その首置いてけザフト共 作:みども
ガモフがアークエンジェルに特攻を仕掛けてきたとき。
医務室にいたユウは、外で戦闘が起きていることを感じ取り、近くの集中治療室に出撃したが返討ちとなり乗機のメビウスを大破させられ重傷を負ったMAパイロットが運び込まれた様子をみて戦闘が起きていること、アークエンジェルが劣勢に立たさせれていることに確信を持った。
『総員、衝撃に備えろ!』
「うおっ!?」
フッカーからの警告が艦内に響き渡った直後、ガモフが激突した衝撃が医務室にも走る。
廊下を走っていた衛生兵が衝撃で倒れこむ中、ベッドから立ち上がったユウは混乱する衛生兵達の目をくぐり抜けて医療区画を抜け、ザフト兵が艦内に侵入してきたことを知らせる警報が響き渡る艦内を進む。
何もわからない艦内を戦闘の気配を感じる方向へと進む中、丁字路にて奥から誰かが接近してくる声が聞こえてきた。
とっさに角に隠れると、ヘルメットをかぶっているのかくぐもった声が聞こえる。
「急げ! まずはブリッジを──」
その兵士の言葉を聞いた直後、そいつらがザフトであることを即座に理解したユウは、角から飛び出し先頭の兵士のすねを蹴りつけた。
「いっ──グアッ!?」
「あぐっ!?」
「て、敵──ギッ!?」
突然の奇襲と脛の激痛にザフト兵が手放した銃を奪い、ひるんだ敵兵を盾にしてそこから銃撃を後ろに続くザフト兵達に撃ち込む。
仲間を盾にされて応戦にためらううちに瞬く間に敵の小部隊を全滅させた。
「テメェ……!」
「首で贖え、ザフト共!」
「ガフッ──!?」
コーディネイターの強靭な肉体は、銃撃を受けてもまだ死なないこともある。
生き残りも全員ナイフで首を切り落とし、血まみれとなった病衣を脱ぎ捨てノーマルスーツを強奪する。
「……そっちか」
艦内の警報と隔壁、そしてザフトから強奪した端末のデータを確認し、アークエンジェルが侵入を受けている敵艦の所在を確認し、ルートを組み立てると逆に侵入するため、死体となった兵士の1人を担ぎ敵艦の方へと向かった。
道中、ザフト兵とすれ違う。
「おい! どこへ行く!?」
「仲間が撃たれた! まだ息がある、止血したらすぐに戻る!」
「わかってると思うが、ガモフは放棄する! 急げよな!」
「ああ!」
ザフト共と仲よさげに会話するなどヘドが出る思いであったが、敵艦に侵入するには必要な事。
ガモフというその敵艦の方に向かうと、ユウを保護してくれた艦に対して体当たりを仕掛け装甲を大きく破壊したローラシア級の姿があった。
「……ここか」
侵入の偽装のために持ってきたザフト兵の死体を邪魔だと捨て、格納庫の方に向かう。
連合の未知の艦艇は全く分からないが、ローラシア級は何度も落としている。連合でも研究させており、それらのデータなどからすでに構造は理解しているので、格納庫までの道も承知している。
まずは武器となるMSを強奪する必要がある。
格納庫にたどり着くと、1機のバッテリーケーブルを繋いだ状態のまま稼働している偵察型ジンがいた。
おそらく、侵入部隊の展開のためにセンサー類を駆使し連合の艦艇の索敵を行っている機体だろう。
偵察型は2人乗りなのでパイロットは2名と思われるが、強奪し操縦するには問題ない、むしろそれなりになれた機体のため好都合だった。
ジンに近づき、わざと見つかるようにモノアイに姿を映してコクピットに近づく。
『どうした?』
中のパイロットからの呼びかけに、ユウはいかにも焦った様子の演技で非常事態だとわめいた。
「やばいぞ! 連合の艦艇、動力源が暴走を始めた! このままじゃ仲間達がこの艦の爆沈に巻き込まれる! 今すぐお前達の方から全員に連絡をしてくれ!」
『な、なんだと!? まじかよ今──』
「──首を晒せザフト共」
ユウの予想通り、マシュー達の乗るこの機体はセンサー類を駆使しアークエンジェル制圧のための支援偵察を行っている機体であり、またガモフが沈黙した今そういった情報を伝達するための役目を負う機体だった。
慌ててユウに促されるままに緊急通信とその動力暴走の状態を確認するため、情報処理担当だけでなく操縦担当のマシューまでもモニターから目を離してしまう。
その瞬間。
ユウは本来は破損した機体の乗組員を外部から救出するための目的で設置されているコクピットの緊急開放用の手動装置を作動させてコクピットを開くと、中に乗る2人の兵士にそれぞれ銃撃を撃ち込んで反応する事すら許さないままに骸に変えた。
マシュー達2名のザフト兵の死体を外に蹴り出し、ジンを奪取するユウ。
コクピットを閉じ、占領した機体のモニターを操作して情報処理担当の方の画面を操縦席のモニターに持ってくると、そこからアークエンジェルの部隊の展開状態を確認。
すると、そのタイミングで連合軍所属の兵器から友軍登録申請のコードが飛んできて、ユウの機体と通信のパスが繋げられた。
(G兵器……? いや待て、アマルフィだと!?)
