その首置いてけザフト共 作:みども
グスタフからの命令により、蔡瑁の救難信号を無視してデブリベルトの奥に向かったという遭難しているかもしれない大西洋連邦の部隊を追い、算出された予測ルートを進むユウ。
ユニウスセブンに向かったことといい、本部に問い合わせたところ大西洋連邦が存在を否定したことといい、キナ臭いので関わりたくなかったのだが、本当に遭難しているならば助けないわけにはいかない。
たとえコーディネイターを迫害するような連中であっても、飢えと寒さに命を削られていく恐怖にさらされることがどれほどの苦痛なのか彼らは知っているから。
ユウとミランダの乗機である長距離強行偵察型ジンは、偵察用というだけあり通常のジンと比較して単機行動に向いた様々な改良がなされている。
命中精度は高いもののザフトのジンどころか連合のメビウスの装甲も撃ちぬけないスナイパーライフルがメインウェポンという火力不足の機体だが、単機で長距離を移動できる航続能力、様々なセンサーによる優れた索敵能力など、戦闘はやや頼りないが戦場において強力な兵器よりもはるかに価値のある情報を収集する能力に関しては非常に優秀な機体である。
「ユーさん、いますよね!? バンシーの歌声聞こえても連れて行かれないでくださいお願いですから!」
「…………」
「ユーさん? ちょっと、なんで黙るんですか返事してくださいよ! やだやだ! 1人にしないで、1人は怖いですから!」
「喚いてないで索敵に集中しろ」
きな臭い大西洋連邦の部隊を追いユニウスセブンの残骸が広がる宙域に接近したユウは、助けに行くと意気込んでいたのにミハエルから吹き込まれた迷信に踊らされて怯えているミランダの声を聞きながら、所属不明の大西洋連邦の部隊を捜索する。
しばらく後ろで泣き喚きながらセンサー類を駆使して索敵を続けるミランダにやや鬱陶しさを感じながら機体を操作していたユウだが、突然ミランダが何か聞こえたと泣き出した。
「ひっ……! なんか聞こえました、絶対聞こえました! バンシーの歌声です! ヤダヤダ私まだ死にたくないんです、やり残したこといっぱいあります! 私なんか取り込むよりもユーさんの方が断然オススメですよ!」
「何が聞こえた?」
「ひいいぃん、やっぱり私だけに聞こえたんですか……うう、バンシーに食べられちゃうよぉ……」
「宇宙空間で歌なんか聞こえるはずがないだろ──国際救難信号?」
何が聞こえたというからには、なんらかの通信か信号の類をこのジンが受け取ったということ。
座礁したがシステムはまだ稼働している幽霊船の救難信号を拾ったか、もしくは探している大西洋連邦の部隊の通信を傍受できたのか。
推測としてはどちらかと思われるが、情報処理担当のミランダはバンシーの話をすっかり信じて混乱していたため、使えない同乗者の方から受信データを操縦席の方に回す。
すると、そこには国際救難信号を受信したという表示が出されていた。
宇宙空間でザフトも連合も問わず誰でもいいから助けてくれというこの緊急の信号を発するのは、よほどの事態が発生している証拠である。
発信元は大西洋連邦ではなくプラント籍の民間シャトルであったが、ザフトはともかく民間人の保護は軍人の責務でもある。
システムだけ生き残っていた幽霊船からのメッセージという可能性もあるが、この危険な宙域で確認もせずに見捨てるわけにはいかないので、ジンをその発信元に向けて動かした。
「ユーさん、止めてください! バンシーと結婚するなら1人でしてください!」
「黙れ」
「ユーさんが冷たいです! 女の子の扱いがぞんざいです! だからモテないのですよバーカ! 童顔! 独身男! ハゲちゃえ!」
「このクソガキ……!」
迷信でパニックになり使い物にならなくなった上に、上官に対する幼稚な暴言を飛ばすミランダに頭を抱えたくなりながらも、救難信号の発信元にジンを向かわせるユウ。
発信元である、ユニウスセブンの残骸の漂う宙域の奥に到着したジン。
そこで彼らが目にしたのは幽霊船ではなく、バーニアを噴かし未だ飛行している救難信号を発するシャトルと──
「何ッ……!?」
「な、何しているんですかあの人達は!?」
あろうことかその民間機に対してミサイルやバルカン砲、リニアガンなどで攻撃を仕掛けながら追い回している地球連合の主力MAメビウスの編隊の姿だった。
