その首置いてけザフト共 作:みども
ユウが2人の誤解を正すため自身がコーディネイターである事を告げ、マシューのジンを乗っ取り自分たちを制圧したあのジンのパイロットだった事を知った2人が驚くなか、アークエンジェルの艦内に鳴り響く警報がユウ達の居房区画に届いた。
さらに看守部屋の奥から、保安部員2人とともに見覚えのある士官が駆け込んでくる。
「ユウ・ナガト少尉! 貴官に出撃を要請したい!」
医務室にもフッカー艦長らとともにきていた、バジルール少尉と呼ばれていた人物である。
ユーラシアの陣営ではめったに見られない存在である女性軍人の士官だった事もあり、まともに言葉すら交わしたことのない間柄ではあるがユウにとっては印象に残っていた。
そのバジルール少尉が、居房区画に入ってくるなり鉄格子の扉越しにユウに対して頭を下げてきたのである。
「ザフトのナスカ級からMSが出てきた。迎撃しようにも我々にはまともにザフトの駆使するMSに対抗できる戦力が無い。銃で脅し拘束するなどという行いをした我々が──」
「了解しました。独房を開けてください」
「ふっ……そうだよな、このような──って、いいのか!?」
拘束したくせに、自分たちが危ういから戦ってくれと頼む。それも他国の所属の、本来はアークエンジェルを守る義務など無い立場の友軍の兵士に。
アークエンジェルで迎撃するというフッカーの方針に逆らい、アークエンジェルを守るためにあえてこの恨まれてもおかしく無い役目を自ら背負ってきたナタル。
最悪、軍人になった日に捨てた女を使ってでもという覚悟でユウに頼みに来たのだが、ナタルの懇願をあっさりとユウは承諾した。
「ほ、本当にいいのですか……?」
「侵入したザフトが乗り捨てたジンがあったと思うのですが、それにバルルス改と重突撃機銃の装備をお願いします」
機密事項に触れたからと、艦の危機を救いG兵器2機を奪還するという活躍をしてくれた恩人を有無を言わさず独房に押し込む。
そんな恩をあだで返すような行いをしたというのに、ユウは気にしていない様子でナタルの頼みを承諾し、ラスティが乗り捨てたことでアークエンジェル内に残っているジンの準備を依頼してきた。
保安部員により独房の鍵が開かれ、開けられた格子扉からユウが出てくる。
「ローラシア級の激突でできた損壊からの復旧は終わっていないですか? 艦が動いている様子が無い」
「はい、現在急ピッチで修復を──」
「外部に作業員が展開しているならば、移動も自衛も困難のはず。無防備な艦をMSの攻撃にさらすわけにはいきませんので」
「ナガト少尉、しかし貴方はユーラシアの──」
「私はこの艦に命を救われた身。恩に報いる機会と能力があるならば、それを振るわない理由はありません」
「……ありがとうございます」
もう一度、今度は感謝を込めて深く頭をさげるナタルに敬礼にて返事をして、ユウは保安部員たちの案内のもと格納庫へと向かっていった。
「どうか、ご無事で……」
逆の立場ならば確実にこの艦を見捨てただろう。それだけの仕打ちをアークエンジェルはユウに対して行ってきた。
だが、ユウはそんなことなど顧みず、人道的観点に基づき救助した事を命を救われた恩として、恐喝に監禁という仕打ちをしたアークエンジェルを守るために迷いなく出撃してくれた。
守るべきものを守るために武力を振るう。
互いに憎悪をぶつけ合いコルシカ条約など形骸化する惨劇が多発する、人種間の絶滅戦争という悲惨な形に変わったこの大戦の中で、あれほど高潔な意思で戦う軍人がどれほどいるだろうか。
出撃するユウに、ナタルは人として尊敬する眼差しを向けたのだった。
──ちなみに、この後CICにてフッカーよりアークエンジェルを守るためとはいえユウを独房に閉じ込めておくという方針に逆らい勝手に同盟国の兵士に出撃を要請した件を叱責されることとなるナタルだが。
直後にフッカーからの叱責など頭から吹き飛んでしまう、戦闘に入ったユウの豹変ぶりを見せつけられることとなる。
アークエンジェル内に響き渡った警報。
それは未だに航行能力の回復しないアークエンジェルに対し、クルーゼが再攻撃を実施するために、MS部隊を繰り出してきた事を察知したことで発せられたものだった。
ヴェサリウスから飛び立ったMSは3機。
オロールが操縦するD装備のジンが1機、ミゲルの操縦するキャットゥスを装備するジンが1機、そして回収後データの抽出と解析を終えて戦闘機動が可能な状態にOSを改良したアスランの駆使するイージスである。
ブリッツとストライクの奪取に失敗し、ニコルとラスティがアークエンジェルに取り残された事を聞き、居ても立っても居られないアスランが、技術班が解析に苦労する中でイージスのOSの改良を軽々と終わらせ、クルーゼに自ら直談判して出撃許可を獲得したのである。
(ニコル、ラスティ……今行く! あと少しだけ待っていてくれ!)
