その首置いてけザフト共 作:みども
アークエンジェルを守るために、ユウを出撃させることを認めようとしないフッカーを説得している時間も惜しんだナタルの独断により、ユウはラスティの置いていった鹵獲ジンにバルルス改を装備して出撃。
時間がないからとパイロットスーツすら着用せずに出撃するという、軍医が聞いたら本来は負傷兵のはずの者に強いられる負担に卒倒しそうな状態である。
出撃した以上は仕方ないと、もう彼を頼みにする他なかったのは事実だったフッカーは諦め、CICと通信を繋いだユウにオペレーターを通じて確認した敵戦力の説明と指示をした。
『敵はジン2機と、強奪したG兵器1機を繰り出しています。現在のアークエンジェルは修理中により、戦闘はできません。本艦に近づけず、3機のMSの迎撃をお願いします』
「ナガト機、了解。可能な範囲で構いません、出撃したG兵器の情報の開示を要請します」
『……対象はイージス。MA形態に可変可能な高機動性と、対艦兵器としても運用可能な武装である580mm複列位相砲“スキュラ”を搭載した強力な火力を持つ機体です。武装は主兵装として60mm高エネルギービームライフル、頭部に対空迎撃装備として75mmバルカン砲“イーゲルシュテルン”を備え、また近接戦装備として両手足のクロー部分にビームサーベルを内蔵装備しています。……申し訳ありません、これ以上は』
「ジン2機の装備は分かりますか?」
『はい。1機はキャットゥスを、もう1機はバルルス改の装備が確認されています』
「ナガト機、了解。機体性能差の都合上、奪取されたG兵器の損壊も考慮していただきます」
『……はい。艦長より許可を頂きました。本艦の安全の為、最悪の場合デュエル、イージス、バスターの撃墜を許可します』
「ナガト機、了解。接敵します」
『……御武運を』
オペレーターからの言葉を受け、アークエンジェルから単機で出撃し性能面で圧倒的に上をいくイージスを含む敵3機のMSとの戦闘区域に突入するユウ。
彼のまだ残る右目には、グスタフが沈められた光景が未だに残っている。
その無念を晴らすため、恩あるアークエンジェルを守るため、普通に考えれば勝負にならない戦力差の敵に向かって果敢に──というかむしろ望んで突撃していった。
「──グスタフの皆の供養だ、その首置いてけザフト共!!」
『──え?』
突然のユウの変貌に、オペレーターが思わず困惑の声を上げる。
しかしザフトを前にしたユウの耳にそんな呟きは入らず、機体を加速させて先行、単機で突撃してくるイージスに対し早速戦闘を仕掛けていった。
MA形態を機動形態から攻撃形態へ移行。
射程に入るなり、コーディネイターように本格的に改良されたOSの出すほぼ初めて扱う機体とは思えない流れるような動作で、スキュラの発射態勢に移行してきたイージス。
オペレーターが慌ててスキュラの警告をしようとしたのだが、その時には既にユウはスキュラの照準から外れ逆にイージスの上方に回っていた。
『嘘──』
「首で贖えザフト!」
そして迷いなくロックオンするよりも前に照準を手動で合わせてバルルス改を発射する。
本来ならば回避機動から発射態勢に移行し、照準を合わせて確実に敵への射線を作るためにロックオンを行い、そして攻撃するというのがMSの武装を使用する際のセオリーである。
ナチュラルの駆使するMAを相手に回避も許さずやすやすとこれらの動作を短時間で行いメビウスを圧倒するのがザフトのジンなのだが、ユウの操作するジンの回避行動からの攻撃までの時間はそれすら置いてけぼりにするほどの恐ろしい速さだった。
明らかに照準の調整なんてせずに、ひたすら早さを追求して撃っているまるで牽制か弾幕でも仕掛けているのかと言いたくなるような、本来ならば適当な方向に攻撃が飛ぶだろう短時間で回避機動からイージスめがけて発射されたバルルス改。
だが、あれも相当な技量だろうと見られるイージスはそれでも攻撃形態のままでバーニアを吹かしとっさの回避をせざるおえないほどに、バルルス改の射線は正確にイージスのコクピットを捉えていた。
『ジンの動きじゃねえだろ……!?』
特に最前線でジンを相手に機動兵器の戦いを続けてきたムウが、CICに映されているモニターを通じて見たその技量に驚愕する。
何しろその早撃ちのスピードと正確さは、普通は構えて狙って撃つという攻撃の動作が、構えて撃ったらもう狙いが定まっていたというような順序が逆転するような攻撃だったからである。
明らかにロックオンなんてしていない。むしろわざとすっ飛ばしている。
そして、おそらく彼にとってロックオンなんてものは必要ないのだろう。構えるだけで、既に直撃する射線が出来上がっているのだから。