信号から、シャトルの保有勢力は地球連合ではなくプラントであることは分かっていたが、それでも武器を持たない民間機である。
たとえ交戦中の国が保有するものであろうとも、正当な理由なく民間機や民間船に対する攻撃を行うことは重大な国際法に違反する事項である。
理由は不明だが、あのMA部隊はザフトに対するものではない国際救難信号を発している民間機を攻撃している。
しかも撃墜しても構わないと言わんばかりに、1発でも直撃すればシャトルが木っ端微塵となるミサイル攻撃まで行っていた。
「何を馬鹿な、相手は民間人だぞ! ……致し方ないか」
MA部隊の所属は将来的にはユーラシア連邦の敵となる大西洋連邦ようだが、現状は同盟国──すなわち友軍である。
なんらかの理由があると思われるが、それでも民間人に対する攻撃を見過ごすことはできないため、シャトルに迫るミサイルをスナイパーライフルで撃ち破壊した。
「ユーさん、どういうことなんですかこれ!?」
「とにかく民間機への攻撃を止めさせるように警告する。オープン回線を」
全く別の方向からのミサイルを撃ち落とした攻撃に、メビウスの編隊は驚いているのか一瞬攻撃の手が緩んだ。
その間に一切の隠匿性を排したオープン回線でメビウスの編隊とシャトルに短距離通信をつなぎ、スナイパーライフルを構えてユウが警告を発した。
「そこのMA部隊は直ちに攻撃を中止せよ! 民間人に対する意図的な攻撃は重大な国際法違反に該当する!」
攻撃中止の警告をしながらも、ユウはキナ臭いと感じていたがまさかこんな事態に遭遇することになるとはと頭を抱えたくなっていた。
おそらく、蔡瑁を無視してデブリベルトを進んでいった大西洋連邦の部隊というのは、このMA編隊のことだと推測している。
大西洋連邦が存在を否定したというならば、同盟国にも知られたくないなんらかの特務を帯びてのことだろう。
重要な任務であるならばユウの行動はそれを妨害したということ。下手をすればユウ達が軍法会議に引っ立てられるどころか、外交問題に発展しかねない案件でもある。
MA編隊がザフトと交戦しているならまだマシだった。
奴らは殲滅されてしかるべき血も涙もない犯罪組織だとユウは思っているので、ザフトと人種差別主義者のナチュラルが戦い潰しあってくれる様子を観戦し、手柄を横取りすることになるが場合によってはこの手でザフトの首をとるために乱入することも厭わないつもりであった。
彼の過去が関係しているが、ともすればコーディネイターであるユウ・ナガトはブルーコスモスの過激派テロリストすらも時には引くほどにザフトに対して強い憎悪と敵意を抱いている。
だが、MA編隊が襲っていたのは民間の宇宙シャトルだった。
プラントの要人暗殺の特務とかかもしれないが、それでもシャトルは武装もない民間機である。MAが編隊を成して襲っていい相手ではないだろう。
事情があるかもしれないが、それでも国を守るためという大義の下に軍人として人を殺せる武器を手にした立場の者として、軍律と国際法に則り目の前の蛮行を見過ごすわけにはいかなかった。
武器を持つことを職務としている軍人ならば、譲ってはならない守るべき一線を持ち続けるべき。そうでなければ、国と家族を守るために貸与された武器を暴力として振り回し戦争を過激化させるザフトと同じクソ共に成り下がってしまうと、軍人になった時に課した一線に従って、プラントの民間機を地球連合の攻撃から守った。
厄介ごとに首を突っ込んでしまったと後悔しつつも、国籍問わず民間人に武器を向ける軍人は止めなければとジンを飛ばし、バッテリーを使い切ったのか停止したシャトルを守るようにMA編隊の前に立ち塞がった。
「ユーさん、シャトルが止まりましたよ! あ、信号が切れちゃったみたいです。本当にバッテリーギリギリだったみたいです」
「そのままシャトルを監視しろ」
民間機とはいえ、当事者の一角であるシャトルをこのまま解放することはできない。
止まったシャトルの監視をミランダに託し、突如現れたMSに対してリニアガンを向けているMA編隊に対してスナイパーライフルを構えながら引き続きオープン回線で呼びかけた。