血のバレンタインで実母であるレノア・ザラを殺されたことで、父パトリック同様にナチュラルに対して激しい憎悪を抱くようになり、それまで生来の優しい性格から忌避していた戦争に自ら飛び込んだアスラン。
普段の彼はナチュラル憎しの感情を武器にしてMSを駆使しているが、今回クルーゼに直談判し他の2機よりもデータの抽出作業を急いでまで出撃した理由。
今回彼の戦いに向ける動機として心を動かしていたのは、ナチュラルに対する憎悪ではなく、アークエンジェルに囚われの身となってしまった親友たちを助けたいというものだった。
普段のアスランは、血のバレンタインの一件からナチュラル憎しの感情を爆発させていたが、それでも直属の隊長に直談判し無茶な要求を押し通してまでも戦いに身を投じたがるものでは無い。
そんなアスランがニコルとラスティを案じ、彼らを助けるためにいつになく戦いに対して積極的な姿勢を見せた。
敵を憎む感情よりも、やはり大切な人を守りたい、助けたいという感情の方が彼をより強い戦士として立ち向かわせる動機となる。
「そうだ……俺は、もう大事な人を失わない、死なせないためにナチュラルと戦うと誓ったんだ!」
『珍しく熱くなってるじゃねえかアスラン。腕はあっても覚悟は半端だった前より、戦士にふさわしい面構えになっているぜ!』
今までの、殺す相手を憎み切れない、戦いに向き合う覚悟が地に足をつけていないような、技量は高くても戦士として大事な部分が欠けた印象があったアスラン。
その優しい一面が彼の魅力の1つであったが、やはり戦場ではトップクラスの技量を持っていてもどこか危うくて心配で仕方ない。
アカデミーを首席で出てきた後輩にそんな印象を抱いていたミゲルだが、ニコルとラスティを助けたいという意思で戦場に向き合う覚悟を決めたアスランの声に、その魅力を失うことなく地に足のついた覚悟が見える表情に、今は何の心配も必要無い立派な戦士に成長したと感じていた。
今のアスランは危なっかしいヒヨッコじゃない。
轡を並べて戦える、信頼の置ける戦友である。
『いい顔してるな。一緒に2人を取り戻すぞ!』
「はい!」
『後輩でも同列だろうが、タメ口にしとけ!』
「──ああ、行くぞミゲル!」
『俺を忘れんなよ! 背中は任せとけ!』
ミゲルとオロールのジン2機と並び、ほぼ初めて乗るが既に機体の特性を捉えつつあるイージスを駆使し、アークエンジェルに向かうアスラン。
後ろから俺を忘れるなと盛り上がる2人についてくるオロールのジンとともに、ニコルとラスティが取り残されている足つきに接近していく。
MA部隊は叩いたが、あの艦にはマシューのジンを強奪した謎のMSパイロットがいる。
おそらく強奪に成功したいずれかの機体の正規パイロットだろうと推測しながら進む彼らの前に、修理作業中のために無防備となっているアークエンジェルから1機のMSが飛び出してきた。
マシューが強奪されたジンは、2人用の複座式長距離偵察型の機体。
しかし今回アークエンジェルから出てきた機体は通常のジンであり、鹵獲されたと思われるD装備の一種でありイージスのフェイズシフト装甲にも傷をつけられる武装であるバルルス改を装備していた。
そのジンが誰のものか、親友の頼みで整備を手伝わされ途中からはほぼ任せきりにされてしまうことの多かった経験から、アスランには一目でわかった。
「あいつら、ラスティのジンを……!」
それは、G兵器強奪のためにラスティが乗り捨てていたジンである。
親友と一緒に改造を繰り返した、友人の少なかったアスランにとってはラスティとの間に育まれた友情の証であり結晶というべき機体である。
それを敵であり、母の仇であるナチュラル共に使われているという事態に、アスランは怒りをあらわにした。
「その機体はラスティのものだ! あいつのジンを弄ぶなナチュラル!」
