その首置いてけザフト共   作:みども

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ラクス様ならこの時点で本来プラントの独立をかけた戦争の形が歪んでいることに気づいたはず。

慰霊団に降りかかった災難を利用されて、プラントがほとんど継戦派で染められる……
クルーゼとパトリックに煽られて、ザフト側はもはや戦争目的が理事国から独立を勝ち取るための独立戦争から、中立国すら巻き込む無差別のナチュラルを滅ぼす絶滅戦争になってしまう寸前……
クルーゼ隊長、破滅への展開に心の中で笑いが止まらないです。


アルテミス攻防戦 6

 

 

 様々な残骸が漂うデブリベルト。

 そこを隠れるように進む、白い装甲が特徴の大西洋連邦に属する1隻の艦艇の姿があった。

 

 艦体の前部に機動兵器を発進及び着艦させるための2つのカタパルトを持つ、他の地球連合の艦艇には見られない形態を持つ、まだ世界にその存在をほとんど知られていない新型の艦艇。

 

 さながら純白天使の翼をイメージしたとでもいうかのようなその艦艇の名は、アークエンジェル。

 地球連合宇宙軍大西洋連邦第8艦隊に所属する、この膠着しつつある戦争の趨勢を大きく変えることができる連合の新型兵器を運用・輸送する特務に従事する、現状ただ1隻のみ建造・完成したアークエンジェル級強襲機動特装艦のネームシップである。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 生命維持装置の無機質な電子音が、鼓動に合わせてリズムを刻む。

 偵察任務など敵地での単独行動が多かったこともあり、ミハエルら同僚たちと比較して大きな怪我を負うことも多かったユウには、その電子音は聞き慣れた音である。

 

「…………」

 

 意識の覚醒とともにゆっくりと目を開けると、そこには白い天井があり、そして視界に違和感を覚えた。

 

 ──左目の感覚がない。

 

 アスラン機に乗機のジンを撃破されたユウだったが、奇跡的に生存していた。

 宇宙を漂っていたところを偶然このデブリベルト内を通りかかった地球連合の一角、大西洋連邦軍に所属するとある艦艇に拾われたのである。

 

 だがコクピット付近に突き立てられた重斬刀、そしてその後の機体の爆発により重傷を負い、コーディネイターの強靭な生命力で命はつないだものの特に無数の破片によって潰された左目の修復は不可能となり、眼球を摘出されていた。

 

 今は義眼を嵌められている。

 

「……ここは?」

 

 どこかの病室だろうか。

 見知らぬ船の天井に向け、こういう事態に遭遇したときのお決まりの文句をつぶやくユウ。

 

「大西洋連邦所属の強襲機動特装艦だよ。艦名は機密事項につき答えられないな」

 

 返答を期待していなかったユウの言葉に反応した人物が、横から答えを口にする。

 

 その方向に顔を向けると、ユウの横たわるベッドの横に置かれた椅子に座る、軍医と思われる白衣に身を包む人物がいた。

 

「……貴方は?」

 

「目覚めたようで何よりだ。私はしがないこの艦の軍医だよ、名乗るほどのものじゃない。さてと──」

 

 ユウの質問を交わして立ち上がった軍医は、病室から一度出て行く。

 そして外で誰かを呼ぶ声が聞こえると、軍医が今しがた出て行った扉から戻ってきた軍医を先頭に、10名ほどの地球連合軍の制服に身を包む軍人たちがぞろぞろと入ってきた。

 

 制服につけられたバッジなどから推測するに、所属は大西洋連邦。

 まだ半分夢現つの中にいるユウは、どうやらあの戦闘の後かろうじて生き残り彼らに拾ってもらったようだと、自らの状況が理解できた。

 

 中心にいる男は、佐官の証である肩章をしている。

 つまり、艦長かもしくはこの艦に属する幹部クラスの士官だろう。

 

 そして、病床にいるユウを取り囲むように保安部員と思われる銃を携帯した兵士たちが取り囲み、まともに動くこともできないユウに向けて威圧するように銃口を構えた。

 

「…………」

 

 ずいぶんな歓迎だな、と感じるユウ。

 しかしユウには本国が海賊として追放したとはいえ、彼らの属する大西洋連邦の軍人をプラントの人間を守るために撃ち落とした前科がある。

 大西洋連邦の軍人から恨みを向けられるいわれはあるので、プラントとの戦争後は敵対国家となる相手からこういう歓迎を受けることになるだろう予想はあった。

 

