その首置いてけザフト共   作:みども

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場面はアークエンジェルに移ります。



アルテミス攻防戦 8

 

 

 ユウへの尋問から、フッカー達は艦を狙っていると推測される敵の情報を入手し、すぐに対策を練るべくCICへの向かった。

 残ったのはまだまともに立ち上がれる状態ではないユウと、計器の数値などを確認している軍医、そしてムウの3人である。

 

「……フラガ大尉? 艦長達の元に行かなくていいので?」

 

「あー、悪いな先生。ちょいとこの少尉さんと話させてくれねえか?」

 

「まあ、医師としては話をするくらいならば問題ないかと。本人が拒否したならゆっくりさせてあげなさいよ」

 

「わあってますって」

 

 フッカー達と共にCICに向かわず、1人この場に残ったムウに「あんた何してんだ」という非難めいた目を向けた軍医に、少しユウと話させてくれと頼むムウ。

 容体の方は、会話するくらいならば問題ないため、ユウ本人が応じるというならば軍医としては構わないというお墨付きをもらい、ムウは椅子を引きずりながらユウの傍に近づいた。

 

「悪いな坊主。ちょいと話をさせてくれねえか?」

 

「それはもちろん構いませんが……」

 

 坊主と言われるような歳ではないのだが、いつものごとく年齢詐欺師呼ばわりされてしまう童顔が誤解させてしまっているようである。

 ユウにとっては日常茶飯事のことなので、すぐに訂正を要求するようなことではないと、まずはムウの話に応じることとした。

 

「自己紹介してなかったな。俺はムウ・ラ・フラガ。大西洋連邦でMAのパイロットをしている。階級は大尉な。今はこの艦の護衛をしている」

 

 ムウもコーディネイターの差別思想を持たない連合では非常に珍しい人物なのだろう。

 ユウがコーディネイターであることを知った上で、それについてはまったく気にしていない様子のフランクな態度で接してくる。

 むしろユウからしてみれば初対面相手にも物怖じしない距離の詰め方に少しばかり戸惑いを抱くほどである。

 

 ムウ・ラ・フラガ。通称“エンデュミオンの鷹”。

 グリマルディ戦役にて、本来MAでは1対5の戦力比で互角とされるザフトのジンを相手に、5機を撃墜し生還を果たした連合で最も有名なエースパイロットの1人である。

 名前を知らない者は、おそらく連合にはほとんどいないだろう。

 

 高度な空間把握能力が必要なガンバレルを搭載するMA“メビウス・ゼロ”を扱える数少ないMAパイロットであり、性能差を覆しザフトのジンを多数落としてきた大西洋連邦の英雄の1人。

 

 単純なMSの撃破数としての活躍ぶりならユウ達第9航宙機動艦隊のMSパイロット達の方が上回るが、それはMSという互角に渡り合える兵器を扱うコーディネイターだからこそできるもの。

 MAでの活躍ということを考慮するならば、ムウの方がはるかに輝かしい戦績を持つ。

 

「貴方が、グリマルディ戦役の……」

 

「なんだ、俺のこと知ってくれてたの? いや〜有名すぎるのも参っちゃうぜ」

 

 ユウが自分を知っていたことを聞き、後頭部に手を当てながら笑顔を浮かべるムウ。

 言葉と口調は嬉しそうだが、しかし少しその表情に陰りがあるようにユウは感じた。

 

 今まで何人も見てきた、表層に浮かべないように努めている顔。

 その人物にとって、暗い影を落とすものとして残る記憶を思い出している時に浮かぶ表情。

 何か本人としては快くない記憶があるのだろうか。グリマルディ戦役のことは口にしないほうがいいかもしれないと判断し、エンデュミオンの鷹の活躍を賞賛する言葉は飲み込むことにした。

 

「それで、話というのは?」

 

 あえてエンデュミオンの鷹の話は避け、フッカー達がCICに向かった中で艦の護衛を担うMA部隊の隊長であるだろうフラガが1人残った理由について促してみるユウ。

 多くの初対面の友軍兵士との邂逅では、ムウ本人としては苦い記憶であるグリマルディ戦役のことを賞賛されることが多い中、あえてそれに触れず本題に入ったユウ。それだけでムウはユウに対して好印象を抱き、個人的に気に入った。

 ただし童顔に引っ張られて年齢を誤解している。

 