「此方は地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊所属、ユウ・ナガト少尉です。大西洋連邦所属の部隊とお見受けしますが、民間機に対する攻撃の件について事情を聞かせていただきたい。代表者との通信を求めます」
可能な限り冷静に、同盟国の軍勢に対して理性的に対応するよう心がけているつもりだが、MSのスナイパーライフルとMAのリニアガンを向けあいながらなので一触即発の冷たい空気が流れている。
一方の大西洋連邦のMA編隊の方は、突如現れて妨害してきたザフトの主力兵器であるMSから地球連合の友軍を名乗る通信が飛んできたことに困惑しているらしく、リニアガンの砲身は向けているが攻撃の手は止まったようだった。
どうせシャトルはバッテリー切れで動けない。
特務を帯びているとしても、外交問題に発展しかねない同盟国の友軍機ならば無下にはできないだろうと、向こうにも理性的な対応をとることを期待していたユウだが。
「ユウさん! リニアガンが──」
情報処理担当のミランダがメビウスがロックオンとともにリニアガンを発射する予兆を検知したことに声を上げる。
同時にユウも撃たれると感じて回避動作を行った直後、メビウスからリニアガンが発射されジンの右膝間接部装甲を貫く衝撃がコクピットを走った。
「コクピットを狙った……? 攻撃を中止しろ! 此方は友軍だと言った! 明確なフレンドリーファイアだぞ!」
あろうことか、大西洋連邦のMA編隊は将来的な敵対国になると目されるとはいえ同盟国ユーラシア連邦の所属であり友軍であるユウ達のジンに対して、コクピットを狙ってMSの装甲を貫けるリニアガンを発砲してきたのである。
民間機に対する攻撃といい、所属を名乗り友軍であることを明示してきた相手に対して問答無用で殺す気の攻撃を仕掛けてきたことといい、国際法を知らないテロリストのような行動の数々である。
「な、なんで撃ってくるんですか!?」
「友軍だと言った! 攻撃を中止しろ! 自衛権の行使を考慮するぞ、直ちに攻撃を止めろ!」
あまりの蛮行ぶりに狼狽しながらも、攻撃を止めるように呼びかけるユウ。
だが、回線の向こうでは上官に対する確認どころか、ユウに対して怨嗟の声をあげて攻撃を仕掛けてくる大西洋連邦の凶行に走る兵士達の声が響いてきていた。
『黙れコーディネイターが!』
『ジンが地球軍のわけあるか!』
『死ね、コーディネイター!』
『お前らは敵だ!』
「な、なんでこんなの……」
「聞くな、耳を閉じてろ!」
コーディネイターは敵だと。
同じ地球で育った人類であるユウ達に、地球連合の中でいつもいつも投げかけられぶつけられる言葉。
それだけで敵だと言い放ち、命を奪う攻撃を仕掛けてきていた。
戸惑っているミランダの方の通信を強制的に閉じ、ジンを操作してすぐにシャトルを小脇に抱えこむと、巧みな操作でMA編隊の攻撃をかわしていく。
ミランダの方もコーディネイター差別にはいつも晒されているため多少は慣れているが、今回のMA編隊のパイロット達からぶつけられるのは普段の蔑むようなものとは別物の殺意や憎悪の類である。
心優しく純粋で感受性の強いミランダに聞かせられるような内容ではなかった。
ジンとメビウスでは運動性能に大きな差がある。
純粋な最高速度ならばメビウスが上を行くが、機動性にかけてはコーディネイターの扱うMSとナチュラルの駆使するMAでは、同程度の技量でも1:5の戦力比でようやく互角と言えるほどの性能差がある。
シャトルという荷物を抱えているにもかかわらず、メビウスの攻撃は右足を破壊した一撃以降ことごとく躱されかすりもしない。
だが、ユウの駆使するジンを落とそうと攻撃を仕掛けてくるメビウスの数は11機。
その上母艦からの増援と思しきミサイルを満載にしたメビウスの新たな編隊も接近中で、その数は30機以上。
守るためとはいえ民間人を乗せたシャトルを抱えた現状、シャトルの乗員の安全のためにも普段のような戦闘機動をとるわけには行かず、制約を多く抱えた状態では反撃しなければ此方が落とされかねなかった。
「いい加減にしろ! これが最後の警告だぞ、あと一発でもリニアガンを撃ったら此方も自衛権の行使として──言い終わる前に撃ってくるやつがあるか!? 撃ったな貴様ら!」
止む無くこれ以上攻撃するならば自衛権の行使──つまり反撃をするという警告をしたのだが、それを言い終わる前にメビウスからリニアガンがコクピットを狙って発射されてきた。
