その首置いてけザフト共   作:みども

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G兵器 3

 

 

 ガモフの特攻を受け、その結果大きな被害を受けたアークエンジェル。

 ガモフとの衝突で艦隊後部の装甲が破壊、大きな穴があいてしまい航行能力にも重大な障害を受け、少なくなった人員により急ピッチで修理が進められていた。

 

 更にクルーゼ隊との交戦により護衛のMA部隊は3機中1機が撃墜され、2機が帰還には成功したものの大破に追い込まれるというほぼ壊滅状態となる。

 パイロットも3名中1名が戦死、1名が重傷を受け、唯一パイロット自身はほぼ無傷で済んだムウも乗機のメビウス・ゼロはガンバレルを2機破壊された上に本体も損傷しジンの装甲を破壊可能なリニアガンの砲身が歪められまともに使えないという出撃不可能な状態に追い込まれるなど、もはや護衛として活躍することが困難な状態となってしまった。

 

 アークエンジェルの方の人的損害も大きく、ガモフの激突、そして突入してきたコーディネイターの敵兵との白兵戦で多くの死傷者を出した。

 

 何より大きな損失が、クルーゼ隊の狙いであるG兵器の強奪を許したこと。

 デュエル、バスター、イージスと3機の強奪を許した上に、残る2機も強奪されることこそ阻止したもののOSのデータをコーディネイター用に書き換えられたことでもはや残ったパイロット達の手に負える代物ではなくなってしまった。

 未完成のナチュラル用OSで何とか基本動作をある程度こなせるくらいだったのが、ナチュラルの技量では立ち上がらせることすらできない高度な操縦技術を要求されるOSにされたことにより、正規パイロットには操縦不可能な機体に改造されてしまったことで実質的に無力化されたと言ってもいい状態となってしまった。

 

 クルーゼ隊の2隻の戦艦による挟撃、そしてガモフの特攻とG兵器の強奪。

 アークエンジェル内部における戦闘ではコーディネイターとの白兵戦で当初はかなり追い詰められており、ブリッツとストライクも強奪されそのまま艦も征服されかねない状況だった。

 

 しかし、その状況がある人物の活躍により大きく変わった。

 

 クルーゼ隊との交戦の前、ヘリオポリスから出港し月本部を目指してデブリベルト内を隠れて航行中に偶然救助した、大西洋連邦と同じ地球連合に加盟する同盟国の1つ、ユーラシア連邦所属のコーディネイターの地球連合軍の少尉。

 ユウ・ナガトという名前の彼は、地球連合内において数少ないMSパイロットでありジンを操作できる人物であった。

 

 当初負傷兵としてアークエンジェルに保護されていたユウは、ガモフの特攻を受けた際に医務室から出て、ガモフにいた偵察用ジンをザフトから強奪。

 本来アークエンジェル内をセンサー類で索敵し突入したガモフの部隊の白兵戦を支援していたその機体を駆使して、逆にザフトの情報をアークエンジェルに提供することでアークエンジェル内部の戦闘を支援。アークエンジェルの制圧を阻止し、さらには自らも出撃してアークエンジェルを襲うガモフ所属のMS部隊を奇襲を仕掛けたとはいえ単機ですべて撃破したうえに強奪されそうになっていたブリッツとストライクを制圧、奪還してみせた。

 

 たった1人で戦況を覆しアークエンジェルの窮地を救ってくれたユウの活躍は、スパイからの情報提供でアークエンジェルの乗組員が全員ナチュラルであることを確認していたために、まともなMS戦が展開されるなど予想していなかったクルーゼの意表をつくことにもつながり、この未知の敵に強奪に成功した3機のG兵器まで確保されてしまうことを恐れたクルーゼに一時撤退の決断をさせた。

 ヴェサリウスが戦域から撤退したことで、アークエンジェルは窮地を逃れることに成功したのである。

 

 だが、大西洋連邦の機密情報の塊であるG兵器を見られてしまった。

 ジンから降りたユウはアークエンジェルに拘束されることとなり、ストライクとブリッツの強奪に失敗し捕虜となった2名のザフトを収容している居房の並ぶ区画に閉じ込められていた。

 

 現在、フッカー以下アークエンジェルの乗組員達が急ピッチで艦の修復を進めているが、クルーゼ隊は当然未知の敵が出たからといってやられっぱなしで引き下がってくれるほど温い相手ではない。

 目標としては、2機のG兵器の強奪と、アークエンジェルの制圧。最低でもニコルとラスティの救出のために、確実に動けない状態のアークエンジェルにもう一度仕掛けてくる。

 アークエンジェルの乗組員達はそれを予感していた。

 