「お前さん、ユーラシアの所属なんだって? 第9航宙機動艦隊って言えば、ユーラシア連邦で唯一のMS兵器が配備されてる艦隊でコーディネイターが多いって聞いてるからさ」

 

「……ご存知でしたか」

 

 地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊。

 ユウが所属するこの艦隊は、様々な意味で地球連合内部において有名な艦隊である。

 

 曰く、コーディネイターでありながら祖国プラントを裏切った連中が属する部隊。

 曰く、ナチュラルに都合のいいコーディネイター達。

 曰く、プラントに情報を流す地球連合内部に潜む裏切り者達。

 曰く、シベリアの雪の如き冷酷無慈悲な心を持つ“凍土の魔女”が率いる不死身の化物達。

 曰く、ザフトを見たら理性をなくして襲いかかり銃で撃たれても足を止めずに首を寄越せと暴れる狂犬集団。

 曰く、ナチュラルが生み出した人型生体兵器軍団。

 

 MSを保有・運用し、物量で圧倒する連合が苦戦するザフトを相手に幾度も劣勢の中で勝利を上げてきた部隊。

 艦隊の人員の半分以上がコーディネイターで構成されており、MSを運用するため他の地球連合軍には見られない艦艇が多数配備されている。

 コーディネイターでありながら、プラントを相手にナチュラルの地球連合に与して戦ってきた者たち。

 コーディネイター差別が蔓延する地球連合において、コーディネイターが多く所属し、そして同胞であるはずのプラントのコーディネイターたちの軍隊であるザフトを相手に、他の連合の部隊が匙を投げるような無謀な戦いにもブルーコスモスのテロリストすら引くほどの異常なほどの戦意をみなぎらせて挑み勝ち抜くことで多大な活躍を重ねてきたという。

 

 当然ムウもこの多くの噂と実績に彩られた艦隊は、会ったことはなくとも存在を知っており、様々な噂を耳にしていた。

 

 噂の大半はコーディネイターが多く属することに対し、コーディネイター差別思想からくる悪評。

 それに匹敵するほど多いのが活躍ぶりに対する妬みからくるいわれのない誹謗中傷と、撃たれようとも死なず止まらずでザフトに対し首を求めて突っ込んでくるなどといった理解不能な噂である。

 

 ユウたち第9航宙機動艦隊の面々にとっては、故郷はユーラシア連邦であり、同胞は同じ故郷を持つ地球の人類であり、プラントに足を踏み入れたことなど一度もなければ、あのコロニー群を祖国などと思ったことも一度たりともない。

 むしろ理想郷を破壊したプラントのコーディネイターどもを相手に同胞呼ばわりされるなど、全力で否定しこちらから願い下げしたい事であり、裏切るも何もザフト共は元から敵である。

 コーディネイターだからというだけで貼られる裏切り者のレッテルは快いものではないが、ナチュラルとコーディネイターの戦争という形態となったこの戦争では特区の事情を知らない友軍からそういう噂をされるのは仕方のないことではあった。

 

 ただし化物呼ばわりの噂に関しては反論したい。

 銃で撃たれても止まらずに首を求めて突っ込むなどというのは誇張しすぎである。

 ユウたちも人間なので、頭か心臓を撃たれれば死ぬ。

 そしてこちらを化物呼ばわりする者たちも人間なので、足や腕を撃たれたくらいならば即死するような事はないだろう。人間はそこまで生きる力が弱い生き物ではない。

 だから、撃たれても死なないなどという噂も、そんなものは撃ちどころ次第で生き残る事もあれば死ぬ事もある普通の人間なのである。断じて不死身の化け物ではない。

 勝手に人間から外れたイカれた化物にしないでほしいところである。

 

 何れにせよ当人にコーディネイター差別思想があろうとも、いい噂ではない話を聞いているだろうと、ユウの表情に陰がさす。

 

 一方そんなユウの表情に気づいていないムウは、腕を組みうんうん頷きながら自身が聞いた噂話を面白そうに語り出した。

 

「あれだろ? 俺が最初に聞いたのは、ユーラシア連邦と東アジアの合同の地上軍7個師団が1週間攻撃し続けたのに突破できなかったハバロフスクの防衛線の突破に成功したって話だ! 地球連合が捨てた武器まで引っ張り出して地形が変わるほどの雨あられと降り注ぐ弾幕の嵐を張ったのに潜り抜けてきた上、そのままザフトの防衛線を蹴散らしたっていうやつ! おかげで1個連隊がたった30分で突破したそうじゃないの!」

