その首置いてけザフト共 作:みども
クルーゼすらも衝撃を受ける、制圧したイージスを武器にして飛ばしてくるという攻撃。
しかしそこはネビュラ勲章を受領するほどの実力を持つ流石のクルーゼ。すぐに当たればただでは済まないイージスを回避し、飛ばしたイージスに隠れるように接近してきたユウのジンが振るう重斬刀をシグーの重斬刀で受け止めた。
「随分と野蛮な攻撃をしてくれるじゃないか、イレギュラー!」
せめぎ合う重斬刀を押す傍ら、お互いに空いている方の手に握る機銃を互いの敵機に向ける。
それを受け、クルーゼは躊躇うことなくジンめがけて機銃を撃ち込み、ユウは機体を横にずらして鍔迫り合いを解き機銃を回避することを優先した。
シグーの銃撃が空を切る。
押し込んでいた重斬刀も受ける相手側の重斬刀が逃げたことで力の行き場を失い、シグーのバランスが崩れた。
「ふっ──!」
ユウがバランスを崩したシグーを相手にすかさず重突撃機銃による攻撃を至近距離から放つが、クルーゼはあえて崩れたバランスのままにバーニアを吹かして機体を全力で前方に飛ばすことでその機銃を回避した。
さらにそこから的確に全身のバーニアを使い、機体を回転させてバランスを立て直す。
上下のない宇宙空間の戦闘らしく、互いに相手を逆さに捉えた状態で、重突撃機銃を同時に狙いを定めて発射する。
「やってくれるな!」
「首置いてけザフト!」
数発の機銃弾が、互いの機体を傷つける。
すかさずクルーゼはシグーを回避に動かし、ユウは重斬刀を盾代わりに機銃の弾丸を防ぎながら突撃し重斬刀を振り回した。
回避にとっさに動いたクルーゼのシグーはジンの振り回した重斬刀を躱すことに成功し、逆に下側からユウのジンへ重斬刀をしまった代わりに取り出した散弾銃で攻撃を仕掛けた。
「チッ──!」
とっさに回避を試みるユウだが、この攻撃はユウのジンを射程に捉え掠めることに成功する。
機銃弾よりも強力な対空散弾銃により、一部のバーニアと機体の右足部を破損してしまう。
ほとんどの攻撃を回避してきたユウのジンが、この散弾銃により初めてまともなダメージを受けた。
「す、すげぇ……」
同期の中で最高の腕を持つアスランが1発も当てられず圧倒された相手に対して、同じ土俵に立ち渡り合うクルーゼのシグーを見て、ミゲル機をヴェサリウスに送りアスランのイージスの回収に向かっていたオロールが感嘆を漏らす。
「──ハハハッ! MSの性能を尽くす高機動戦、これがお前の戦い方か!」
「こいつ──!」
ロックオンする間も惜しいと繰り広げられる、MSによる高機動戦闘。
ユウたち第9航宙機動艦隊のMSパイロット達が、あらゆる劣勢にさらされる敗北の許されないシベリアなどでザフトと渡り合うために鍛え上げてきた対MS戦闘の手札。
それをユウのジンがアスランのイージスと渡り合う光景、そして自らその戦いに身を投じて実感したクルーゼは、その技術を獲得しつつあった。
ユウのジンが向ける重突撃機銃。
ロックオンすらせず、向けてすぐに撃ちながら正確に敵機を狙う射線を作り攻撃を当ててくる早撃ちに対応し、ユウほど正確ではないが標的を狙って構えロックオンせずに撃つという早撃ちを仕掛けてくるシグー。
それを受け、ユウは相手のシグーのパイロットがMSの高機動戦闘を会得しつつあることを察知した。
戦場を縦横無尽に駆け抜け、重斬刀をふるい、散弾銃を撃ち、機銃を乱射し、互いの機体を傷つけながら繰り広げられる熾烈な一騎打ち。
「は、早すぎる……」
イージスをジンで圧倒したユウの技量、そのユウと互角に渡り合うシグー。
2機のMSが展開する戦いは、今までのナチュラルのメビウスや戦艦が置いていかれるコーディネイターの駆使するMSの戦いぶりに抱いてきたものすらも遅い世界においていく。
その姿に驚きと、コーディネイターの駆使するMS同士の本気の戦いに改めてナチュラルとは違うということを突きつけてきているように感じ恐怖が浮かぶ。
「クルーゼ……あの野郎どこまで……!」
その中で、ムウは自分では相手にならないと直感したユウの戦いに挑みそして同じ土俵まで上がってきたクルーゼの姿に、戦慄とともに強い苛立ちを感じた。
「チッ……!」
あの野郎に置いていかれたくない。
あいつが上がってきた土俵を、戦ってもいない段階から諦めた自分が情けない。
強い感情に突き動かされるように、ムウはCICから飛び出した。
「……ッ!」