ミゲルとオロールに合わせるためにMS形態で移動していたアスランが、イージスをMA形態に変形させて一気に加速していく。
『アスラン!』
『おい、1人で突っ走るなよ!』
背後から単機行動はさすがにリスクが高すぎると制止を試みるミゲルとオロールだが、アスランは構わず突っ込んでいく。
そしてスキュラの射程に入ったところで、すぐさま照準を合わせて初めて戦闘で使用する機体とは思えないスムーズな操縦で攻撃態勢に変形、流れるようにロックオンまで持ち込む。
弄ばれるくらいならここで葬ると、ラスティのジンに向けてスキュラによる攻撃を行おうとした時──
「これで──何ッ!?」
ロックオンが完了する前に、敵のジンが照準から外れ、さらにはカメラの視界からまで外れて姿をくらませた。
「あいつ、いったいどこに──」
『アスラン、上だ!』
「くっ──!?」
ミゲルの警告にとっさに反応し、移動形態に変形する間も惜しんでスキュラの発射態勢のまま移動。
その直後、先ほどまでイージスのいた場所にバルルス改の光線が迸った。
「──ッ!」
MS形態に移行し、ビームライフルを構えるアスランの額に冷や汗が浮かぶ。
今の一撃、ロックオンが出ていなかったのに正確にイージスのコクピットを狙っていた。
それが示すのは、あの取り扱いの難しい重武装のD装備であるバルルス改を照準がロックオンをする前に敵の機体に射線を合わせマニュアルで正確な攻撃ができる技量を持つ敵だということを示すものだった。
イージスを狙った一撃だけではない。
最初のスキュラの照準から逃げた回避機動。
イージスを攻撃形態に変形させ、スキュラを構えた時、ロックオンで照準を合わせる前にまるで狙われているのをすぐに察知したように、死角に逃げるために、あのジンは上方にバーニアを吹いて移動した。
通常の回避なら、ロックオン警報から狙われていることを察知して、最短距離で敵の照準から外れるために横に機動するものである。
人型という構造上、MSで被弾面積が多く取られる相手から見ての縦方向に回避機動を取るのは、死角に逃げやすい反面ロックオンされた照準から逃げ切るまでに時間がかかる。
それができるのは、照準を合わせてロックオンする前から狙われていることを察知しているくらいの余裕がなければ取れるものではない。
だが、ラスティのジンを操るそのパイロットは慣れさえ感じさせる動作で縦方向の回避機動を行い、そしてロックオンする暇も惜しいと言わんばかりのマニュアルでありながら正確かつ素早い攻撃を仕掛けてきた。
まるで、ロックオンするコンマ数秒すら惜しんでまで、相手の先手を取る回避と攻撃という高機動戦を突き詰めてきたような技量。
たったそれだけで、アスランは直感的にそのジンとの技量の差を感じ取っていた。
この敵は、対MS高機動戦闘に関してならば、アカデミーで、そして戦場で競い合ってきた、どんなザフトの仲間達よりも高い技術を有している敵である、と。
「ミゲル、オロール! 気をつけろ、こいつ──ぐぅ……!?」
この敵は普通じゃない。
こちらに向かってくるジンに向けてビームライフルを撃ちながらミゲルとオロールに警告するアスランだが、標準を合わそうにも動かした銃口から射線を推測してくるジンの機動はライフルから放たれる光線を掠ることすらさせずに接近し、急接近してきたジンにとっさに構えたシールドを蹴りつけられて強引にずらされ、さらにコクピットの表層を踏みつけられる。
機体の質量を生かす攻撃は実態攻撃を軽減化するフェイズシフト装甲が機体を守るが、その大きな衝撃はアスランを激しく襲ってきた。
距離をとろうと後方に動こうとして、その時にはすでにバルルス改を構えていた光景に即座にシールドを構える。
ロックオン警報のない敵の早撃ちはセンサー類の計器など頼りにならない、己の目で狙っていることを察知しなければ凌げない攻撃である。
(ダメだ、1対1では勝負にすらならない……!)