 

「……クジラの尾ひれがついた噂話ですね」

 

 誇張されすぎたムウの話に、最初にそれが来るとは思っていなかったユウは“プラントの裏切り者”などという誹謗中傷が来なかったのは嬉しかった反面、誇張され化物扱いされる噂話に辟易とした気分になった。

 

 ハバロフスク防衛線の突破は確かに27機甲連隊時代に経験した戦いの1つだが、そんなデタラメなものではない。

 シベリア・蒙古戦線を担当する地球連合地上軍であるユーラシア連邦第5方面軍を主力とする、ユーラシアと東アジアの共同軍である7個師団が1週間攻撃して突破できなかったこの戦い。

 当時は陽動として行われたウランバートルの戦いがあったことで、ザフトのほうが27機甲連隊が挑んだ時とは異なる戦力を展開していたという。おそらく、はるかに多かったのだろう。

 シベリアの大地は、いくら砲弾を叩き込んでも何もない景色という地形は変わらないものだから、地形が変わる弾幕なんてのも誇張しすぎである。

 それに、当時シベリア鉄道を失陥したことで地球連合から鹵獲した武器までぶっ放さなければならなかったザフトは相当枯渇していたはずなので、誇張されがちなあの弾幕はバクゥでくぐり抜けられる程度という、大したものではなかった。

 何よりハバロフスクの戦いでは枯渇して不十分な弾幕しか張れなかったところを突破しただけで、ザフトの方から防衛線を放棄して撤退したのである。蹴散らしてなどいないし、ザフトは迅速な撤退だったのでむしろ撃破できていない。

 ユウたちにとって、やたらと誇張されるこの戦いは誇れる戦果とは言い難い戦いだった。

 

「そうなのか?」

 

「私も参加していました。実際は噂にあるような戦闘ではなく、物資不足で枯渇し地球連合の鹵獲品まで引っ張り出す不十分な弾幕しか張れなかったところを突破したところ、追撃を断念する迅速な撤退をされたために短時間で決着がついたのです」

 

「まあ、戦意高揚とかいう大人の事情でそういうことってあるからな。実際は機銃くらいだったってこと?」

 

「流石にそこまでは。機銃、対地ミサイル、対戦車ミサイル、荷電粒子砲、レールガン、無反動砲……MSなら散弾銃やキャニスくらいで、あとよほど足りなかったのか対艦ミサイルとかまで引っ張り出してようやくという形で作られた弾幕でした」

 

「……ん? それ、30分で突破したの?」

 

「弾幕を抜けたら向こうから撤退したので、30分で終わったというのが正しいですね。突破と言えるほどのことは」

 

「……それさ、もしかしてザフトの奴ら撤退じゃなくて恐怖のあまり逃げ出したんじゃねえの?」

 

「それこそありえないでしょう。殿の用意すら必要ないと、ともすれば総崩れの敵前逃亡にすら見間違えるほど、文字通りの全軍総撤退という迅速なものでした。我々から見れば、あれは1人も置いていかないという気迫を感じる光景でした」

 

「……ヤベえな、ユーラシア」

 

 誇張しすぎだとユウが否定したら、少し様子がおかしくなったが確かに誇張し過ぎだと納得してくれた様子のムウ。

 いくら戦意高揚のためとはいえ、聞く者からすればバカバカしいと思えるような誇張の仕方に、ムウのユーラシア連邦に対してヤバい連中だなという印象を抱いた様子である。

 これにはユウも同意したい。そしてやばいユーラシアの上層部に同調して、同じくこの誇張を広げてくれた東アジアにもヤベェなと言って欲しいまである。

 

 だいたい、雨あられと降り注ぐ弾幕など……そんなものと遭遇すればユウには突破などできないと断言できる。

 文字通り雨天の中で降り注ぐ雨粒その全てを弾丸や砲撃、ミサイルなどに差し替えた弾幕の景色を想像するユウ。

 そしてその想像した景色を浮かべ、そんなものどう突破しろというつもりなのかと呆れてしまう。

 

 ハバロフスクで突破したあの程度の弾幕に比べれば、ウランバートルの戦いの方がはるかに厳しかった。

 

「……何百発と撃ち込まれた弾幕突破したんだよな?」

 