オープン回線でつながっているので、途中で切られたとはいえ警告を聞いていなかったということにはできない。
デブリなどを駆使してメビウスの攻撃を回避しながら、ユウはスナイパーライフルを後方から迫るメビウスへと向けた。
「先に撃って此方の機体を損壊させたのは紛れもない事実だ。その上警告を無視したならば、もうためらう理由はない。所属も名乗らないならば友軍かどうかも怪しい、落とされても文句を言う権利はない」
スナイパーライフルを発射し、メビウスのリニアガンの砲身に命中させる。
偵察型ジンのスナイパーライフルは威力が乏しくメビウスの装甲を貫けないが、砲口に吸い込まれるようにして入っていったその弾丸はリニアガンを暴発させ、機体を炎に包ませた。
『う、うわああぁぁぁぁ!?』
『コナー!』
『てめえ、よくも仲間を!』
『コーディネイターの分際で!』
ミサイルを撃ち落とした方の攻撃に関しては民間機への攻撃を阻止するためのものだが、今回の弾丸は友軍機を落としそのパイロットを死なせた。
明確に自分たちに牙を剥いてきたことに、そして仲間を失ったことに憤り、通信の向こう側のMAのパイロット達が怨嗟の声を上げる。
「ユーさん……そんな、落とす必要なんて……!」
現在はユウの方だけに通信が届くようにしているので、ミランダには聞こえない。
警告を無視して攻撃を続けたのはMA編隊の方だが、それでも友軍であるはずのMAを落とし仲間であるはずの地球の人間を殺す1発をユウが放ったことにミランダはショックを受けていた。
殺したのはユウだが、ミランダは同じ機体に乗りメビウスが落ちる姿を見ていただけでもショックを受けている。
まして炎に包まれる瞬間の悲鳴や、それに激昂しさらに強くぶつけられるする連中の怒りや憎悪、殺した相手の名前を知ることになるなど、通信をつないだままだったならばそれらも聞いてしまっていただろう。
純粋なミランダがそんな声を聞かされれば、それこそ心が壊れかねないほど深い傷を受けたかもしれない。
「お前は何も見るな!」
「でも……」
「いいから耳も目も塞いでおけ! これは命令だ!」
「は、はい!」
味方殺しの光景を見せるには酷すぎると判断し、ミランダに目を閉じていろと命じる。
増援が来る前に奴らを振り切る必要がある。
そのためにはある程度数を削りたい。
MA編隊の方は、殺す気でリニアガンを撃ってくる機体と、どうしていいか困惑しているのかとりあえずついてきて攻撃には参加していない機体があった。
おそらく向こうも想定外の事態に指揮系統が混乱しているとみて、ジンの装甲を貫けるリニアガンを躊躇なく撃ってくる機体だけに狙いを絞り、デブリを利用したターンで背中を取ったところで3発目の弾丸を放つ。
『背中を──あがあぁぁぁ!! あ、熱い──』
『ブラフマンッ! くそ、よくもやってくれたな!』
『これ以上落とさせるものか!』
推進器を狙った一撃により瞬く間に炎に包まれたメビウスが宇宙のチリとなる。
その際回線を繋いでいるユウの耳には、炎に包まれ悲鳴をあげる本来は味方のはずの兵士の悲鳴が聞こえてきた。
コクピットまで炎に包まれたことで途中でその通信は途切れたが、2人目まで手をかけられたことが日和っている者達にも影響を与えたのか、先ほどまで攻撃に参加していなかったMAもリニアガンを撃ってきた。
「警告を無視したのは其方の方だ! 味方撃ちで死ぬ不名誉を負いたくなければ攻撃を止めろ!」
『仲間を撃っておいてふざけるな!』
『コーディネイターは全員敵だ!』
『黙れ! 味方を撃ったのはお前の方だろうが!』
『死ねコーディネイター!』
「では宇宙の藻屑に消えろ大西洋のクソ人種差別主義者どもが!」
警告するが聞く耳持たず。それどころかより一層敵意を強くしてくる。
退く様子がないMA編隊。そのパイロット達からの通信に、先に撃ったのは其方だろうとたまらず怒りをぶつけ返しながら、ジンを駆使して1機のメビウスのリニアガンを撃ち、暴発させて撃墜する。
さらにデブリを利用した回避で1機を事故らせて落とし、ジンの機動に振り回されてロックオンできず持て余していたミサイルにスナイパーライフルを直撃させて暴発を起こし更に1機を撃墜した。
