その首置いてけザフト共   作:みども

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G兵器 1

 

 

 

 デブリベルトにおけるかくれんぼでゼルマンとの我慢比べに勝利し、アルテミスを攻撃したことで生じた隙を見逃さず、無事クルーゼの作った包囲網の突破に成功したアークエンジェル。

 その自慢の速力を活かしてガモフを一気に引き離すことに成功し、オーブの軍需企業モルゲンレーテ社と協力し開発に成功した地球連合製MS兵器である5機のG兵器を月本部へ届けるべく、デブリベルトを抜けて月に向かい航行していた。

 

 しかし、やはり簡単に月本部へたどり着かせてくれる相手ではない。

 必死にアークエンジェルに追いすがるガモフからの情報をもとに、アークエンジェルの進路を予測したクルーゼの率いるヴェサリウスが到着し、その速力を生かして月へのルートを塞ぐようにアークエンジェルの航路上に立ち塞がってきたのである。

 

 そこからヴェサリウスはミゲル、アスラン、ラスティ、オロールのジン4機を出撃させ、アークエンジェルの前方への逃げ場を塞いできた。

 高速艦であるヴェサリウス、ましてあのクルーゼが指揮するナスカ級が相手となると、MSを前方に展開されれば前に逃げ道はない。確実に対艦・対MS戦闘に発展するだろう。

 

 また、後方は長距離偵察型ジンを飛ばしてアークエンジェルを見失うことなく追いすがってきたガモフが追撃してきており、そのガモフから発進した偵察機を含める3機のジンが展開している。

 

 まさに前門の虎、後門の狼。

 ローラシア級をかわすため速度を優先するためにデブリベルトから出たことが裏目となり、隠れる場所もない。

 アークエンジェルを決して逃さないという執念を感じさせるクルーゼの挟撃体制であった。

 

 ヴェサリウスとガモフの挟撃をまともに食らえば、アークエンジェルに勝ち目はない。

 だが強行突破しようにも、敵のMSや艦艇が確実に邪魔をしてくる。その隙に包囲されるだろう。

 もうすぐ月基地にアークエンジェルからの通信が届きそうな位置に至って、クルーゼ隊の挟撃により進退窮まる状況にフッカー達は追い込まれた。

 

「クソッ! あと少しというところで……」

 

「クルーゼの野郎、プラント本国から飛んできやがったな。相変わらず人の嫌がることが好きな奴だぜ……!」

 

「艦長、ナスカ級とローラシア級のどちらか一方だけならばアークエンジェルの戦力が上です。G兵器及びフラガ大尉のMA部隊を展開し、前方ナスカ級の撃破を具申致します」

 

「ダメだ、G兵器は機体はともかくOSが完成していない。出たところであのクルーゼ隊のいい的だ、下手をすれば鹵獲されてしまう」

 

 悪態つくムウと、アークエンジェルの火力と機動兵器の数の優勢で強行突破を具申するナタル。

 だがMAだけでは戦力が圧倒的に不足しているし、G兵器はまともに戦闘に使えるものではない。実体兵器のダメージを軽減するフェイズシフト装甲があればジンに撃破される可能性は格段に低くなるが、相手はクルーゼ隊である。相手にならず、場合によっては鹵獲されてしまう可能性も高い。

 フッカーはナタルの意見具申を却下すると、彼女はデブリベルトで拾ったMSの残骸に残されていた友軍パイロットの存在を思い出した。

 

「で、では! ナガト少尉にG兵器の1機への搭乗の要請を! 彼はコーディネイターであり第9航宙機動艦隊所属のMSパイロットです。鹵獲ジンなどのデータにあるコーディネイター用のOSを一時的にインストールすれば、彼にも操縦が可能なのでは──」

 

「──やめたまえ。彼はユーラシア連邦の所属、同盟国とはいえ今大戦の終結後には確実に敵対国家となる国のコーディネイターだ。そんな者に、我々大西洋連邦の最新技術を詰め込んだ機密の塊であるG兵器に触れさせるわけにはいかない」

 