「雨あられという表現は誇張に過ぎますよね。雨天の雨粒が何百なんて数で収まるものじゃないくらい常識だというのに」

 

「……ブルーコスモスのテロリストが引くレベルって話、誇張じゃなかったんだな

 

「……?」

 

 ムウがぼそりと何かをつぶやいたが、ユウにはうまく聞き取れなかった。

 独り言だろうから、おそらく噂と実態の差に真相はこんなもんだよなとぼやいているとかそういう類なのだろうと勝手に判断した。

 

「我々はザフトと同じMSを用いて戦っているので戦果が大きいのは当然です。むしろ、MAでありながら機動力の差を覆し多数のMSを撃破してみせるフラガ大尉の方が遥かにすごいですよ」

 

「絶対にそういう問題じゃねえよ」

 

 謙遜などではない本心からの思いを口にしたところ、全力でムウに否定された。

 それを受け、フランクで自信にあふれた印象を受ける人物ながら、同時にムウはとても謙虚で人を引き立てるのもうまい方なんだなという印象をユウは抱いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アークエンジェルは、デブリベルトに包囲網を形成するガモフ率いるザフトの大軍を確認する。

 

 機密情報につき医務室から出されず、艦名すら教えられていないユウはアークエンジェルの現状について何も知らない状態である。

 

 アークエンジェルのCICでは、ユウの病室で雑談に興じているムウを除く主だった士官が集められ、この現状の打開策について緊急の会議が開催されることとなり、意見が交わされていた。

 

「敵はローラシア級4隻が確認されています。うち1隻は、ヘリオポリスで襲撃を仕掛けてきたクルーゼ隊と推測されるものと同一の艦と思われます」

 

 モニターに映し出された宙域の図にて、補足した敵艦の位置、そしてその中にクルーゼ隊と思われる部隊の存在が確認されていることなどを説明するのは、医務室にも来ていた女性の方の尉官、ナタル・バジルール少尉である。

 

「幸い、当方はまだ発見されていないものと推測されますが……」

 

「この包囲網、隠れているだけではいずれ確実に見つかるだろうな」

 

 アークエンジェルの速度を実際に見たことがない中で作られたクルーゼの包囲網は、しかし見事に的中させ完璧にアークエンジェルを網の中に捉えていた。

 まだアークエンジェルは捕捉されていないが、このままデブリベルトに隠れていても見つかるのは時間の問題である。

 

「推定される敵MS戦力は、最大で24機か……」

 

「新型MS兵器5機の方は機体こそ完成しているものの、ナチュラル用のOSが不完全なままであり、当然ながら戦闘機動などとれるものではありません。戦力になり得るのは護衛のMA部隊のみとみるべきですが、メビウス・ゼロ1機とメビウス4機では……」

 

 戦力差は圧倒的であり、見つかり戦闘になった場合、瞬く間に撃沈に追い込まれるのが目に見えている。

 敵艦は全てローラシア級のため振り切ることさえできれば、アークエンジェルの自慢でもある速力を生かし振り切ることは可能だが、展開されている、また搭載されている大量のMSがそれを許さないだろう。

 

「戦術長、スカイグラスパーは?」

 

「あれは大気圏内用の戦闘機だぞ。一応、使えないことはないだろうが……しかしそれでも焼け石に水だ」

 

「アークエンジェルの火力でも、宇宙空間で機動をとるジンに当てるのは困難を極めます。それがこれだけの数となれば……」

 

 見つかるのは時間の問題。

 しかし正面突破はリスクが大きすぎる。

 

「とにかく、見つかるまでは徹底して隠れ続ける。このデブリベルトだ、索敵網にも隙は必ずできるはず。我慢比べといこう」

 

「「「ハッ!」」」

 

 フッカーの判断により、アークエンジェルはいずれ見つかる包囲網の中でそれでも息を潜めて敵の隙をギリギリまで隠れ続けることを選んだ。

 

 

 

 ──その数日後。

 彼らはゼルマンとの我慢比べに勝利し、絶好の包囲網突破のための好機を得ることとなる。




そうじゃないの。不足していたんじゃなくて、十分すぎる弾幕を張っているのに突き進んでくるから鹵獲した兵器まで投入せざる負えなくなったんです!
そしてそれすら突破して……

ちなみに、27機甲連隊時代のウランバートル編、ハバロフスク編なども出す予定です。
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