ミサイルが暴発した方はパイロットの脱出が間に合ったが、事故を起こした機体はデブリに直撃して間をおかずに爆発したため、さらに1名のパイロットが死亡することとなった。
ライフルの弾丸は残り7発。
対するメビウスの数は残り6機。
片手にシャトルを抱えているのでマガジンを交換できない現状、装甲を貫けないこの7発で振り切らなければならなかった。
『ミサイルを抱えていたらいい的になるぞ!』
『落ちろ! コーディネイターめ!』
「貴様が落ちろ!」
『くそ、ミサイルが!』
最後のミサイルを抱えていたメビウスに向けてライフルを放ち、発射しようとしていたミサイルを暴発させてさらに1機を落とす。
編隊のうち半数のメビウスが落とされ4人の死者を出したことに、大西洋連邦のパイロット達は怒り心頭になっており、すでにミサイルの暴発から逃れるために脱出した2名のパイロットを助けに向かった1機を除いた全機が攻撃に参加して容赦なくコクピットを狙うリニアガンの攻撃をしてきていた。
さらに現状が伝わったのか、増援のMA編隊がデブリベルト内という危険地帯にも関わらず加速して接近してきていた。
そのせいで事故を起こす機体もいるが、向こうは仲間の仇と叫ぶ割に救助すらしていない様子。
友軍の救助に1機が奔走している此方の編隊の方がマシに見えるならば、あの増援はさらに容赦ないかもしれない。追いつかれるわけにはいかなかった。
救助に1機が離脱したため、編隊の残りは4機である。
ジンを相手取るのにすでに戦力不足と言える数に削ったため、デブリの群れの中を飛び回りながら通信でいい加減諦めろと呼びかける。
「4機でMSを相手にするつもりか!? さっさと失せろ!」
『黙れ、お前を落とす!』
『死ねコーディネイターが!』
「ならばこちらが撃ち落とすぞ!」
『落ちるのは貴様だコーディネイター!』
『逃げられると思うな!』
「自身の愚行を呪え!」
機動性はジンの方が上だが、シャトルの乗組員の負担も考慮して機動が制限されており、速度はメビウスの方が速いため、デブリを利用して逃げているが4機もいれば包囲を喰らいかねない。
背後に迫るメビウスのリニアガンに向けてスナイパーライフルの弾丸を撃ち込む。
装甲を貫けないが命中精度に関してはジンのあらゆる装備でトップクラスのスナイパーライフルを、ザフトのパイロット達すら同じ芸当ができる者は片手で数えるくらいしかいないだろう、リニアガンの砲身の中に弾丸を撃ち込み暴発させるという神業でさらに1機のメビウスを落とした。
ライフルの弾丸は残り5発。
これで装甲を貫けない3機のメビウスを落とさなければならないが、残りのメビウスはすでにミサイルを撃ち尽くしており落とすには推進器かリニアガンを狙うしかなかった。
デブリを利用してメビウスの速度を殺し追いつかれないように立ち回っているが、いくら航続能力が高い偵察型とはいえ流石にバッテリーの消耗が多い。
グスタフまで逃げ切る分のバッテリーを温存するには、やはり残る3機全てを落として振り切るべきかと判断し、スナイパーライフルを再度後ろに構える。
「そんなに落ちたいなら──」
『何してくれてんだお前ら!』
更に1機を落とそうとそのリニアガンに狙いを定めた時。
別の方向から飛んできた1機のMSが、近接装備である重斬刀を用いてユウが狙いを定めていたメビウスのリニアガンを切り落とした。
『何!?』
『新手!?』
新たなMS──メビウスを圧倒する強さを持つ偵察型ではない通常機であるジンの登場に、MAのパイロット達が驚く。
一方で、ユウには頼れる味方が駆けつけてくれたことを示す通信が繋がっていた。
「ミハエル、来てくれたのか」
『勿論さ。事情はわからないけど、撃ってくるなら敵でいいよな? あとは任せろ』
「恩にきる!」
それは蔡瑁の救助に従事していたはずのミハエルの駆使するジンであった。
異変を察知して援軍として駆けつけてくれたらしい。
キャットゥスは置いてきたようだが、重斬刀と重突撃機銃があれば3機のメビウス程度ならば余裕で片付けられる。
シャトルの安全確保が最優先のため、足止めをミハエルに託しユウはグスタフの方に向かって離脱していった。
民間人保護のためとはいえ、ジンを駆使しプラントのトップの娘が乗ったシャトルを守り、自衛のためとはいえ友軍である大西洋連邦のMAを撃ち落とし死者まで出す。
……どう見ても言動がザフトです。