その首置いてけザフト共   作:みども

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アルテミス攻防戦 5

 

 

 ヴェサリウスの奇襲を受け撃沈したグスタフ。

 間一髪のところでクルーゼの狙いを察したフェルナンドがブリッジの緊急脱出艇機能を使って離脱を図ったが、安全圏への離脱もできぬままに破壊され飛び散ったグスタフの残骸が脱出艇に次々と突き刺さり、大きな損害を受けた。

 

 この時点で生存者はわずか2名にまで減少する。

 重傷を負いかろうじて生き残った艦長のフェルナンドと、幸運により破片などを受けず無傷で済んだミランダであった。

 

 ミゲル機並びにオロール機に追撃を受けながらも、ミハエルが脱出艇を発見し確保に成功したのは幸運だった。

 SOS信号は大西洋連邦側、ザフト側も傍受していたところである。

 脱出艇の存在を知られ、ミハエルが回収しなければ、次の瞬間にはヴェサリウスの主砲かメビウスのリニアガンで宇宙のチリに変えられていたところだった。

 

「マティアス艦長! ミランダ! ケイニー! レオンハルト! おい、頼む……! 誰でもいいから応答してくれ!」

 

『──ガガッ……ミハ、エル……か……?』

 

「艦長? よかった、無事でしたか!」

 

 ミゲルとオロールを振り切ることに成功したミハエルは、必死に脱出艇に呼びかける。

 そして、ようやくノイズが少し晴れ、艦長のフェルナンドの声が聞こえてきた。

 

 しかし脱出艇は損壊が激しく、ミハエル機からの短距離通信が辛うじて繋るだけでほぼ全ての機能を失っている。

 生命維持機能も停止しており、残る空気が消えるのも時間の問題であった。

 

『……無事、とは言い難いな……』

 

「艦長、いま少しの辛抱です! すぐに艦隊の方に──」

 

『……ミハエル。無理だ……もう、持ちそうにない……』

 

「な、何を言っているんですか!? 貴方は生きている!」

 

『……生命維持機能も、停止している……。──それに、破片が突き刺さっていてな……もう、動けそうにないんだ……』

 

「すぐに艦隊に届けます。だから諦めないでください!」

 

 フェルナンドを励ますミハエルだが、フェルナンドの方は自分が持たないことはわかっていた。

 そして、ジンのバッテリーと航行距離から、このまま脱出艇を抱えて移動しては空気が抜けていく脱出艇に残された最後の生存者も助からないことを。

 

『ミハエル……私はもう、助からない……』

 

「やめてください艦長……! 貴方まで失うわけにはいかない、アルトリア連隊長のためにも諦めないでください!」

 

『……艦隊に、たどり着く前に……空気を失う……。──ジンの、バッテリーも……持たない、だろう……?』

 

「艦隊に、救援要請を……!」

 

『私は艦長だぞ……。──核物質を含む……デブリベルトの影響で、長距離通信は……効かないはずだ……』

 

「──ッ!」

 

 フェルナンドには見抜かれていた。

 艦隊に呼びかけても、長距離通信が使えないため救援要請がまだ届いていないことを。

 

 動揺するミハエルに、フェルナンドは最後の力を振り絞り言葉を紡ぐ。

 彼に託すべきものがある。

 救えない命を切り捨て、助けられる仲間を助けてもらうために。

 

『……ミランダが、生きている……』

 

「ミランダが──!?」

 

『ジンに回収し……脱出艇を、放棄せよ……』

 

「……出来ません!」

 

 フェルナンドの命令。

 それは、ミランダをジンに回収し重い荷物である脱出艇を──すなわちそこに残るフェルナンドを捨てろというものであった。

 

『クズネツォフ少尉……これは、命令だ……!』

 

 ミハエルは不服を申し立てるが、フェルナンドは再度死にかけとは思えない強い口調で命令した。

 

「……艦長」

 

『若い命を散らすわけには、いかないからな……アルトリアに……殴られる……』

 

 穏やかな口調で軽口を叩くフェルナンド。

 あの気性の激しい恋人が、こんな無様な負けをして多くの乗組員を死なせてしまった自分を殴るだけで済ますわけないだろうと、思いつつ。

 

『……託したぞ……』

 

「──ッ!」

 

 その言葉に、ミハエルはジンを止めた。

 

 脱出艇に乗り込み、気絶しているが幸い無傷で済んでいるミランダを助け出す。

 

 だが、他はみんな助からなかった。

 いつも冷たく突き放す声が印象的だったオペレーターのケイニーも、軽口を叩き合う仲のいい保安部員であるレオンハルトも、頼りないところも時々あるが尊敬するグスタフの艦長であるフェルナンドも。

 みんな、もう物言わぬ骸になっていた。

 

 何とかして持って帰りたかったが、ミランダを助けるためにそれは許されないこと。

 託された唯一の生存者を連れて帰る義務が、ミハエルにはあった。

 

(マティアス艦長……どうか、安らかに……)

 

 この遺体やグスタフの機密データも残す脱出艇を残すことはできない。

 ザフトの手に渡すわけには、いかない。

 

 冥福を祈るとともに敬礼をしたミハエルは、涙を飲んで脱出艇を破壊する。

 

 そして、ミランダを乗せたジンを駆使して艦隊へと帰還していった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──プラント本国。

 民間機を攻撃する卑劣なナチュラルの魔の手から、婚約者であるアスランも所属するクルーゼ隊により助け出され、奇跡の生還を果たしたプラントの歌姫。

 帰国したラクスを迎えたのは、クルーゼの証言により曲解されて広められた話を真実と信じ反ナチュラル感情を燃え上がらせていた母国の熱狂であった。

 