 それ以前に、ユウはコーディネイターである。

 地球を故郷として生まれ育ったためプラントに住んだことは一度たりともなく、当然ながら憎悪の対象であるザフトに所属したことなど一瞬たりとてない。

 

 それでも、この戦争はプラントの独立戦争から既に人種間の絶滅戦争に形態を変えていた。

 地球連合のナチュラルからすれば、プラントにいるべきはずの敵性人種と呼ぶ存在のコーディネイターを敵視するのは当然であった。

 

 そのため、負傷者にずいぶんな歓迎をするなという印象を抱いたものの、散々コーディネイター差別にさらされてきたユウにとって今更銃を向けられ囲まれるような事態など慣れたものであった。

 ユウからしてみれば牢屋ではなく医務室に運び込んで治療を施し、怪我のせいで動けないが起きた際に動けないよう鎖などで拘束する措置などもされていない時点で、銃口を突き付けようが彼らの対応はかなり紳士的な部類に入るものである。

 

「体の具合は如何かな?」

 

 連合の佐官が尋ねてくる。

 それなりに頭が冴えてきたユウは、所属は違えど明確に上官に当たるその士官に返事をした。

 

「このような体勢で申しわけありません。まだ動けそうにないですが、尋問への応答は可能であります」

 

「……さすがはコーディネイターといったところか。我々があの怪我を受ければとっくに死んでいるというのにな」

 

 寝起きの負傷者を銃を持った兵士達で取り囲むという威圧的なことをしているのいうのに、恨めしい目を向けることも敵意を見せることもなく謙った態度で返事をされるというのは想定外だったのか、連合の士官達は戸惑うような表情を浮かべた。

 しかしすぐに気を取り直し、いかにもなコーディネイター差別思想からくる皮肉を込めた言葉をぶつける。

 

 実際、ユウの負傷の具合はナチュラルであれば死んでいてもおかしくない、というよりも死んでいなければおかしいレベルの負傷だった。

 生まれながらにナチュラルと比較して体が丈夫なコーディネイターであり、そして育った過酷な環境で鍛え抜かれた強靭な生命力がユウを延命させた。

 コーディネイターであることを考慮しても、ナチュラルから見れば人間離れした回復力である。化物のように見えるのも仕方がないこと。

 

「恐れ入ります」

 

「……調子の狂うコーディネイターだな」

 

 上官に対してユウが低姿勢な態度を示すたびに、連合の士官は困惑を募らせた。

 まだユウの素性を知らない彼から見れば、ナチュラル憎しの感情を持つと思っているコーディネイターからこのような対応を取られる理由がわからず、困惑するのも無理はなかった。

 

 毒気を抜かれそうになっている連合の士官が、咳払いで場の空気を整える。

 場合によっては射殺も辞さずの脅迫するような形で尋問を行うつもりだったので、緊張感が欠けるような形ではやりづらくなってしまう。

 

「機密事項により詳細を明かすことはできないが、我々は地球連合宇宙軍大西洋連邦第8艦隊所属の者だ。あくまでも我々は君の身柄を人道的観点に基づき本艦に収容し治療したが、素性の知れない、増してコーディネイターである君を信用することはできない。君にはこれから我々の尋問を受けてもらう」

 

「了解であります」

 

「……拒否、黙秘、そちらからの質問は一切認めない。ただ私の尋ねたことのみに答えてもらう。回答を拒否したり虚偽の答えを示せば、こちらとしても相応の対応を取る必要がある」

 

「了解であります」

 

「なんでこのコーディネイターは協力的なんだ……」

 

 不本意ではあるが必要なことのために尋問というよりも恫喝のような状況を作った連合の士官だが、受ける側からすれば理不尽この上ないというのに、何故かやたらと協力的な態度のユウに思わず困惑している本音がこぼれてしまった。

 

 再度咳払いにて場の空気を整える連合の士官。

 しかし心なしか銃を持って取り囲む兵士達にも困惑が伝播しており、いつでも撃ち殺せるようにしておくはずのユウから視線を外して隣の仲間に「どうなっているんだ?」と小声で私語を始めるような者も出てきた。

 本来彼らが作る予定だった、尋問にふさわしい冷たく重苦しい空気はもう取り繕えなくなりつつある。

 

 恫喝しながら尋問をするというのに、その恫喝を担当させる兵士達の私語を注意しようものなら身内の恥をさらしてまた空気が壊れると思った連合の士官は、兵士達のことはひとまず無視して最初の質問をユウに行う。

 

「まず、君の素性を明示してもらおう。名前、所属、包み隠さず正確にだ」

 