そして、クルーゼが高機動戦闘に足を踏み入れてきたことに、パイロットスーツも着ないでこの戦闘をこなしているユウの肉体には大きな負担がかかり、限界が近づいてきていた。
いくらコーディネイターの強靭な肉体といえども、この戦い方がパイロットに強いる負担は極めて大きい。
ザフト憎しで己の身を顧みず敵を葬る強い意志で戦うユウたちにとってそんな無茶程度は耐えられるものだが、しかし相手が高機動戦の土俵に立ったことでそれの対応のためにより早く機体を動かしていたユウの肉体に代償となる負荷は容赦なく襲ってきていた。
右目が充血し、口や鼻から血が出てくる。
それでもユウはジンを駆使する。
今のクルーゼのシグーを相手に、パイロットの安全のために機動力を抑えればすぐに撃破されかねないからというのもあるが、アークエンジェルを守るためにも、彼の選択に敗北はあっても撤退は許されないからであり、ザフトを前にして湧き上がる憎悪が退くという選択を消していた。
「首置イテケ、ザフトォォオオオ!!」
「くっ──!」
シグーに距離を詰めたジンが振るう重斬刀が、重突撃機銃を切り裂き、シグーの右腕も破壊する。
高機動戦の土俵に上がってきたクルーゼだが、回避すれどもそれ以上に溢れる戦意をぶつけて攻撃を仕掛け続けるユウの駆使するジンの苛烈な攻撃に、やはり押されつつあった。
それが形となり、両腕の武装を駆使して手数を削らず戦い続けることも非常に重要なこの戦闘で、その半分を失ってしまった。
さすがに焦りが見えるクルーゼだが、咄嗟に弾切れになっていた散弾銃を投げつけてジンのコクピットを狙った重突撃機銃を弾き、重斬刀を突き出す。
それに対し、ユウも重斬刀を突き出す。
2機の重斬刀の軌道は、咄嗟に出した攻撃であるクルーゼのシグーが急所を外れているのに対し、高速で繰り広げられる攻防でも常に正確な攻撃を仕掛けてくるユウのジンはコクピットを捉えていた。
(避けきれないか──!)
(首取った──!)
その刃が、決着をつけるものだというのは互いが認識していた。
それでももう突き出した刃を止めることも交わすこともできない段階であり、クルーゼは強い無念と一瞬の諦観が、ユウにはシグーのパイロットの首をとったという確信が浮かぶ。
それは確かに決着となるものだった。
本来ならば、ユウのジンがシグーのコクピットを貫く。
そしてシグーの攻撃はユウのジンに掠める程度で終わる、
──はずだった。
外部からの横槍がなければ、だが。
「──!?」
突如としてジンを走った衝撃。
一条のビームライフルが放つ光線が、ジンの両脚を貫き破壊、その機体の向きを曲げる。
その直後、軌道が狂ったユウのジンが突き出した重斬刀はシグーの肩に傷をつけるだけで終わり──逆に掠めるだけで終わるはずだったクルーゼのシグーが突き出した重斬刀はユウのジンのコクピット近くに直撃した。
ユウに敗北し、制圧されたイージス。
その中で気を失っていたアスランに、どこからか声が聞こえる。
アスラン──
(……ラクス?)
それは、アスランの婚約者であり、先日卑劣なナチュラルの魔の手から救い出すことに成功したラクスの声。
実際には聞こえるはずもないのに、アスランの頭にその声は最初はぼんやりと、やがて鮮明に聞こえてくる。
アスラン、負けないで──
「──!?」
その声に、アスランの意識が急速に浮上する。
そして、ジンとシグーがぶつかり合う戦場が、ジンにかっとばされて退場していたはずのアスランの視界に入った。
「ラクス……俺に、力を──!」
ビームライフルをその2機がぶつかり合う戦場に、照準も定めないままに発射するアスラン。
その一条の光線は、奇跡のような軌道を描き、決着がつくはずだった2機の最後の一撃に横槍を入れる。
光線は
シグーのコクピットを貫くはずだったジンの重斬刀は肩を掠めるだけで終わり、そして機体を掠るだけで終わるはずだったシグーの重斬刀はジンのコクピット近くの胴体部へ直撃した。
ユウも、クルーゼも、互いの相手のことに集中しており、ましてパイロットが気絶して実質的に無力化された状態で遠くに飛ばされたイージスからの干渉など念頭になかった。
だが、現実にはイージスが撃ったビームライフルが本来の決着の形を大きく変え、ユウのジンが損傷を受けた。
コクピットを掠める一撃は内部にも大きな損害を与え、破片と火花が散りパイロットスーツも着ていないユウの左半身に襲いかかる。
「ザフト、貴様等ぁぁぁあああ!!」
怨嗟の声を上げるユウ。
そのまま背面部のバーニアも破損させ暴走させたことで、ジンは爆発を起こした。