それらをG兵器という本来は連合に所属しているらしい機体から送信してきたのは“ニコル・アマルフィ”を名乗るザフト。
その名前はプラントの意思決定機関である最高評議会議員の1人として知られている人物のファミリーネームであり、またそんな大物の息子としてだけではなくプラントでは高名なピアニストとしても知られている人物である。
(連合製のナチュラル用新型MS……これがザフトの狙いか。しかし、まさかユーリ・アマルフィの息子などという大物がこのような危険を伴う強奪任務に参加しているとは)
ザフトの狙いと、侵入者の中に思わぬ大物の存在を知ることとなったユウ。
同時に、連合製のMSというこの戦争に大きな影響をもたらすだろう機体のコードを見て、もしかしたらという考えが浮かんだ。
それは、このニコルの占領した機体である“GAT-X207”という機体のデータをたどればこの艦のCICに連絡を取れるかもしれないという考えだった。
(試してみるか……)
結果、G兵器という機体がGAT-X207の他に4機存在し全てがこのアークエンジェルという艦艇に搭載されていること、そして全てを既に占領されたことを知る。
一方で登録済となっている通信コードについては、やはりあらかじめG兵器にはこの連合の新型艦艇につながるものがあった。
(アークエンジェル? これが艦の名前か)
まずは母艦となるアークエンジェルを制圧されることを阻止するベく、ユウはジンのセンサーが感知している現在のアークエンジェル内部におけるザフト兵の侵入状況と戦況のデータをリアルタイムでアークエンジェルのCICに送り、自らは近場に落ちていた本来は通常の戦闘用ジンが扱う要塞攻略装備の一種であるバルルス改を拾い、ガモフから飛び立った。
バルルス改は取り回しが面倒だが、それしか落ちていなかったので贅沢は言っていられない。
どうやらブリッツとかいう機体にハッキングして得たデータを確認する限り、G兵器というのは実体弾の攻撃を軽減する特殊な装甲を持っているらしく、それと戦わなければいけないことを考慮するとこの装備はむしろ都合が良かった。
『マシュー? お前何──』
アークエンジェル攻略の支援を担当しているはずの偵察型ジンがガモフから出てきたことに、ザフトのジンが不審がり通信を飛ばしながら接近してくる。
その無警戒ぶりに呆れそうになりながらも、接近してくるならば遠慮なく落とさせてもらおうと重斬刀を奪い他のザフトに知られる前にコクピットを両断して破壊した。
『ルッツ!? おいマシュー、何を──』
異変に気付いたジンにもバルルス改を撃ち込む。
ロックオンすらせずに照準を向ければ攻撃するという早撃ちは、奇襲も相成りクルーゼ隊の精兵を何もできずに宇宙の藻屑へと変えた。
これで2機。
ヴェサリウス所属のオロール機はアークエンジェルの対空砲火に回避しきれず被弾、損傷したため撤退。
またミゲル機もイージスらの護衛についていたために、この時点でアークエンジェルにはガモフ隊のジンしか残っていなかった。
その中ですでにマシューは撃ち殺され機体を奪われ、さらに2機のジンが落とされている。
1機はアークエンジェルの攻撃に集中しており、もう1機はちょうど狙いやすいところを飛んでいたので、先ほど撃破したジンの重斬刀を投げつけてコクピットを背中より貫き撃破した。
まるで曲芸師のナイフ投げのように正確かつ、ジンには想定されていない攻撃。
近接専用武器を飛び道具にして、ロックオン機能以前の問題である古式な攻撃方法で撃破されたジンは何があったのかもわからないままの撃墜だった。
ニコルからの通信で、すでに3機のG兵器が強奪されアークエンジェルを離れていることを知る。