「はい。地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊所属、ユウ・ナガト少尉であります」

 

「……ん? ち、地球連合……?」

 

 大西洋連邦とユーラシア連邦。

 属する国家は違えど、ユウから見れば地球連合軍の佐官ならば上官にあたる。

 その士官から素性を聞かれたので名前と所属を明示した。

 

 ユウから見れば下の地位の軍人として当然の返答をしたつもりなのだが、ユウの素性をまだ知らなかった連合の士官達はコーディネイターが自分達と同じ地球連合に所属する軍人だと名乗った返答に大いに混乱した。

 

「……確認したい。身分の照合ができるものを」

 

「ドッグタグがあります。自分の軍属I.D.の登録No.の数字が刻印されているため、それで照合していただければ確認が取れるかと」

 

「直ちに確認します!」

 

 まだ半分混乱しているが、友軍を名乗るならその身分を確認するものが必要と判断し、ユウに何か証明できるものはないかを尋ねる。

 ユーラシア連邦の軍人が識別票として支給される、氏名や出身地に加え地球連合軍の登録I.D.の識別数字が刻印されているドッグタグがあることをユウが伝えると、軍医より押収した所持品の中からその認識票を受け取った兵士の1人がすぐに照合のために走って行った。

 

「艦長、確認が取れました。確かに彼はユーラシア軍所属の士官です」

 

 程なくして、照合に走って行った兵士が結果を持って戻ってきた。

 連合の士官──この艦の艦長はそれを聞き、兵士達に銃を下げるようハンドサインで指示する。

 

 やけに協力的で低姿勢な態度の理由が、他国とはいえ同じ地球連合の上官に対するものだったこと。

 そして誤解とはいえ、友軍であり同盟国に属する士官に銃を向けて取りかこみ恐喝するという問題行為をしていたこと。

 この2つの事実を知り、艦長は思わず顔を隠すように手を当てて天井を見上げた。

 

「「「…………」」」

 

 気まずい沈黙の時間が流れる。

 

「……ひとまず、保安部員達は1名を残し退室してくれ」

 

 未だに顔を隠している艦長から発せられた沈黙を破った言葉は、物騒なものを手に持つ兵士達を退室させること。

 それを受け、銃を持ってきた兵士達はぞろぞろと病室を後にする。

 

 残ったのはまだベッドから起き上がれない状態のユウと、艦長、軍医、副官だろうか尉官であることを示す肩章をした男女の士官2名、そして出て行く仲間にライフルを預けホルスターに収めたままの拳銃のみの武装となった護衛の兵士1名、事務要員の担当と思われる制服の兵士1名の、計7名となった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 持ってきた椅子に全員が座り、当初に比べ緩和された雰囲気で尋問が再開された。

 I.D.の照合だけでなく、DNA鑑定でもユーラシア連邦所属のナガト少尉本人であることの確認が取れ、氏素性知れずのコーディネイターではなく友軍の兵士であることが明確となったため、大西洋連邦の面々の空気はザフトではないかという誤解があったとはいえ所持品からその身分を確認することができたというのに結果的にそれを怠り味方に銃口を向けていたという所業に対する申し訳なさもあり、だいぶ柔らかくなっていた。

 

 故郷であるユーラシア連邦の友軍もほとんどがそうであったが、大西洋連邦もまたコーディネイター差別思想が根強く、味方であることが判明しても憎むべき敵性人種に向ける目線は変わらないと思っていたユウにとって、彼らの変化は予想外であった。

 どうやら彼らは連合においてはかなり珍しい部類に入る、コーディネイターへの差別思想が薄い、もしかしたら差別思想そのものを持っていない人たちのようであった。

 

「先ほどは恐喝するような真似をして大変申し訳ないことをした。謝って許されることではないが謝罪させてほしい」

 

「氏素性の知れないコーディネイターを警戒することは当然のことです。むしろそのような不審人物をこうして治療していただいたことに感謝します」

 

「……貴官の寛大さに感謝する。改めて、私は地球連合宇宙軍大西洋連邦第8艦隊所属、本艦の艦長“ウィリアム・フッカー”大佐だ。すまないが本艦に関する情報は機密事項なので、艦名などを教えることはできないことを了承してもらいたい」

 

「了解でありますフッカー艦長」

 