 艦の月本部到達を第一としこの窮地を乗り越える可能性がわずかでもあるなら縋るべきだとするナタルの意見を、あくまでものちの世界の大西洋連邦の立場を重んじユーラシアのMSパイロットに機密の塊であるG兵器を触れさせるべきではないとするフッカーは冷たく却下した。

 それにナタルは顔を引きつらせるが、自分のように軍人としての考えだけでなく政治の世界を考えているフッカーの考えもまた正論なので、反論できない。

 確かに、あの機密情報の塊であるG兵器は他国籍の軍人に見せびらかす、まして乗せて操縦してもらうようなものではない。

 

「だがよ、艦長。いくら俺が不可能を可能にする男でも、MA3機でMS4機──いや、控えている奴のシグーを含めれば5機のMSが出てくる敵に向かっていっても一方的にやられるのがオチだぜ? あのナスカ級に損害を与えねえとこの艦が逃げるのは困難だが、MSをどうにかしないともたもたしてる間に後ろのローラシア級もくる」

 

 ムウが冷静に現状を分析して、逃げるためにはアークエンジェルの足では振り切れない高速艦として名高いナスカ級に損害を与えることが必至であることを伝える。

 そのためには僚機のMS部隊、最低でも5機は繰り出してくるだろうクルーゼ隊を突破してアークエンジェルもしくはMAの攻撃をヴェサリウスに叩き込む必要があるのだが、MA3機ではさすがに不可能でありアークエンジェルの火力でも回避され時間を稼がれガモフに追いつかれ挟み撃ちをまともに食らうことになるだろう予想を口にする。

 

 グリマルディ戦役ではジン5機を撃破したが、あれは敵味方が入り乱れる戦場での話である。

 というか、エンデュミオン・クレーターの戦場はいつものごとく地球連合側の数が圧倒的優勢での戦いだった。ジンとMAの戦力比を考えれば互角だったが。

 しかし今回は圧倒的に敵戦力が上であり、のこのこ出ても部下達を失い自分も返り討ちにあうのが目に見えている。

 

「悪いが艦長、あんたもいろいろ事情があると思うが俺もバジルール少尉に賛成。1機でもまともに動くMSが味方にいるだけでも突破できる可能性は大きく違ってくるぜ。あいつがダメならせめてヒヨッコ共を乗せたMSを砲台代わりでいいから援護に展開してくれ」

 

「……ダメだ」

 

 ムウもまた、まずはこの状況を切り抜けるためにもユウを使うべき、最悪正規のナチュラルのパイロット達を載せて援護射撃くらいはさせないと戦いにすらならないと、ナタルの意見に賛同する。

 だが、それでもフッカーは首を横に振った。

 

「G兵器は使わない。アークエンジェルでナスカ級を攻撃、損傷を与えた後敵MS部隊を振り切る。出撃する僚機はフラガ大尉以下3機のMA部隊とする。これは決定事項だ」

 

 結局、フッカーは意見を覆さなかった。

 MSが護衛につくナスカ級に射程距離まで接近、攻撃を与えて振り切る。

 その間にさらされるだろうアークエンジェルへのMS部隊からの攻撃には、G兵器を使わず、コーディネイター相手には掠りもしないだろう艦砲射撃の援護の元ムウ達3機のMA部隊だけで対応してもらうと。

 ムウ達にとっては、半ば死にに行けというレベルの命令であった。

 

「まあ、命令とあっちゃ仕方ない。了解しました」

 

「……申し訳ない、フラガ大尉」

 

「俺は生き残るくらいなら自信ありますよ。……あいつらは厳しいだろうけどな」

 

 出撃命令を受け、CICから出て行くムウ。

 2人の部下に自分ですら何分持つかもわからないような戦場に行けというのだ。ムウといえども、今回ばかりは2人を気にかけてやる暇もないので援護できないだろう。

 

「間も無く敵MS部隊が射程に入ります!」

 

「牽制射撃を行う! 可能な限りMA部隊を援護するぞ! 主砲、ゴットフリート砲撃開始!」

 

 ガモフに追いつかれる前に、ヴェサリウスを突破する。

 射程に入ったところでアークエンジェルが主砲をはじめ各種兵装で攻撃を開始したことを皮切りに、アークエンジェルとクルーゼ隊の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アークエンジェルの前に立ちふさがるように展開した、クルーゼの指揮するヴェサリウスと4機のジンからなる部隊。

