その首置いてけザフト共 作:みども
アークエンジェルを追跡するガモフの艦長であるゼルマンは、クルーゼの読みをもとに作られた捜索網に大天使がなかなか引っかからないことに、今後の方針をどうするべきか悩んでいた。
その画像を見たクルーゼによりザフト内で“足付き”の通称で呼ばれるようになった、中立国オーブの軍需企業と連合が共同で開発したナチュラル製の新型MS兵器という連合・ザフト間の戦争のパワーバランスを崩しかねない新兵器を乗せた新型艦艇。
その巨体に反しナスカ級に匹敵するとも思える高速艦艇であり、初見の艦艇でローラシア級では追いつけない速力を持つことを知らなかったこと、当初新型兵器の輸送に用いると思っていた民間船に偽装した大西洋連邦軍のマルセイユ三世級を囮にしてガモフの目をくらましたこと、そもそもスパイの情報ではヘリオポリス出港はまだ先になりそうだという報告を信じ油断してしまっていたことで、ゼルマンはアークエンジェルに完全に出し抜かれ見失ってしまった。
優れた速力を持つ高速艦であるヴェサリウスがいれば、囮に食いついたとしてもアークエンジェルを見失わず追撃できただろうに。
クルーゼの期待を裏切ることになったことで、ゼルマンは己を責めており何としても補足して汚名を返上して見せるという気概を漲らせていた。
想像をはるかに上回る速度とはいえ、ガモフの探知から姿をくらませるのが早すぎる。
おそらく推進器を最低限にとどめているためだろう。熱源探知なども行うがなかなか居所をつかめていない現状を聞いたクルーゼは、足つきは月本部などへはまっすぐ向かわずに接敵を避けるためデブリベルトに隠れたと推測した。
そしてパトリック・ザラを通じて近郊のザフトにも増援に来てもらい、ゼルマンを足つき追撃艦隊の隊長代理としてデブリベルトに包囲網を敷いた。
だが、なかなか見つからない。
実際、見つかってこそいないもののアークエンジェルはクルーゼの読みが的中しこの索敵網の範囲内にいるのだが、ゼルマンの中にはあのアークエンジェルの足の速さが過大なイメージとなってしまい、この索敵網から少し外れた宙域に存在する、地球連合の有する軍事要塞“アルテミス”に収容されたのではないかという考えが浮かんでいた。
地球連合の主軸を担うザフトにとっての主敵国家の1つ、ユーラシア連邦の保有する軍事要塞アルテミス。
要塞周辺に全方位光波防御帯を展開することで、あらゆる攻撃に耐える鉄壁の防御力を誇る通称“アルテミスの傘”を有する難攻不落の要塞である。
エネルギーの都合上展開する時間に限度はあるものの、アルテミスの傘は展開している間実体弾も光線兵器も受け付けない傘を要塞全面に張ることで、いかなる攻撃も弾くという。
建造費が高価だったことで一基しか製造されず、またその位置も戦略的価値の低い宙域にあるため、攻めても落とせないのに攻める価値がない場所にあることから半ば無視されていた。
だが、アルテミスの傘は難攻不落。
あの要塞に入港したとなれば、地球連合からの大部隊が合流するまでの時間を存分に稼がれてしまう。
そうなってはザフト側も相当な戦力を揃えなければアークエンジェルを沈められなくなり、新型兵器が地球連合の月本部などの重要施設に入り量産体制に移行される可能性が高かった。
幸い、アークエンジェルを迎える地球連合の増援はまだアルテミスにもデブリベルトにも来ていない。
そして、アルテミスの傘の展開時間を研究してきたザフトのデータベースに蓄積された情報から推測するに、索敵網を展開するためにかき集めた現有戦力で総攻撃をかければアルテミスの傘を展開する光波防御帯を月本部から艦隊が派遣されていると推測して来るだろう時間となるまでに突破、要塞を陥落させることができるかもしれないという試算が出ていた。
索敵網を敷いてからかなりの時間が経過している。隠れるのが上手いのか、未知の敵艦は未だに発見できていない。
もしもクルーゼの読みが外れており、足つきが既にアルテミスに入港していたとしたら……? そして、そこから月本部の連合へ増援要請を出しているとすれば……?