 軍人として、艦の乗組員の命を預かるものとして、あのような対応は当然。

 むしろ連合においては友軍と分かった上でもなお敵とみなす場合が多いコーディネイターであるユウを、その素性もしれない段階から見殺しにせずわざわざ収容・治療してくれた事から、フッカー達に対して悪印象を抱いていないユウは、銃を向けられたことには特に腹がたつというようなこともなかったので、フッカーを責めることはなかった。

 

 艦名すら開かせないならば、何らかの特務につく艦ということになると推測するユウ。

 当然ながらそんな面倒ごとに首を突っ込める権限もなければ、メリットも見えない厄介ごとに巻き込まれるのは御免被るという考え方の持ち主でもあるユウとしては、詮索するつもりはない。

 

 尋問の続きに入るフッカーは、まずユウを収容した経緯を話す。

 

「我々は月本部に向かう途中、接敵したザフトを撒くためにデブリベルトを進んでいた。ユニウスセブンの残骸が多い宙域に差し掛かったところ、戦闘が発生したと思われる場所に生体反応を確認し、捜索したところ破壊されたジンの残骸の中で瀕死となっていた君を見つけ収容した」

 

「生存者は──いえ、想像はつきます。口を挟み申しわけありません」

 

「……すまない」

 

 その経緯を聞き反射的にグスタフに生存者が残っていないかを期待したが、ならば要監視対象として拾ったコーディネイターなどは1箇所に集めているだろうにこの医務室にいるのが1人である事から結果を察し、こちらからの質問は許されていない立場である中尋問を遮る真似をした謝罪をするユウ。

 それに対しフッカーは、途中で切り上げたとはいえユウの方から質問してきたことは全く気にしていないようであり、むしろユウ以外の友軍を助けられなかったことに申し訳なさを感じ、何ら彼らに責められるいわれはないというのにユウに再度謝罪の言葉を向けてくれた。

 

 そして、本命の質問。

 フッカーはユウに対し、様々な理由から両陣営の軍属だけでなくジャンク屋や海賊なども寄り付かないあの宙域にて何があったのかを尋ねてきた。

 

「教えてくれないか? 君たちはなぜあの宙域に居て、一体何があったのかを。辛い記憶だとは思うが、当艦の航路の安全確保のためにはどうしても確認する必要がある」

 

「了解であります艦長。事の始まりはデブリベルトにて座礁した友軍艦艇の救助任務を行った際に、偶然発見した宇宙海賊に襲撃を受けるプラントの民間人を保護したことからで──」

 

 それに対し、ユウも撃破される事態となった事の経緯を説明する。

 蔡瑁から救援要請を受けデブリベルトで任務に従事していた中、国際救難信号を傍受したこと。

 向かった先で宇宙海賊のレッテルを貼られるに至った大西洋連邦のメビウスの編隊にユニウスセブン追悼慰霊団を乗せたプラントの民間機が襲撃されており、救助したこと。

 シャトルに収容されていた民間人を国際法に則りプラント本国に帰還させるために引き渡しを要請したこと。

 シャトルの引き受けを担ったザフトとの接触、民間人の返還場所はユニウスセブンの残骸が漂う宙域になったこと。

 そこに再びメビウスの編隊が襲撃を仕掛け、それを迎撃するために母艦であるグスタフから一時的に離脱したこと。

 突如として民間人の引き受けを担ってくれていたラウ・ル・クルーゼの率いるザフトがグスタフへ攻撃を仕掛け、奇襲によりグスタフが撃沈させられたこと。

 自らも乗機をザフトによって撃破されてしまったこと。

 

 保護した民間機がラクスというプラントの要人が代表を務めるユニウスセブンの追悼慰霊団を乗せていたこと、メビウスの編隊が大西洋連邦所属であることなど隠さなければならない箇所については隠し嘘を交えて説明したが。

 淡々と説明できる部分をまとめた内容を事実として並べていったが、主観がグスタフ側となったこととやはりザフト憎しの感情が抑えきれずクルーゼ隊の奇襲に関しては騙し討ちにあったというような表現となってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ひとまずは理にかなう内容としてまとまったユウの一通りの説明は、フッカー達を納得させることができた。

 そしてユウを瀕死に追い込み部隊を壊滅させたのがあの世界樹攻防戦で名を挙げたザフトのエースの1人であるラウ・ル・クルーゼが率いるクルーゼ隊であることを知り、フッカー達の中に緊張が走った。

 

 ヴェサリウスが民間人の引き受けをになった件について、ナスカ級の足と距離から考えるにあのクルーゼ隊がつい最近までこの艦──アークエンジェルが停泊していたヘリオポリスの近くにいたとしてもおかしくはなかった。