 特徴的なガンバレル4機を搭載するオレンジの色のメビウス・ゼロ、ムウが率いるMA部隊が迎撃に出てきた姿を見て、クルーゼは仮面の下で因縁の相手に笑みを浮かべた。

 

「お前がいたのか、ムウ。フフ……たったの3機で艦のために犠牲になれとは、後方に下げられた末の最後の戦場は随分と寂しくなりそうだな。フラガの血族、それの最期を部下の華にすることも一興だが、やはりお前は私自ら落とさなければな……エンデュミオンの鷹だ、あの敵は手強い。私のシグーを用意しろ!」

 

「ハッ!」

 

 フラガの血族。

 やはり、あの男だけはこの自らの手で葬らなければならない。

 クルーゼは自身の出生に深い関係と因縁を持つ者の血と遺伝子を継ぐ男を自らの手で葬るべく、ヴェサリウスに搭載されている乗機のシグーに乗り込み出撃した。

 

「ラウ・ル・クルーゼ、シグー、出撃する!」

 

 ヴェサリウスからシグーが飛び出す。

 その光景は、カメラからは遠すぎて確認できなかったが、特別な因縁で結ばれているムウもまた感じ取った。

 

「来たな、クルーゼ……!」

 

「ああ、お前を葬るために今行くぞ、ムウ・ラ・フラガ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、アークエンジェルを追いかけるガモフのブリッジでは。

 額に汗を浮かべ、体の震えが止まらないゼルマンが、息を荒くして落ち着かない様子で艦長席に座っている。

 

 それは、クルーゼから与えられた任務。

 2度も期待を裏切ったのにガモフの艦長の座から下ろさず、これだけ失敗を重ねてきた彼に対してその責任を追及することもなくいつものようにクルーゼは役目を与えた。

 

 ──足つきを追撃し、後ろから食らい付け。前はヴェサリウスが塞ぐ。ゼルマン、お前達の任務は足つきの制圧とその中に載せられている敵の新兵器の奪取だ。イザーク達を使い給え。

 

 挟撃を仕掛け、目的である敵兵器の奪取を行う。

 その上で特に不自然な点はないように思える指示。

 

 だが、これまでの失態で己を責めその上でクルーゼからなんら罰則がなかったことがむしろ精神的に追い込められていたゼルマンの耳には、その指示の中に隠れたものが聞こえた。

 

 未知の新型艦艇の制圧、その中に搭載されている敵兵器の強奪。

 それを為すために何をするか? 

 

 ──ガモフの艦体そのものをぶつけて装甲を破壊、そこから総員を突入させて兵器と艦を奪取する。

 

 激突するならば、回避など考慮しない突撃が必要。足つきからの迎撃は相当なものとなるだろう。

 ガモフが航行不能になったとしても、足つきを奪取すれば良い。

 逆に言えば、足つきを奪取しなければ艦の乗組員全員が生き残れない攻撃を敢行するつもりだった。

 

「フーッ……! フーッ……! ガモフ、最大船速! 目標足つき! このガモフを、足つきにぶつける!」

 

「「「ハッ!」」」

 

 決死の覚悟でガモフはアークエンジェルめがけて最大速度を持って艦を進める。

 その異常な様子は、ムウ達の出撃したアークエンジェルからも確認されていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アークエンジェルの方は、護衛のMA部隊のうちシグーと一騎打ちを展開するムウのメビウス・ゼロを除く2機が被弾し1機が撃墜、1機は幸いアークエンジェルに帰還できたが機体は大破しパイロットも重傷を負い戦える状態ではなくなり、早々に護衛のMA部隊が壊滅状態に追い込まれたことで4機のジンの猛攻撃にさらされていた。

 弾幕を張っているが、そんなものをまともに喰らうほどクルーゼ隊の精鋭達は弱くない。

 ムウはシグーにかかりきりでとても援護に回れる状態ではない。

 そんな中、激突するつもりとしか思えない速度を維持して後方のローラシア級、ガモフが急速接近していた。

 

「くっ……スレッジハマー発射! 目標、後方ローラシア級!」

 