そんな考えがゼルマンの頭をよぎる。
もしアルテミスに入港し、既に増援要請を出しているとすれば、いつ連合の艦隊が姿をあらわすかわからない。
もしも艦隊と合流しようものなら、傘に守られているとはいえそれだけで駐屯部隊はそれほど多くないアルテミスよりもよほど厄介な敵軍の中に入られてしまい、手を出せない状況になってしまう。
尊敬する隊長の読みを信じたいが、クルーゼは足つきの実際の速度を目で見ていない。彼とて人間だ、できないこともあるだろう。
アルテミスに逃げ込まれているならば、アルテミスだけなら落とすことができるなら、艦隊が来る前に動かなければならない。
時間が過ぎれば、アルテミスに既に入っていた場合手が出せなくなってしまう。
その焦りが、ゼルマンの決断を促した。
「マルピーギ、クーロン、アモントンに打電。索敵中の目標である足つきだが、アルテミスに入港している可能性がある。地球連合月本部へ増援要請が打診されている場合、これと合流されれば我々には撃破が極めて困難となるだろう。よって、我らはこれよりアルテミスに対し総攻撃を開始する! 全艦、目標アルテミス! 索敵網は一時解除し、直ちに結集し総力を持ってこれを制圧する!」
「はっ!」
あと半日だけでもこの索敵網を維持していれば、アークエンジェルを捉えることができたのだが。
我慢強く獲物が網にかかるのをじっと待ち、いざかかれば餓狼のごとく食らいつくクルーゼと違い、いつ見つかるかもわからない未知なところが多すぎる敵を探しながら大規模な部隊の指揮をする経験が不足していたゼルマンに指揮権が移譲されていたのが、アークエンジェルにとって幸運であり、そしてアルテミスにとっての不幸であった。
いつ見つかるかもわからない敵を探し続けるよりも、索敵網の近場で鬱陶しく傘を張って存在しているアルテミスに対して猛攻撃を加える方が、ザフトの兵士達に取ってもこのストレスの解消にもってこいであった。
こうして、ゼルマン率いる足つき追討部隊は目標をアルテミスに変更する。
ローラシア級4隻、搭載MS24機からなる、戦略的価値の低いアルテミスを攻めるには大げさな戦力。
バルルス改特火重粒子砲やキャニス短距離誘導弾発射筒といったD装備、いわゆる要塞攻略用の重火力装備を搭載したジンが次々と発艦する。
「難攻不落のアルテミス……我らコーディネイターに苦杯を舐めさせてきたあの要塞を俺たちの手で落とせる機会に恵まれるとはな。俺たちの勝利にアスランやラスティが悔しがる姿を見るのが今から楽しみだ!」
「アスランもラスティも、別に悔しがることないと思うけどな。むしろ“やったじゃないかイザーク”とか言うんじゃね?」
「油断しないでください。戦力はこちらが圧倒的に優勢とはいえ、アルテミスの傘は、一度も破られていないのも事実ですから」
ガモフから出撃するMSのパイロットたちの中には、赤服に身を包む若き戦士たち──イザーク、ディアッカ、ニコルの姿もある。
同期の首席でアカデミーを卒業したアスランを強くライバル視するイザークは未だにザフトが一度も破れたことがないアルテミスを己の手で落とし、本国に帰っている間に戦果においてアスランに大きな差をつけ悔しがる様を見てやると闘志をみなぎらせている。
アスランとともにヴェサリウスでラクスを迎えに行っている同期のラスティと仲のいいディアッカはイザークのやる気に冷やかしを飛ばして軽くからかい、能力が高い一方で我の強いクルーゼ隊の赤服たちの中で穏やかな性格をしているニコルは功を焦って油断しないようにと注意を促した。
「先に行く。イザーク・ジュール、ジン・アサルト、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン、ジン、出撃する!」
「ニコル・アマルフィ、ジン、出ます!」
