その首置いてけザフト共   作:みども

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デブリベルト救助戦 2

 

 

 グスタフの方で救助した蔡瑁の乗組員たちから聞いた、座礁した友軍艦艇の救援要請を無視してデブリベルトの中を進んでいたという大西洋連邦の部隊。

 救助され死の恐怖から解放されてから、よほど腹を据えかねていたのか怒りを思い出したように蔡瑁の乗組員たちの方からグスタフの方に愚痴をこぼすようにあれこれと隠すこともなく情報を話しているとのこと。

 冷たくあしらっていたオペレーターからその件について話を聞いたミハエルの方から、聞いていないのに周辺宙域を索敵するユウへ詳細が伝えられる。

 

『なんか東アジアの人たちから聞いた話だけど、友軍無視して見捨てた大西洋の連中だけどユニウスセブンの残骸が集中している方に向かったらしいぜ』

 

 蔡瑁の乗組員が語ったのは、自分たちを見捨てた大西洋連邦の部隊の行き先であった。

 彼らが見たというその大西洋連邦の部隊だが、デブリベルトを避けるどころかむしろより深い方へと航行していったという。

 つまり件の大西洋連邦の部隊はミイラ取りがミイラになるのを怖がって救難信号を無視したのではないということ。ますますキナ臭いと感じる話になってきた。

 

 まして、話によればその行き先はユニウスセブンの残骸が多く漂う宙域とのこと。

 血のバレンタインの惨劇が残る場所であり、プラントのコーディネイターが同胞たちの眠る場所として特に神経をとがらせている宙域である。

 そんな場所に、ユニウスセブンを破壊した核ミサイルを打ち込んだ上にそれをザフトの仕業と宣う勢力である大西洋連邦の部隊が向かっているという。しかも仮にも同盟国の難破船が出す救難信号を無視して。

 

 ……話を聞けば聞くほど碌でもないことが起こりそうな予感がする内容である。

 ユウとしては、関わりたく無いしこれ以上聞きたく無いのだが。

 

「止めろ、聞きたくない」

 

『バンシーの声に惑わされて取り込まれてちまえとか叫んでいるのがこっちにも聞こえてくるんだけど』

 

「バンシーって、何ですか?」

 

『お、興味ある?』

「迷信の類だ、知る必要は無い」

 

 きな臭い話には関わりたく無い。

 ミハエルにこれ以上聞かせるなと拒むユウだが、当のミハエルは構うことなくきな臭い話から蔡瑁の乗組員の愚痴まで余計な情報を次々と聞かせてくる。

 そして蔡瑁の乗組員たちだが、愚痴だけでは飽き足らず見捨てた大西洋連邦の部隊に向かって呪詛まで吐いている様子。

 さらにその呪詛の内容がアイルランドの死の妖精とは。東アジアの人間でありながら大西洋連邦の連中に向かってその呪詛を吐いた人物は、ユーモアがあるだろう。

 などとどうでもいいことを思ったユウの後ろで、会話を聞いていたミランダがどうでもいい方の話題に興味を示した。

 

 バンシー云々については迷信である。

 ユニウスセブンの残骸が残る宙域は、無数のデブリで事故が発生しやすい危険なデブリベルトにおいても特に事故が多発している宙域としても有名である。

 特に地球連合側の艦艇が被害に遭うことが多いので、ユニウスセブンで焼き尽くされたコーディネイターたちの怨念が漂うなどといった迷信話が囁かれているのである。

 バンシーもその一つで、ユニウスセブンの被害者の無念を晴らそうとする妖精が死を呼ぶ歌声で船乗りをまどわせ事故を起こし、その魂を取り込んでいるというものである。

 

 もっとも、迷信は迷信。ユニウスセブンの残骸が漂う宙域で事故が特に多発しているのにはちゃんとした理由がある。

 プラント一つを核ミサイルで破壊した残骸というだけあって問題の宙域は大きな残骸が多く、それらの持つ重力がデブリを引き寄せているため特にデブリの密度が高くなっており、さらに核爆発時に発生しユニウスセブンの残骸に今も残る放射能汚染物質が計器を狂わせるため、事故のリスクが高いのである。

 地球連合の艦艇が事故に遭いやすいという話については、プラントはある種聖域みたいに扱っているユニウスセブンの残骸に近寄るのを避けているのでそもそもこの危険な宙域に入る艦艇の数自体が少ないからというのと、単純にコーディネイターらしくナチュラルに比べて操船技術が高いからである。

 

 とはいえ人は迷信を信じたがるもの。

 ましてや、この戦争の様相を変える原因の一つとなったユニウスセブンだ。

 この手の話が出てくるのは必然かもしれない。

 

