その首置いてけザフト共   作:みども

18 / 95
アルテミス攻防戦 4

 

 

 

 グスタフ撃沈。

 ヴェサリウスからの突然の攻撃による母艦の撃沈は、いよいよメビウス編隊との近接戦闘に入ったユウとミハエルのジンに唐突な凶報としてもたらさせた。

 

「グスタフがロスト……!?」

『なんでヴェサリウスがグスタフを落とすんだよ!?』

 

「……は?」

 

 ミハエルの言葉に、ユウの目にはグスタフを突然奇襲で攻撃し沈めたヴェサリウスの姿が光景が映し出される。

 フェルナンドの説明に耳を貸さず、ラクスを確保し自分たちが大西洋連邦に見捨てられ海賊にされたメビウスの編隊を迎撃するために離れている間に、ザフトは敵とはいえ一時停戦を結んでいたはずのグスタフを一方的に攻撃し撃沈した。

 

 ──ああ、そうだ。

 ザフトはこういう連中だった。

 平気で民間人を殺し、無抵抗の捕虜を殺し、中立国の人間も巻き込む大量殺戮を躊躇なく行う犯罪者組織。

 国際法や人道への理解を求めるなど、土台無理な連中だった。

 

 シベリアで奴らがどれだけ無法者なのかなど、嫌というほど思い知らされたというのに。

 なんで忘れていたのか? 

 なんで信用してしまったのか? 

 

「──貴様等、絶対に許サネエ」

 

 とっくに壊れていた、時間で劣化していたが直ってなどいない、ユウの心の中でまた何かが壊れる音がした。

 

『待てユウ! あいつらのところにはまだ民間人が──』

 

「その首で贖え、ザフト!」

 

 ミハエルの制止も聞こえず、怒りと憎悪に塗りつぶされた感情のままにユウは機体を翻し、ヴェサリウスへと向かっていく。

 

『逃がすか!』

『仲間の仇だ、宇宙に散れコーディネイター!』

 

『行かせるか! ダメだ、数が多すぎる……!』

 

 そして、彼らから見ればザフトのもとに逃げ込もうとするようなユウの機体の動きにメビウスの編隊も反応した。

 ミハエル機と違い明確に仲間を殺したユウのジンは彼らの中で仇であるとともに、本国から海賊のレッテルを貼られて追放された原因を作った機体である。

 ミハエル機がいるとしても、取り逃がすことなどできない相手である。

 

 メビウスの編隊から次々とユウの追撃に走る機体が出て、数が多いこともありミハエル機だけでは抑えきれず突破を許してしまった。

 

 そして、その先にはグスタフを落としたヴェサリウスとクルーゼ隊が展開している。

 

 ヴェサリウスによる艦砲射撃の斉射でグスタフを沈黙させたのち、クルーゼの指揮によりラクスらを乗せるシャトルを牽引するアスランとラスティのジン以外が一斉にグスタフを攻撃して沈めた。

 

 卑劣なナチュラルへの鉄槌を下したと思っている彼らに、こちらに飛んでくるユウとそのあとに続くメビウスの編隊の姿は、まさにクルーゼが糾弾した通り海賊と称するラクスの命を狙う部隊を案内する暗殺者の手先として映る。

 

「本命が来るぞ、迎撃体制をとれ! アスランは急いでシャトルをヴェサリウスに搬送、ラスティは牽引をアスランに任せて迎撃部隊に入れ! あの卑劣なナチュラルの魔の手から、必ずラクス嬢をお守りするのだ。諸君の健闘を祈る!」

 

「「「ハッ!」」」

 

(実に理想的な展開だ。ククク……困るのだよ、民間人は敵だろうが守るなどという理想主義者達が存在するのは)

 

 激昂しているだろう偵察型ジンのパイロットがやってくれた実に都合のいい行動に仮面の下で笑いが止まらなくなっているクルーゼは、シーゲルからラクスを託されたクルーゼ隊を率いる者としての演説により部隊の士気を高め迎撃を開始した。

 

『待てユウ!』

 

「ユルサナイ……その首おいてけザフト共!」

 

『シャトルだ! あそこにいるぞ、シーゲルの娘を殺せぇ!』

『待ちやがれコーディネイター! 仲間の仇、必ず落とす!』

 

「シャトルを届けたらすぐに援護に向かう!」

「お前はゆっくりしていいぞアスラン! 任せておけって!」

 

「同胞だろうと容赦はするな! 卑劣なナチュラルの手先に堕ちた裏切り者だ、情けをかけるに値しない!」

「対MA・MS戦闘開始! 迎撃ミサイル撃て!」

 