 ジンから降りて拘束された後、本来ならば機密情報に触れたことで尋問を受けるなど色々とやるべきことがある立場になったユウだが、現在のフッカー達にそんなことをしている余裕はない。

 その結果、まだユウの事情を知らない、自分たちを圧倒したジンに乗っていたパイロットの顔も知らないニコルとラスティしかいないこの居房区画で拘束される時間を過ごすこととなっていた。

 

 ユウとしては逃げるつもりなどは毛頭ないし、面倒ごとに関わるのは避けたい気質なのであの大西洋の秘密兵器とかいうものに関しても秘密にしろと依頼されれば誓約書などを書くことになっても余計なことを口にするつもりはない。

 重傷を負い宇宙を力尽きるまで漂うだけだった自分を助け、今は広い宇宙で同じ艦に乗る者同士、一蓮托生となっている恩のあるフッカー達のためならば、多少の隠し事を抱える程度は承諾するつもりである。

 むしろ拘束される理由がある立場だが、MSを操作できる技術を持ちながらアークエンジェルの復旧作業を手伝わずにこんな場所でのんびりと過ごしていることに申し訳なさを感じていた。

 

 自分たちを倒し、G兵器2機の強奪を阻止し、母艦であるアークエンジェルの窮地を救ったジンのパイロット。

 そんな活躍をした兵士がまるで罪人のような扱いを受けているとは露ほども思っていないニコルとラスティは、当初は通路を挟んだ先にある独居房に閉じ込められているユウに対してゼルマン達の仇、憎むべき敵に向ける視線を向けていた。

 対してユウから返ってくるのは、負けず劣らずの敵意と憎悪に満ちた目である。ともすれば自分たちが抱くものよりもずっと強く深い。

 居房の鉄格子がなければ今すぐにでも襲いかかり殴り殺してやると言わんばかりの狂気的な怒りを宿す目に、敵意のぶつけ合いで完全に押し負けた2人はむしろ恐怖が勝ってきてユウに背を向けるようになった。

 

 しかし、居房に入れられている3人にとってこの時間は暇である。

 しばらくニコルとあれこれひそひそと話していたラスティだが、ついに好奇心の方が勝りユウに話しかけた。

 

「や、やっほー?」

 

「…………」

 

「やっぱり怖いわあいつ! 助けてニコル!」

 

「なんで僕を盾にするんですか!?」

 

 目が合った瞬間、憎悪を隠そうともしない黒い右目に負けたラスティがニコルの背中に逃げ込む。

 ラスティに押し出されたニコルはラスティに苦情を言いながらも、押し出されるがままにユウと目線を合わせ、その光を飲み込む真っ暗な右の瞳に射すくめられ、すぐさま視線を外した。

 

「お、おい! ニコルを怖がらせるんじゃねえよナチュラル! 俺たちクルーゼ隊のアイドルだぞ!」

 

「やめてください!」

 

「…………」

 

「ダメだあのナチュラル、欠片も笑わねえ!」

 

「当たり前ですよ!」

 

 確かにアイドルと呼ばれてもおかしくない顔立ちのニコルだが、本人はこの女性に間違えられることも少なくない容姿を気にしているため、ラスティに反論する。

 一方でたとえ敵中だろうと誰も笑っていない暗い空気というのが耐えられないラスティは、少しくらいは笑ってくれるかと思った発言を聞いても突き刺さるような憎悪の目を一切変えないユウにムードメーカーとしての心が挫けそうだった。

 そもそも同じ居房に幽閉されている者同士であるユウのことを笑わせたところで、2人のこの状況が変わるわけでもないのだが。

 

 すぐに笑いに走るラスティしかいなければ、普段は生来の人当たりの良さで仲間内の潤滑剤をしているなだめ役のニコルがツッコミに回されることとなる。

 

「よく見るとニコルの肌って綺麗だよな」

 

「……な、なんですか藪から棒に」

 

「……なあニコル、なんでお前の髪ってこんないい匂いするの?」

 

「ふざけている場合ですか!」

 

「何だろう、このままだと開いちゃいけない扉が──」

 

「同室の時にそれは本気でやめてください!」

 

「…………」

 

「やっぱりあいつに受けない!」

 

「当たり前ですよ!」

 

「ナチュラルの笑いのツボはわかりにくいな」

 

「そういう問題ではないと思います……」

 

「変な扉開きそうになったのはマジだけど」

 

「本当にやめてください!」

 

「…………」

 