もしもあのイージスが自分の操縦するメビウス・ゼロだったと想像すると、ムウはその一撃でどう足掻いても自分だったらお陀仏になっただろうという確信を持てるほどの一撃だった。
「その首寄越せザフト!」
そして、アークエンジェルからの散々な仕打ちを受けても全く動じないことからかなり温厚な人物だと思っていた面々にとって、戦闘中の狂ったように首よこせと叫ぶユウの一面は、彼に対する温厚というイメージがたやすく瓦解するに十分だった。
スペック上は、イージスはジンを圧倒できるMSである。
実体弾によるダメージを軽減し損傷を防ぐフェイズシフト装甲は、実体弾の兵器を主武装とするジンに対し圧倒的な防御性能を与える。
MSらしい素早い機動性を持つMS形態と、優れた加速能力をもつMA形態を切り替える可変機構は、ジンを圧倒する機動力を与える。
ビームライフル、ビームサーベル、スキュラ──イージスの武装はいずれもジンの火力を圧倒するものであり、掠るだけでも重大な損傷を与えられる上に、二本の腕で武装を駆使するジンと違いイージスはビームサーベルを4本も内蔵している。
遠距離戦、近距離戦ともに火力、手数、機動性、あらゆる性能がジンを圧倒しているMS。
それが、明らかにOSをコーディネイター用の実戦仕様に書き換えたと思われる動きをしている。
ほとんど初めての機体を扱っているとは思えないほどにイージスを扱っている様子から、パイロットのザフトは相当な技量の持ち主だというのが想像できる。
凄腕のザフトのパイロットが、強力な性能を持つMSを駆使している。
場合によっては艦隊すらも翻弄しかねない強大な敵となる組み合わせだというのに、そのイージスを相手にユウの扱うジンは機体の性能差をパイロットの技量で覆し押していた。
「首を晒せザフト!」
ビームライフルで狙われれば、ロックオンすらさせずに回避する。
ロックオンに頼らない攻撃を仕掛けてくるならば、それを相手も使うことを想定しているような動き。
いくらイージスといえど、対峙する側から見ればまるで未来予知をしているのではと疑いたくなるような、撃たせるどころか照準を合わせることすらさせてくれない機動を取る敵にはその火力を生かしきれない。
そして狙わせてすらくれない回避をしながら、4本のビームサーベルを持つイージスを相手に間合いを詰め、バルルス改を警戒しとっさに構えたイージスのシールドを蹴りつけた。
ロックオンも無い早撃ちを仕掛けてくる敵である。
バルルス改の攻撃が繰り出されれば、フェイズシフト装甲でもコクピットを破壊される可能性がある。
おそらくそれがイージスのパイロットの恐怖心をあおったのだろう。
シールドでコクピットを守るという動作をとったイージスを見て、ユウはすかさずバルルス改ではなく機体の質量を生かし衝撃をコクピットに与えるジンの機体を駆使した蹴り攻撃を叩き込んだ。
MSは人型といえども機械である。
当然関節駆動部は通常の装甲よりも弱いなど人体とは大きく異なる特性をいくつも持っているため、人間の身体で想像するような格闘戦はできない。
そのため、近接戦闘を得意とするMSパイロットはいるが、機体で殴る蹴るを仕掛ける格闘戦を仕掛けるパイロットはそうはいない。
「死ねザフト! その首必ず切り落とす!」
気品のかけらも感じない、整備士が泣きだしかねない野蛮な戦い方。
火力で圧倒的に上回り、防御性能も上の敵の機体にためらいなく距離を詰める胆力。
ロックオンなどいらないというような射撃といい、対MS戦闘に特化したユウの戦闘の光景に、フッカー達は恐怖すら覚えてくる。
バルルス改以外は、ジンが相手では脅威にすらならないはず。
そのイージスは、防戦一方の状態に追い込まれていた。
ビームライフルを構えた時には、既にその射線上から外れている上に攻撃を仕掛けてくる。
ロックオンを必要としない正確な早撃ちを仕掛けるということが、イージスのパイロットに大きなプレッシャーかけている。
それを利用するように、消極的になれば苛烈に攻めて、反撃を試みてくればそれを回避して苛烈に攻め立ていく。
「お行儀よくロックオンなどで狙うようでは二流だぞ。銃を向けられたら貴様の頭には警報がなるのか? 銃を構えたらロックオン照準が視界に浮かぶのか? そんな狙ってください避けてくださいで戦場で生き残れると思っているのか貴様!」
(いやいやいやいや、白兵戦じゃねえんだからそんな風にはいかねえよ!?)
「どうせ沸いている頭なら血も吹かせろ! 首置いてけ!」
(そしてなんでさっきからそんなに首に執着するんだよ!?)
「散った仲間の墓に捧げる首を寄越せザフト!」
(墓に敵の首ってヤバすぎるだろユーラシア!)