 どこから情報が漏れたかわからないが、連合が中立国の企業と共同で開発した新兵器を乗せるこの艦は、建造されたヘリオポリスから出港した日に囮として先行させた艦艇がザフトの襲撃を受けるという事態に遭遇していた。

 

 ヘリオポリスは中立国であるオーブの有するコロニーである。

 地球連合に加盟していない──すなわちザフトから見れば表向きには敵対国家ではないはずのオーブ領。

 その近郊に待機していたとしか思えないローラシア級の襲撃を受け、ザフト側に情報が漏れていた可能性が高いという現状を知ったフッカー達は、この新型艦艇の持つ足の速さを生かしてローラシア級を躱し、今は見つからないようにデブリベルトに隠れる航路を進んでいる。

 

 その航路上で偶然発見したユウを保護したが、彼の話からアークエンジェルとこの艦が乗せる厳密には未完成の新型兵器がクルーゼ隊に狙われているという可能性が大いにあることが判明したのである。

 

 しかも、クルーゼ隊の旗艦は高速艦として知られるナスカ級のヴェサリウス。

 囮のマルセイユ三世級を使ったとしても、このヴェサリウスにまでも襲撃を受けていたとすれば、あのローラシア級のようには躱せない可能性が高かった。

 そもそもクルーゼ本人があそこにいたとすれば、もしかしたら出港前の段階で中立国を戦場とする強硬手段に出てもおかしくはなかったかもしれない。地球連合においてナチュラル憎しを叫び徹底抗戦を主張するパトリック・ザラの懐刀として知られるクルーゼは、それほどの危険人物として認識されている。

 むしろユウたちに対する騙し討ちのような攻撃の話からも、目的のためならば手段を選ばない人間という認識が正しいことがわかったくらいだ。

 

 もしもユウ達が民間人を保護していなければ。

 その引き渡しに従事することのなかったクルーゼは、今頃アークエンジェルを沈めていたのかもしれない。

 最悪の予想がフッカー達の頭をよぎった。

 

「出港した時、中立国の船かもしれないってのに囮を沈める手際に迷いも躊躇いもなかったから悪い予感はしてたんだが……やっぱ奴の部隊だったかよ」

 

 フッカーに随伴していた2人の尉官の男の方、機会があるなら是非ともコーディネイターを一目見たいとかいう我儘を言ってついてきていた大西洋連邦所属の大尉であり、グリマルディ戦役の活躍から“エンデュミオンの鷹”の異名を持つ連合の誇るMAのエースパイロット、ムウ・ラ・フラガ。

 表向きはわがままと言いつつ、ユウから当たらないで欲しかった嫌な予感の真偽を確かめるために尋問に立ち会わせてもらったのだが、その予感が的中したと言っていい──すなわちアークエンジェルを狙っていたのがクルーゼ隊であるという可能性が大いに高まったことを知り、ため息まじりに呟きをこぼした。

 

 同時に、ムウには確信があった。

 相手がクルーゼならば、一度取り逃がしたくらいで諦める事はありえない。アークエンジェルを、搭載している新兵器を潰すために必ずまた仕掛けてくるだろうと。

 

 ユウからは、プラント本国に民間人を運ぶためにヴェサリウスは一度本国に戻るだろうから付近の宙域にはいない可能性が高いという予測を聞いたが、その民間人の中にラクスという要人がいないことを知らないムウはその予測は甘いと見ている。

 クルーゼならばそんな雑事はそれこそアークエンジェルが出し抜いたローラシア級にでも任せ、ヴェサリウスを使って追撃してくるだろうと。

 

 実際はヴェサリウスがプラント本国に慰霊団を搬送し、その後もパトリックの演説に付き合わされるなどこの時点だとクルーゼはまだ動けない状況にあったが、既にアークエンジェルの航路に関するクルーゼの読みを受けたゼルマンがその指示を受け、近郊のザフトにも援軍を要請して大規模な戦力を用意しデブリベルトに索敵網を張っていた。

 

 ムウの悪い予感はある意味的中している。

 隠密性を重視するため推進機の稼働を可能な限り抑えて航行したことで速度を落としてしまっていたアークエンジェルは、幸いにもまだ見つかってこそいないものの既にクルーゼの読みにより作られた索敵網の中にとらわれていたのである。

 

 




アークエンジェルの本来の艦長の名前が分からないので、申し訳ないですがオリキャラとして登場させています。
(名前の方は南北戦争で活躍した北軍の将軍、ジョセフ・フッカーとウィリアム・シャーマンより)
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