 アークエンジェルのクルー達は多忙のため、何もない居房に閉じ込められている捕虜の身としては暇を持て余す。

 通路を挟んだ先の独房から殺意と憎悪を向けられ、暗く気まずい空気に耐えられないラスティはニコルとじゃれあうが、それを睨み続けるユウは一切笑わなかった。

 

 

 

 一方のユウは、ラスティを降伏させるため──正確には損壊の激しいアークエンジェル内部での戦闘を最低限に抑えるためと、大西洋連邦の新型MS兵器の機体を可能な限り損害を与えずに制圧するために、コルシカ条約を引き合いにして2人を捕虜としてアークエンジェルに確保させたが、個人的な感情としては今すぐにでもニコルの首を切り落としたいという憎悪が先ほどから止めどなく湧き上がってきていた。

 

 表層上本人は取り繕っているつもりだが、憎悪が右目を通じて外に溢れ出している。

 その矛先は名前を知らない橙色の髪の先ほどからふざけている赤服よりも、温厚な緑色の髪の持ち主の方に強く向けられていた。

 

 なにしろブリッツを占領していた緑髪の方の赤服であるニコル・アマルフィ。

 彼の父親であるユーリ・アマルフィは、ユウ達の理想郷を破壊したオペレーション・ウロボロスを認可しニューロトンジャマーを地球に落としたプラント最高評議会の1人である。

 ユーリもまた、ユウにとっては理想郷を破壊したシーゲルらと並ぶザフトのトップの1人であり、あの日心が壊れるほどに抱いた強烈な憎悪の矛先を向ける敵の1人である。

 その実の息子ともなれば、強烈な殺意を抱くのは必然であった。

 

 ラクス・クラインはザフトではなかった。軍人が武器を向けるのではなく、その武器を持って守るべき民間人だったから、かろうじて理性を止めることができた。

 

 だが、ニコルは違う。

 敵艦の居房なのに呑気に仲間と戯れているようにしか見えない彼だが、ニコルはザフトに所属する明確な敵兵である。

 たとえ当時はオペレーション・ウロボロスの決定に関与できる立場ではなかったとはいえ、赤服を授かり実戦に出てきたということは最低でも士官学校には入っていたはず。

 つまり、当時から既にザフトに入隊する意思を持っていたということ。

 

 アルトリアの教えでかろうじてラクスに凶弾を向けずに済んだ程にザフトに対する憎悪が大きいユウにとって、ユーリの息子であり、ザフトであり、恩あるこの艦を傷つけたニコル・アマルフィは、この居房の鉄格子がなければ今すぐにでも襲いかかって殴り殺したいという殺意が溢れかえり気が狂いそうになる相手だった。

 

「…………」

 

 血のバレンタインの惨劇のようなことを2度と繰り返さないために。

 生来の優しさと義憤からザフトに志願し、この人種間の絶滅戦争に形態を変えた悲惨な戦場も経験したニコルだが。

 地球連合のコーディネイターを差別視するナチュラルの悪意に触れることはあったが、しかしユウが目だけでぶつけてくる強烈な憎悪は彼にとって未知のものだった。

 

 コーディネイターを差別する、見下す、蔑む、恐れる。

 そういったナチュラル達の多くが向けてきたような類の悪意の視線とは違う。

 コーディネイターに対する敵意ではなく、ラスティよりも自分に対して色濃く向けている憎悪に塗りつぶされた敵意。

 それは、まるで普段は温厚なアスランが強い怒りを抱く、家族を相手に殺された憎悪を持つような目だった。

 

 ニコル自身、初陣以降何人も連合の兵士を殺した経験がある。恨みを抱かれる立場にある事は理解している。

 ラスティよりも自分に対して強くその憎悪を目でぶつけてきている事から、ニコルはユウが自分に身内を殺された遺族だと推測した。

 

「……ッ」

 

 殺したくて殺したわけじゃないのに。

 そんな憎悪を向けるなら、血のバレンタインの惨劇はなんだというのか。

 先に仕掛けてきたのは、何の罪もない人を大量殺戮したのはナチュラル(お前達)だというのに。

 

「……そんな目で見ないでください」

 

 そう思うと、ニコルは母を血のバレンタインで殺されたアスランの事が棚に上げられたような感覚を覚え、先ほどまで身の竦む憎悪をぶつけてきたユウの目を見返す気力が湧いてきて、表情を引き締めて憎悪を目に乗せてぶつけてくるユウを正面から睨み返す事ができるようになった。

 

「ニコル……?」

 

「そんな目で見ないでください! 血のバレンタインで何の罪もない多くの人々を殺したナチュラル共(あなた達)が、コーディネイター(僕たち)にそんな目を向けないでください!」