 ユウのジンがメビウスの編隊を引き連れてヴェサリウスに突撃してきたことにより、砲火を交えることなく慰霊団の引き渡しだけで終わるはずだったユニウスセブンの跡地は、三つ巴の戦闘に発展した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ヴェサリウスからの砲火、隊長のクルーゼが駆るシグーやミゲルなどといったエースをはじめとする精鋭クルーゼ隊。

 それ等がアスランの操るジンが牽引するシャトルを落とそうと、またコーディネイターを殺そうと群がるメビウスを次々に撃ち落としていく。

 

「そら、堕ちろ!」

 

 特に“黄昏の魔弾”の異名を持つザフトのエース、ミゲルの操るジンの活躍は突出しており、クルーゼのシグーがヴェサリウスの直掩につき母艦を狙うメビウスを迎撃することに徹しあまり動かずにいることも相成り、次々に飛び回るメビウスをハエのように叩き落としていく。

 

 補給もまともにできず宇宙を漂うだけだったメビウスの編隊は、ただでさえMSに対し劣っているのにその不調も相成り、クルーゼ隊にまともな被弾を与えることもできず、シャトルに傷をつけることもできず、一方的に沈められていた。

 

 しかし、メビウスの編隊は圧倒する一方で、クルーゼ隊の中で苦戦する機体があった。

 

「ぐっ……こいつ、マジかよ……!」

 

「その首よこせザフト!」

 

 ユウの駆使するジンと、それを落とそうと群がるメビウスの攻撃にさらされているラスティの機体である。

 

 ラスティはザフトのアカデミーに置いて成績上位20位以上にのみ与えられる赤服に身を包むエースの1人だが、地球連合のメビウスではなくザフトのMSと戦い続けてきたユウとはMS戦闘における経験値に大きな差があり、周囲を飛び交うメビウスの存在もあって苦戦を強いられていた。

 

 ユウの操る機体は偵察型ジン。

 ジンの装甲どころかメビウスすら撃ち落せない豆鉄砲のスナイパーライフルしか武装がないのだが、隙を突かれて近接戦装備である重斬刀を奪われてしまい、そこからくる攻撃によって劣勢に立たされていた。

 

 メビウスなどMAが主力となる地球連合との戦いにおいて、MSの装備が戦闘中に盗まれるなどザフトのジンは想定されていない。

 機動力に優れるMSだが、それは相手も同じ。

 何より物資の乏しい戦場の経験が長いユウたちにとってザフトの装備を奪って武装を補充するというやり口は手馴れたものであり、本気で敵として立ちふさがるMSと交戦経験がなかったラスティには荷が重い相手だった。

 

「うあっ!? ま、まずい、頼む救援を!」

 

 左足に続き、右腕、さらには重突撃機銃を持つ左腕まで切り落とされ、絶体絶命に陥るラスティ。

 回避も間に合わず、ユウの操るジンの重斬刀が機体を破壊しようと目の前で振り上げられる。

 

「──死ネ」

 

(こんなのって……!)

 

 死に際が見せる光景が、異様に時間がゆっくりと流れるように感じる。

 しかし躱しきれない。

 

 同胞であるコーディネイター、なのにナチュラルに協力する裏切り者。

 そんな奴が扱うジンにやられる。

 同胞を敵味方に引き裂いたナチュラルに対して、そんな卑劣なナチュラルに協力して同胞の命を奪おうとする目の前のコーディネイターに対して、屈辱と怒りと悔しさがこみ上げる中──

 

「ラスティ!」

 

「────!?」

 

 ラスティの機体に、重斬刀は振り下ろされなかった。

 間一髪のところで、シャトルをヴェサリウスに収容してきたアスランが休むことなく再出撃して駆けつけ、ユウのジンへ後ろから機銃を撃ち込み窮地を救ったのである。

 

「よくもラスティを! ラクスを! 卑劣なナチュラルの手先め!」

 

「チッ──!」

 

「させるかよ!」

 

 体制を崩したユウが振り向きざまに重斬刀を投げようとするが、今度はラスティがジンのバーニアを吹かして突進攻撃を繰り出す。

 それがユウの機体を再度崩し、決定的な隙を生み出す。

 

「ザフト、貴様等ぁぁぁあああ!」

 

「これで止めだ!」

 

 そこにアスランが重斬刀の刃をジンのコクピットに突き立て、そのまま横へと振り抜く。

 ユウのジンは両断され、相手には聞こえていない怨嗟の声をあげて機体が爆発した。

 