(アスラン……なんとも皮肉なものだな。だが──)
全くパイロットを慮っていなかったとはいえ、結果的にはアスランを生かして制圧したコーディネイターであるユウが撃たれ、アスランを死んでも構わないとしており彼の嫌う戦争を煽り立てる
人類の崇拝する神などというものがいるならば、世界の破滅を望む自分を生かし、同胞を敵に回しても戦争を終結させる最短の道であるザフトの壊滅へ執念を燃やすコーディネイターを殺すなど。
これが天の采配、運命のいたずらというなら、笑いが止まらなくなる。
(やはり、私にはその権利を行使する資格があるということか)
人類の繁栄を約束する神ならば絶対にしないだろう運命のいたずらに、仮面の下でクルーゼは抑えきれない感情のままに歪んだ笑みを浮かべた。
ユウのジンが撃破された光景は、アークエンジェルのCICでも確認できた。
「そんな──!?」
単機の背負うリスク。
イージスの想定外の復活。
運命のいたずらは、彼らに凶の目を突きつけた。
「坊主ーッ!」
破壊されたジン。
そこにワイヤーが飛ばされ、自身も想定していなかった勝利の余韻に浸り珍しく動きを止めていたクルーゼのシグーの隙をつき、急行したムウのメビウス・ゼロが破壊されたジンを拾い上げる。
「絶対ぇ死なせねえ! ここまでされて、助けられなかったなんて結末で終わってたまるかよ!」
「ムウ……無駄なあがきを」
最高速度ならばMSの上をいくメビウス・ゼロ。
ジンを確保したムウはクルーゼのシグーには目もくれず、踵を返してアークエンジェルに撤退する。
だが、修復の終えていないメビウス・ゼロでは戦えない。
もはや足つきは僚機もない無防備な動けない艦艇。
アスランとイージスが抜けるとしても、今の戦力で制圧するのは十分であり、ムウのそれを無駄なあがきとクルーは嘲笑った。
しかし、そのクルーゼの予想は裏切られることとなる。
間一髪、アークエンジェルの修復は成し得ていた。
推進器が全力で稼働し、ガモフにより足を止められていたアークエンジェルが動き出した。
「動いたのか……だが──」
しかし、まだ不十分。
修理は全て終わったわけではなく、動けるようになっただけの仮処置状態。
ナスカ級であるヴェサリウスは、それで逃れられる艦ではないというのに。
アークエンジェルのあがきをあざ笑い、ヴェサリウスに追撃命令を出そうとするクルーゼ。
しかし、直後にさらに重ねて予想を裏切られることとなる。
「目標、敵ナスカ級! ローエングリン1番、撃てぇ!」
スパイからの情報になく、マシューの解析でもその用途不明な存在で認識されていなかった、アークエンジェルの最強の兵装にして秘密兵器。
陽電子破城砲“ローエングリン”。
その高出力と設置位置の都合上射線が限られる上に連射が不可能ながら、主砲であるゴットフリートをはるかに上回る圧倒的な破壊力を持つ兵装である。
機関の破損によって使用できなかったが、これらの重要区画の修理だけは完了し機関が完全復活したことで、推進器同様に使用可能になったところで、観測し発見・補足していたヴェサリウスに対して発射したのである。
ゴットフリートの射程を考慮した距離を取っていたヴェサリウスに取ってもそれは想定外の攻撃であり、その艦体に強力な陽電子砲の被弾を許すこととなった。
「ぐっ……! 被害報告!」
「艦体後部に直撃! 航行不能!」
「艦を立て直せ! 隔壁閉鎖!」
突如として衝撃が走り抜けたヴェサリウスは、大きな損害を受け、すぐにアデスが立て直すために指揮をとる。
ヴェサリウスの被害は大破。
死傷者こそ出なかったものの、艦が受けた損害は航行不能状態に追い込まれるという重大なものだった。
それは同時に、クルーゼ隊のアークエンジェルを追うための手立てを破壊されたことを示していた。
「やってくれたな、足つき……!」
「クルーゼ隊長、ヴェサリウスが!」
「……止む終えん。オロール、アスランを回収しろ。足つきへの追撃は中断、ヴェサリウスへ帰投する」
「了解!」
ヴェサリウスの被害は足つき追撃どころではない。
止む無くクルーゼはジンを引いてメビウス・ゼロを飛ばしたムウの帰還する先に飛ぶ白い戦艦の追撃を中断し、オロールにイージスの回収を命じるとともにヴェサリウスへ撤退していった。
いきなり主人公(みたいなムーブ)を始めたアスラン。
ラクス様のおかげと思っているところ悪いですが、悲しいかなそれは君の思い込み……
そして頼れる兄貴はここぞという時に決めてくれます。