アスランやラスティの良きライバルであり、良き仲間であり、良き友である赤服の同僚たち。
ヴェサリウスがグスタフと交戦し、2人も地球連合所属のMSと戦闘したことを知らない中で、戦果を上げて自慢してやると勇んで出撃するイザーク機を中心に、3機並んでアルテミスへと向かっていった。
索敵網や展開のために近郊に出現したガモフらの艦隊を見たアルテミスは、自慢のアルテミスの傘を展開していたが、いくら巨大な要塞の動力によってエネルギーを供給されているとしてもこの盾には連続展開可能時間に限りがある。
ガモフらを警戒して長くアルテミスの傘を展開し続けていたことで、艦隊が一斉にアルテミスへ目標を定めてきたときにはすでにその連続展開可能時間の限界が近づいてきていた。
「何故いきなり此方に……いったい何が起こっているのだ!?」
ザフトの大軍の攻撃を受けるという、アルテミスの価値とその攻略の困難さを考えればありえない事態に見舞われていたアルテミスの司令官であるジェラード・ガルシア少将は、狼狽えながら声を荒げていた。
アルテミスの傘は絶対的な防御力を誇るが、それでも展開可能時間に限界というものがある。
それに無数の攻撃から光波防御帯を維持するためにはさらなるエネルギーが必要であり、4隻ものローラシア級と24機というMSの大部隊からの攻撃に晒されれば短時間で傘を突破される可能性が非常に高かった。
ことの始まりは2日前のこと。
近郊に展開しているローラシア級1隻からなるザフトの部隊を発見し、アルテミスに挑む馬鹿がまた出たと思い傘を展開して立ち去るのを待っていたが、その敵はなかなか離れずそれどころかとんでもない増援まで引き連れてきた。
そして今、戦力を整え傘の展開に限界が近づいていたのを狙っていたかのように総攻撃を開始してきたのである。
ローラシア級の艦砲射撃と、多数のジンから発射される満載された要塞攻略用装備のバルルス改やキャニスの攻撃。
それに晒される傘はみるみるエネルギーを消耗していく。
このままでは2時間も持たないだろう。
「このままでは……! 機動兵器部隊は直ちに出撃準備! 護衛艦も全て出す! 要塞の防衛兵器も迎撃準備を急がせろ! それから傘の展開解除と同時に近郊の連合の部隊に救援要請を発しろ! それから本国と月本部にもだ! 傘をやられたらあんな数持ちこたえられんぞ! と、とにかく私だけでもシェルターに……!」
何もせずに傘が解けて、そして一方的に蹂躙されるなどあってたまるか。
こんな僻地で生涯を終えるなど、想像もしたくない。
ガモフ率いる大部隊の攻撃にさらされたことで生存欲求が本国へも帰れぬままにこんなところで死にたくないと叫びだしたことで、普段は辺境の立地を生かして私服を肥やす真似ばかりしているガルシアに要塞司令官としての顔を引き出した。
とにかく生き残るためには援軍が絶対に必要であり、その救援要請を出す時間を稼ぐために傘がまだ生きているうちに可能な限り敵の迎撃体制を整えるよう指揮をとり、万が一のことを考えてシェルターに逃げる算段も立てる。
メビウスらMA部隊や要塞に駐屯する護衛艦らはいつでも発進可能な体制が整い、要塞の各所にある砲台も迎撃体制を整える。
また傘が解けると同時に即座に各所の連合へ救援要請を送る体制も整った。
「アルテミスの傘、限界です!」
「げ、迎撃開始だ!」
アルテミスの傘がついに解除される。
それと共に飛来するザフトのジンやローラシア級に向けて砲台が一斉に砲撃を開始し、同時に護衛艦やメビウスが続々と発進していった。
不落の要塞として名高いアルテミス。
その日、この要塞は初めて敵の攻撃により傘の突破を許す事態に直面する。
完全なとばっちりでザフトの大軍からの猛攻を受けることとなったガルシア少将の明日は……?