「ダメです! ミサイル迎撃されました!」

 

「イーゲルシュテルン弾幕張り続けろ! バリアント撃てぇ!」

 

 ガモフから飛んできたMS部隊も参加し、弾幕を張るアークエンジェルの装甲に次々と衝撃が走る。

 さらにガモフの特攻を援護するように、対艦ミサイルを発射してもMS部隊がそれを射ち落す。

 このままガモフの特攻を受ければ、もはやヴェサリウスの突破どころでは済まない。

 

「艦長! やはりG兵器を!」

 

「ダメだ! G兵器だけは守り抜かなければならない! 諦めるな、残弾は惜しまなくて良い! ローラシア級を仕留めろ!」

 

「くっ……! コリントスで敵MSを牽制し隙を作れ!」

 

「いまだ、スレッジハマー撃て!」

 

 アークエンジェルから放たれる対空ミサイル“コリントス”が多数の対空バルカン砲“イーゲルシュテルン”とともに群がるMS部隊に放たれ、これを牽制する。

 その隙に対艦ミサイル“スレッジハマー”が後方より迫るガモフに向けて至近距離で発射され、牽制を受けたMSの妨害をくぐり抜けてガモフの艦体に直撃した。

 

 ガモフの主砲が破壊される。

 装甲が崩壊し、艦体が火を噴き上げる。動力機関に重大な損害を受けたのか、速度が低下する。

 

 そのまま直撃すれば、その衝撃でガモフの動力機関が崩壊を起こし撃沈してもおかしくないというのに、それでもガモフは止まらなかった。

 

「怯むな! ぶつけろ!」

 

「い、イカれているのかあいつらは!? 総員、衝撃に備えろ!」

 

「バリアントを──うぁっ!?」

 

 それでも減速しないガモフの艦体が、至近距離でリニアカノン“バリアント”の迎撃をブリッジに受けながらも、アークエンジェルに激突する。

 幸いガモフはかろうじて持ちこたえたが、しかし2隻の巨体が激突した衝撃は凄まじく、双方の艦体が大きなダメージを負った。

 

「やべぇ! 邪魔するなクルーゼ!」

 

「ハハハッ! 釣れないことを言うなムウ! 大事なお仲間たちもすぐにお前の後を追わせてやる! 最後まで私に付き合ってもらうぞ!」

 

「ちぃッ!」

 

 その様子はムウのメビウス・ゼロからも確認できたが、援護に向かわせてくれるほどクルーゼは甘くない。

 すでにガンバレルも2機が落とされ、本体も被弾しておりリニアガンの照準もいかれてしまっている。

 

 戦況は圧倒的に不利。

 損傷を受けたアークエンジェルは、もはやヴェサリウスを振り切れる状態ではなくなった。

 

「足つきを奪取する! 総員、突入! うっ……は、白兵戦だ!」

 

 最後のバリアントの直撃で崩壊したブリッジにて。

 破壊された艦体の破片が右腕をちぎるという重傷を負いながらも、ゼルマンがガモフの乗組員全員に白兵戦の指示を出す。

 

「クルーゼ、隊長……ご武運、を……」

 

 その指示を最後に、ゼルマンは目を閉じた。

 彼が命がけで作ったガモフ乗組員達の道は開かれており、そこにイザーク達が歩兵として突入していく。

 

「行くぞ! 足つきと敵新型兵器を奪取する!」

 

「マシュー! アスラン達も! 援護をお願いします!」

 

『分かった!』

 

 ニコルからMS部隊にも援護の要請が出される。

 ガモフは艦長のゼルマン以下この特攻だけでも相当な被害を受けていたが、それでもナチュラル相手に白兵戦を仕掛けられる戦力はあり、迎撃に出てきた部隊と銃撃戦を持ち前のコーディネイターの身体能力で圧倒していく。

 

 さらに援護のためにガモフの特攻で空いた穴にアスラン達も次々とイーゲルシュテルンを黙らせてからガモフ経由で突入。

 偵察型を操縦するマシューがセンサー類を駆使して内部構造を解析し、突入部隊を援護する。

 