イージスのパイロットには聞こえていないだろうが、アークエンジェルのCICには人が変わったようにツッコミどころ満載なことを叫び散らかすユウの怒鳴り声が通信越しに響いていた。
『あっ──!? 敵のジン2機が接敵します!』
しかし、ユウの豹変ぶりと首寄越せ発言に驚きながらも、仕事をしていたオペレーターがミゲルとオロールのジンの接近に気付く。
いくら技量が圧倒しようとも、不慣れな面もあるだろうイージスと違い、多少スペックが劣ろうともザフトの兵士が慣れ親しんだジンが2機。この増援は非常に大きい。
機体の性能差を技量でカバーすることが可能であることを、ユウが自ら示しているのだから。
『ナガト少尉! 後続のジン2機が接敵します、気をつけて!』
「ナガト機、了解」
オペレーターからの警告に、豹変していたユウがいきなり出撃直後のアークエンジェルのクルー達の知る人格に戻る。
そして、ユウはそれでも強かった。
オペレーターの警告でジンの接近に気づいたユウは、ミゲルがキャットゥスを構えた時にはモノアイの向きから敵の射線を推測し、構えた時には既にイージスを盾にするように外れるという回避を行うと、同時にバルルス改をイージスのコクピットに狙いを定める。
とっさにイージスがシールドを展開すると、そこに急接近してシールドを蹴りつけた。
コクピットにも響くだろう、ジンの質量を使った攻撃に、イージスが追い払われる。
そこにイージスを援護しようとミゲル機が接近してくるのに対し、ユウはあろうことか自らイージスに対抗するための手段であるバルルス改を手放し、その重い武器を鈍器代わりに敵機めがけてサッカーボールよろしく蹴り飛ばすという見たこともないような攻撃を仕掛けた。
ロックオンはさせない、機体やシールドを蹴りつける、武器を蹴り飛ばしてくるなどなど。
なるほど確かにユウの言う通り、彼の戦い方に比べればザフトの戦い方はお行儀がいい。
「貴様も首置いてけザフト!」
(あいつだけだよなイカれたMSパイロットって。まさか同僚に似たようなことする奴いないよな?)
ユウとの雑談の時からそのぶっ壊れぶりを聞いていたムウは、もはやお行儀よく戦うことに慣れている中でいきなりあんなぶっ飛んだ敵を相手取らなければならなくなった敵MSパイロット達に同情したくなり、そしてこんなイカれているのは味方であってもユウ1人であってほしいということを願わずにはいられなかった。
一方すぐにまた首置いてけモードに切り替わったユウは、敵のジンが蹴り飛ばしたバルルス改にひるんだ隙に、そのバルルス改に隠れて敵のジンの視界から外れ、そして近接戦装備である重斬刀を抜き一気に間合いを詰める。
「その首寄越せェ!」
狙いは当然、コクピットである。
寸前で狙われていることに気づかれたが、遅い。
振るわれた重斬刀はジンの装甲を切り裂き、破壊した装甲の破片がむき出しになったコクピット内部にも損傷を与え、パイロットを襲った。
トドメを刺そうとしたが、イージスから牽制のためかようやくロックオンに頼らない射撃が飛んできたため、攻撃を中断して回避する。
しかしロックオンに頼らないとまるで当たらない攻撃とは、MSの操縦技術はイージスを容易に乗りこなすので一流だろうがMS戦闘の技術はお行儀よくしか戦えない二流である。赤服の新兵かそこらだろうと推測する。古参でもできねえよ。
バルルス改を回収し、機体自体は小破レベルながらコクピットを破壊してパイロットを負傷させたことで実質的に無力化したジンから一旦離れる。
パイロットを負傷させたジンには、もう1機のジンが救援に入り、手出しはさせないとユウの前にはイージスが立ちふさがった。
負傷兵の救護を行う敵兵は攻撃するなというアルトリアの教えがあるため、ユウはあのジンを狙うつもりはない。
だが、当然国際法を履行するつもりなどなく戦場に出てくる野蛮なザフト共には理解できないだろう。
「言われなくても貴様の相手をしてやる。対価は貴様の首だ、支払え!」
(出鱈目だな! そんなに首欲しいのかよ!)
ムウが心の中で全力のツッコミを飛ばす中、ユウはバルルス改を担ぎながら重斬刀を手に、瞬く間に後続を無力化して実質的な一騎打ちの状態に戻したイージスに向かっていった。
仲間を助けるために戦う覚悟を決め、技量の差は機体の性能差で埋めて強敵に立ち向かっていく……
アスランの方が主人公しているかもしれない。乗機もアスランがガンダムに対して、妖怪はジンだし……
しかもお互い盗んだ機体なので、連合側がジンでザフト側がG兵器という意味不明な構図に……