りの表情を仮面の下に乗せるクルーゼの様子に異変を感じたアデスが声をかけるが、クルーゼはそれを無視してモニターの前に立つとグスタフに対し怒りをあらわにした。
「どういうことだ、マティアス艦長! この引き渡し交渉の場は我々だけが知る極秘事項、そこに何故あれだけの数のメビウスが襲撃を仕掛けてくるのか!?」
『お、落ち着いてくださいクルーゼさん! それに関しては撃退したのち厳正な調査を──』
宇宙海賊という説明がなされたにもかかわらずグスタフ側を疑い詰め寄るクルーゼに、フェルナンドは慌てる。
民間人の安全を考慮して、両国間で極秘裏に指定された引き渡し場所に現れた宇宙海賊。それは確かにこの場にいる者の中に宇宙海賊と繋がる者がいなければおかしい襲撃である。
その犯人はクルーゼだが、襲撃犯が地球連合の主力兵器であるメビウス多数からなる編隊であること、この襲撃犯が宇宙海賊として指名手配されたことをプラント本国からではなく今しがたフェルナンドからの説明で初めて知ったという立場を利用して、またナチュラルに対して卑劣な劣等人種だという印象を抱いている部下達の感情を利用して、実際にはただの言いがかりだが巧みな話術であたかもそれが真実であるかのような糾弾をフェルナンドへ仕掛けた。
「黙れ卑劣なナチュラルめ、お前達はそこまで落ちたか! 奴らが宇宙海賊だと? あのようにミサイルまで満載にしたフル武装で動ける20機以上ものメビウスの編隊が組める大規模な海賊など、私は聞いたこともない、そんな者がいるはずないだろう!」
『うっ、そ、それは──』
クルーゼの追求に言葉を詰まらせるフェルナンド。
そもそも彼はあまり口が達者ではない上に、つい最近まで正規軍であった彼らは確かに海賊というにはあまりにも規模が大きすぎるし、この規模で無名だったなどというのは無理があった。
しかし暗殺任務に失敗した大西洋が追放した部隊などという真相を言えるはずもなく、反論できずにさらなるクルーゼの糾弾を許してしまう。
「大方、ラクス嬢の保護に我々クルーゼ隊が、ザラ国防委員長のご子息が派遣されることを知って悪知恵を働かせようとしたのだろう。海賊と偽る部隊を潜ませ、ラクス嬢だけでなくアスラン・ザラも亡き者にしようと企んだ!」
『ま、待ってくださいクルーゼさん! 我々は──』
「くどい! この部隊を預かる者として、そして議長閣下からご息女の安全を託された身として、貴様らの卑劣な策略はこのラウ・ル・クルーゼが打ち砕く! 民間人保護の大義をかざして、この卑劣な手段を実行に移した地球連合を我々は決して許さない!」
『お待ちください、クルーゼさん──』
「海賊と称した友軍を引き入れるために、我らに手出し無用などと言ったのだろう? もはやお前達の卑劣な策謀は看破した! 案内役に虎の子の戦力であるMSをつかったのが裏目に出たな、フェルナンド・マティアス! 増援が来る前に、宇宙のチリと変えてくれる!」
『まさか、民間人のいる宙域を戦場にするつもり──』
「それをまさにしようとした貴様らに言われたくはない! アデス、全門斉射だ。目標、グスタフ!」
『クルーゼ、貴様──』
海賊を招き入れた犯人を察したフェルナンドの言葉を遮り、クルーゼは通信を切った。
そして自らの部下達に対し、事実確認すらまともに行わず煽り畳み掛けるように戦闘の開始を指示する。
「ミゲル、護衛はオロールに任せてお前達もグスタフを沈めろ。私もシグーで出る。ラクス嬢を我々の手で必ずお守りし、卑劣な罠を仕掛けたナチュラル共に鉄槌を下す。諸君、力を貸してくれ給え」
「クルーゼ隊長、いくらなんでも──」
「「「ハッ!」」」
クルーゼの巧みな弁舌。
それに乗せられ、感情を煽られたクルーゼ隊には、すでにグスタフは卑劣なナチュラルの手先としてしか映っていなかった。
ただ1人、副官として、艦長という責任ある立場として物事を冷静に見られるアデスだけは、今回の件に短慮がすぎる決断ではないかという疑問を捨てきれず諌めようとしたが、クルーゼは再びアデスの声を無視する。
「砲雷長、私が許可する。ヴェサリウス、全門斉射だ」
「ま、待てアーロン──」
「ハッ! 全門斉射! 沈め卑劣なナチュラルめ!」
ヴェサリウスの主砲が光る。
直後、無防備なグスタフの艦体に直撃し、ブリッジやCICなどの主要区画が吹き飛ばされた。
ザフトに良心なんてものは無いって学んだでしょうに……
クルーゼ隊の面々も地球連合の卑劣さを思い知っているところがあるから……
戦争が人を狂わせる……