『諸君、この卑劣を許せるか!? なんの武器も持たない民間人であるユニウスセブンの慰霊団、我らの心の支えである愛しき歌姫に、卑劣な連合のナチュラル共は武器を向けた! 悪辣極まりない罠にはめ、ラクス・クラインを亡き者にしようとした! 命を狙われる謂れなどない可憐な少女の命を狙った! 奴らの所業は許されてはならない!』

 

『そうだ!』

『卑劣なナチュラルに鉄槌を!』

『ザフトによる正義の鉄槌を!』

 

『この卑劣極まりないナチュラル共に、我々は決して屈しない! ナチュラル共に正義の鉄槌を! 死の制裁を! 奴らを根絶やしにしたとき、我らコーディネイターの自由は達成される!』

 

『ナチュラル共に死を!』

『死を!』

『死を!』

『死を!』

 

『必ず卑劣なナチュラル共を根絶やしにしてくれる! 我々ザフトがその鉾となろう! 諸君を守る盾となろう! 正義の鉄槌を下し、自由を勝ち取る(つわもの)となろう!』

 

『ザフト!』

『ザフト!』

『ザフト!』

 

 ラクスは、シーゲルとともにプラント全域に向けて戦意高揚の演説をするパトリック・ザラと、その息子であり自らの婚約者であるアスラン、そしてその演説に熱狂する人々を、悲しい目で見ていた。

 

「お父様……何故、皆さんは戦争をするのですか……? 私は、彼らが戦場に立つことも、地球に住まう皆さんが殺されることも、望んでいないというのに……」

 

「ラクス……」

 

 ラクスの言葉に、シーゲルは答えを出せない。

 

 いつからだろう。

 自由を勝ち取るために結成したザフトが、歯止めの効かない暴力装置となったのは。

 ともにザフトを結成した盟友が、戦争の狂気に取り憑かれてしまったのは。

 

 コペルニクスのテロに端を発する、プラントの自治権をかけた理事国に対する独立戦争。

 戦い始めた当初は、この戦争の果てにプラントの、コーディネイターの未来と自由があると信じていた。

 

 だが、今はどうか。

 戦争はすでに形態を変えている。

 

 血のバレンタインの惨劇。

 2度とこの悲劇を起こさせないために実行したオペレーション・ウロボロス。

 その結果発生したエイプリル・フール・クライシス。

 

 戦争の形態は、もはや互いの人種に向ける憎悪をぶつけ合い、どちらか一方が絶滅しなければ終わらない、未来を破壊する絶滅戦争に変わってしまった。

 

 絶滅戦争の先には、終戦はあっても勝者はいない。

 地球と、ナチュラルと歩み寄らなければ、プラントの経済にも、コーディネイターの遺伝子にも、未来はないというのに……。

 

「どうして、ミランダさんたちを沈めてしまったのですか……? アスラン……優しかった貴方は、もはや居られないのですか……?」

 

「…………」

 

 シーゲルは帰国した娘から全てを聞いていた。

 

 シャトルを守るために散った護衛のザフトの事。

 シャトルの乗客である慰霊団を守るためにメビウスから逃げ回ったパイロットたちのこと。

 本来味方であるはずの大西洋連邦のメビウスを落としてまで、保護してくれた地球連合に属するコーディネイターのこと。

 クラインの血族という政治的に高い利用価値のあるはずのラクスを民間人だからと巻き込まないように配慮し、早期に無条件でプラントへ帰れるよう手筈を整えてくれた優しい理想主義の提督のこと。

 悲しい誤解で恩人と婚約者が敵味方となり、そして宇宙に散ったことを。

 

 観衆に向けては一度も言わなかった真実。

 それをラクスから聞いたシーゲルは、戦争が生み出す救いのない悲劇に何も言えなくなってしまった。

 

 何故、戦争をするのか? 

 何故、憎しみをぶつけ合うのか? 

 

(パトリック……)

 

 子供達を戦争に巻き込むわけにはいかない。

 早期終戦を図るため、何度も和平を模索してきたが、それも叶わなかった。

 

 もうすぐ、シーゲルの座る議長席はパトリックが就任する。

 徹底抗戦派のパトリックがプラントを率いる立場となれば、もはやナチュラルを滅ぼし尽くすまで戦争を止めないだろう。

 

(それではダメなのだ、パトリック……)

 

 シーゲルの言葉は、もうパトリックに届かない。

 このままではいずれ、ラクスの言葉もアスランに届かなくなってしまう。

 

 プラントの世論は、停戦を望んでいない。

 この観衆の熱狂ぶりを見れば、パトリックの主張する継戦がどれだけ支持されているのかわかるだろう。

 

 第三世代以降の出生率の大幅な低下、食糧自給の限界──プラントは本来、地球のナチュラルたちの協力がなければ生き残れない。

 

 それをパトリックは頑なに認めようとしなかった。

 

 父は復讐にとりつかれた盟友を、娘はナチュラルへの憎悪を膨らませる婚約者を、悲しげな瞳で見ることしかできなかった。




終戦はあっても勝者は無い絶滅戦争をやる気満々、しかもそれが正義だと思い込んでいるので止まってくれないという悲劇……

アークエンジェルの方は、ガンダム5機はともかくクルーは技術畑出身を艦長代理にするようなことなく正規クルーが揃っているので、その速さを知らないガモフを出し抜くくらいお手の物でしょう。
囮に使えるマルセイユ三世級もあるし。
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