アークエンジェルのほうはよほど追い詰められていたのか、最初こそ疑っていたようだが、ユウからの情報提供のデータに基づきアークエンジェル内部で敵部隊の対応を行い、正確に把握できる敵軍の位置情報をもとに的確に迎撃を行い順調に制圧を進めていた。
ならば、こちらの仕事はこの艦にまだ残るG兵器の奪還をすること。
特にブリッツを強奪しているザフトのパイロットは確実に確保しておきたい。
破壊されて開かれたカタパルトから格納庫に侵入し、のんきに通信を飛ばしてきているブリッツに重斬刀を叩きつけ、衝撃を与えてパイロットの気を失わせた。
ニコル・アマルフィはプラントにとって無視できない存在。
人質にはもってこいのはず。
未だに立ち上がってすらいない“GAT-X105”ストライクという機体を占領するザフトに対し、ブリッツのコクピットにバルルス改を向けて投降を呼びかけた。
「機体から降りて投降しろ。さもなくばこいつを撃ち殺す」
『だ、誰だお前!? マシューはどこに!?』
ストライクという機体を占領しているザフトは現状が理解できていないのか、今の状況では知ったところで特に変わらないし予想くらい少し考えればわかるだろう無意味な質問をしてきた。
それを無視し、センサーが感知した接近してくる残っていたザフトのジンにバルルス改を向けて発射。
奇襲を狙いながら行儀よくロックオンの照準を合わせようとしてきた機体を一撃で撃ち抜き撃破する。
コンマ数秒が命取りとなる殺し合いでお行儀よく狙いを定めるような真似をしているようでは、二流のパイロットだ。
その程度のザフトとの首の取り合いで負けるつもりはない。
再度ブリッツにバルルス改の照準を合わせ、投降を呼びかける。
正直なところバルルス改で機体諸共ザフトを吹き飛ばしたいところだが、恩あるアークエンジェル内部での戦闘は可能な限り避けたい。
「仲間と心中するか、その機体を返しおとなしく捕虜の待遇を受けるか選べ。コルシカ条約に基づき、捕虜となるならばこの機体に乗るザフトもろとも身の安全は保障してやる」
『……と、投降する』
身の安全は保障するという文言が聞いたのか、ストライクを占領する敵パイロットはおとなしく機体の機能を停止させると、コクピットから両手を上げて降りてきた。
この時点でザフトは不利と判断したのか、ガモフがアークエンジェルの掌握に失敗し更にG兵器を2機奪還されたことで、一時的に攻撃の手を止め撤退していった。
ニコル・アマルフィを捕虜にされたのが大きいのか。
もしくは、敵がMSを使ってくることを予測していなかったがその結果2機のMSを奪還されたことでこれ以上の奪還を恐れたのか。
後者だった場合、連合製のMSを強奪しにきてそれを使わないと考えるという随分と間抜けな思考回路を持つ敵ということになるが。
『そこのジンのパイロット、貴様は完全に包囲されている! 今すぐ機体を降り投降せよ!』
そんなことを考えながら、ジンを歩兵で包囲し降伏勧告をしてくるアークエンジェルのクルー達のある意味滑稽な様子に苦笑いを浮かべつつ、ユウはおとなしくジンを降りて行った。
ジンから降り、そしてザフトの緑服のノーマルスーツに身を包む姿を警戒して銃で武装した兵士に包囲されるという、最近体験したばかりの光景をもう一度経験することとなるユウ。
その後ヘルメットを取ってその正体を見せた時のフッカーたちの表情は、驚愕一色でなかなかに面白いものだった。
ワイヤーリフトでジンから降りたユウは、すかさずアークエンジェルの保安部員達から小銃を向けられて取り囲まれる。
「我々にご同行願います、ユウ・ナガト少尉。当然、拒否できる立場にはないものとご理解頂いたい」
「了解いたしました」
当然のことながら、ユウは拘束されることとなった。
なんとか動かせるだけのOSを作っただけの機体で、しかも奇襲を受けては、さすがの赤服ザフトのニコルでも妖怪の扱うジンには……
あとさりげなくラスティ生存してます。