 デブリベルトの墓場荒らしにためらいを持たないトレジャーハンターや宇宙海賊たちも近づくのを嫌がるその宙域に、自ら向かっていく大西洋連邦の部隊。

 ……関わりたく無い。

 バンシーの話を聞かされて怖がるミランダとその様子を楽しむミハエルを横目に、ユウはもうこれ以上は何も聞かないことにした。

 今回の件は蔡瑁の救助に成功した、そしてあくまで救難信号を出した味方を無視したので大西洋連邦はやはりクソ野郎だ、けどその大西洋連邦の部隊は知らない、ということにしようと1人で完結させる。

 

 だが、グスタフのオペレーターからの指示で我関せずで通そうとした姿勢が崩れることとなる。

 

『グスタフよりナガト機へ。蔡瑁乗組員の情報提供により、近郊に大西洋連邦の部隊が存在する可能性が浮上しました。本部に確認しましたが、付近に作戦行動中の大西洋連邦の部隊はいないはずです。デブリベルト内で遭難している可能性があるため、付近の捜索を願います』

 

「…………」

 

 グスタフからの命令は、蔡瑁を見捨ててデブリベルトの奥に向かったキナ臭い大西洋連邦の部隊が遭難している可能性があるので捜索、場合によっては救助しろというものであった。

 しかも本部に確認を取ったところ、大西洋連邦は付近に作戦展開中の部隊はいないと言い張っているという。

 つまりは、本当に遭難しているか。もしくは、同盟国にも存在を知られたく無い行動をとっている部隊ということである。

 

 全力で関わりたく無いので、大西洋連邦がここに部隊はいないと言っているなら蔡瑁乗組員たちの幻覚ということで片付けようと堤言したかったが、命令は命令である。

 それに蔡瑁を無視した理由が不明だが、グスタフが危惧するように本当に遭難している部隊だという可能性もある。

 従わないわけにはいかなかった。

 

「ユーさん? 味方を見捨てるひどい人たちかもしれないので嫌なのはわかりますけど、もし本当に困っているなら助けないとダメですよ! ほら、行きましょう!」

 

「……ナガト機、了解。予測進路の情報提供を願います」

 

『グスタフ、了解。蔡瑁の乗組員からの情報提供をもとに、航行ルートの予測データを算出しました。確認後、索敵任務の移行を願います』

 

「ナガト機、了解。データ確認しました。所属不明の大西洋連邦部隊の捜索を開始します」

 

 全力で関わりたくなかったのだが、さっきまで大西洋連邦を嫌いと言っていたミランダが本当に遭難しているなら助けに行くべきだと主張したことが後押しとなり、捜索任務に従事することにした。

 こういう時、単純なミランダの深く物事を考えず自分の正しいと思うことに向かって全力で走る性格には、背中を押してもらうことが多い。

 

 確かに、本当に遭難している部隊だとすれば飢えや寒さと戦いながら助けを待っているかもしれない。

 キナ臭い可能性を警戒するよりも、人命救助のために全力を尽くす。小難しいことは考えない。

 もしも遭難しているわけではなくミランダには対応できない厄介な事情が待ち受けているならば、その時は機長である自分が対応すれば済むことだと割り切って、ユウはグスタフが出した予測ルートを追ってユニウスセブンの残骸が漂う宙域へとジンを進めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 地球連合宇宙軍による核ミサイル攻撃──厳密には大西洋連邦軍のある士官の独断によるものだが──によって崩壊した農業プラント、ユニウスセブン。

 戦争には無関係なはずの多くの民間人を含めた24万人を超える犠牲者を出した悲劇、血のバレンタインの跡地にて。

 悲劇の痕跡を残しているその静かな宙域にて、突如として閃光と爆発が瞬いた。

 

 デブリに直撃したミサイルの爆炎から出てきたのは、かろうじて直撃を交わした1機の民間の宇宙シャトル。

 そして後ろから、民間機に対してミサイルを放った犯人である大西洋連邦に属する地球連合宇宙軍のモビルアーマー“メビウス”の編隊が追うように姿を現す。

 

「クソッ……! 武器も持たない民間機に問答無用の攻撃とは、ナチュラルどもめ!」

 

「操縦に集中しろ! もうチャフの残数はゼロ、俺たちの操縦に慰霊団の命がかかっているんだ!」

 

 メビウスに追われる民間シャトルの操縦士たちが、必死の操作で連合のMA部隊の攻撃を回避する。

 しかし誘導兵器を妨害するチャフはすでに使い切っており、護衛をしていた者たちはシャトルを守るために宇宙に散り、MA部隊の攻撃から搭乗員を守れるかどうかは、デブリベルトという障害物の多いこの宙域でシャトルを操る2人の操縦士たちの技量にかかっていた。

 

 そもそもなぜこの民間機は地球連合の部隊に攻撃されているのか。

 それは、このシャトルに搭乗している者たちが原因であった。

 