 

 ラスティが戸惑う中で、ニコルは声を荒げてユウの憎悪に満ちた目に真正面から立ち向かった。

 無言で強い憎悪をぶつけてくるユウに対し、地球連合の犯した最大の戦争犯罪と言える24万人以上の犠牲者を出したユニウスセブンへの核攻撃、血のバレンタインを引き合いに出して、お前達ナチュラルに非難されるいわれはないと反発する。

 

「…………」

 

 それを受けたユウは、何も言い返さない。

 それはまるで、あれだけの惨劇がどうでもいいと切り捨てているように見えて、普段温厚で心優しいはずのニコルはラスティでも滅多に見ない顔を赤らめるほどの怒りを露わにしてユウに食ってかかった。

 

「どうして何も言わないんですか! 後ろめたいとも、悪いとも思わないで、まるでそんな事どうでもいいみたいな……! あなた達ナチュラルは、コーディネイターだからと言って、武力も持たない民間人すらも平気で大量殺戮する! コルシカ条約なんてものを掲げて、善人ぶって、なのに……! 軍人として、あの惨劇に何も感じないんですか!」

 

「…………」

 

「ニコル……」

 

 扉の格子をつかみ、憎悪の目を向けてくるユウに苛立ちをぶつけるニコル。

 

 ニコルに対して憎悪を向けるのは、戦場で大切で人を殺されたからかもしれない。

 それでも、地球連合が自ら掲げる条約を平気で無視して殺戮をしたナチュラルがアスランの事を思うと許せなくて、ナチュラルの非道に対する非難を通路越しの居房にいる男にぶつけた。

 

「貴方の大切な人を僕が殺したかもしれない。それでも、コーディネイターだからと平気で迫害する貴方達に、ナチュラルにそんな目を向けられる謂れはありません!」

 

 ニコルの言葉をぶつけられたユウは、しかしそんな半ば八つ当たりじみた非難を受けても顔色1つ変えない。

 先ほどから変わらない憎悪に染まった黒い目を向けるだけである。

 

「ニコル、落ち着けって……」

 

「……すみません、ラスティ」

 

「とりあえず奥に行こう」

 

 ニコルの剣幕に押されたのはむしろラスティの方であり、彼になだめられて落ち着いてきたニコルは人の事を先ほど盾にしていた同僚に促されて居房の奥に向かっていった。

 

 その背中に、耳が聞こえないのかと尋ねたくなるあれだけニコルの言葉をぶつけられても先ほどから変わらない目を無言で向け続けるユウ。

 その姿に恐怖の次には薄気味悪さを覚え、ラスティもユウに背中を向けニコルのところに向かった。

 

「1つ、誤解を正しておく」

 

 その2人の背中に、今まで無言で憎悪の目を向けるだけだったユウが初めて口を開く。

 その声は2人にとって聞き覚えのある、あのマシューの機体を乗っ取ってきたジンのパイロットのもの。

 

「えっ……?」

「今のって……!」

 

 同時に振り向いた2人に、ユウは憎悪に染まった黒い右目を向けたまま、2人の勘違いしている点に対し訂正する文言を無機質な声で淡々と口にした。

 

「俺は、ナチュラルではなくコーディネイターだ」

 

 MSは要求される操縦技能の高さから、ナチュラルには扱えない。

 そんなMSを扱う敵。

 ナチュラルでないというならば、必然的にそいつはコーディネイターということとなる。

 

 ナチュラルである事を否定した、連合軍人の服に身を包む義眼のコーディネイター。

 その時、2人は初めてこの鉄格子の扉越しにいる相手が自分たちを倒したあの凄腕のジンのパイロットである事を知った。




ヴェサリウスは現在、G兵器のデータ抽出と解析中です。
ガモフが沈められた……というか、実質クルーゼ隊長の追い込みで自爆したようなものですが。これにより後ろの敵がいなくなって挟撃体制が崩れていますが、アークエンジェルは修理中で動けないし、護衛は壊滅状態だし、ストライクとブリッツはOSを弄られたせいで正規パイロット達ではもはやのろくさ動かすことも不可能に……
対してクルーゼ隊はまだクルーゼのシグー、オロールとミゲルのジンが即応戦力としています。
当然、クルーゼ隊長は解析が終わったら実戦データ収集のためにもG兵器を投入する気満々です。

妖怪の視線に当てられて、仲間がいけない扉を開きそうになって、怯えた末に情緒不安定になるニコル君。
……いいね。(よくない)
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