「敵兵を排除しろ! CICほか重要区画の隔壁を閉鎖! 保安部隊を総動員し何としても敵を排除するんだ!」

 

 フッカーの指揮のもと、艦を乗っ取られないように隔壁を一部閉鎖し、武装した保安部員達が前線に向かう。

 その他の乗組員達も各武器を手にして突入してきたザフトと熾烈な銃撃戦を展開していた。

 

 イザーク達はマシューのジンの解析から格納庫を目指し、そこでアスラン達と合流。

 格納庫は隔壁を閉鎖したが、ラスティのジンによって隔壁は吹き飛ばされ、アークエンジェルは5機のGのある格納庫への侵入を許していた。

 

「ニコル! イザークも!」

 

「アスランか!」

 

「ラスティですか!? 良いところに来てくれました!」

 

『援護するぜ! 目標の新型機はあれか!?』

 

「ご明察! 5機あるし、俺たち赤服で奪取するってことで良いんじゃねえの?」

 

「よし、行くぞ!」

 

 たまたまいた整備班と、駆けつけた保安部員が応戦するが、ラスティのジンの火力を前に歩兵が相手になるはずもなく次々に倒され、さらには機材を破壊して増援の入り口を塞がれてしまう。

 

「まずい!? G兵器を奪取されるぞ! それだけは何としても阻止しろ!」

 

「ダメです! 乗っ取られました!」

 

「くっ! こんなことになるなら、君の意見を受け入れるべきだった……すまない、バジルール少尉……!」

 

「悔やんでいる暇はありません! 隔壁を閉鎖して機体の離脱を阻止するべきです!」

 

「ダメです! 隔壁、ジンによって破壊されました! ああっ……ストライクまで!」

 

 アスランがイージスに、ニコルがブリッツに、ディアッカがバスターに、イザークがデュエルに乗り込み、G兵器を起動する。

 ラスティは隔壁をバルルス改で破壊して脱出路を確保してから、最後にストライクに乗り込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 敵新型兵器の奪取に成功する。

 コクピットに乗り込むまで成功したことでそう思われていたアスランたちだが、しかしここで思わぬ足止めを食らっていた。

 

「なんだよこれ!? OSデタラメすぎるだろ、こんなんじゃ動かせねえよ!」

 

「とにかく動かせるだけでも良いので、急ぎましょう!」

 

「チッ……! 面倒な、さっさと書き換えるぞ!」

 

 G兵器のOSは未完成。

 それもナチュラルでも動かせるものを追求し、今もなおその完成を目指してアークエンジェルの整備兵達が改良を重ね続けてきたものだが、コーディネイターである彼らからすれば戦闘はおろかまともに動かすことすら困難なデタラメな代物だった。

 

 とにかく奪取のためにまずは動かせるだけでもしなければと、イザーク達はOSの書き換えを始める。

 

 G兵器に乗り込みこの作業に取り組み始めたのはイザーク、ディアッカ、ニコル、アスラン、そして最後にラスティの順番だったが、真っ先にその作業を終えたのはアスランだった。

 

「先に行く!」

 

「なぁっ!? 待てアスラン貴様──」

 

「こちらもとりあえず動かせるようにはなりました!」

 

「ふざるけるなニコル! アスランだけならまだしも──」

 

「──っと、やっと終わったぜ!」

 

「認めん! アスランはまだ良い、ニコルもまあ許してやる! だが貴様が俺より早く終わらせるのは認めんぞディアッカ!」

 

「お先!」

 

「せめて書き換えたデータのコピーを寄越せ貴様ぁ!」

 

「……ま、まあ、僕のを送りますから。2人とも急いでください」

 

「サンキュー、ニコル! 愛してる、結婚してくれ!」

 

「気持ち悪いわ!」

 

 いちいち突っ掛かりツッコミをかますせいで、一番乗りで機体に乗り込んだイザークが脱出路確保などで1番遅くにG兵器に乗り込んだラスティを除く、アスラン、ニコル、ディアッカに遅れをとるという展開に喚くなどあったが。

 ニコルが最低限の起動ができるOSデータのコピーをイザークとラスティに送信したことで、ようやく残る2機も立ち上げに成功する。

 