まだ不慣れな機体とはいえ、このイージスはフェイズシフト装甲といいスキュラをはじめとする火力といい機動力といい、ジンを圧倒するスペックを持っている。
それでほぼ一方的に押されている展開になっているのは、完全に対MS戦闘に特化した強さを持つパイロットの技量によるものだった。
生きていられるのは、イージスという強力な機体を駆使しているから。
慣れ親しんだジンであっても──否、むしろ同スペックであるジンでこの敵と一騎打ちになることがあればまともな戦いにもならないだろうとすら思う。思い知らされる。
幼い頃から才能に溢れ士官学校でもイザークなどの並み居るライバルを押しのけ主席の座を維持してきたアスランでも、敵のジンのパイロットはことMS戦闘の技量においては諸手を挙げて負けを認める他ないほどの強者だった。
(だが……!)
だが、それでもアスランは挫けない。
それは、迷いを振り払えた仲間を助けたいという強い動機で戦っているからであり、そして──
『アスラン!』
『援護するぜ!』
単機の敵にはない、一騎打ちでは勝負にならなくてもそれを埋めてくれる信頼する仲間の存在があるからだった。
シールドにバルルス改が直撃しイージスが揺れる中、ラスティのジンを駆使する敵に押されるアスランの元へ、2人の頼れる仲間のジンが駆けつけてきた。
『そうら、落ちろ! ──何!?』
押されているアスランを援護するため、ミゲルがキャットゥスの照準を合わせようと肩に担ぐ。
だが構える段階から既にキャットゥスの射線を見極め新手の接近に気づいた敵のジンが、すぐにイージスを盾にするように移動して照準から外れたことで、ミゲルはキャットゥスを発射する手を止めた。
「くっ──!」
『アスラン!』
ミゲルとオロールにこの敵の危険性を知らせたい。
しかしロックオン警報が出る前に命中弾を発射してくる敵を前にそんな余裕はなく、アスランはシールドをコクピットを守るように構えてバルルス改を受け止めようとして、直後に接近してきたジンにシールドを蹴りつけられた。
衝撃にコクピットが揺らされる。
立て直そうとするアスランを援護しようと、ミゲルが突っ込んでくる。
「ミゲル、接近戦はやめろ! こいつは普通じゃない!」
アスランを追撃せず、バルルス改を手放して重斬刀を抜き迎撃の構えを見せた敵のジンを見て、アスランはミゲルに叫んだ。
とっさにライフルを構えるが、照準を合わせる前にバルルス改をミゲル機に蹴り飛ばして牽制した敵のジンが射線から離れる。
そのまま飛んでくるバルルス改に驚くミゲル機に死角から急速接近し、重斬刀をミゲルの機体に叩き込んだ。
『何──ぐあっ!?』
「ミゲル!」
咄嗟に回避行動をしたミゲルだが、重斬刀に胴体を切りつけられ装甲が破損、破片がミゲルを襲いコクピットが露出してしまった。
そこに敵のジンがさらに重斬刀を振りかぶり、ミゲルを殺そうとどめの一撃を仕掛ける。
アスランはとっさにビームライフルをロックオンせずに発射。
それは適当な射撃で相手のジンをかすめることもなくむしろミゲルに当たってもおかしくない危険なものだっだが、敵の気をひくことには成功したらしく、ライフルで狙われていることを察知した敵のジンがミゲルにとどめをさすことをためらい離れた。
しかし手放したバルルス改を拾って離脱するなど、明らかに余裕の見える回避である。
一方ミゲルの方は間一髪無事だったとはいえ、重斬刀に切りつけられた際に破壊された装甲の破片がコクピットに損害を与えミゲル自身も重傷を負っていた。
『うっ……!』
『ミゲル!』
「オロール、ミゲルを頼む! あいつは俺が抑える!」
『すまん!』
オロールにミゲルの救援を依頼し、敵のジンに向かうアスラン。
たった一瞬の攻防でミゲルを倒した敵は、再びアスランを一騎打ちに持ち込んだ。
残った2機のG兵器もコーディネイター用のOSに改造されている現状、ザフトだけでなくユーラシアにも奪われる可能性を考慮しているため、アークエンジェルでのユウの行動の自由を制限しておきたい、というのがフッカーの方針。
一方で、ナタルさんはG兵器とアークエンジェルをハルバートン提督のもとに届けるという任務を何よりも優先し、そのためなら手段を惜しまないというスタンスです。
政治面も考えてユーラシアの人間であるユウを信用していないフッカーに対し、軍人として同盟国の友軍を信頼しているナタルさん、という感じですねはい。