 プラントのユニウスセブン追悼式典に向け、悲劇の地であるユニウスセブンに訪れていた追悼慰霊団。

 それがこのシャトルに乗る、そしてMA部隊の攻撃にさらされる原因となった者たちである。

 

 追悼慰霊団の代表者は、プラント最高評議会議長“シーゲル・クライン”の娘“ラクス・クライン”。

 プラントにとって非常に重要な人物ではあるが、彼女はまぎれもない民間人である。

 追悼式典に向け事前にユニウスセブンの跡地に訪れたいという慰霊団の強い要望により、海賊対策としてザフトのMSが護衛に付く形でこの宙域に訪れていたのだが、そこに突然現れた大西洋連邦の部隊からジンではなくシャトルの方が問答無用で攻撃を仕掛けられたのである。

 

 護衛のMSはラクス・クラインを守るためということもあり赤服を授かる凄腕のパイロットだったが、その奇襲攻撃からシャトルを守るために被弾し機体が損傷した上、大西洋連邦が送り込んできた部隊は民間シャトルを守りながら迎撃するにはあまりにも数が多かった。

 護衛のザフトは大西洋連邦の部隊を引き受けたが、多勢に無勢。

 護衛のMSは落とされ、民間機であることを何度説明してもわざと通信を途絶しシャトル側の主張を無視して攻撃を仕掛けるMAからシャトルは逃げ惑っていた。

 

 大西洋連邦に慰霊団の査察がばれたのは、先日慰霊団が接触した宇宙海賊の取り締まりなどを行っている地球連合の宇宙保安局による臨検を受けた際、保安局員のナチュラルが情報をリークしたためであった。

 大西洋連邦は民間機であることを承知の上で、よりにもよってこのユニウスセブンが漂う宙域でラクスを暗殺するために攻撃を仕掛けてきたのである。

 

 いかなる理由があろうとも、民間人を意図的に攻撃することは重大な国際法違反である。

 護衛のザフトは──この時点で十分に論外だが──百歩譲って攻撃されたとしても仕方ない。

 だが、武器も持たない、軍人も乗っていない民間シャトルを攻撃するのは明らかに常軌を逸した行いだった。

 

「絶対に……絶対に落とさせてなるものか!」

 

 追悼慰霊団を乗せた民間シャトルの操縦士は、プラントのトップの愛娘であり、プラントだけでなく地球にも多数のファンがいる“プラントの歌姫”と呼ばれ国民に愛されている重要人物を乗せるというだけあって、非常に高い操縦技術を持っている。

 大量のデブリを利用して、メビウスに比べ小柄で小回りのきくシャトルを必死で操作し、メビウスからの攻撃を躱し続けている。

 

 それでもユニウスセブンの残骸に残る放射能汚染の影響による計器障害などにより通信は効かず、ザフトに救援を求めることもできない。

 国際救難信号を発しながら逃げ惑うが、撃墜を逃れるために行う機動にバッテリーの消耗は激しく、ザフトの哨戒網まで逃げきれそうになかった。

 

「ッ!!」

 

 機体に大きな衝撃が走る。

 メビウスの攻撃を避けきれなかったことで、シャトルをバルカン砲がかすめた。

 民間シャトルがMAの40ミリバルカン砲の放つ銃撃に耐えられるわけもなく、掠めただけで機体は大きな損害を受け速力が低下する。

 

「まずい! 2番メインエンジンが損傷!」

 

「サブエンジンに切換えろ! 速度を殺されたら一撃で宇宙の藻屑にされるぞ!」

 

「ダメだ……サブエンジンにも被弾している! み、ミサイルが来るぞ!」

 

「捕まれ! デブリを盾にする!」

 

 間一髪、一撃でシャトルを粉微塵にするミサイルはデブリを盾にして交わした。

 しかし、まだ後ろからミサイルを補充したMAが接近してくる。

 

(クソッ……こうなったら、せめてラクス様だけでも救命ポッドで逃してシャトルを囮にするしか……!)

 

 助けが来るまで逃げきれそうにない。

 もはや打つ手なし、ラクスを逃がすために死も厭わない囮となる覚悟を操縦士が決めようとした時だった。

 

『そこのMA部隊は直ちに攻撃を中止せよ! 民間人に対する意図的な攻撃は重大な国際法違反に該当する!』

 

 オープン回線でシャトルとMA部隊につないだ通信の先から若い声による警告が聞こえ、そして直後にシャトルを守るようにMA部隊の放ったミサイルを銃撃が貫きシャトルに届く前に爆発した。

 

「えっ──!?」

 

 まさか、助けが来たのか!? 

 

 死を覚悟した直後に命を拾った操縦士が見たのは、巧みに機体を制御し高速でデブリを抜け、シャトルを守るようにMA部隊の前に立ちふさがった紫色の塗装を施されたザフトの主力兵器の1種である、長距離強行偵察型ジンの姿だった。

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