 すでにアスラン、ディアッカはアークエンジェルから離脱している。

 ガモフはさすがに使えないので、アークエンジェルが制圧できていない現状はこの新型MSの確保を確実にするためにもと、ミゲルのジンに護衛されてヴェサリウスの方へと向かっていた。

 

 アークエンジェルはせめて奪われるのだけは避けねばと攻撃をしようとするも、ガモフの体当たりのダメージが大きい上にオロールらジンの攻撃にさらされわが身を守るので精一杯であり、アスラン達の強奪を止めることができなかった。

 

 一方、ニコル達の方でも問題が発生する。

 

 アスランを追ってヨタヨタとアークエンジェルから出て行ったイザークを見送ったニコルだが、OSデータのコピーは渡したのにラスティの機体が動かない。

 

「ラスティ? どうしたのですか、イザークも行っちゃいましたよ」

 

「ごめん、ニコル。なんかこの機体、外部パックのオプションがあってそっからバッテリーを補充するタイプみたい。この機体単体だとバッテリーが少なすぎてヴェサリウスまで行けねえや」

 

「そうなんですか?」

 

 ラスティが強奪した機体は今の状態だとバッテリー不足でヴェサリウスまで動けそうにないとのことだった。

 どうやら外部から取り付けるオプションパックがあり、それが武装にもなると共に主バッテリーの役割を果たすらしい。

 

「マシューに探してもらいましょう」

 

「そうだな。マシュー、聞こえるか?」

 

 マシューの偵察型ジンのセンサーでそれらしいものを探してもらうことにするニコルとラスティ。

 最悪、この艦を制圧できればこのまま残っていても良いのだが、何があるかわからないのでヴェサリウスに持ち帰れるようにはしておきたい。

 

『…………』

 

「あれ? マシュー、応答してください」

 

『…………』

 

「おーい、マシュー? あれ、あいつこんな時に居眠り?」

 

 しかし、マシューからの応答がない。

 通信は繋がっているので障害が出ているわけではなさそうなのだが。

 

 通信を呼びかけるニコルとラスティだが、やはり反応がない。

 通信自体は繋がっているが、モニターも向こうが遮断しているらしく通信だけつなげてコクピットの様子が映し出されていない。

 

 マシューが無視するという事態に不安が煽られる中、ラスティが開きアスラン達が出て行ったカタパルトの破壊された扉の奥から1機のジンが乗り込んでくる。

 

「マシュー……?」

「なんでこっちに? ていうか、なんであいつ重斬刀とバルルス改なんか持ってきているんだよ」

 

 それは、マシューの乗っているはずの偵察型ジンであり、何故かあの機体の標準装備として備えられていない重斬刀とバルルス改を握っていた。

 

 何かおかしい。

 そうニコルが感じた直後、マシューのジンが突如としてこちらに接近してくる。

 

「えっ──?」

 

 マシューもまた、クルーゼ隊の精鋭の1人。

 その腕前はニコル達も切磋琢磨する仲間として誇れるものであり、多くのメビウスを落としてきた実戦経験もある。慣れ親しんだジンを手足のように扱えるパイロットだ。

 

「ニコル!!」

 

 だが、そのジンの動きはニコル達の知るマシューのものではない。

 瞬く間に視界から外れると、ラスティの悲鳴が聞こえたと思った時には大きな衝撃と共にニコルの機体が重斬刀に叩きつけられ倒されていた。

 

「うあっ──!?」

 

 フェイズシフト装甲のおかげでブリッツは無事だが、コクピットに狙いを定めた一撃はニコルの身体に大きな衝撃をもたらす。

 

「う……あ……」

 

「ニコル!? おい、ニコル!」

 

 それがニコルの最後の光景。

 たったそれだけでニコルは強い衝撃に気を失い、ブリッツが停止する。

 

 そこにマシューが乗っているはずのジンがバルルス改を突きつけ、ラスティのストライクと繋がった通信を通じて呼びかけてきた。

 

『機体から降りて投降しろ。さもなくばこいつを撃ち殺す』

 

「だ、誰だお前!? マシューはどこに!?」

 

 それは、ラスティには聞き覚えのない冷たい声。

 明らかにマシューの声じゃない、しかし確実に敵だとわかる声に困惑するラスティ。

 