「アスラン! 悪い、手間かけた!」

 

「気をぬくな! まだ敵は残っている!」

 

「ああ!」

 

 敵の2機のMSのうちの1機を撃破。

 動きの悪いメビウスの数だけの編隊よりもはるかに脅威となる敵の撃破という功績を挙げた若きザフトのパイロットたち。

 その姿は、ヴェサリウスに保護されたラクスの目にも映っていた。

 

 ただし、それは婚約者の奮戦する勇姿ではなく。

 

「そんな……!? アスラン、何故……!」

 

 味方と敵対してまでプラントの要人でありながら民間人として保護してくれた恩人と、多数のメビウスの襲撃から守り抜きヴェサリウスまで運んでくれた婚約者が殺し合いをしているという悲惨な光景としてであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「ユウ! 嘘だろ、おい!?」

 

 ユウのジンのが撃破された光景は、ミハエルのジンにも映っていた。

 

 すでにメビウスの編隊は壊滅状態であり、ザフトはラスティの機体が損傷しているもののほぼ健在。

 ラクスらを乗せたシャトルの収容も終え、戦況はほぼ完全に決していた。

 

 ミハエルの駆使するジンも当然標的の1機。

 撃墜するべく、ミゲルとオロールの駆使するジンが接近してくる。

 

「くそッ……なんでこうなんだよ……!」

 

 それらの攻撃をかわしながら、平和的に終わるはずだった交渉の場がこんなことになってしまったことに怒りを覚えるミハエル。

 

 いったい誰があのメビウスの編隊を呼び寄せたのか。

 なんで執拗にラクスの命を狙ってくるのか。

 

 その黒幕に一矢報いなければ殺された多くの仲間に申し訳が立たず、結局向こうも乗せられているだろうザフト相手に八つ当たりして散っても死に切れなかった。

 

 そんな中、ミハエルのジンのモニターに友軍の識別コードが検知される。

 

「えっ……? まさか──!」

 

 それは、グスタフの脱出艇からのSOS信号。

 乗組員が生存している証だった。

 

「此方クズネツォフ! グスタフ、聞こえるか!?」

 

『──ガガッ……──ガガッ……』

 

「おい、頼む……! 応答してくれ!」

 

 ノイズがひどい。

 グスタフの脱出艇は撃沈時に破片が刺さったのか、自力の航行ができなくなるほどの損害を受けボロボロだった。

 その様子では、中の人員も無事ではないだろう。

 

「絶対に、死なせない……! 死なせてなるものか!」

 

 ミハエルは脱出艇に急行すると、すぐにそれを拾って戦域から遠ざかっていく。

 ミゲル機とオロール機が追撃しようとしてきたが、ほぼ壊滅したとはいえメビウスの編隊が残っていたこともありヴェサリウスの護衛に戻っていった。

 

「クッソおおおおぉぉぉ!!」

 

 やるせない思いを吐き出すミハエルの声は、誰にも届かず宇宙に消える。

 

 

 

 ──ラクスら慰霊団を保護したヴェサリウスは、海賊のレッテルを貼られたメビウスの編隊を掃討し安全を確保したのち、プラント本国へと進路を変更した。

 

 彼らはプラントにて絶大な人気を誇る歌姫を卑劣な地球連合の罠から守り抜き奪還した英雄として凱旋する。

 そしてクルーゼの証言により地球連合がラクスを暗殺する行動に出ていたことがプラントに知れ渡り、長い戦争で厭戦気分が広がり和平を求める動きも出ていたプラント内における反ナチュラル感情を再び激しく燃え上がらせることとなった。

 

 だが、同時にクルーゼにも1つだけ不都合な展開が発生していた。

 

 ヴェサリウスがラクスら慰霊団を送り届ける間に、ヘリオポリスから地球連合の新型MSを搭載した未確認の新型と思われる艦艇が出港。

 スパイの情報からまだヘリオポリスを離れることはないと思われていたのだが、ガモフでは追いつかない足の速さで離脱したことでその航跡を見失ってしまったという。

 

 そのことを聞いたクルーゼは、ヴェサリウスで連合の新型艦艇の追撃を開始した。

 

 ──そして、クルーゼ隊の動向は言いがかりの奇襲で仲間を殺されたことで復讐に燃える艦隊が察知することとなる。




メビウス編隊(暗殺者)「仲間の仇とラクスを殺せ!」
ユウ(主人公)「その首よこせザフト!」
クルーゼ(黒幕)「ラクス嬢をお守りしろ!」

……どうしてこうなった?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。