『…………』

 

 ラスティが投げかけた問いに、その敵は何も答えず。

 すぐさまジンのバルルス改の砲口を外に向けると、モノアイはラスティのストライクの方に向けたまま後ろに目があるかのようにそこに接近していた友軍のジンに狙いを定め、明らかにロックオンすらしていない早撃ちで撃ち抜いて撃破した。

 

「……!?」

 

 その光景に、ラスティは絶句する。

 

 そして、同時にMSパイロットとしての勘が告げる。

 このジンのパイロットは、ザフトの赤服を授かるエースの1人であるはずの自分すらも歯牙にもかけないほど、とてつもない技量を持つ。

 このまともに動かすことも困難な機体は当然、慣れ親しんだジンに乗り込んだとしてもどう戦えば勝てるかのビジョンがまったく浮かばないほど。

 たったの一撃で、彼我の強さの隔絶ぶりを突きつけられた。

 

 この敵は、単純なMSの操縦技能ならば、イザークやアスラン、クルーゼ隊長なんかには劣るだろう。自分でも互角に張り合えるかもしれない。

 

 だが、MS同士の戦闘において、この敵は間違いなく自分の知るどんなMSパイロットよりも圧倒的な強さを持っているだろう、と。

 

 再度、ブリッツにジンがバルルス改を向ける。

 

『仲間と心中するか、その機体を返しおとなしく捕虜の待遇を受けるか選べ。コルシカ条約に基づき、捕虜となるならばこの機体に乗るザフトもろとも身の安全は保障してやる』

 

「……と、投降する」

 

 ラスティは、ストライクの機能を停止させ、両手を上げて機体から降りた。

 

 彼が投降を選択したのはこのジンのパイロットと戦っても勝負にならないと直感的に悟ったから、だけではない。

 

 すでにアークエンジェルは突入部隊が全滅しており、また外の戦場でもジンがいつの間にか4機も落とされ、ガモフのMS部隊が全滅していたからである。

 

 

 

 ──こうして、アークエンジェルはガモフの特攻を受け、侵入してきたザフトによってG兵器5機のうち、イージス、デュエル、バスターの3機を強奪されることとなる。

 

 しかし、ガモフから発進してきた謎の偵察型ジン1機によってアークエンジェルに張り付いていたジンが次々と落とされ、さらにはそのセンサーを駆使した情報提供によりアークエンジェル内部に侵入したザフトの所在が判明したことにより、アークエンジェル側の反撃が行われガモフの乗組員達は全滅、艦を制圧されるという最悪の事態は回避されることとなる。

 

 謎のジンはさらに格納庫に突入し、奪取されそうになっていた2機のG兵器も奪還。

 加えてこの2機のG兵器を強奪しようとしていたザフト兵士2名を制圧。投降させ、捕虜とした。

 

 この未知の敵の出現はクルーゼ隊にも衝撃を与え、クルーゼは被害を鑑みて3機のG兵器の確保を優先し一時撤退。

 ムウ・ラ・フラガ大尉もメビウス・ゼロを大破状態に追い込まれるも、なんとか生還を果たした。

 

 ヴェサリウスが一時撤退したのち、ガモフを破壊・剥離したアークエンジェルにて、その謎のジンを保安部員達が包囲する。

 

 謎のジンのパイロットは勧告を受け入れ素直に機体から降りる。

 

「なっ──!?」

 

 そこに乗っていた人物を見て、フッカー達は絶句した。

 

 アークエンジェルの窮地を救ってくれたそのジンに搭乗していたのは、デブリベルトで拾った医務室にいるはずの負傷兵であるユーラシア連邦所属の友軍兵士、ユウ・ナガト少尉だった。

 




というわけで、今話からアークエンジェルVSクルーゼ隊になります。

クルーゼ隊長、予定外の妖怪の登場に思わず一時撤退。
まあ、諦める気ゼロですが。

とりあえず、ストライクとブリッツは守り抜いたけど、アークエンジェルの被害がなかなか深刻なことに……
これでは当然ナスカ級を振り切れるわけもないので、しばらくしつこく追い回されることになります。

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